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もはや全方位戦略に合理性なし! 三菱自動車の中国撤退にみるまっとうな経営判断

2023.12.01 デイリーコラム 清水 草一
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重要なのは損切りのタイミング

最近、近所に「chocoZAP(チョコザップ)」が2店もオープンした。月額2980円(税別)で、365日24時間利用可能なジムだ。高価格の個人指導がウリだったRIZAP(ライザップ)が、新型コロナで大打撃を受けるなどして事業が大不振に。コロナ明け後は低価格路線へ大転換を図り、常識外れの大量出店を続けているのだ。私鉄沿線の商店街の、元は焼き肉屋だったりした店舗がいきなりジムになるのだから、たくましさと同時に危うさを感じる。でっかいビジネスをやる人って、ホントに度胸が据わってるなぁと感動するしかない。

規模は違うが、三菱自動車は中国事業から撤退するという。リリースによれば、「当社は新型車を投入するなど販売の挽回を図ろうとしましたが、計画未達が続き、本年3月からは在庫調整のため、工場稼働を停止しておりました」とのこと。中国市場での急激な電気自動車(EV)の伸長を考えると、もはや挽回は不可能という結論に達し、中国における三菱ブランド車の現地生産を終了、完全に手を引くとのことだ。

株でもうけるために最も重要なのは損切りのタイミングだというが、今回の三菱の決断はまさしく早めの損切り。ズルズルと赤字を垂れ流す中国市場から早期に撤退し、得意なマーケット(ASEAN市場等)に力を入れるという方針には、chocoZAP大量出店のような危うさはなく、“選択と集中”に思えるのだがどうだろう? 今回は、もし自分が三菱自動車の経営者だったらどうするかを、真剣に考えてみたい。

まず三菱の経営状況だが、2022年度は大変好調だった。売上高は前年同期(2兆0389億円)から4192億円増となる2兆4581億円。営業利益も前年同期(873億円)から1032億円増の1905億円と、過去最高益を記録! 私が三菱の社長なら「ウヒヒヒヒヒ~!」と高笑いしながらランボルギーニを買い、キャバクラで豪遊するだろう。

しかし、同時期のグローバル販売台数は83万4000台と、前年度より10万3000台減少している。市場別に見ると、大幅減だったのは撤退を決めた中国と、ロシアへの輸出が停止した欧州。北米も15%減とさえなかった。結局、史上最高益の主な理由は「円安」ということになる。

三菱自動車が中国市場からの撤退を表明したのは、ジャパンモビリティショーの開幕直前にあたる2023年10月24日。現地合弁会社の株式や生産機能などは、合弁の相手であった広州汽車集団股份有限公司に譲渡される。
三菱自動車が中国市場からの撤退を表明したのは、ジャパンモビリティショーの開幕直前にあたる2023年10月24日。現地合弁会社の株式や生産機能などは、合弁の相手であった広州汽車集団股份有限公司に譲渡される。拡大
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すでに“選択と集中”は進んでいる

今回、中国市場からの撤退を決めた三菱自動車だが、欧州市場にもほぼ見切りをつけていて、2020年から新型車の開発をしていない。北米はまだ重要な市場だが、イリノイ工場は8年前に閉鎖しており、税額控除などの優遇を受けられないので漸減が続くと見るのが妥当か。すでに三菱は、選択と集中を進めまくっているんですね。

残るは国内とASEAN、オセアニア、その他途上国のみ。なんとなく太平洋戦争末期の日本軍を思い浮かべてしまうが、現状では残った市場に集中投資するしかない……のではないでしょうか? 私ならそうします。ヤケドが怖いので。

思えば三菱は、北米命のスバルと違って、比較的全方位外交を続けてきた。しかし、全世界を相手に戦うのはもうムリ。一点集中突破しかない! つまり、ASEANやオセアニア、その他途上国で需要の高い、タフで実用的なモデルに開発力を集めるのだ。すでに三菱はタイで新型「トライトン」を発表するなど、私に言われなくてもそうしている。ミニバンの「エクスパンダー」にもハイブリッドを投入するという。

その他の分野に関しては、電動化は得意のプラグインハイブリッドに集中し、EVは日産との協業のみに絞るべきだろう。いまさら独自のEVをつくったって世界に太刀打ちできっこない。EV化が進みそうにない地域でがんばってがんばって地道にがんばり続けて、状況が変わるのを待つ! 鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギスだ。結局、現経営陣の方針のままいくのが最良の生き残り策のように思える。君子危うきに近寄らず。

「シロウトの腰抜け経営戦略なんかどうでもいい! 黒字なら『ランエボ』を復活させろ!」。国内のカーマニアからは、そんな声が聞こえてきそうだ。でも「ダメ、ゼッタイ!」。そんなのを欲しがるのは日本のカーマニアだけ。特攻にしかなりません! ベース車両もないし。それでも特攻してほしいと願うのがカーマニアの性(さが)ですが、経営者としては、「断じて許すまじ」。マツダのロータリー復活が特攻にならないことを祈る。

(文=清水草一/写真=三菱自動車工業、webCG/編集=堀田剛資)

2023年7月にタイで行われた、新型「トライトン」発表会の様子。そのスケールのデカさに、東南アジアのマーケットにおける三菱自動車の本気度が表れている。
2023年7月にタイで行われた、新型「トライトン」発表会の様子。そのスケールのデカさに、東南アジアのマーケットにおける三菱自動車の本気度が表れている。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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