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ホンダN-VAN e: L4 プロトタイプ(FWD)

夢は広がる 2024.08.28 試乗記 堀田 剛資 ホンダから、いよいよ電動の軽ワンボックス「N-VAN e:」が登場! 人気の「N-VAN」をベースとした軽商用電気自動車(EV)は、既存のモデルとはなにが違い、モビリティーにどんな変化をもたらすのか? 試乗&取材を通し、小さな箱型EVの可能性を考えた。
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「お花屋さん仕様」に表れるアドバンテージ

ホンダがめでたく、そしてようやくN-VAN e:を正式発表した(参照)。その存在が明らかとされてから、およそ1年半での吉報。発売は2024年10月10日だ。当初は「発売は2024年春」とのことだったので半年遅れの勘定だが、いやめでたい。実にめでたい。

日本の軽バンEVのマーケットを見ると、10年どころか13年選手の「三菱ミニキャブEV」が孤軍奮闘の状態。後は「ASF2.0」もあるにはあるが、正直こちらは、ちまたでお仕事をしている姿を見たことがない。またライバルと目されていたトヨタ・ダイハツ・スズキ連合の車種(参照)は「いつ出るのやら」といったありさまで、記者としてはN-VAN e:に、「新時代の旗手はキミだ!」と勝手に期待していたのだ。

そんな当方の盛り上がりを知ってか知らずか、ホンダが栃木のテストコースで催したN-VAN e:の先行取材会&試乗会は、気合が入りまくっていた。人気のミニバン/コンパクトのイベントもかくやというほどの、華やかなエキシビション。会場には根暗な記者ですらアウトドアに誘われそうな魅惑の用品装着車が座し、その隣の「お花屋さん仕様」は、本当にフラワーショップにお願いしてクルマをアレンジしてもらったとか。そしてカーデザイナー自ら手がけた背景のパネルには、“屋内への乗り入れも可能”なEVの特性を生かした、ショッピングモールでのバザール(最近はマルシェって言うらしいですわよ、奥さん)の様子が描かれている。なんともはや。自営業者やパーソナルユースのオーナーにも好評な、N-VANベースのEVならではの彩(いろどり)だ。

確かに、軽ワンボックスのメインターゲットは配送業などの大口顧客だが、その魅惑の大空間から、これを趣味の相方に選ぶ人も一定数いる。また個人事業主の間でも、「移動販売車をちょっとでもオシャレに」といったニーズは見受けられるが、そうした要望に応えられる軽バンEVは、今のところ存在しなかった。ありていに言って、みんな素っ気なさすぎた。

ホンダはN-VAN e:に対し、既存のエンジン車や軽商用EVの活動範囲を超えた、広範な場面・用途での活躍を期待しているという。そのためには、こうしたカスタマーに選んでもらうことが大前提だ。個人のオーナーも抵抗なく使える華やいだイメージは、このクルマの最大の強みなんじゃないか……と、上述のお花屋さん号を前に、まずはそんなことを考えた。

2024年10月10日発売予定の「ホンダN-VAN e:」。「e:CONTAINER(移動蓄電コンテナ)」というコンセプトのもと、「電気で走らせて はたらく 暮らすを広げる」(報道資料より)を目的に開発された。
2024年10月10日発売予定の「ホンダN-VAN e:」。「e:CONTAINER(移動蓄電コンテナ)」というコンセプトのもと、「電気で走らせて はたらく 暮らすを広げる」(報道資料より)を目的に開発された。拡大
取材会の会場に展示された、移動フラワーショップ仕様の「N-VAN e:」。この日のために、本物のフラワーショップにアレンジしてもらったという。
取材会の会場に展示された、移動フラワーショップ仕様の「N-VAN e:」。この日のために、本物のフラワーショップにアレンジしてもらったという。拡大
車内には折り畳み式のテーブルとイスも装備。徳島の自動車整備・特装・用品開発会社が手がけたもので、ホンダアクセスが純正用品として取り扱っている。
車内には折り畳み式のテーブルとイスも装備。徳島の自動車整備・特装・用品開発会社が手がけたもので、ホンダアクセスが純正用品として取り扱っている。拡大
こちらはホンダアクセスの用品を満載したアウトドア……というか“移動式茶の間”仕様。ベース車は4人乗りの上級グレード「e: FUN」で、同車や同じく4人乗りの「e: L4」なら、こうしたパーソナルユースも様になる。
こちらはホンダアクセスの用品を満載したアウトドア……というか“移動式茶の間”仕様。ベース車は4人乗りの上級グレード「e: FUN」で、同車や同じく4人乗りの「e: L4」なら、こうしたパーソナルユースも様になる。拡大
「N-VAN e:」のラインナップは4人乗り仕様の「e: FUN」(写真)と「e: L4」、1人乗り仕様の「e: G」、2人乗り仕様の「e: L2」の4種類。ただし、e: Gとe: L2は、あくまで法人向けのリース販売車両となる。
「N-VAN e:」のラインナップは4人乗り仕様の「e: FUN」(写真)と「e: L4」、1人乗り仕様の「e: G」、2人乗り仕様の「e: L2」の4種類。ただし、e: Gとe: L2は、あくまで法人向けのリース販売車両となる。拡大
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ヤマト運輸との実証実験が鍛えた機能性

もちろん、機能面でもN-VAN e:にはいろいろなアドバンテージがある。フロントエンジン……もといフロントモーター車ならではの低床大空間に、圧巻のピラーレス大開口、助手席を倒して得られる前後長2635mmのフラットな床面などは、いずれもライバルにはないN-VAN e:の魅力だ。宅配現場で最重視される荷室容量も、「120サイズのダンボールが71箱」と申し分ナシ。また運転席のみの1人乗り仕様、運転席とその後席のタンデム2人乗り仕様など、ユニークなシートレイアウトを用意するのも同車の特徴で、このあたりは、ともに実証実験を行ったヤマト運輸の宅配現場でも好評だったそうだ。

またヤマトとの実証実験では、荷室の機能性に加えて、当然ながら電動パワートレインの実用性も鍛えられた。たとえば安全な配送を第一とする宅配の現場では、急発進や急加速は厳禁。事故にはならずとも、荷崩れなどで大事な配送物を傷つける恐れもあるのだ。そこでN-VAN e:では、発進が穏やかとなるよう加速制御を調整。いっぽう駆動トルクについては、たとえフル積載でも坂を登れないと話にならないので、横浜、神戸、長崎……と、各地を走り込んで実証を行ったという。

さらに航続距離に関しては、ビッグデータの情報も生かして実用に足るスペックを算出。当初は200km程度を考えていたが、雪の日光でも実証を行い、冬場にヒーターをガンガンたいても確実に100km走れることを想定して、245km(WLTCモード)というカタログ値を導き出したとか。……もっとも、これについては「宅配の現場ではとにかく走り回るので、冬場でもエアコンはあまり使わないんですよ。シートヒーターだけで十分です」(ヤマトの宅配スタッフ)という声も。実際には、ちょっとオーバースペックとなってしまったのかもしれない。

こうして完成したN-VAN e:のスペックは、最高出力が64PS(4人乗り仕様)ないし53PS(1人・2人乗り仕様)、最大トルクが162N・m。バッテリーの総電力量は29.6kWh(総電圧358V、容量82.7Ah)で、一充電走行距離は既述のとおり245km。電費は127Wh/km(WLTCモード)である。充電に要する時間は3.2kWの普通充電で約8.5時間、6.0kWの普通充電で約4.5時間。急速充電は50kWまでの出力に対応しており、仮に30分で20kWh充電できたとすると、航続距離は157km回復する計算となる。最大積載量は、4人乗り仕様が300kg、1人・2人乗り仕様が350kgだ。

「N-VAN e: FUN」のインストゥルメントパネルまわり。インテリアカラーは、e: FUNはベージュ、その他の仕様がグレー。1人乗りおよびタンデムシートの2人乗り仕様では、助手席側ダッシュボードの収納類を撤去し、より大きな室内長を実現している。
「N-VAN e: FUN」のインストゥルメントパネルまわり。インテリアカラーは、e: FUNはベージュ、その他の仕様がグレー。1人乗りおよびタンデムシートの2人乗り仕様では、助手席側ダッシュボードの収納類を撤去し、より大きな室内長を実現している。拡大
シート表皮は「e: FUN」がジャージ、その他のグレードがトリコット。背面は耐久性が高く、汚れに強いPVCレザーとなっている。
シート表皮は「e: FUN」がジャージ、その他のグレードがトリコット。背面は耐久性が高く、汚れに強いPVCレザーとなっている。拡大
4人乗車仕様でも、運転席を除く3座は、ご覧のとおりフラットに格納が可能。ピラーレスドアによる幅1580mmの大開口も自慢だ。
4人乗車仕様でも、運転席を除く3座は、ご覧のとおりフラットに格納が可能。ピラーレスドアによる幅1580mmの大開口も自慢だ。拡大
荷室高は1365mm、荷室幅は1390mm(4人乗車時)、助手席まで倒した際の最大荷室長は2635mmだ。540mmの低いフロア高も特徴となっている。
荷室高は1365mm、荷室幅は1390mm(4人乗車時)、助手席まで倒した際の最大荷室長は2635mmだ。540mmの低いフロア高も特徴となっている。拡大
充電口は普通充電用、急速充電用ともにフロントに配置。ヤマト運輸の意見も参考に、「スライドドアが開いた状態でも充電ができる」「充電中にケーブルが従業員の足に引っかからない」等々の要件から、この場所に落ち着くこととなった。
充電口は普通充電用、急速充電用ともにフロントに配置。ヤマト運輸の意見も参考に、「スライドドアが開いた状態でも充電ができる」「充電中にケーブルが従業員の足に引っかからない」等々の要件から、この場所に落ち着くこととなった。拡大

商用車には商用車の難しさがある

さて、いよいよワクワクの実車見取り&試乗である。外観については基本的にN-VANと共通だが、「e: FUN」グレードに装着されるハーフキャップ付きのスチーフホイールがカッコいい。バンパーの廃材をリサイクルしたという“粒入り模様”のフロントパネルもイカしていて、個人的にはエンジン車のN-VANにも使ってほしいと思った……のだが、エンジニア氏いわく、「若い方には評判なのですが、なかには『安っぽい!』と言われる方もいらっしゃいまして」とのこと。美感は人それぞれである。

いっぽうインテリアは、「軽バンとしては、ちょっと豪華すぎた」というN-VANから大々的につくり変えられている。豪華すぎるからNGというのも変な話だが、こうしたクルマにはこうしたクルマの“あんばい”があり、高見えするのもダメなのだとか。とはいえ、全体に縦ビードの入った内装には、適度に“デザインされた感”があり、これならパーソナルユースでも抵抗はなさそう。ちなみにこのビード、どのぐらいの間隔で、どれぐらいの本数入れるかでデザイナーは苦悩し、夢にまで出てきたとか(笑)。

運転席まわりは、こと4人乗車仕様に関してはフル液晶メーターにオートエアコン、ホンダコネクトナビ、シートヒーター、センターアームレスト、USB Type-A/Type-Cポート……と、まさに至れり尽くせり。意外と小物入れが少ない気もしたが、先述の実証実験に供された結果のこれなので、案外、宅配の現場ではそうした収納は使われないのかもしれない。なお、乗用オーナー&自営業者でモア収納を欲する方も、ホンダアクセスがしこたま用品をそろえているので、ご安心を。

センタークラスターはシフトセレクターがスイッチ化した関係で、空調の操作パネルが右寄りに移動。運転席からちょいと手を伸ばして使いやすくなった。またシフトのバイ・ワイヤ化でクラスター下部もスリムになっており、左右ウオークスルー時の足抜き性が改善。これも商用車としての機能性アップに寄与している……。

とまぁ、こんな風に実車を見ての印象をメモしつつ、自分の試乗枠を待つ。コースは高速道路を模したオーバルを2周、くねくねとしたハンドリング路を2周という限られたものなので、少しも情報を漏らさぬよう、アンテナをおっ立てておかねばなるまい。特に気になるのが、EV化による重量増の影響である。なにせ車重は1060~1140kgと、だいたいにして150kgは重くなっているのだ。

タイヤサイズは145/80R13。EV化によって増した車重を支えるため、またより大型のブレーキを装備するため、エンジン車の「N-VAN」(145/80R12)よりサイズアップしている。
タイヤサイズは145/80R13。EV化によって増した車重を支えるため、またより大型のブレーキを装備するため、エンジン車の「N-VAN」(145/80R12)よりサイズアップしている。拡大
充電口を収めるフロントの装飾パネルには、バンパーのリサイクル素材を採用。通常なら除去される塗膜粉をあえて混ぜることで、独自の風合いを表現しているほか、端にリサイクルマークを記すなど、再生素材を用いていることを積極的にアピールしている点が面白い。
充電口を収めるフロントの装飾パネルには、バンパーのリサイクル素材を採用。通常なら除去される塗膜粉をあえて混ぜることで、独自の風合いを表現しているほか、端にリサイクルマークを記すなど、再生素材を用いていることを積極的にアピールしている点が面白い。拡大
インストゥルメントパネルまわりでは、レバータイプのシフトセレクターを排することで設計を効率化。パーキングブレーキは足踏み式だ。
インストゥルメントパネルまわりでは、レバータイプのシフトセレクターを排することで設計を効率化。パーキングブレーキは足踏み式だ。拡大
ダッシュボードまわりを除くと収納類は控えめな印象だが、そのぶんルーフコンソールにメッシュポケット(写真)、アームレストコンソールにコンビニフック……と、ホンダアクセスが豊富にアクセサリーを用意している。
ダッシュボードまわりを除くと収納類は控えめな印象だが、そのぶんルーフコンソールにメッシュポケット(写真)、アームレストコンソールにコンビニフック……と、ホンダアクセスが豊富にアクセサリーを用意している。拡大
縦ビードの施された専用のインテリアトリムは、強度を保ちつつ素材の肉薄化も実現。エンジニアに「わざわざ設計し直して、コストは大丈夫?」と問うたところ、「肉薄化で材料費を抑えているので、量産効果で取り返せる」とのことだった。
縦ビードの施された専用のインテリアトリムは、強度を保ちつつ素材の肉薄化も実現。エンジニアに「わざわざ設計し直して、コストは大丈夫?」と問うたところ、「肉薄化で材料費を抑えているので、量産効果で取り返せる」とのことだった。拡大

走ればわかるEVの恩恵

試乗では、まずは比較のために用意されたN-VANの自然吸気(NA)モデルを運転した。で、さっそく感嘆した。これでなんの不足もありません。NAなので加速はおっとりしているし、音も「ぐわーん」とにぎやかだが、巡航に至れば走行安定性は抜群。気になる騒音は風切り音が主となり、100km/hでのゆるやかな高速旋回でも、神経質に舵とにらめっこする必要はない。ハンドリング路でもその印象は良好で、たとえば旋回時のロールは大きめだが穏やか。凹凸やうねりを越えた際の上下動もたおやかだ。荷物にも、ドライバーのお尻にも優しいクルマとお見受けした。

このよさがEV版にもあるといいな、と思いつつN-VAN e:に乗り換える。グレードは乗用を想定した64PS仕様の「e: L4」で、一番に感じたのはやはり重量……ではなく、モーターとエンジンの加速の違いだった。体感だと2倍、3倍はe:のほうがパワフルで、目算だが80km/h、100km/hに到達するまでの距離も段違いに短い。比較対象のN-VANがNAだったこともあるが、仮にピークパワーが同じターボ車が相手だったとしても、これならe:に軍配だろう。パワートレインの音も静かで、乗員の気疲れを誘う“頑張ってますよ感”も皆無。この加速・高速巡航時の安楽さは、EVならではだ。ちなみに、こうした場面での静かさには床下の電池も一役買っているとのこと。ゴツいバッテリーモジュールがロードノイズを抑制してくれるのだ。

加えて感じたのが操舵感の違いで、e:のほうが据わりがよく、操舵後の“返り”もちょっと強い印象だった。思わずエンジニア氏に「パワステ替えてます?」と聞いてしまったが、もちろんそんなことはなく、重量増に合わせてセッティングを変えただけとのこと。後はサイズアップしたタイヤの影響なんかもあるのだろう。個人的にはこちらのほうが好ましいし、このくらいの手応えのほうが疲れも少なそうだけど、街なかで年がら年中ハンドルをぐるぐる回す配送ドライバーとしては、どっちがありがたいのだろう? 当事者たる彼らの意見を、ちょっと聞いてみたくなった。

試乗は「オーバルは100km/hまで、ハンドリング路はストレートで80km/hまで」という制約のもとに行われたが、その車速域では「N-VAN e:」は余裕しゃくしゃく。助手席のエンジニア氏いわく「125km/hでも走行は安定している。唯一の敵は、やっぱり横風」とのことだ。
試乗は「オーバルは100km/hまで、ハンドリング路はストレートで80km/hまで」という制約のもとに行われたが、その車速域では「N-VAN e:」は余裕しゃくしゃく。助手席のエンジニア氏いわく「125km/hでも走行は安定している。唯一の敵は、やっぱり横風」とのことだ。拡大
フロントに搭載されるモーターは、軽のターボ車を優に超える162N・mの最大トルクを発生。エンジン車より重いクルマ(N-VAN<FF車>が930~970kg、N-VAN eが1060~1140kg)をスムーズに加速させる。
フロントに搭載されるモーターは、軽のターボ車を優に超える162N・mの最大トルクを発生。エンジン車より重いクルマ(N-VAN<FF車>が930~970kg、N-VAN eが1060~1140kg)をスムーズに加速させる。拡大
「e: FUN」と「e: L4」に備わる7インチの液晶メーター。「『ECON』をオンにしたら航続距離が何km延びて、エアコンをオフにしたらさらに何km延びる」といった計算もしてくれる。
「e: FUN」と「e: L4」に備わる7インチの液晶メーター。「『ECON』をオンにしたら航続距離が何km延びて、エアコンをオフにしたらさらに何km延びる」といった計算もしてくれる。拡大
摩擦ブレーキには油圧ではなく電動のサーボを採用しており、より多くのエネルギーを回生することで航続距離の拡大に寄与。ブレーキサイズのアップにより、エンジン車と同等の耐フェード性能も実現している。
摩擦ブレーキには油圧ではなく電動のサーボを採用しており、より多くのエネルギーを回生することで航続距離の拡大に寄与。ブレーキサイズのアップにより、エンジン車と同等の耐フェード性能も実現している。拡大

電動化で広がる自動車の可能性

前述のとおり、加速や高速走行ではパワーが勝るN-VAN e:だが、ハンドリング路の走行では、さすがに重さが顔を出す。操舵感や足腰のしっかり感ではこちらのほうが上手だが、旋回時にはエンジン車より少し強めにアンダーステアが出、うねりを越えた際の上下動も……なんと申しますか、なんだかちょっと“路面追従性が高い”感覚なのだ。いいクルマ指数はアップしたが、荷物への優しさ指数でいうと、エンジン車が100だとしたらこちらは98、といった感じだ(もちろん、クルマ単体で見れば十分以上の包容力ですが)。

また荷物への優しさといえば、あえてなましたという加速制御は言われなければ気づかぬ程度で、特段じれったくは感じなかった。確かに走り出しの勢いは抑えられているが、こうした制御はよそのEVでもやっていること。それらと比べてなおトロいという印象はない。そもそもエンジン車と比べれば、吸気に燃料噴射、爆発、変速……といった各種手続きがないぶん、確実に動き出しは早い。N-VAN e:のパワートレインは、ストップ&ゴーを繰り返す配送ドライバーのストレスを、大いに軽減してくれることだろう。

以上が、N-VAN e:のプチ試乗で感じた記者のインプレッションである。途中で「……軽バンの購入検討者って、試乗記なんかに興味あるのかな??」などと悲しいことに思い至ったが、たとえ当記事を読まずに買われても(泣)、オーナー/ドライバーを不幸にしないだけの快適性とドライバビリティーを、N-VAN e:は備えていたと思う(まだ公道で試せていないので、断定は避けます)。

で、試乗を終え、あらためて「お花屋さん仕様」のN-VAN e:を見て考えた。近所の公園やショッピングモールに、このクルマのアイスクリーム屋さんが来てたりしたら、結構ステキだな。

内燃機と化石燃料を愛する記者ゆえ(参照)エンジン車を否定するつもりはないが、稼働時に排ガスと騒音を放つモビリティーでは立ち入れない空間・時間が、世のなかには確かにある。この小さな箱型EVが、そうした、既存のモビリティーでは手が届かなかったすき間を埋め、自動車の可能性をより広げてくれる存在となるのなら、それは素晴らしいことではないか。

ひょっとしたらN-VAN e:って、すごくホンダらしい製品なのかもしれない。

(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)

「N-VAN e:」のオーナーには、リモート充電・給電をサポートする「Honda CONNECT」のサービスを無償・期間無制限で提供。新機能として、充電時のブレーカー落ちなどを予防する「最大電流量設定」などが採用された。
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駆動用バッテリーの電気は、ソケットやコネクターに加え、AC車外給電用コネクター(写真)を使えば、充電口からも取り出しが可能。“使いすぎ”が起きないよう、「Honda CONNECT」のアプリでは外部給電の下限SOC(充電率)も設定できるようになっている。
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上級モデルの液晶メーターには、ちょっとおもしろいエンタメ機能も。カレンダーを起動すると、ランダムで国内100カ所の観光地の画像が表示されるのだ。ちなみに当記事の取材日は夏の8月だが、このとき表示されたのは、雪に覆われた冬の函館だった。
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カーデザイナーが描いたという、ショッピングモールでのマルシェの様子。消防法により、エンジン車を屋内に乗り入れることは実質不可能となっているが、EVではそれができるのだ。
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「パーソナルユースにも使える、軽ワンボックスのEV」というクルマが、どれほどの可能性を持っているのか。「N-VAN e:」は、いろいろと期待を膨らませられる一台だった。
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ホンダN-VAN e: L4
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ホンダN-VAN e: L4 プロトタイプ(FWD)【試乗記】の画像拡大
 
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テスト車のデータ

ホンダN-VAN e: L4

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1960mm
ホイールベース:2520mm
車重:1130kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:64PS(47kW)
最大トルク:162N・m(16.5kgf・m)
タイヤ:(前)145/80R13 82/80N LT/(後)145/80R13 82/80N LT(ヨコハマ・ブルーアース バンRY55)
一充電走行距離:245km(WLTCモード)
交流電力量消費率:127Wh/km(WLTCモード)
価格:269万9400円/テスト車=--万円
オプション装備:--

テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:1062km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

 
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堀田 剛資

堀田 剛資

猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。

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