第8回:発表! 私的カーデザイン大賞(後編) ~EVデザインの大いなる勘違い~
2024.01.03 カーデザイン曼荼羅クルマはやっぱりプロポーション!
(前編はこちら)
webCGほった(以下、ほった):……読者諸兄姉の皆さま、あけましておめでとうございます。私たちはまだ2023年12月におりますが、画面の向こうは2024年ですよね? 謹賀新年。賀正でございます。
さて。2024年一発目の『カーデザイン曼荼羅』は、前回に続きまして、各人の“2023年の推しグルマ”について語り合いたいと思います。ワタシと清水さんは発表済みなので、次は渕野さんなのですが……。
渕野健太郎(以下、渕野):僕の“推しの一台”は、「ボルボEX30」です。ボルボ最新の、EV(電気自動車)ですね。
清水草一(以下、清水):……完全ノーマークでした。
ほった:いやマジで。そこくるかと。
渕野:EX30のデザインはすごくシンプルなんです。何回も言いますけど、プロポーションがいいんですよ。もう“プロポーションだけ!”って言ってもいいぐらい、このクルマはプロポーションにすごくこだわってる。
清水:そうなんですか……(笑)。
ほった:“プロポーションだけ”ってことは、ほかが薄味ともとれるのですけど、それはアリなんですか?
渕野:僕は元カーデザイナーなわけですが、ぶっちゃけ個人的には、デザインだけでクルマを買うことはないんです。先進的なデザインや世間的に評判のいいデザイン、そういうものの魅力はよくわかるし、自分もそういうデザインをしたいという思いはあったんですけど、自分自身でクルマを買うときは、それを過度に重視することはなかった。やっぱり自己主張が強いデザインは、自分的には違うかなっていうところがあって。
清水:人の押しつけは勘弁してくれ、っていうことですよね。
ほった:「つくり手の主張がキツいクルマは勘弁」というのはわかりますね。自分もデザインの能書きがクドいクルマほど、取材で実車を見て興が冷めたりします。
端々に現れるスタイルへのこだわり
渕野:EX30なんですけど、例えばほとんど真横からちょっと後ろ寄りぐらいのビューで見ても、リアの輪郭がルーフエンドから流れて、リアタイヤの影までスムーズにつながってるじゃないですか。
清水:言われてみれば。
ほった:バンパーの出っ張りもオーバーハングの存在も感じませんね。
渕野:このあいだ取り上げた「トヨタ・クラウン スポーツ」は、全体的なプロポーションはすごくいいのですが、リアゲートやリアコンビあたりの造形に対してリアバンパーの主張がやや強く、視覚的な”重さ”があります。全体的なバランスを考えるとリアバンパーをもっと削りたいところだと思うのですが、おそらく設計要件でできなかったのでしょう。その辺りのバランスが、このボルボEX30はいいんですよ。このデザインで、例えばリアバンパーをもっと出っ張らせたり、リアコンビやヘッドランプの張り出しを強くしたりしたら、途端に視覚的に“重い”クルマになるはずです。
清水:ここで渕野さんが重視しているのは、斜めから見たとき、ボディーのシルエットとタイヤがうまくつながってるか、なんですね?
渕野:そうですね。そうしたクルマはほかにもあるといえばあるんですけど、ここまで視点を横側に振っても、そう見えるクルマというのは珍しい。すごくこだわっていると思います。オーバーハングが短いだけでなく、バンパーをかなり削っているんですよ。
ほった:バンパーの、左右の縁(へり)のあたりですね。
渕野:そうです。それに、ショールームでこのクルマを見たらリアタイヤが飛び出してるように感じたんですよ。よくよく見ると、細いフェンダーモールが一周回ってるんです。日本では“タイヤガード要件”というのですが、「ここからここまではタイヤがボディーから外にはみ出しちゃいけない」みたいな安全規制があるんです。クルマによってはそれをクリアするために、リアホイールアーチの後ろ側に、ちょっと出っ張りを付け足したりしていますよね。ところがEX30では、アーチの全周にわたってモールを付けているんです。それだけタイヤを、ボディーのギリギリまで外に張り出させてる。プロポーションにすごくこだわってつくっているんですね。
ほった:タイヤがボディーと“ツライチ”だと、どっしりしてカッコよく見えますもんね。
渕野:ランドローバーもそうですね。
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デカく見せるか、スポーティーに見せるか
渕野:ほかのボルボ車だと、オーバーハングが長いワゴン……例えば「V60」は、真横から見ると結構リアが長いじゃないですか。だけどフロントのクオータービューでは全然それを感じさせずに、カタマリ感があるように見える。やっぱりバンパーの角部を削ってるんですよ。
清水:“430セドリック”あたりとは真逆で。
ほった:“Y30”のほうがスゴくないですか(笑)?
渕野:(スルーして)先ほど言ったように、そういうふうにやるとクルマが小さく見えるわけです。「レンジローバー」や「ディフェンダー」も、あの幅の割には小さく見えていると思うんですよね。もちろん「小さく見えるのはマイナスだ」という考え方もあって、ちっちゃいクルマを極力デカく見せようとして、コーナーをできるだけ外のほうに持っていく場合もあります。
清水:Y30みたいに。
渕野:一方で、EX30はデカく見せることよりプロポーションのよさを最優先してるわけです。これは考え方の違いで、どういう市場向けに、どういうお客さんに向けているかによるんですけど。
ほった:ちなみに、EX30の寸法は全長が4235mm、全幅が1835mmですね。
清水:確かに、もう少し小さく見えるかも。
渕野;自分は、プロポーションがいいほうがクルマの質感も高まると思うんです。EX30の場合は、ディテールやグラフィックは特にスポーティーではないですけど、プロポーションだけでスポーティーに見せている点がすごくいいなと。
清水:われわれとは見てるポイントが違いますね~。
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EVだからと奇抜にする必要はない
渕野:気になる点を挙げるとすれば、顔だけが未完成な感じがありますね。今は「EVだからフロントグリルをなくしました」っていう例はよくありますが、じゃあグリルに頼らないで、どうやってボルボらしい個性を出すか? そこが定まっていないというか、まだ迷いがあるのかな。
ほった:ヘッドランプは例の「トールハンマー」、従来モデルの“Tの字ランプ”を発展させた感じですね。
渕野:それで取りあえずボルボ感を表現しているんだと思うんですけど……。逆にリアはすごいシンプルじゃないですか。だったらフロントも、もっとシンプルなグラフィックにしてもいいんじゃないかなと思ったりします。
とはいえ、デザイナーかいわいではこのクルマはかなり評価が高いんじゃないでしょうか、一般の、クルマをあまり知らないお客さんにも、多分響くクルマだと思いますよ。
清水:響くかな~(笑)!?
ほった:響く響かないの前に、あまりに街で見かけないクルマになりそうで怖いですけど……。それはさておき、このクルマについては「EVだからこのカタチ!」っていうのはあまり感じないですね。EVのなかではクルマらしい形状をしてるんじゃないですか。
渕野:そう。みんな、「EVだから新しい形にしよう!」とするじゃないですか。BMWでいうと「i3」のような。あれ、個人的にはすごく好きでしたけど、続かなかった。EVといっても既存のクルマとは動力源が違うだけですから、なんで違う形にしなきゃいけないんだ? と思うんです。i3はEVのごく初期の商品なので、ああいうのもありだと思いましたけど、結局、一代っきりになってしまった。やっぱり、お客さんはそこまで求めていないんでしょう。ドアだってわざわざ観音開きにする必要はなかった。普通の4ドアって、やっぱりすごく使いやすいですから。
その点、EX30は親しみもあって、無味無臭ではありますけどプロポーションにはすごくこだわってる。おそらく街で走っている姿を見たら、結構スポーティーに見えると思います。このクルマ、Cセグメントのなかでは相当存在感が高いんじゃないかな。
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日本にもデザインのいいEVはある
清水:(EX30の資料を見て)よく知らなかったんですけど、めちゃめちゃ速いんですね、このクルマ。
渕野:性能はスゴいみたいですね。
清水:速いやつだと、0-100km/h加速3.6秒だって。
渕野:全然そうは見えないな。3.6秒はスゴい。
清水:このサイズで、このシンプルなカタチでこんな加速、間違ってますよ(笑)。
渕野:ちょっと使い方を間違ってますよね。EVはそういうことじゃない、もっと長く走ってくれよっていうのはありますけど。
清水:加速力みたいなところでアピールしないと、EVってプレミアム感が出せないんでしょうね。
ほった:ぶっ飛ばし系のクルマだったら、もう少しゲヒ……もとい、アグレッシブでもいいと思いますけどね。ポルシェのアレとか、AMGのアレとかみたいに。それはそうと、渕野さん的に国産EVのデザインはどうです? 「日産アリア」や「トヨタbZ4X/スバル・ソルテラ」とかは。
渕野:日産アリアのデザインはかなりいいですよ。今売られている日本車のなかで一番いいと思うくらいです。プロポーションがよい上に、立体構成がすごく凝っているのにも関わらず、視覚的にサラッと見えるんですよ。ここは日産のデザイナーやモデラーのセンスのよさが出てますよね。
bZ4Xやソルテラも、部分で見るとすごく新鮮な立体になっていて魅力も感じるのですが、プロポーションを含めた全体のまとまりという意味では、アリアのほうが価格に見合う質感が出ていると思います。
ほった:ワタシもアリアのデザインは好きですな。
渕野:ボルボEX30は、もともとさらっとしたものだから、さらっと見える。一方でアリアは、あんな複雑でチャレンジングなことやってるけど、さらっとしてるっていうのがすごい。
清水:正直、まるで似たもの同士に見えてました。自分の場合、EVというだけで関心が薄れて……。若いアイドルが全部同じ顔に見えるのと同じですね(笑)。
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ボルボ・カーズ、向後一宏、BMW、日産自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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