第797回:電動車時代を見据えた、ミシュランが目指すサステイナブル性能とは?
2024.07.19 エディターから一言![]() |
世界最大のタイヤ販売シェアを誇るミシュランは、電動車の台頭や車両性能の進化によってタイヤの果たす役割と範囲が変わってきたと言う。同社が目指す方向性と最新タイヤの性能を知るために、主力ラインナップが並ぶ試走イベントに参加した。
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電動車の存在がタイヤを変える?
新車に占める電動車の割合が年々増加してきている。タイヤメーカーの盟主として知られるフランスのミシュランによると、現在新車として販売されるおよそ半数が電動車で、2018年に48%であったその割合は2022年には52%にまでアップ。同様の傾向は今後も拡大しながら続くと予想されている。
そうした新車市場に呼応するように、タイヤに求められる性能も変わってきているという。具体的には安全性・経済性・居住性に加えて環境性が重要視され、その環境性では原材料の調達から製造工程、そして製品の輸送時、利用時、廃棄というライフサイクルアセスメント(LCA)が大きなウェイトを占めている。
われわれが愛車に装着する黒くて丸いタイヤに落とし込むなら、省資源でよりCO2排出量の少ない製品開発や、高性能で長期間使用できるタイヤの製造が求められるということになろうか。ミシュランタイヤはこの世界的な潮流を「さらなるタイヤ性能の高水準化と汎用(はんよう)性向上の要求」として受け止めている。
そんな背景のなかで、現在ミシュランがどう製品開発に取り組み、実際にどんな製品をリリースしているかを栃木のGKNドライブインジャパンで行われた「ミシュランサステナブル試乗会2024」と題されたメディア向けイベントに参加し、確かめた。
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早くからサステイナブルを掲げたミシュラン
ご存じのようにサステイナブル(Sustainable)とは“持続可能な”という意味を持つ英語である。近年、自動車関連だけでなく幅広い分野ですっかりおなじみになったこのキーワードは、ミシュランが1998年に第1回大会を地元フランスで開催した「チャレンジビバンダム」においてすでに登場。掲げられたのは「サステイナブルモビリティー」、つまり持続可能な移動である。
ビバンダム=ミシュランマンのキャラクター誕生100周年を記念して行われた同イベントは、環境関連の議題をテーマとしたフォーラムやラウンドテーブル、自動車メーカーや部品メーカーが実車を持ち寄って試乗を行うといった“エコカーの祭典”としての側面もあった。数年の期間をおいて欧州はもちろんこと、北米や南米、アジアでは中国でも開催された。日本においてはそのコンパクト版ともいえる「ビバンダム・フォーラム&ラリー」が2005年に上陸。京都~名古屋間のツアーをメインに実施された。現在チャレンジビバンダムは、モビリティー関連サミット「MOVIN' ON」に進化し継続されている。
そのように早くからサステイナブルを意識してきたミシュランは、内燃機関搭載車とは異なり走行中にCO2を排出しないBEVにおいて、転がり抵抗・タイヤ重量・耐摩耗の改善が、理想的なLCAを実現するうえで重要だとしている。
「ドライ路面でのグリップ性」「ウエット路面でのグリップ性」「ハンドリング」「乗り心地の良さ」をいずれも一段階引き上げながら、「静粛性」「摩耗のしにくさ」「使い始めの性能が長持ちすること」「低燃費性能」においてさらに上を目指す。そのコンセプトを具現したのが、今回紹介する「eプライマシー」と「プライマシーSUV+」、そして「パイロットスポーツ4 SUV」「パイロットスポーツ5」という4つのタイヤだ。
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ミシュランガイドなら星いくつ?
eプライマシーは2021年7月に発表されたプレミアムコンフォートタイヤ。電動走行に対応する静粛性や上質な乗り心地、摩耗のしにくさ、タイヤが摩耗しても続く排水性能に加え、「エナジーパッシブコンパウンド」による「AAA」の低燃費性能がセリングポイントとなる。
幸いかどうか、試走当日は朝からの雨模様。eプライマシー自慢のウエットグリップを確認するのは容易だった。「メルセデス・ベンツA180」を用いた高速走行においては、抜群の直進性がもたらす安心感が印象的だった。排水性の良さが、この安定感をつくり出していると想像できる。そうした好印象は乗り換えた「レクサスLBX」でも変わらなかったが、こちらではさらにシャープなハンドリングと低ロードノイズが実感できた。
ワインディングロードを模したウエットハンドリング路においては「ウエット路面でこの走りならスポーツタイヤはいったいどうなるの?」と思うほどのグリップ力と切れ味であるいっぽう、いったんEV走行に入った際に実感するロードノイズの抑え込みは、まさに電動モデルのために開発されたタイヤであると納得できるものであった。
この静粛性には、接地面における接地部分と溝部分の比率が常に一定になるように設計した「サイレントリブテクノロジー」が効果を発揮しているという。タイヤパターンから発する音圧を一定にすることで優れた静粛性を実現する技術である。
エコに注力したタイヤであってもルックスが良くチープな味つけになっていないあたり、ミシュランガイドならば果たしていくつ星がもらえるだろうか。
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雨の高速道路で安心・安全
「日産エクストレイル」の「e-4ORCE」搭載車に装着されていたプライマシーSUV+は、2022年2月に導入が発表されたプレミアムコンフォートタイヤである。それまでラインナップされていた「プレミアLTX」の後継にあたる。シリカを多く配合した新設計コンパウンドを採用し、自慢の低転がり抵抗をキープしながら、優れたドライ&ウエットブレーキ性能を発揮すると紹介される。
注目はブロック数を増やし形状を最適化することで、ノイズのピークを減らし騒音エネルギーを低減させるというトレッドデザイン。先代のプレミアLTX比で約27.9%もパターンノイズを抑制している。さらにU字型の主溝と深く刻まれた「フルデプスサイプ」により、摩耗による急激な排水性能の低下をセーブ。こちらも先代のプレミアLTXと比べた場合、ウエット路面での制動距離は8.2%短くなっているとのこと。
今回は、プライマシーSUV+の制動力を確認するプログラムが用意されていた。同タイヤの新品と残溝が2mmのタイヤで行う単純明快なウエットブレーキテストである。70km/hからのフルブレーキングで、その制動距離を比較するわけだ。4回の試走の平均制動距離は新品が19.4m(最長が19.7m、最短が19.0m)で、残溝2mmのタイヤは25.5m(最長が26.0m、最短が25.6m)という結果になり、正直かなり驚いた。
驚いた理由は2つ。ひとつは車重1800kg以上のエクストレイルによる70km/hからのフル制動にもかかわらず20m以内で止まれたという事実に、もうひとつは同じ条件下においても残溝の違いでこれほどの差が生じるのかという想像以上の結果に、である。
一般的にドライ路面でも70km/hからの制動距離は40m程度といわれているので、いかに今回のドライバーの腕がいいからとはいえ(笑)、この数値はなかなかのもの。いや、プライマシーSUV+のウエット制動性能は十分注目に値する。SUVユーザーで雨の高速道路が怖いと感じている方は、履き替えの際に候補として検討してもいいだろう。
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スポーツタイヤでも設計思想は同じ
「レクサスRX500h“Fスポーツ パフォーマンス”」に純正装着されているパイロットスポーツ4 SUVを「RX350h“バージョンL”」に装着するという試走も興味深いプログラムであった。基本走行性能の高さと対応力を確かめるためのものだというが、路面とのコンタクト感やライントレース性に不満などあるわけもなく、雨の中でも安全に走ることができた。高性能モデルに採用されるタイヤを下位モデルに履かせても、快適性や操安性に違和感がないということを主張したかったのだろう。乗り心地の悪化やツッパリ感など、何の引っかかりもなく走りを楽しめたのがその証拠といわれれば、確かにそのとおりである。
多くの高性能モデルに純正装着されるパイロットスポーツ5は、「走る楽しさから見た目の満足感に至るまで、スポーツタイヤに求められる性能領域を最大化した」とうたわれるスポーツタイヤ。「パイロットスポーツ4」の後継にあたり、日本上陸は2022年の1月である。
モータースポーツ由来の非対称トレッドパターン「デュアルスポーツトレッドデザイン」は、トレッド面全体に占める溝の割合をアップ。排水性を高めたトレッドの内側と高い剛性をもたらすトレッド外側の大型ブロックによって、ウエットとドライのどちらでも高いグリップ力を発揮するという。パイロットスポーツ4との比較では、ウエット路面でのラップタイムが1.5%短縮したと紹介されている。
パイロットスポーツ5が装着されたのは「テスラ・モデル3」の4WD車。テスト車のラインナップで唯一のフル電動車である。ガッチリとしたボディーと比較的硬めのスポーツタイヤの組み合わせは申し分なく、ウエット路面でも安心してアクセルを踏んでいけた。多くのバッテリーを積んだ重量級のボディーでもタイヤの丸さが損なわれることなく、シャープで信頼性のあるハンドリングが味わえた。
今回のこれら4種類のタイヤに共通するのは、摩耗のしにくさと使い始めの性能が長持ちするということ。摩耗についてはリアルワールドで試さなければわからないが、この2つと低燃費性能がバランスされ、SUVならSUVの、スポーツカーならスポーツカーのキャラクターにフィットする個性があるタイヤならば魅力的だ。
電動車、つまり重いクルマが増える傾向にある現代においては、タイヤ選びのこだわりにも時流に沿ったアップデートが必要だとあらためて認識した。と同時に、BEVだFCEVだと新技術が台頭してきても、最後の最後、クルマのパフォーマンスはタイヤが担っていると実感した試走イベントでもあった。
(文=櫻井健一/写真=日本ミシュランタイヤ、webCG/編集=櫻井健一)

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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