第288回:インドでオレも考えた
2024.07.15 カーマニア人間国宝への道37年前に体験したインドの衝撃
「ホンダWR-V」の販売が好調らしい。WR-Vは、ホンダがインド工場(ホンダカーズインディア)で生産している逆輸入車だ。私としては「へぇ、ホンダもインドに工場持ってたんだ」くらいのイメージだが、なにしろインドは中国を抜いて人口世界一の国。経済成長も著しいので、進出していて当然なのだろう。とにかく、ホンダのインド工場製のクルマが、日本で販売好調なのである。
ちょこっと乗ってみたところ、インドっぽさゼロだった。
日本では、純ガソリン車だけのラインナップや、209万円からという低価格が「インドっぽい」と理解されているように思うが、走りも内装もとてもしっかりしていた。しっかり=インドっぽさゼロなんて書くと時代錯誤かもしれないが、私の脳内のインドは37年前から更新されていないので、ついそんなことを思ってしまう。
私がインド旅行に行ったのは、今から37年前。1987年のことだった。
インドは日本のもやしっ子にとって、衝撃の国だった。
最初の衝撃は、エア・インディアの機内から始まった。インド人乗客はほぼ全員、機内の床に直接寝ていた。シートなんてまったく無視して、シートの下とか通路の床に雑魚寝していた。通路が寝ているインド人だらけで足の踏み場もなかったので、トイレに行くのがとても大変だった。
しかもインド人たちは、離着陸時にも微動だにせず寝たままだった。スチュワーデス(当時の日本の呼称)も一切注意しなかった。すげぇぞインド! 今でもそうなんでしょうか? いやさすがにみんなちゃんと座ってるんだろうな。だからインド製自動車がしっかりしたのかもしれない(?)。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ガイドがいないとホテルから出られない
デリー(インディラ・ガンディー)国際空港に着くと、インド人ガイドがなぜか「日産セドリック」のセダンで迎えに来ていた。んで「このクルマ、インドでは1000万円くらいします」と言った。私は「ええーっ!」と驚いた。日本人旅行者はたぶん全員「ええーっ!」と驚くので、反応が面白いのだろう。
しかし、インドの衝撃はそんなもんじゃなかった。街の道路が人と自転車とリキシャ(荷台付き自転車)と三輪タクシーとクルマとトラック、バスでグッチャグチャなのはともかく、その真ん中で多数の牛たちが中央分離帯の役目を果たしていることに心底驚いた。ガイドは「インドでは牛は神聖な生き物なので、どこにでもいます」と言ったが、まさか中央分離帯だとは。
インドの観光地は物乞いで埋め尽くされており、全員「1ルピー、1ルピー」と言いながら哀れな目でわれわれを見た。「絶対にお金をあげないでください。あげたら群がってきて、全員にあげないといけなくなります」とガイドに言われていたので、一度も喜捨しなかったけど、心が重かった。
ホテルから一歩外へ出ると、リキシャや蛇使いがワッとわれわれのまわりに集まってきて「乗れ」「見ろ」みたいに強要してきた。無視していたら怒ってどなりだしたので、「こりゃダメだ」とホテルに引き返した。ガイドがいないとホテルから一歩も出られない。外国人用のホテルなんかに泊まっているのがいけないんだろう。バックパッカーならそんな目には遭わなかったはずだ(たぶん)。
そしてインド人は、みんなウソつきで泥棒だった(個人の感想です)。われわれが典型的な観光客だったからなのでしょうが、まわりにいた全員がわれわれをだましてぼったくろうとし、スキあらば物を盗もうとした。インドには正直者はひとりもない気がして、「この国で商売するのは大変だろうな」と思った。
スズキは、そんなインドで1983年から自動車の生産を始めたんだから偉大だ。偉大すぎる!
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
WR-Vはインドのほうが高い!?
とにかく当時のインドは大変貧しく、逆に日本は世界に冠たる金持ち国だった。インド人は今でも平均すれば貧しいけど、日本との差は大幅に縮まっている。そういえば日本はドイツにGDPで抜かれて世界第4位に落ちたばかりだが、2025年には現在5位のインドにも抜かれる見込みだ。さらにそのインドは2027年にドイツを上回り3位に浮上するといわれている。
話はWR-Vに戻る。このクルマが便利でとてもしっかりしているのは確かだが、209万円からという価格は本当に安いのだろうか。私にはあまり安いとは思えない。だって200万円超えてるんだから! 「安いっ!」ていったら、150万円くらいの感じじゃないだろうか。このクルマ、インドではいくらで売ってるんだ?
インドホンダのオフィシャルウェブサイトで確認したところ、インド名は「エレベイト」。価格は120万ルピー~165万ルピーとなっている。日本円に換算すると……えええ~~~~~っ! 231万円~319万円!! インドのほうが高いじゃんかよ~~~~~~っ!
調べたら、インドルピーはドル相場とだいたい同じ動きをしており、ここ3年間で4割近く円安ルピー高になっていた。
日本が欧米に対して貧乏になったのはともかく、インドに対してもこれほど貧乏になっていたとは……。インド人のほうが高い値段でWR-Vを買ってるんだね! 反省!! もう2度と「ガイシャは高い」とか言いません! われわれが貧しくなっただけなんですから! うお~ん(涙)。
(文と写真=清水草一/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第324回:カーマニアの愛されキャラ 2025.12.1 清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。
-
第323回:タダほど安いものはない 2025.11.17 清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。
-
第322回:機関車みたいで最高! 2025.11.3 清水草一の話題の連載。2年に一度開催される自動車の祭典が「ジャパンモビリティショー」。BYDの軽BEVからレクサスの6輪車、そしてホンダのロケットまで、2025年開催の会場で、見て感じたことをカーマニア目線で報告する。
-
第321回:私の名前を覚えていますか 2025.10.20 清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。
-
第320回:脳内デートカー 2025.10.6 清水草一の話題の連載。中高年カーマニアを中心になにかと話題の新型「ホンダ・プレリュード」に初試乗。ハイブリッドのスポーツクーペなんて、今どき誰が欲しがるのかと疑問であったが、令和に復活した元祖デートカーの印象やいかに。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。









































