アウディQ8スポーツバック55 e-tronクワトロSライン(4WD)
未来志向こそが伝統 2023.11.11 試乗記 「アウディe-tron」が大規模な改良を受け、「Q8 e-tron」として装いも新たに再デビュー。日進月歩の電気自動車(BEV)のなかで2018年デビューはかなりの古株となるが、その実力はいまだに第一級だ。クーペスタイルの「スポーツバック」の仕上がりをリポートする。電動化戦略を担う“新型車”
SUVラインナップの頂点に位置するQ8と、BEVであることを示すe-tronを結びつけた名称がQ8 e-tronである。「フラッグシップ電動SUV」と表現していて、電動化戦略のなかで重要なモデルだということが分かる。アウディは2026年以降に発表するニューモデルはすべてBEVとし、2033年以降は販売する全モデルをBEVとするロードマップを発表しており、その実現に向けて先導する新型車なのだ。
新型車と言ってしまったが、実は3年前にこのクルマに試乗したことがある。その時はシンプルにe-tronという名前で、今回Q8の名を冠して再出発することになったわけだ。もちろん名前が変わっただけではない。エクステリアデザインはフロントとリアの両方で変更されている。最も分かりやすいのは、フロントグリルのデザインである。以前は縦型のスリットだったが、小さな横長六角形の開口部を整然と並べて黒いフレームで囲む意匠を採用した。
アウディのアイデンティティーであるフォーリングスのデザインも変わった。これまでは立体的だったが、フラットな2次元的形状に改められている。スマホアプリの「threads」や「ChatGPT」のように平面的なアイコンがトレンドになっていることを反映しているとも考えられるが、ADASがらみのセンサーの感度を上げるためなのかもしれない。
実用上で最大のポイントは、バッテリー容量の増加だろう。以前は上級モデルの「55」が95kWhで「50」が71kWhだったが、Q8 e-tronでは50が95kWhになり、55は114kWhにアップしている。これによって一充電走行距離も延びていて、55では78km増の501km(いずれもWLTCモード)を達成した。
充電環境整備も万全
電極材の隙間を少なくするスタッキング方式を採用し、ユニットのサイズを変えずに容量を増やすことができたという。さらに、セル内の化学物質の配合を変更してエネルギー密度を向上させた。バッテリー技術は急速に進化していて、新しいモデルはその恩恵を受けられるのだ。モーターの効率アップや空力性能の改善も、航続距離を延ばすことに貢献している。
出力だけでなく、入力でも大きな進歩があった。従来は最大でも50kWだったのが、3倍の150kW急速充電器に対応したのだ。理論値では、10%から80%まで34分で充電が完了する。大容量のバッテリーを搭載する大型BEVにとっては、充電のインフラ整備が喫緊の課題である。
アウディがポルシェ、フォルクスワーゲンと共同で事業展開するプレミアムチャージングアライアンス(PCA)では最大150kWの急速充電器を提供するというので、充電環境は向上していくはずだ。2023年9月末の時点で、284拠点・296基が利用可能だという。もちろん、自宅で夜間に充電することもできる。充電ポートは左右フロントフェンダーに1つずつあり、右が普通充電、左が急速充電用だ。
前に試乗したのがクーペスタイルのe-tronスポーツバックだったので、今回も同じタイプを選んだ。Q8はもともと「Q7」をベースにクーペルックに仕立てたモデルだが、スポーツバックはルーフを後方に向かって下降させることで、さらにスタイリッシュなフォルムを狙っている。都会的SUVのお手本のようで、堂々として見栄えがいい。
インテリアは古典的味わい
ドアを開けて乗り込むと、なんだか懐かしい気持ちになった。見慣れたインテリアである。シックで落ち着いたなかにスポーティーさを感じさせるデザインは、アウディが切り開いて多くのフォロワーを生み出した。研ぎ澄ませた洗練はアウディの大きな武器である。それは今も変わらないが、昨今のトレンドはインパネに液晶パネルを並べる手法になった。メーターをステアリングホイールの奥に配して独立したセンターモニターを持つタイプは、古典的な味わいだと感じる。
センターコンソールに設けられた小ぶりなシフトセレクターを使ってDレンジを選択する。走りだすと、やはり静かさに圧倒された。フロントとリアにモーターが搭載されているが、回転音も高周波音も聞こえてこない。試乗車には「サイレンスパッケージ」のオプションが装備されていて、アコースティックガラスが外からの音を遮断する。静粛性を最大限に生かすために、Bang & Olufsenのオーディオがセットになっている。
市街地での試乗だったので、信号と渋滞に阻まれてなかなか気持ちよく走る場面が訪れない。ようやく前が空いてアクセルを踏み込むと、強烈な加速が始まる。巨体をものともしない力強さだが、相変わらず室内は静かだ。メーターを見てあわててブレーキをかけることになった。制動力は十分なのだが、停止する前には少しギクシャクする印象があった。前回の試乗で下り坂でのエネルギー回生能力が優れていることは証明済みだが、ブレーキングの作法に関してはまだ伸びしろがあるように思う。
最高出力と最大トルクは従来と同じ数値で、これで十分だという判断なのだろう。短い区間だが、高速道路でも走ってみた。ランプから加速して流れに乗ると、ACC走行に移行する。追従性は上々でモーター駆動の利点が生かされているのが分かるが、設定は古式ゆかしきレバー式である。機能は先進的なのに使い方には以前の方式が残っていて、ギャップに戸惑ってしまった。
「オフロード」モードをプラス
ドライブモードが切り替えられるようになっていて、通常は「オート」で走ればいい。今まではほかに「エフィシエンシー」「コンフォート」「ダイナミック」「インディビジュアル」があったが、新たに「オフロード」が加わっている。撮影中にうっかりこのモードにしたら車高が上がってしまい、撮り直すことになってしまった。悪路にしっかり対応しているということなのだろうから、前後モーターを使ったクワトロシステムを生かすステージがありそうだ。
サスペンションにも小変更が施され、ステアリングの応答性も向上させたそうだ。残念ながら短時間の市街地走行では違いを明確に感じることはできなかったが、着実に改良を重ねているようだ。航続距離だけを見れば比較的安価な中型BEVの「日産アリア」や「ヒョンデ・アイオニック5」と同等だが、Q8 e-tronは上質な内外装と高級感のある乗り味で高いステータス性を得ている。アウディとしてはクワトロに加えてe-tronを、ブランドを象徴するワードにしていきたいと考えているようだ。
エクステリアの変更点は少なかったものの、前回の試乗車とは大きく異なる点があった。ドアミラーである。前に乗ったのは「バーチャルエクステリアミラー」装着車だった。カメラで後方を撮影し、ドアハンドルの上に位置するディスプレイに映し出すシステムだ。Q8 e-tronにもオプションの用意があるが、試乗車すべてがコンベンショナルなドアミラーだった。未来感あふれる装備なのだが、まだ感覚的に受け入れられないユーザーもいるだろう。積極的に推すのはためらわれたのかもしれない。
さまざまなBEVが登場し、メーカーはそれぞれにクルマの未来図を描いている。確定した道があるわけではなく、試行錯誤がこれからも続くだろう。これまで慣れ親しんだ感覚とは異なるものを提案しなくてはならないから先進性と伝統が混在するのは当然で、Q8 e-tronも新旧の組み合わせに面白さがあった。ライバルがBEV専用プラットフォームを採用するなかで、アウディも今後はアーキテクチャーを刷新することになる。アウディがリミッターを振り切って先進性を表現すると何が生まれるのか、楽しみに待ちたい。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アウディQ8スポーツバック55 e-tronクワトロSライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4915×1935×1620mm
ホイールベース:2930mm
車重:2610kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:非同期式モーター
リアモーター:非同期式モーター
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:408PS(300kW)
システム最大トルク:664N・m(67.7kgf・m)
タイヤ:(前)265/45R21 108H XL/(後)265/45R21 108H XL(ブリヂストン・アレンザ001)
一充電最大走行可能距離:501km(WLTCモード)
交流電力量消費率:235Wh/km(WLTPモード)
価格:1317万円/テスト車=1410万円
オプション装備:インテリアパッケージ<エクステンデッドアルミニウムブラック×ブラックグラスルックコントロールパネル+4ゾーンデラックスオートエアコン+レザーマルチファンクション3スポークステアリングホイール+前後シートヒーター+リアシートUSBポート>(24万円)/10スポークローターデザインアルミホイール<アンスラサイト×ブラックポリッシュド>(20万円)/ブラックアウディリングス&ブラックスタイリングパッケージ(19万円)/サイレンスパッケージ<プライバシーガラス+アコースティックガラス+Bang & Olufsen 3Dサウンドシステム>(30万円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:792km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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