世界に羽ばたく「トヨタ・クラウン」 その将来性を考える
2024.01.15 デイリーコラム実績も名もない船出
「セダン」「スポーツ」が追加発表された新世代の「クラウン」だが、トヨタは2022年7月に4モデルを公開した段階で、「今度のクラウンは世界に羽ばたきます!」と宣言していた。長らく国内専用だったクラウンを、世界40カ国・地域で販売するというのだから、歴史的転換だ。
先陣を切って発売された「クロスオーバー」は、2022年からアメリカでも販売されている。40カ国といっても、中国や欧州でいまさらハイブリッドカーが景気よく売れるはずはなく、海外展開の中心はアメリカ市場以外にない。ここで成功できるかどうかが、クラウン海外進出の鍵を握る。
2023年のクラウンのアメリカでの販売実績(1月~11月)は、1万6792台だった。日本国内が約4万台なので、その半分以下だ。同時期、「カムリ」は26万5244台(米販売ランキング第4位)売れたことを考えると、「うれしさも中ぐらい」か。ほぼ初出の高級モデルで、年間2万台弱という数字は決して悪くないが、市場規模が約3分の1の日本市場で、その2倍以上売れたことを思うと、多少の物足りなさはある。
アメリカでのクラウン クロスオーバーの商品展開は、日本同様、2.5リッターハイブリッドと2.4リッターターボハイブリッド。価格は4万0050ドル(約580万円)から5万3070ドル(約770万円)だ。カムリの2.5リッターハイブリッドが2万8855ドル(約420万円)なのと比べると、強気な値づけかもしれない。とにもかくにも、海外ではクラウンは無名の存在だ。クルマそのものに“お値段以上の魅力”がなけりゃ、売れるわけがない。
クロスオーバーに続いて追加されたセダンとスポーツは、それぞれしっかりした個性があって魅力的だったが、それと比べるとクロスオーバーは、やや中途半端にも思える。デザイン、インテリア、走りともに、悪くはないけれどつかみどころがなかった。国内外とも販売の中心はクロスオーバーらしいので、そんなに伸びない気がしないでもないが、それでもクラウン4モデルを合計してのグローバル販売台数は、先代(年間約2万台)の数倍はいくんじゃないだろうか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
熱い思いで挑むのみ!
2023年の国内販売台数約4万台は、モデルチェンジによる買い替え効果もあっての数字だけれど、今後のモデル追加を考えると急減することはなく、2024年以降もある程度維持できるだろう。
アメリカでは、クロスオーバーに続いて「クラウン シグニア」(国内での「クラウン エステート」)の導入が決まっている。シグニアはかの地では純SUVと捉えられており、価格がクロスオーバーと同水準なら、クロスオーバーよりむしろ売れるかもしれない。そうなれば、アメリカでも年間4万台近くになる。日米合計8万台。その他で2万台として10万台だ。
トヨタの目標は「年間20万台」だけど、それはあくまで目標。この価格帯で年間10万台売れれば、ビジネスとして成功ではないでしょうか?
クラウンは国内では特別な存在だが、海外での知名度はゼロ。むしろ初代のアメリカでの惨敗など、マイナスの過去しかない。
私は40年前、初めて行ったパリで、日本大使館のものらしきピカピカのクラウン セダン(6代目)を見かけ、そのあまりのダサさに衝撃を受けた。パリの街並みのなかでは、発展途上国の役人が乗るトンチンカンなクルマにしか見えなかった。そんなクラウンが、海外に雄飛! と宣言したところで、急に大谷翔平になれるわけじゃない。
セダンとスポーツの開発者たちは、海外市場は特に意識せず、自分たちがつくりたいクルマをつくりましたと胸を張っていた。どちらも、グローバルモデルにありがちなよそよそしさのない、熱量の高いクルマだった。
クラウンの販売台数がジリ貧になったのは、昭和的な固定観念に縛られ続けたからだ。その呪縛さえ捨てれば、トヨタの開発力が世界に通じないはずがない。仮に16代目はイマイチに終わっても、当たって砕け続けてほしい。ほかに稼ぎ手はいっぱいいるんだし!
(文=清水草一/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
みんなが楽しめる乗り物大博覧会! 「ジャパンモビリティショー2025」を振り返る 2025.11.21 モビリティーの可能性を広く発信し、11日の会期を終えた「ジャパンモビリティショー2025」。お台場の地に100万の人を呼んだ今回の“乗り物大博覧会”は、長年にわたり日本の自動車ショーを観察してきた者の目にどう映ったのか? webCG編集部員が語る。
-
「アルファ・ロメオ・ジュニア」は名門ブランド再興の立役者になれるのか? 2025.11.20 2025年6月24日に日本導入が発表されたアルファ・ロメオの新型コンパクトSUV「ジュニア」。同ブランド初のBセグメントSUVとして期待されたニューモデルは、現在、日本市場でどのような評価を得ているのか。あらためて確認してみたい。
-
「レクサスLSコンセプト」にはなぜタイヤが6つ必要なのか 2025.11.19 ジャパンモビリティショー2025に展示された「レクサスLSコンセプト」は、「次のLSはミニバンになっちゃうの?」と人々を驚かせると同時に、リア4輪の6輪化でも話題を振りまいた。次世代のレクサスのフラッグシップが6輪を必要とするのはなぜだろうか。
-
長く継続販売されてきたクルマは“買いの車種”だといえるのか? 2025.11.17 日本車でも欧州車並みにモデルライフが長いクルマは存在する。それらは、熟成を重ねた完成度の高いプロダクトといえるのか? それとも、ただの延命商品なのか? ずばり“買い”か否か――クルマのプロはこう考える。
-
ホンダが電動バイク用の新エンブレムを発表! 新たなブランド戦略が示す“世界5割”の野望 2025.11.14 ホンダが次世代の電動バイクやフラッグシップモデルに用いる、新しいエンブレムを発表! マークの“使い分け”にみる彼らのブランド戦略とは? モーターサイクルショー「EICMA」での発表を通し、さらなる成長へ向けたホンダ二輪事業の変革を探る。
-
NEW
アルファ・ロメオ・ジュニア(後編)
2025.11.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「アルファ・ロメオ・ジュニア」に試乗。前編では内外装のデザインを高く評価した山野だが、気になる走りのジャッジはどうか。ハイブリッドパワートレインやハンドリング性能について詳しく聞いてみた。 -
三菱デリカミニTプレミアム DELIMARUパッケージ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.11.22試乗記初代モデルの登場からわずか2年半でフルモデルチェンジした「三菱デリカミニ」。見た目はキープコンセプトながら、内外装の質感と快適性の向上、最新の安全装備やさまざまな路面に対応するドライブモードの採用がトピックだ。果たしてその仕上がりやいかに。 -
思考するドライバー 山野哲也の“目”――フォルクスワーゲンID. Buzzプロ編
2025.11.21webCG Moviesフォルクスワーゲンが提案する、ミニバンタイプの電気自動車「ID. Buzz」。“現代のワーゲンバス”たる同モデルを、フォルクスワーゲンをよく知るレーシングドライバー山野哲也はどう評価する? -
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記
2025.11.21エディターから一言アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!? -
みんなが楽しめる乗り物大博覧会! 「ジャパンモビリティショー2025」を振り返る
2025.11.21デイリーコラムモビリティーの可能性を広く発信し、11日の会期を終えた「ジャパンモビリティショー2025」。お台場の地に100万の人を呼んだ今回の“乗り物大博覧会”は、長年にわたり日本の自動車ショーを観察してきた者の目にどう映ったのか? webCG編集部員が語る。 -
「アルファ・ロメオ・ジュニア」は名門ブランド再興の立役者になれるのか?
2025.11.20デイリーコラム2025年6月24日に日本導入が発表されたアルファ・ロメオの新型コンパクトSUV「ジュニア」。同ブランド初のBセグメントSUVとして期待されたニューモデルは、現在、日本市場でどのような評価を得ているのか。あらためて確認してみたい。






































