「デルタ」はランチアの専売品にあらず! メーカー違いの“同名異車”を考察する
2024.07.10 デイリーコラムさまざまな「デルタ」
4世代目となる「ランチア・イプシロン」が電気自動車(BEV)としてデビュー、このままブランドが消滅してしまうのかと不安を抱かせた名門復活ののろしを上げた。ランチアは続いて2026年には「ガンマ」、2028年には「デルタ」も復活させる予定という。そう聞いて思い出したのが、おそらく二度と復活しないであろうデルタ。いったい何のことかといぶかる向きもあろうが、日本車にもデルタを名乗るモデルがあったのである。
1970年、それまでの「Vシリーズ」に代わって登場した1.5/2t積みのキャブオーバートラックが「ダイハツ・デルタ」である。トヨタとの業務提携に基づき前年の1969年にデビューした、2代目「トヨタ・パブリカ」と基本設計を共有する「コンソルテ」に続くトヨタとダイハツの協業モデル第2弾で、今日まで存続している「トヨタ・ダイナ」の兄弟車だった。
翌1971年には「トヨタ・ライトエース トラック」のOEMモデルとして750kg積みの「デルタ750」が登場。「750」を“セブンハーフ”と呼んだことに引っかけて、広告のイメージキャラクターにメンバー全員がハーフという触れ込みだったガールズグループのゴールデンハーフを起用。トラックなのにテレビでスポットCMがバンバン流れていた。
そして1976年には「トヨタ・タウンエース バン/ワゴン」のOEMモデルである「デルタ ワイド バン/ワゴン」を加えてデルタシリーズが完成。その後はそれぞれ代を重ねていくが、2003年に本元のデルタの販売終了をもって、ダイハツ・デルタは33年の歴史の幕を静かに下ろしたのだった。
ランチアの草創期にすでにデルタという車名は存在したそうだが、われわれの知る初代デルタのデビューはダイハツ版より後の1979年。一般的に輸入車が日本市場に参入する際、同名の日本車が存在する場合は商標のカブリを避けて車名を変える。例えば「オペル・コルサ」は「トヨタ・コルサ」が存在するので「ヴィータ」に改名。「ルノー・クリオ」などは車名ではないがホンダのディーラー「クリオ店」の手前「ルーテシア」を名乗ったほどだ。であるのに、なぜデルタに限ってはダイハツとランチアが共存できたのか? 不思議だ。
ちなみにデルタを名乗るモデルは、ゼネラルモーターズ(GM)の今はなきブランドであるオールズモビルにも存在した。フルサイズの「88」シリーズのグレード名「デルタ88」として1965年に登場し、その名のとおり1988年まで存続したのだった。
このデルタのほかにも、日本車と輸入車の同名異車は存在する。次ページからはそれらを紹介していこう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
妖精もところ変われば
同名で日本車がトラック、輸入車が乗用車という例はデルタのほかにもある。1959年の誕生以来、60年以上にわたって小型・中型キャブオーバートラック市場をリードしてきた「いすゞ・エルフ」。“ELF”とは英語で「小妖精、こびと」という意味で、なぜトラックにそんなかわいらしい名前をつけたかといえば、当時いすゞがライセンス生産していた英国車「ヒルマン・ミンクス」(MINX=おてんば娘)の弟分となる「おちゃめ小僧」という意味合いで名づけたのだそうだ。
もう1台はイギリスの「ライレー・エルフ」。兄弟車の「ウーズレー・ホーネット」とともに1961年に登場した、お尻が突き出たスリーボックススタイルの高級版「Mini」である。「小妖精、こびと」らしいモデルではあるが、デビューはいすゞ版より後だった。
エルフと似たような「こびと」という意味の英語である“MIDGET”を名乗った「MGミジェット」。戦前の「Mタイプ ミジェット」に始まり、1961年に「オースチン・ヒーレー・スプライトMk2」の双子車として復活したライトウェイトスポーツの代表的なモデルである。同名の日本版は、軽三輪トラックの代名詞的存在だった「ダイハツ・ミゼット」。ミジェットとミゼット、カナ表記こそ異なるものの英語では同じMIDGETだ。
1956年から1983年まで3世代にわたってラインナップされた小型ボンネットトラックである「日産ジュニア」。先日、ネーミングが騒動になったアルファ・ロメオの新しいコンパクトSUVと同名である。日本語では「ユニオール」と表記されたが、つづりが同じ“JUNIOR”ならアウディのルーツのひとつであるDKWにも存在した。
先日、復活した車名のコラムで紹介した小型キャブオーバートラックの「プリンス・クリッパー」と軽トラックの「日産クリッパー」。“CLIPPER”は「快速船」を意味する英語だが、アメリカには「パッカード・クリッパー」、イギリスには「トライデント・クリッパー」が存在した。前者は往年の高級車メーカーによる大型乗用車、後者は少量生産のスペシャリストによるスポーツカーである。
日本車がトラック、輸入車が少量生産スポーツカーという例には「三菱ジュピター」とイギリスの「ジョウェット・ジュピター」なんてのもあった。トラックとSUVなら「日産アトラス」と「フォルクスワーゲン・アトラス」。最後に双方ともトラックで、そろって現役モデルというのが「日野レンジャー」と「フォード・レンジャー」。トラックといっても、後者はピックアップトラックだが。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
「クラウン」や「センチュリー」にも同名車が
車格やキャラクターが近いモデル同士で同じ名を冠したモデルも存在した。例えばイタリア語で「疾走」や「競走」を意味する“CORSA”を冠した、1ページでも触れたトヨタ・コルサとオペル・コルサ。前者は双子車の「ターセル」とともに1978年に誕生したトヨタ初のFF車となるコンパクトカーで、後者は1982年にデビューしたオペルのエントリーモデル。どちらも今日でいうところの欧州Bセグメントに属するモデルだった。
日本市場でのオペル版は、少数が輸入された初代モデルは「100i」および「130GT」を、TVドラマで使われたことから人気を博した2代目は「ヴィータ」を名乗った。近年になって、オペルの輸入再開の際には6代目となる現行モデルはトヨタから商標権を譲り受けて日本でもコルサを名乗る予定といわれていたが、現状ではオペルの再上陸そのものが凍結されている。
かつてトヨタが北米向けの「カムリ」を日本国内で販売する際に「セプター」と命名した。“SCEPTER”または“SCEPTRE”は英語で「王位、王権」を意味するが、今はなき英国のルーツグループが1963年から1976年までラインナップしていたスポーツサルーンが「ハンバー・セプター」。いすゞでもライセンス生産していた「ヒルマン・ミンクス」の兄弟車にあたる存在だった。
「トヨタ・マークII」と「ジャガー・マーク2」(ジャガー版の「2」はアラビア数字)が同名異車であることは、クルマ好きの間では知られているだろうが、そのマークIIの兄弟だったアッパーミドルサルーンの「クレスタ」。“CRESTA”とはスペイン語で「西洋の紋章の頂に輝く飾り」を意味するが、イギリスに1954年から1972年まで存在したのが「ボクスホール・クレスタ」。ボクスホールは長らくGMの、そして現在はステランティスの傘下にあるオペルの兄弟ブランドだが、クレスタはその最上級サルーンだった。
トヨタ車が続くが、日本を代表する高級車である「クラウン」。それに対してクライスラーの最高級ブランドとしてインペリアルが独立していた時代(1955~1975年)に存在したモデルが「インペリアル・クラウン」。直訳すれば「皇帝の王冠」で、ベタだがこれぞ高級車! という車名である。
1967年の誕生以来、トヨタのフラッグシップの座に君臨し続けている「センチュリー」。意味はもちろん英語で「世紀」だが、同名車両はアメリカの「ビュイック・センチュリー」。戦前から断続的に2005年まで存続したが、正規輸入車は上級グレードの名称である「リーガル」を名乗っていた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
名前以外も似ていた「ガゼール」
英語で「トレーラーハウス、キャンピングカー、ほろ馬車」などを意味する“CARAVAN”。ご存じ「日産キャラバン」は1973年に誕生したワンボックスバン/ワゴンである。それに対してアメリカの「ダッジ・キャラバン」は、1983年に兄弟車の「プリムス・ボイジャー」とともにデビューした元祖ミニバン。どちらも「名は体を表す」モデルだが、ダッジ版は2020年に生産終了。ちなみに日本では「クライスラー・ボイジャー/グランドボイジャー」を名乗った。
1979年に3代目「シルビア」の販売店違いの双子車として登場した「日産ガゼール」。輸入車のほうは1956年に「ヒルマン・ミンクス」の兄弟車としてデビューしたイギリスの「シンガー・ガゼル」。「ガゼール」と「ガゼル」、日本語の表記は異なるが、双方とも語源はアジア・アフリカに生息するカモシカに似た動物である“GAZELLE”。偶然ながら、既存車種のバッジエンジニアリングによる兄弟車であることも共通だった。
ちょうど30年の間隔をもって同じ名を冠したのが「日産ミストラル」と「マセラティ・ミストラル」。前者は初代「テラノ」をベースに欧州で開発され、スペイン工場で生産された「テラノII」を輸入販売したSUV。後者はマセラティ伝統の3.5リッター直6 DOHCエンジンを積んだシャシーにテールゲート付きの2座ファストバッククーペまたはスパイダーボディーを架装した高級グランツーリスモで、1963年にデビュー。なお“MISTRAL”とは、アルプス山脈からフランス南東部の地中海沿岸に吹き下ろす冷たく乾いた北西風のことだという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
フィナーレもランチアで
ハイソカーブームに乗って登場したアッパーミドル級の4ドアハードトップである「アコード インスパイア」の双子車だった「ビガー」が、1995年のフルモデルチェンジに際して「セイバー」に改名した。“SABER”または“SABRE”は英語で「軍刀、サーベル」を意味するが、もう1台は1961年にデビューしたイギリスの「リライアント・セイバー」。戦前から三輪車をつくっていた英国の小メーカーであるリライアントが最初に手がけた四輪車で、ラダーフレームにFRP製オープン2座ボディーを架装した少量生産のスポーツカーだった。
車名が消えてから8年ほどたつが、根拠はないもののいずれ復活しそうな可能性を感じる「三菱ランサー」。“LANCER”は「槍(そう)騎兵」を意味する英語だが、1973年にデビューした初代から後の通称“ランエボ”こと4WDの「エボリューション」シリーズまで、ラリーにおける活躍で記憶されるモデルだ。
この名を先に使ったのはアメリカのダッジ。1955年にまずはフルサイズのサブネームとして登場した後、1962年に本名に昇格させた「ダッジ・ランサー」がデビュー。クライスラー初のコンパクトカーだった「プリムス・バリアント」の兄弟車だった。これは1代限りで終わったが、1985年にコンパクトな5ドアハッチバックサルーンとして復活。しかし、またもや1代限りで消滅した。ちなみに当時三菱はクライスラーと提携していたため、クライスラーは傘下に2台のランサーを同時に抱えていたことになる。
てな感じで日本車と輸入車の同名異車を紹介してきたが、ランチア・デルタで始まったので、フィナーレもランチアで締めたい。1922年にデビューした「ランチア・ラムダ」。量産車としては世界初のモノコックボディーに前輪独立懸架、V型4気筒SOHCエンジンといった進歩的な機構を採用し、後世に大きな影響を与えたとされるモデルである。
同じ名を冠した日本車は「三菱ギャランΛ(ラムダ)」。4ドアサルーンの「ギャランΣ(シグマ)」をベースに1976年に登場したスペシャルティーカーで、2世代にわたって存続した。ランチアのアルファベット表記の“LAMBDA”に対して三菱の「Λ」はギリシア文字で、しかもサブネームだろうって? まあそうなんだけど、ここはひとつ大目に見ていただきたい。
(文=沼田 亨/写真=ダイハツ工業、ステランティス、ゼネラルモーターズ、日産自動車、マセラティ、三菱自動車、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
-
ホンダの「スーパーONE」はどんなカスタマーに向けたBEVなのか?NEW 2026.3.18 ホンダが2026年に発売を予定している「スーパーONE」は「N-ONE e:」をベースとした小型電気自動車だ。ブリスターフェンダーなどの専用装備でいかにも走りがよさそうな雰囲気が演出されているが、果たしてどんなカスタマーに向けた商品なのだろうか。
-
いまこそ、かき回したい! 新車で買えるおすすめMT車はこれだ! 2026.3.16 改良型「トヨタ・ヤリス」に、新たに6段MTモデルが設定された。現実的にMT車はレアであり、消滅する可能性もある時代だが……。これを機に、いま新車で買えるMT車のなかで、特におすすめできるモデルをピックアップしてみよう。
-
ルノーから新型車「フィランテ」が登場 仏韓中の協業が生んだ新たな旗艦はどんなクルマ? 2026.3.13 ルノーが韓国で新型クーペSUV「フィランテ」を世界初公開! 突如発表された新たな旗艦車種(?)は、どのようないきさつで誕生したのか? フランス、韓国、そして中国の協業が生んだニューモデルの概要と、そこに込められたルノーの狙いを解説する。
-
新型「リーフ」は日産の救世主になれるか BEVオーナーの見立ては? 2026.3.12 日産自動車は3代目となる電気自動車(BEV)「リーフ」の受注台数が、注文受け付け開始から約4カ月で6000台を超えたと明らかにした。その人気の秘密や特徴を、自らもBEVを所有するモータージャーナリスト生方 聡が解説する。
-
新型「RAV4 PHEV」が実現した「EV走行換算距離151km」を支える技術とは? 2026.3.11 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッドモデルではEV走行換算距離(WLTCモード)が前型の約1.5倍となる151kmに到達した。距離自体にもインパクトがあるが、果たしてこれほどの進化をどうやって実現したのか。技術的な側面から解説する。
-
NEW
ホンダの「スーパーONE」はどんなカスタマーに向けたBEVなのか?
2026.3.18デイリーコラムホンダが2026年に発売を予定している「スーパーONE」は「N-ONE e:」をベースとした小型電気自動車だ。ブリスターフェンダーなどの専用装備でいかにも走りがよさそうな雰囲気が演出されているが、果たしてどんなカスタマーに向けた商品なのだろうか。 -
NEW
モト・グッツィV7スポルト(6MT)【レビュー】
2026.3.18試乗記イタリアの名門、モト・グッツィのマシンのなかでも、特に歴史を感じさせるのがロードスポーツの「V7」だ。ファンに支持される味わい深さはそのままに、よりスポーティーにも楽しめるようになった最新型の実力を、上級グレード「V7スポルト」に試乗して確かめた。 -
NEW
第105回:「フェラーリ・ルーチェ」のインテリア革命(後編) ―いきすぎたタッチパネル万能主義に物申す!―
2026.3.18カーデザイン曼荼羅巨大ディスプレイ全盛の時代に、あえて物理スイッチのよさを問う! フェラーリのニューモデル「ルーチェ」のインテリアは、へそ曲がりの逆張りか? 新しい価値観の萌芽(ほうが)か? カーデザインの有識者とともに、クルマのインターフェイスのあるべき姿を考えた。 -
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)/RAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】
2026.3.17試乗記「トヨタRAV4」が6代目へと進化。パワートレインやシャシーの進化を図ったほか、新たな開発環境を採用してクルマづくりのあり方から変えようとした意欲作である。ハイブリッドの「Z」と「アドベンチャー」を試す。 -
クルマの内装から「物理スイッチ」が消えてタッチパネルばかりになるのはどうしてか?
2026.3.17あの多田哲哉のクルマQ&A近年、多くのクルマの車内では、物理的なスイッチが電気式のタッチパネルに置き換えられている。それはなぜなのか? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに理由を聞いた。 -
いまこそ、かき回したい! 新車で買えるおすすめMT車はこれだ!
2026.3.16デイリーコラム改良型「トヨタ・ヤリス」に、新たに6段MTモデルが設定された。現実的にMT車はレアであり、消滅する可能性もある時代だが……。これを機に、いま新車で買えるMT車のなかで、特におすすめできるモデルをピックアップしてみよう。


































