ハスクバーナ・スヴァルトピレン801(6MT)
新時代のベンチマーク 2024.05.26 試乗記 スウェーデン発祥のハスクバーナ・モーターサイクルズ(以下、ハスクバーナMC)から、800ccクラスの新たなロードスポーツモデル「スヴァルトピレン801」が登場。隆盛する新カテゴリーの手本となりそうなその走りを、仏マルセイユのワインディングロードから報告する。目指すは新カテゴリーでの覇権
ハスクバーナMCの新型車、スヴァルトピレン801が発表された。同車の前身モデルである「スヴァルトピレン701」に加え、「125」「250」「401」と、さまざまな排気量のモデルを展開してきたスヴァルトピレンファミリーだが、これまではすべてが単気筒エンジンを搭載していた。しかしスヴァルトピレン801には、シリーズ初の並列2気筒エンジンを採用。ハスクバーナMCが2018年に市場投入し、育んできた「スヴァルトピレン/ヴィットピレン」のロードスポーツファミリーは、新しい展開を迎えたことになる。
ハスクバーナMCが、排気量拡大と多気筒エンジンの採用を決断したのには理由がある。それは「ソフトスポーツバイク」と呼ばれる、新しいカテゴリーが市場で存在感を増してきたからだ。排気量1000cc以下を指す“Sub 1000cc”や、100馬力以下を示す“Sub 100hp”などといった名でカテゴライズされることもあるが、要するに性能特化のスーパースポーツを起源に持たない、排気量1000cc以下のスポーツバイクで構成されるモデル群である。
このソフトスポーツバイクカテゴリーには、V型2気筒や並列2~4気筒とバリエーション豊かなエンジンがあふれている。そしてスポーツモデルの初心者や若年層ライダーを取り込む扱いやすさと、すでに1000ccオーバーのツーリングバイクやスポーツバイクで経験を積んだベテランライダーをも納得させる高い走行性能、さまざまなエンジン形式がもたらす個性的なライディングフィール、そしてコンセプチュアルな車体デザインを併せ持つ、各メーカーが威信をかけて開発した新規モデルがひしめいているのだ。
スヴァルトピレン801が採用する、排気量799ccの水冷4ストローク並列2気筒DOHC 4バルブの新型エンジンや、そのエンジンを剛体として利用する新開発のクロームモリブデン鋼チューブラーフレーム、WP製の前後サスペンションや電子制御システムの数々は、日・欧の各メーカーに新興の中国メーカーも加わり、苛烈(かれつ)なシェア争いが展開されるソフトスポーツバイクカテゴリーにおいて、ひいてはより広いロードモデルのマーケットにおいて、ハスクバーナMCのブランドバリューを高めるために厳選されたものだ。
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スロットルを開けやすく、しかも速い
そのハスクバーナMCの野心的な新型車は、この新しいカテゴリーでも大いに存在感を発揮するだろう。いや、ベンチマークにもなり得る。それほどに完成度が高く、扱いやすさとスポーツ性が高い次元でバランスされていた。
特筆すべきは、やはりエンジンだ。「LC8c」と名づけられたそのエンジンは、75°位相クランクを採用。並列2気筒ながら、兄弟ブランドであるKTMのフラッグシップアドベンチャーモデルが採用する挟角75°のV型2気筒エンジンと同じ爆発間隔となる。リアタイヤが路面をしっかりとつかみ、その感覚がわかりやすい良好なトラクション性を得られることが採用の理由だ。事実、LC8cエンジンでは不等間隔爆発の2気筒エンジンにありがちな低回転域でのギクシャク感が少なく、それでいて力強い。また内蔵する2つのバランサーによって、全域にわたって振動が少なく、滑らかな回転上昇が特徴だ。要するに、アクセルが開けやすく、それでいて速い。
ライディングモードには「レイン/スタンダード/スポーツ」の3つに加え、オプションのダイナミックパックを選択すると、4つ目のモード「ダイナミック」が追加される。フラットで扱いやすい出力特性だったスタンダードモードからスポーツモードに変更すると、3000rpm付近からのビート感が強まり、トルクも一回り太くなる。そして5000rpmを超えると、車体がフワッと軽くなったような、浮遊感をともなう強烈な加速を味わうことができる。他の位相の2気筒エンジンでイメージされる、後輪が地面を蹴飛ばすような加速感とは違っている。
8500rpmを超えるとシフトアップを促すイエローのシフターランプが5インチTFTカラーディスプレイに点滅(点滅する回転数は任意で変更可能)し、レッドゾーンの9000rpmでレブカウンターが赤く点灯するが、8000rpmを超えたあたりから振動が増え、エンジン上昇の頭打ち感もでてくる。7000~8000rpmを維持しながら「イージーシフト」(ハスクバーナMCでのクイックシフターの名称)でギアを操作するほうが、スムーズかつ伸びやかな加速を味わいながらハイペースなスポーツライディングを楽しむことができ、自分好みだった。
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減衰力の調整で実感した車体の出来栄え
そしてダイナミックモードは、さらにライダーのスポーツマインドを刺激する。スロットルレスポンスはさらに鋭くなり、エンジンの反応もよりビビッドになる。加減速を繰り返すワインディングロードでは、がぜんダイナミックモードが楽しい。このモードではMTS(トラクションコントロール)のスリップ量やスロットルレスポンス、ABSなど、あらゆる電子制御デバイスを好みに合わせて設定変更したり、ON/OFFを切り替えたりもできる。
この走りを支えるシャシーまわりも秀逸だった。スヴァルトピレン801のフロントフォークは伸側/圧側ともに減衰力を5段階で調整できるのだが、先導ライダーいわく「気温が低く、また路面が荒れている午前中の走行は、セッティングをスタンダードの3クリック目から少し下げたほうがいい」とのこと。彼の勧めに従って、伸側/圧側ともに2クリック目からスタートした。この状態ではサスペンションがしっかりとストロークして、アスファルトの亀裂やギャップを軽くいなしていく。いっぽう午後には、スポーツやダイナミックなど、よりスポーティーなライディングモードを試したのだが、それに合わせて減衰力を高めていくと、アクセル操作に対する車体の反応が早くなり、バイクが軽くなったかと錯覚するほどだった。
これは高性能サスペンションをおごったことによる恩恵もあるが、なによりライダーの入力やエンジンの反応をサスペンションにしっかりと伝えることができるフレームによるところが大きい。新開発されたフレームは、エンジンをその一部として利用するチューブラータイプ。旧スヴァルトピレン701に採用されていたトレリスタイプとはレイアウトが大きく異なり、軽量かつコンパクトなうえ実にバランスがいい。ハイペースのスポーツライディングもしっかり楽しむことができた。
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すでに理想を体現している
またユニークだったのは、車体が大きくなっていることだ。これは先に発売された、フルモデルチェンジを受けたスヴァルトピレン401およびフラットフォームを共有するヴィットピレン401にも共通していた(参照)。このことについてエンジニアに尋ねたところ、意識的に車体を大きくしているという。その理由は、車体を大きくすることで快適性を高め、ライディングポジションの自由度を高め、スポーツ走行からツーリングまで幅広い用途に対応するためだという。もちろん、そのサイズアップは旧モデルと比較してのものであり、同クラスのライバルたちと比べて大柄なわけではない。
高い次元でのスポーツライディングを実現しながら、扱いやすさも追求する。ソフトスポーツカデゴリーを構成する多くのモデルが、その両立を目指している。そこにあってスヴァルトピレン801は、すでにこれら相反する要素を高次元でバランスさせていた。にぎわいを増すこの新しいカテゴリーで、目指すべき姿を体現している。試乗を終えたとき、そんなことを感じたのだった。
(文=河野正士/写真=ハスクバーナ・モーターサイクルズ/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1388±15mm
シート高:820mm
重量:181kg(燃料除く)
エンジン:799cc水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:105PS(77kW)/9250rpm
最大トルク:87N・m(8.9kgf・m)/8000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.5リッター/100km(約22.2km/リッター、WMTCモード)
価格:138万9000円

河野 正士
フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。
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