第100回:絶滅危惧種のカーマニアに愛の手を!
2018.07.24 カーマニア人間国宝への道人間国宝への道のりは長く険しい
当連載も記念すべき第100回を迎えました。ありがとうございます。本当にありがとうございます。
が、振り返ってみると、『カーマニア人間国宝への道』などという大層なタイトルを打ちながら、このところの私は、どんどん人間国宝から遠ざかっております。
この2年間で、「フェラーリ458イタリア」から「328GTS」に乗り換えたのは、人間国宝っぽい方向性ではありましたが、「ランチア・デルタ1.6ディーゼル」から「BMW 320d」に乗り換えたのは、猛烈に人間国宝の道には逆行。しかもその320dがメチャメチャ良くて、メチャメチャ気に入ってしまっているのです!
私儀これまで、ドイツ車については、「メジャーすぎる! つまらん! 故障も多い! 信頼性ならラテン車に限る!」と断言してまいりましたが。そんなマイナー路線を歩んできた自分が、いかに愚かであったかを、思い知ってしまいました。
「あ~~~~~~、メジャーってこんなに良かったんだ~~~~~~!」
なにしろステアフィールや直進安定性が抜群だし、ACCも付いている。平均燃費はリッター17km。3年落ち中古で255万円ながら、十分イバリもきく。高速道路では前のクルマがかなり避けてくださいます。ありがとうございます。本当にありがとうございます。
ホイールをスプレー塗装で黒くしてからは、ますますワルっぽく見えるようになりました。愛称は“エリート特急”ですが、まさに最安の超特急でエリートになった気分。これでは人間国宝どころか、ゲスなオッサンそのものです。本当に申し訳ございません。
こんなことではイカン。なにか少しはカーマニアっぽい活動をしなくては!
カーマニアの聖地へGO!
そう思って、去る7月7日土曜日の夜、おそらくカーマニアが大挙集合しているであろう、首都高の大黒PAに行ってみることにしました。夜といっても8時頃ですが、深夜はおネムなので。
しかもフェラーリではなくBMWで。だって328はほとんどエアコン効かないんだもん。夏にフェラーリに乗ると、フェラーリにも自分のカラダにも悪いです。
そんなわけで、エリート特急でラクチンに夜の首都高を走っていると、羽田空港の手前あたりで、衝撃の表示を発見セリ。
「大黒PA閉鎖中」
ガーン! しまったぁ! カーマニアの行動は完全に読まれていたぁ!
しかたなく、行き先を海ほたるPAに変更。パーキングに入ろうとすると、お巡りさんがたくさんいて、大変ものものしい。閉鎖こそされてなかったけど、改造車の検問を絶賛開催中だったのです。
我がエリート特急号は、ホイールを黒くスプレー塗装しているだけなので「シッシッ」と追い払われて駐車場へ。そこは、大黒に行きそこねたらしきカーマニアたちがたくさん集まっていました。その多くが、伝統的な国産スポーティーカーの改造車! わーい! カーマニアだらけだ!
それにしても「RX-7」が多い。猛烈に多い。100台中15台くらいがRX-7。いったいどういうことでしょう。セブンが「N-BOX」のようにバカ売れしているのでしょうか?
実は、後から人に聞いたのですが、7月7日はセブンの日。RX-7がカーマニアの聖地を走り回る日だったのですね!
ただ、知り合い中唯一のセブンオーナーである、渡辺敏史氏は見当たりませんでした。彼のセブンは年間200kmくらいしか走らないとか。フェラーリ以上のごくつぶしぶりです。
カーマニアいじめ反対!
で、パーキングの房総半島寄りに行ってみると、なにやら人だかりがしていました。
何見てんだろ? と思ったら、みんな、下の駐車場で行われている検問を見物しているのです。
私もその中に混じって見物したのですが、投光器のライトが煌々(こうこう)と照らす中、数十人ものお巡りさんが、たった1台のRX-7を取り囲んで、ボンネットを開けて取り調べを行っていました。
それはもう、絶滅危惧種を寄ってたかっていじめて、完全に絶滅させようとしている、悪の集団にしか見えませんでした。
そのいじめの現場を、カーマニアたちが高みの見物をしているのも、なんとも心が寒くなります。
これはあくまで私の印象ですが、ああいった改造車の皆さんは、近年はまったく飛ばすことなく、むしろ法定速度を下回る速度で、走行車線を淡々と流されています。ただ単にああいうカッコとか音が好きで、それを静かに(うるさいけど)楽しんでいるだけのマニアが多い気がします。
そんなおとなしいカーマニアを、あんなにいじめなくても! むしろ保護すべきではないか? インバウンド需要を取り込めるかもしれないし!
実際海ほたるには、オタクっぽい白人青年(1名)が、一眼レフで痛車や改造車を撮影し、ニヤニヤしてました。
とうわけで今回は、「絶滅危惧種のカーマニアに愛の手を!」を叫びつつ、夏休みに入らせていただきます。また逢う日まで。チャオ。
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
第319回:かわいい奥さんを泣かせるな 2025.9.22 清水草一の話題の連載。夜の首都高で「BMW M235 xDriveグランクーペ」に試乗した。ビシッと安定したその走りは、いかにもな“BMWらしさ”に満ちていた。これはひょっとするとカーマニア憧れの「R32 GT-R」を超えている?
-
第318回:種の多様性 2025.9.8 清水草一の話題の連載。ステランティスが激推しするマイルドハイブリッドパワートレインが、フレンチクーペSUV「プジョー408」にも搭載された。夜の首都高で筋金入りのカーマニアは、イタフラ系MHEVの増殖に何を感じたのか。
-
第317回:「いつかはクラウン」はいつか 2025.8.25 清水草一の話題の連載。1955年に「トヨペット・クラウン」が誕生してから2025年で70周年を迎えた。16代目となる最新モデルはグローバルカーとなり、4タイプが出そろう。そんな日本を代表するモデルをカーマニアはどうみる?
-
第316回:本国より100万円安いんです 2025.8.11 清水草一の話題の連載。夜の首都高にマイルドハイブリッドシステムを搭載した「アルファ・ロメオ・ジュニア」で出撃した。かつて「155」と「147」を所有したカーマニアは、最新のイタリアンコンパクトSUVになにを感じた?
-
NEW
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】
2025.10.8試乗記量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。 -
NEW
走りも見た目も大きく進化した最新の「ルーテシア」を試す
2025.10.8走りも楽しむならルノーのフルハイブリッドE-TECH<AD>ルノーの人気ハッチバック「ルーテシア」の最新モデルが日本に上陸。もちろん内外装の大胆な変化にも注目だが、評判のハイブリッドパワートレインにも改良の手が入り、走りの質感と燃費の両面で進化を遂げているのだ。箱根の山道でも楽しめる。それがルノーのハイブリッドである。 -
NEW
新型日産リーフB7 X/リーフAUTECH/リーフB7 G用品装着車
2025.10.8画像・写真いよいよ発表された新型「日産リーフ」。そのラインナップより、スタンダードな「B7 X」グレードや、上質でスポーティーな純正カスタマイズモデル「AUTECH」、そして純正アクセサリーを装着した「B7 G」を写真で紹介する。 -
NEW
新型日産リーフB7 G
2025.10.8画像・写真量産BEVのパイオニアこと「日産リーフ」がいよいよフルモデルチェンジ。航続距離702km、150kWの充電出力に対応……と、当代屈指の性能を持つ新型がデビューした。中身も外見もまったく異なる3代目の詳細な姿を、写真で紹介する。 -
NEW
第87回:激論! IAAモビリティー(後編) ―もうアイデアは尽き果てた? カーデザイン界を覆う閉塞感の正体―
2025.10.8カーデザイン曼荼羅ドイツで開催された欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」。クルマの未来を指し示す祭典のはずなのに、どのクルマも「……なんか見たことある」と感じてしまうのはなぜか? 各車のデザインに漠然と覚えた閉塞(へいそく)感の正体を、有識者とともに考えた。 -
NEW
ハンドメイドでコツコツと 「Gクラス」はかくしてつくられる
2025.10.8デイリーコラム「メルセデス・ベンツGクラス」の生産を手がけるマグナ・シュタイヤーの工場を見学。Gクラスといえば、いまだに生産工程の多くが手作業なことで知られるが、それはなぜだろうか。“孤高のオフローダー”には、なにか人の手でしかなしえない特殊な技術が使われているのだろうか。