理系学生の箱根駅伝!? 未来の自動車人を育む「学生フォーミュラ」が熱い!
2024.08.22 デイリーコラムクルマ版の鳥人間コンテスト
学生フォーミュラと聞いて、「体育会自動車部対抗の大学フォーミュラシリーズか?」なんて想像をめぐらせる好事家もおられるかもしれない。しかし、実際はまるでちがう。
では、学生フォーミュラとはなんぞや……の雰囲気を手っ取り早くつかむには、この春に公開されたアップルのコンピューター「Mac」のCM動画をご覧いただくとよい(現在もYouTubeで閲覧可能)。同動画には東京大学の学生フォーミュラチームが、自分たちでマシンを設計、製作して、大会のコースを疾走するまでの流れが描かれている。
その動画からもイメージできるように、学生フォーミュラとは、学生たちの自作によるフォーミュラスタイルのレーシングカーを使った競技会で、「フォーミュラSAE」という世界共通のルールのもとでおこなわれる。
SAEとは「米国自動車技術者協会」のこと。1981年、当時の日本自動車産業の台頭に危機感をおぼえたSAEが人材育成やリクルーティング活動の一環として創設したのが、フォーミュラSAE=学生フォーミュラである。そんな学生フォーミュラが、現在では世界23カ国で競技会が開催されて、約60カ国から参加を集める世界的イベントに成長したというわけだ。
その日本大会は2003年からスタートして、この2024年で22回を数える。参加するのは、日本の大学、国立高等専門学校(いわゆる高専)、専門学校を単位とした有志チームで、国外からの参加も受け付けられる。大会は例年秋に開催されている。ただし、参加チームは大会が終了するやいなや翌年用マシンのコンセプトづくりや設計をスタートさせるというから、ほぼ1年がかりの活動となる。
そんな学生フォーミュラを、無理やりたとえるなら、「理系学生のための箱根駅伝」、あるいは「学生限定のクルマ版の鳥人間コンテスト」といったところだろうか。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
まさに自動車ビジネスの縮図
日本大会を主催する自動車技術会が「次世代の技術者育成を目的とした、イチからモノをつくりあげる総合競技会」と定義する学生フォーミュラは、単なる自作マシンによるモータースポーツ大会ではなく、大きく分けて「静的審査」と「動的審査」という2つの審査によるポイントによって争われる。
もう少し詳しくいうと、静的審査は「プレゼンテーション」「コスト」「デザイン」、そして動的審査は「アクセラレーション」「スキッドパッド」「オートクロス」「エンデュランス」「効率」という項目別に審査される。各項目には75~275ポイントが振り分けられており、基本的にはこれらを合計した1000ポイント満点の総合ポイントで順位が決まる。
なかでも、学生フォーミュラならでは……なのが、静的審査だ。静的審査は、審査される学生チームを自社製のマシンを売り込む仮想の設計会社、審査員を商品化・生産するクライアントと想定して、審査するという。
プレゼンテーション審査では、マシンのコンセプトや長所を、わかりやすくアピールすることが求められる。コスト審査は文字どおり、いかに低コストのクルマづくりができているか、原価計算がいかに正しくできているかが問われ、提出されるコストリポートはA4用紙で2000枚以上になることもあるというほど緻密で厳格だ。
そして、デザイン審査も見た目やカッコよさを競うものではなく、あくまでクルマとしての設計の評価で、主にコンセプトに合致した設計であるかどうかが審査される。
いっぽうの動的審査は、よくも悪くもシンプルだ。アクセラレーション審査は0-75m加速、スキッドパッドは8の字コースのコーナリング、オートクロスは直線・ターン・スラロームを組み合わせた一周約800mのコースでのハンドリング、エンデュランスはそのオートクロスコースを約20km走行した性能が審査される。最後の効率はエンデュランス走行時の燃費(もしくは電費)の評価だ。このときのドライバーも各チームの学生がつとめる。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
78チームが発想と製作技術を競い合う
写真(すべて昨年の日本大会2023の模様)をご覧いただければおわかりのように、フォーミュラというわりには、その姿はそれぞれに個性的だ。
というのも、学生フォーミュラ=フォーミュラSAEのマシンは、オープンホイール+オープンコックピットのフォーミュラスタイルであることとパワートレイン以外、車体のサイズや空力部品の有無や形状は基本的に自由だからだ。パワートレインについては、エンジン車の「ICV」クラスと電気自動車の「EV」クラスがあり、ICVは排気量710cc以下の4サイクルエンジン、EVはバッテリーからの最大電力が80kW以下で、最大公称作動電圧が直流600Vまで……とされる。
そんな理系学生たちの青春をかけた一大イベントは、今年も「学生フォーミュラ日本大会2024」として、9月上旬に本番をむかえる。今年は、アジア圏を中心にとした海外チームの20~30校を含めて106チームの申し込みがあったといい、そこから絞り込まれた78チーム(2024年7月8日現在)によって争われる。内訳はICVクラスが57チーム(うち海外は5チーム)、EVクラスは21チーム(うち海外は2チーム)となる。
「学生フォーミュラ日本大会2024」は、まず9月3日~6日にかけてオンラインの静的審査(非公開)が開催された後、クライマックスといえる動的審査が、9月9日~14日の日程でおこなわれる。会場は愛知・常滑にある愛知県国際展示場「Aichi Sky Expo」だ。
今年の見どころは、2022年、2023年と2年連続で総合優勝を果たしている京都工芸繊維大学が、3連覇と歴代最多勝(現在は5勝で上智大学とならんで1位タイ)を達成できるか、そして昨2023年に名古屋大学EVがたたき出したアクセラレーション(0-75m加速)の日本記録3.649秒がさらに更新されるか……といったところだ。
ちなみにAichi Sky Expoでの6日間はすべて入場無料だが、最初の3日間は車検がメインなので、日本の未来をになう若者を楽しみながら応援するなら、実際の動的審査(=走行)がおこなわれる12日~14日がオススメ。この期間は協賛企業のPRブースなども設置されるそうだ。
(文=佐野弘宗/写真=公益社団法人自動車技術会/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代NEW 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ 2025.9.11 何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。
-
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力” 2025.9.10 2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。
-
NEW
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。 -
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起
2025.9.15デイリーコラムスズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。 -
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】
2025.9.15試乗記フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(後編)
2025.9.14ミスター・スバル 辰己英治の目利き万能ハッチバック「フォルクスワーゲン・ゴルフ」をベースに、4WDと高出力ターボエンジンで走りを徹底的に磨いた「ゴルフR」。そんな夢のようなクルマに欠けているものとは何か? ミスター・スバルこと辰己英治が感じた「期待とのズレ」とは? -
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.9.13試乗記「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。