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キーワードは“不正”と“回復” 2023年の国内自動車業界を振り返る

2023.12.29 デイリーコラム 佐野 弘宗
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最悪の事態に発展したダイハツの不正

2023年の国内クルマ業界を象徴する言葉をひとつ選ぶとすれば、残念ながら“不正”とするしかないだろう。

夏には「ビッグモーター」による保険金不正請求問題が、一般メディアから週刊誌、ワイドショーを埋め尽くした。また、今年最大の業界再編ともいえる日野自動車と三菱ふそうの経営統合(参照)は、いうまでもなく昨2022年に明るみとなった日野の排ガス・燃費性能試験での不正(参照)がキッカケである。また、乗用車ではないので大きなニュースにはならなかったが、豊田自動織機のフォークリフト向けエンジン排ガス認証での法規違反、愛知製鋼の公差外れ製品の出荷……といった不正も報じられた2023年である。

そんななかでも、最大の“事件”はやはりダイハツ工業の認証不正だろう。ダイハツの不正が最初に報じられたのは2023年4月28日。海外向けの4車種について、側面衝突試験の認証申請に不正行為があったと発表(参照)。その発覚は内部告発によるものだったという。

これを受けて社内調査をスタートしたところ、同年5月に今度は国内向けの「ダイハツ・ロッキー」「トヨタ・ライズ」のハイブリッド車という、2車種において認証不正が見つかった。ポール側面衝突の認証申請について、本来は左右両方の試験が必要なのに、実際の試験は左側だけで済ませて、そのデータを右側にも流用していたのだ(参照)。後の第三者委員会の調査報告書によると、もともと(燃料配管や高圧ケーブルのために)より厳しい条件の左側試験を国交省の立ち合い試験で実施。右側は届出試験とされたが、担当者の間違いでそれも左側でやってしまった。それに気づいても、いい出せなったのだという。

この結果を重く見たダイハツは、第三者委員会に調査を依頼。その結果、1989年以降、25の試験項目の認証申請において、64車種、174件の不正行為があったことが、12月20日に公表された(参照)。春に明るみに出たダイハツの不正行為は、この年末ギリギリに「全車種出荷停止」という最悪の事態にまで発展してしまったわけである。まさに2023年を象徴する不祥事といっていい。

ダイハツは2023年4月に、海外向けの車両で認証試験に不正があったことを発表。その後の調査であまたの不正が発覚し、ついには国内での生産停止という事態に追い込まれた。
ダイハツは2023年4月に、海外向けの車両で認証試験に不正があったことを発表。その後の調査であまたの不正が発覚し、ついには国内での生産停止という事態に追い込まれた。拡大

ユーザーの不安を取り払うことが大事

ダイハツそのものはもちろん“解体的出直し”を含めて厳しく断罪されるべきだが、最大の現実的問題は「いま自分が乗っている、あるいは街で走っているダイハツ車は大丈夫か?」ということだ。それについては、12月20日の記者会見で奥平総一郎ダイハツ社長は「社内で安全性を再確認した結果、今回の不正により、乗り続けて問題がある事象は発生しなかった」と明言している。また、同25日のメディア向け説明会でも、1000名以上のダイハツ技術者とトヨタの技術者が再検査にたずさわって、すべての事例を再確認したとも語られた。

もっとも、「出力測定エンジンにポート研磨してハイカム入れて、コンピューターチューンを施した」だの「エアバッグをタイマーで着火させた」だの、不謹慎ながらも笑ってしまう衝撃の手口を聞かされると、社長の言葉も、にわかには信じられないのが人情である。

ただ今回の不正は、開発途中におこなわれる認証試験を、本来の試作車が間に合わなくても無理に実施したり、万が一にも不合格にならないように本来より大きなマージンを確保したりした……というものが大半だ。過酷な開発日程のなかで「スケジュールは、わずかでも遅らせられない」、そして「認証試験は一発合格しか許されない」という過度なプレッシャーから、認証だけはインチキしてでも通してしまった。しかし、もともとの設計自体はもろちん、すべて認証に通るようにおこなわれていた。その証明のやり方に大きな問題があったわけだ

実際、奥平社長の言葉にある「安全性の再確認」は、外部の認証会社であるTUVも協力してすべての手順を厳格に進めたとされる。また、JNCAP(自動車アセスメント)による衝突安全評価でも、ダイハツ車が安全性に欠けるという結果は出ていない。例のサイドエアバッグをタイマー着火させていた「ムーヴ」も、JNCAPでは“4つ星”を獲得。しかも、問題の側面衝突は満点の5つ星だった。

これらの実例を見ても、奥平社長の言葉はひとまず信じていいのではないか。というか、奥平社長がやるべきは「クルマは大丈夫」だと可能なかぎり早く、正確に分かりやすく、そして声高にさけぶことである。そうしないと、ユーザーはずっと不安を抱えたままだ。

ダイハツの不正問題では、その原因や今後の対策などが注目を集めているが、ダイハツ車を購入したオーナーのフォローや、その不安を取り去ることも大事なことだろう。写真は2023年6月に生産終了となった「ダイハツ・ムーヴ」。今のところ、次期型の情報は明らかになっていない。
ダイハツの不正問題では、その原因や今後の対策などが注目を集めているが、ダイハツ車を購入したオーナーのフォローや、その不安を取り去ることも大事なことだろう。写真は2023年6月に生産終了となった「ダイハツ・ムーヴ」。今のところ、次期型の情報は明らかになっていない。拡大

話題の中心には常にトヨタが

……と、この年末に2023年を振り返ると、どうしてもダイハツの話になってしまうのだが、明るいニュースもなくはなかった。とくにコロナ禍からもろもろが顕著に復活しつつあるのは、素直に喜ぶべきである。

そのひとつが、東京モーターショーあらためジャパンモビリティショー(JMS)2023が、コロナによる中止を経て開催され、目標の来場者100万人超えを達成したことだ。

古いクルマ好き人間である筆者は、JMSとなっても、意外なほど伝統的な自動車ショーの雰囲気が残っていたことが、ちょっとうれしかった。しかし、本来ならクルマ以外のお楽しみが増えることこそ、今後のJMSの発展のカギだろう。少子高齢化の日本では“クルマばなれ”はこれまで以上に進むかもしれないが、なにかしらの“モビリティー≒個人的移動手段”の重要性は、さらに増すはずだからだ。

もうひとつのよい兆候は、これまたコロナ禍によるサプライチェーンの混乱で長らくおちいっていた、半導体その他の部品不足が明らかに解消に向かっていることだ。日本でも、一部の人気車種をのぞけば、納期半年以内のクルマがどんどん増えている。やっとクルマが普通に買える世の中に戻りつつある。

ただ公式ウェブサイトを見ると、トヨタだけは、いまだに国内販売車種の大半が「詳しくは販売店にお問い合わせください」である。これはトヨタのひとり勝ちがさらに顕著になったからか。あるいは近年の売り手市場に味をしめたトヨタが、あえて供給を調整していたりして。……と、さすがにそれはないと思うが。

トヨタといえば、日野、豊田自動織機、愛知製鋼、ダイハツ……と、最近不正で話題になった企業の大半はトヨタグループである。トヨタが不正を主導したはずもないが、いいことも悪いことも、国内のクルマ業界はトヨタを中心に回っていることを痛感する。

(文=佐野弘宗/写真=ダイハツ工業、webCG/編集=堀田剛資)

ジャパンモビリティショー2023の会場より、人でにぎわうトヨタの展示エリア。2023年も、日本の自動車業界における話題の中心には、常にトヨタがあった。
ジャパンモビリティショー2023の会場より、人でにぎわうトヨタの展示エリア。2023年も、日本の自動車業界における話題の中心には、常にトヨタがあった。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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