「レクサスLBX」には「MORIZO RR」 人の名前をいただくクルマを検証する
2024.08.07 デイリーコラム創業者の名を持つスーパーカー
先日リリースされた「レクサスLBX MORIZO RR」。MORIZOとは言うまでもなくトヨタの豊田章男会長のニックネームだが、それを運転していて思いついたというwebCG編集部のFくんから、「車名に人名がついたクルマって、けっこうありそうな気がしますが、どんなもんでしょう?」と問われた。
そういわれてみると、確かにけっこうありそうだ。そもそもトヨタ(豊田)をはじめ姓がメーカー/ブランド名という例は世界中にあるわけだが、ここではそれは除いて、モデル名、サブネームおよびグレード名に実在の人名がついたモデルを紹介していこう。
まず文句なしに「ザ・人名モデル」であるのが、フェラーリの「エンツォ・フェラーリ」だろう。フェラーリ創業55周年となる2002年に、最近は映画にもなった創業者であるエンツォ・フェラーリの姓名を冠して登場した限定生産のスーパーカー。日本であれば「本田宗一郎」のように、創業者にしてメーカーを象徴するカリスマ的存在の人名をモデル名にしちゃったわけである。
次に開発者や設計者の名を冠したモデル。これはモデル名であると同時にブランド名ともいえる例だが、クラシックなブリティッシュスポーツとして今も人気の高い「オースチン・ヒーレー」。イギリスのオースチン社が元ラリードライバーでエンジニアリング会社を率いるドナルド・ヒーレーとコラボレーションして生まれたモデルで、1952年から1971年まで存在した。
ドナルド・ヒーレーは同時期にアメリカのナッシュ社とのコラボによるスポーツカー「ナッシュ・ヒーレー」もプロデュース。こちらは1951年から1954年までつくられたが、英国製の車体とアメリカ製エンジンを組み合わせたアングロ-アメリカンスポーツのはしりだった。
ドナルド・ヒーレーはオースチンとの契約が終了した後、英国ジェンセン社に会長として迎え入れられた。そこで息子のジェフリー・ヒーレーとともにロータスツインカムを積んだ「ジェンセン・ヒーレー」を開発。これは1972年から1976年までつくられ、日本にもコーンズによって正規輸入された。
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クーパーにゴルディーニ、そしてデ・トマソ
世間には「MINIクーパー」という車名だと思っている人も少なくないであろうMINIクーパー。これを最初に名乗ったのはオリジナルMini(ADO15)に1962年に追加された高性能版の「オースチンMiniクーパー」と双子車の「モーリスMiniクーパー」だった。
クーパーとは、レーシングカーコンストラクターのクーパーを率いていたジョン・クーパー。クーパーは1957年にF1の世界にミドシップマシンを持ち込み、1959~1960年にF1コンストラクター選手権を2連覇した実績を誇る往年の名門である。そのジョン・クーパーがオリジナルMiniのポテンシャルに目をつけ、友人だったMiniの設計者であるアレック・イシゴニスに提案して生まれたのがMiniクーパーだったのだ。
以後MiniクーパーはMiniの高性能版のグレード名として使われてきたが、MINIがBMWのブランドになってからは「クーパーS」の上をいく最強グレードが「MINIジョンクーパーワークス」を名乗っている。
また先代MINIクーパーSには「パディ・ホプカークエディション」という限定車が設定されたこともある。パディ・ホプカークとは、1964年のモンテカルロラリーでMiniクーパーSに初優勝をもたらした英国人ドライバーで、つまりはクーパーとのダブルネームになるわけだ。パディ・ホプカークエディションは、彼のウイニングマシンに倣ったカラーリングとカーナンバー37があしらわれていた。
1964年に登場した「ルノー8ゴルディーニ」など、往年のルノーのハイパフォーマンスモデルの名称として知られるゴルディーニも人名だ。レーシングドライバーにしてエンジニアだったイタリア生まれのアメディ・ゴルディーニは、やがてフランスでレーシングカーコンストラクターを設立。シムカを経てルノーと協業し、1957年の「ドーフィン・ゴルディーニ」を皮切りに8ゴルディーニや「12ゴルディーニ」といった彼がチューニングを手がけたハイパフォーマンスモデルがリリースされたのだった。
アルゼンチン生まれのレーシングドライバーだったアレッサンドロ・デ・トマソ。彼はイタリアで設立した自らの名をつけたレーシングカーコンストラクターをスーパーカーメーカーに育てた後、マセラティやイノチェンティ、ベネリといったメーカーを続々と手中に収めたやり手の実業家だった。
その名はデ・トマソブランドのモデルのみだけでなく、傘下のイノチェンティにも「Miniデ・トマソ」をラインナップ。またイノチェンティと提携したダイハツも、そのネームバリューに目をつけ「シャレード デ・トマソ」と名乗るハイパフォーマンスモデルをリリースした。
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トリビュートモデルの数々
先に紹介したエンツォ・フェラーリと似たような、メーカー/ブランドの創設者へのいわばトリビュートモデルの例が、「アルピーヌA110GTジャン・レデレ」。ジャン・レデレとはルノーディーラーの経営者にしてレーシングドライバーだったアルピーヌの創業者で、彼の生誕100周年となる2022年にA110GTジャン・レデレが限定車としてリリースされたというわけだ。
スタイリングを手がけたデザイナーへのトリビュートモデルといえるのが「いすゞ117クーペ ジウジアーロカスタム」。117クーペは1968年から1981年まで販売されたロングセラーだが、ジウジアーロカスタムはモデル末期の1979年に追加設定されたグレードで、その名のとおりジウジアーロ自身がカスタムした内外装を持っていた。
トリビュートといえば、ゆかりのあるレーシングドライバーの名をいただくモデルも外せないが、この種のモデルの頂点に位置するのは「マクラーレン・セナ」かもしれない。2017年に登場した限定500台のスーパースポーツだが、既存モデルの特別仕様ではなく車名そのものが「セナ」だからだ。
セナとはもちろんアイルトン・セナ。1980年代中ごろから1990年代初頭にかけてF1で活躍し、マクラーレン・ホンダで3度のドライバーズタイトルを獲得。とりわけ日本では「音速の貴公子」と呼ばれ絶大な人気を誇ったF1ドライバーである。なお、セナをさらにスープアップした「セナGTR」「セナ カンナム」「セナLM」などのスペシャルバージョンもつくられている。
活躍した時代が異なるため単純比較はできないが、ネームバリューではセナ以上かもしれないのが2009年に登場した「メルセデス・ベンツSLRスターリング・モス」。それ自体が最高級のスーパースポーツである「メルセデス・ベンツSLRマクラーレン」をベースに内外装をカスタマイズした限定75台の特別仕様。日本にも2台が輸入され、販売価格はなんと1億1000万円だった。
スターリング・モスとは、1950年代から1960年代にかけて大活躍したが、不思議とタイトルとは無縁だったため「無冠の帝王」の異名をとった英国人ドライバー。SLRスターリング・モスがモチーフとしたのは、彼がタルガ・フローリオなどで駆ったレーシングスポーツ「メルセデス・ベンツ300SLR」である。
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DBはデータベースにあらず
発表時点において現役だったドライバーの名をもらったモデルも存在する。例えば「三菱ランサーエボリューションVIトミ・マキネンエディション」。三菱のワークスドライバーだったトミ・マキネンがランサーエボリューション、略してランエボを駆り1996年から1999年にかけてWRCドライバーズタイトル4連覇という偉業を成し遂げたことを記念して2000年にリリースされた特別仕様車である。
1990年に「トヨタ・セリカGT-FOUR(ST165)」を駆って日本車としては初となるWRCドライバーズタイトルを獲得したカルロス・サインツ。1991年にはフルモデルチェンジした次世代モデル(ST185)のWRC用ホモロゲーションモデルの「セリカGT-FOUR RC」(RC=ラリーコンペティションの略)がグループA規定に沿った5000台限定でリリースされた。これが海外では「セリカGT-FOURカルロス・サインツリミテッドエディション」を名乗ったのだった。
イニシャル(頭文字)ではあるが、今ではそれが人名を示すものとは知らない人もいるのでは? と思われるのがアストンマーティンの「DB」。これは1920年代からスポーツカーメイクとして名をはせたが、経営が不安定だったアストンマーティンを1947年に買収した実業家デイヴィッド・ブラウン(David Brown)のイニシャルなのである。
1948年の「DB1」に始まり、以後登場したモデルは「DB2」「DB4」「DB5」「DB6」「DBS」とDBを冠していたが、1972年に今度はデイヴィッド・ブラウンの率いるグループが経営不振に陥り、アストンマーティンを手放した。それによりいったんDBはモデル名から外れるが、1987年にアストンマーティンを傘下に収めたフォードがデイヴィッド・ブラウンを役員として招いたことから、1994年にデビューした「DB7」では二十数年ぶりにDBの名が復活。フォードが手放して以降も現在まで存続している。
なおDB7には「DB7アルフレッド・ダンヒル」などの限定車もあった。アルフレッド・ダンヒルとは古くはライターなどの喫煙具で有名になったイギリスのメンズブランド、ダンヒルの創業者だが、これなどはDBとのダブルネームだったわけである。
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イメージキャラクター自身は乗らない?
数の上で多いのは、イメージキャラクターに起用されたタレントやスポーツ選手などにちなんだ名を持つモデルだろう。日本車でその先駆けとなったのは、双子車だったトヨタの初代「ターセル」と「コルサ」の「百恵セレクション」だろうか。発売翌年の1979年に販売をテコ入れすべく、当時絶大な人気を誇った歌手の山口百恵を広告に起用し、その名を持つ特別仕様車までリリースしたのである。
1980年代に日産は、6代目(430)と7代目(Y30)の「グロリア」にアメリカ人プロゴルファーのジャック・ニクラスを、6代目「スカイライン」(R30)にはアメリカ人俳優にしてレーシングドライバーとしても活動していたポール・ニューマンを起用。それぞれの名をつけた特別仕様車「ジャック・ニクラスバージョン」「ポール・ニューマンバージョン」を加えた。
また4代目「ローレル」(C31)には、フランスのファッションブランドであるジバンシィとコラボレーションした特別仕様車「ジバンシィバージョン」を設定。創業者でデザイナーであるユベール・ド・ジバンシィ自身も広告に登場した。好評だったのか「ジバンシィバージョンII」「ジバンシィバージョンIII」もリリースされた。
1982年に登場した4代目「マツダ・カペラ」はフランス人俳優のアラン・ドロンを起用。「アラン・ドロンバージョン」もつくられたが、彼は往年の二枚目の代名詞的存在だっただけに、男性が選ぶのは勇気が必要だったかもしれない。
女優の小林麻美を起用した2代目「スズキ・アルト」。1985年に特別仕様車「麻美スペシャル」が発売されると、好評だったようでIIとIII、そして「麻美フェミナ」と3台も続編が登場した。スズキはそれと同時代に、イメージキャラクターの舘ひろしにひっかけた「オレ・タチ、カルタス」や「ハード・タチ、カルタス」といったダジャレコピーで話題となった初代「カルタス」にも「タチバージョン」を設定している。
1996年にフォルクスワーゲンがアメリカのロックグループ、ボン・ジョヴィのワールドツアーをスポンサードした際に、特別仕様車の「ゴルフ ボン・ジョヴィ」がリリースされた。ボン・ジョヴィはグループ名だが、リーダーでボーカルのジョン・ボン・ジョヴィにちなんだものなので、つまりは人名がついていたのである。
以上のモデルに共通しているのは、「イメージキャラクターを務めた当人はまず乗らないだろうな」ということである。それらに対して、最近の“ブランドアンバサダー”とやらの場合はそうもいかないようだ。もっともクルマのほうも軽やコンパクトカーではなく、それなりの車格のモデルなので、乗ることに不都合はなさそうだが。
ジャガーの「Fタイプ」「XF」「Eペース」などに「KEI NISHIKORI EDITION」が設定されたプロテニスプレーヤーの錦織 圭や、レクサスの「LS」「LC」「RX」に「HIDEKI MATSUYAMA EDITION」が設定されたプロゴルファーの松山英樹あたりは、乗らないわけにはいかないでしょうな。
(文=沼田 亨/写真=トヨタ自動車、フェラーリ、ダイハツ工業、ルノー、いすゞ自動車、マクラーレン・オートモーティブ、メルセデス・ベンツ、三菱自動車、アストンマーティン、日産自動車、スズキ、フォルクスワーゲン、ジャガー・ランドローバー・ジャパン、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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