ホンダ・フリード クロスター(FF/CVT)
これはこれでちょうどいい 2024.08.31 試乗記 目の前にある試乗車は新型「ホンダ・フリード クロスター」の非ハイブリッドモデルのFF車、さらに5人乗り。これぞクロスターの最廉価モデルである。そこらがガタピシいうようなことはないはずだが、念のためワインディングロードでその実力を検証した。戸惑うほど豊富なバリエーション
ユーザーの用途に合わせて以前から豊富なモデルバリエーションをそろえているのがコンパクトミニバンのフリードの特徴。2024年6月にフルモデルチェンジした新型フリード(3代目)も同様だ。何しろ本来この役目を担うべき「フィット」よりも売れている、ホンダ登録車のベストセラーの座を常に「ヴェゼル」と争う大黒柱である。
おさらいするとボディースタイルは標準ラインの「エアー」とアウトドア風味のクロスターに大別され、パワートレインは基本的にモーター走行を優先させるシリーズハイブリッドの「e:HEV」と1.5リッター4気筒純ガソリンエンジンの二本立てで、それぞれにFWDと4WD車があり、さらに2列シートの5人乗り、3列シートで6人乗り/7人乗り仕様が設定されているという具合である。今のところは圧倒的にe:HEVモデルの人気が高く(8割以上という)、ボディータイプもエアーが6割超と聞くが、今回の試乗車は純ガソリンのクロスターのFWD、2列シートの5人乗り仕様という“非主流派”である。
ちなみにクロスターはホイールアーチにSUVのようなクラッディングが備わるために全幅が1720mmとなる(標準型のエアー+25mm)。よって3ナンバー登録となるが、今では心理的なハードル以外にデメリットはない、との判断なのかもしれない。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
いわば車中泊仕様
純ガソリンのクロスター、しかも5人乗りとはかなり“外し”というかマイナーな選択かもしれないが、これでしか手に入らない機能もある。「フリード+」と名乗っていた2列5人乗りの従来型から引き継いだユニークな特徴は荷室床面が超低床タイプであること。荷室中央が低く掘られた部分には車いすがぴったり収まるようにつくられており、別立てで「クロスター スロープ」(FWDのみ)というモデルも設定されている。クロスター5人乗りはそのベースとなる車型である。
テールゲートはバンパーガーニッシュに見える低い部分もろともガバリと開くのでちょっとびっくりするが、この超低フロア+ロングテールゲートはクロスターのFWDにのみ設定されている(4WDは若干だがフロアが高い)。さらにユーティリティーボードを上に載せて、ダブルフォールディング式(6:4の分割式)の2列目シートの座面クッション部分を前方にはね上げて、そこにバックレストを倒し込み、後方の荷室部分との間に隙間を埋めるボード(バックレストの裏にある)を渡すことでほぼフラットな床面をつくることができる(ボードの段差はほんの少し残る)。フロントシートを前に出してバックレストも前傾させれば身長180cmぐらいの大人でも足を伸ばして横になれるほどのスペースである。これを目当てに5人乗りを指名買いする人もなるほどいるはずだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
飛び道具なしでも扱いやすい
ただし、この2列目のベンチシートは、おそらくダブルフォールディングした場合にフラットな床面を生み出すことを重視したせいで、シートとしての機能にはちょっと不都合がある。床面とシート座面との高さ(ヒール段差)が十分ではなく、ちょこんとお尻を載せて膝を抱えるような、いわゆる体育座りに近い姿勢を強いられるのだ。近場なら気にならないかもしれないし、レッグルームはもちろん余裕があるので姿勢をあちこち動かしながら座ればロングドライブでも大丈夫という人もいるだろうが、私はちょっと自信がない。フラットフロアのために座り心地を犠牲にするのはやはり本末転倒のような気がする。購入の前にぜひ確認してほしい点である。
エンジンはすでにフィットやヴェゼル、さらに「WR-V」に搭載されているものと同じ、シンプルな自然吸気1.5リッター4気筒(最高出力118PS/6600rpm、最大トルク142N・m/4300rpm)だ。従来の直噴式からポート噴射式に戻され、アイドリングストップ機能さえ備わらない“飛び道具”なしの簡潔なパワーユニットだが、実際には不足がないどころか、むしろすがすがしささえ感じるエンジンだ。
特にパワフルでもないし、目いっぱい回せばそれなりにやかましくもなるが、改良を積み重ねてきたCVTとのマッチングも上々で、実用域では静かで軽快で扱いやすい実直なユニットだ。とはいえ、いつもの東京~伊豆往復試乗の平均燃費で11~12km/リッターという数字は今どきちょっと物足りない(WLTCモード燃費は16.4km/リッター)。もちろん無鉛レギュラー仕様ではあるものの、同じクロスターのFWD・5人乗りでもe:HEVが25.5km/リッター(WLTCモード)と聞くと、あらためて考え込む人もいるのではないだろうか。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
しっかりしなやか、がうれしい
アップダウンのきつい山道では正直もう少しパワーが欲しいと思わないこともないが、それを埋め合わせて余りあるのがしなやかに動く足まわりだ。かつてのホンダ車といえば硬く低くロールしない、いわばゴーカートフィーリングを身上としていたものだが、新しいフリードはフィット同様、しなやかにロールしながら接地感もたっぷり、しかも開口部の大きいミニバンでありながら、不整路でも音を上げないたくましさも併せ持っているようだ。
やや非力なエンジンを目いっぱい励まして山道を走っていると、知らずにペースが上がる。なるほど先に試乗した皆さんが言うように、かつてのルノーやプジョーなどをほうふつとさせるものがある。いやらしいゼブラ舗装が施された下り坂のコーナーに向けて、ブレーキングしながらステアリングを切り込むような状況でもまったく不安感はなく、どこまでいけるか試したくなるほど頼もしい。フリードファミリーのなかでは軽い車重(1400kg。e:HEVの同仕様は1480kg)も効いているはずだ。高速道路でのスタビリティーも高レベルであり、このようなダイナミックな性能がライバルの「シエンタ」に対するアドバンテージだと思う。使い方がはっきり見えている方には、ぴったりはまるのがクロスター5人乗りである。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・フリード クロスター
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4310×1720×1755mm
ホイールベース:2740mm
車重:1400kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:118PS(87kW)/6600rpm
最大トルク:142N・m(14.5kgf・m)/4300rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
燃費:16.4km/リッター
価格:281万2700円/テスト車:320万3200円
オプション装備:ボディーカラー<トワイライトミストブラックパール>(3万8500円) ※以下、販売店オプション Honda CONNECTナビ9インチ(20万2400円)/ナビ取り付けアタッチメント(9900円)/ナビフェイスパネルキット(5500円)/ETC2.0車載器(1万9800円)/ETC取り付けアタッチメント(8800円)/フロアカーペットマット(3万8500円)/ドライブレコーダー3カメラ(6万7100円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2001km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:384.6km
使用燃料:34.3リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.2km/リッター(満タン法)/11.6km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
NEW
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】
2025.12.1試乗記ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。 -
NEW
あんなこともありました! 2025年の自動車業界で覚えておくべき3つのこと
2025.12.1デイリーコラム2025年を振り返ってみると、自動車業界にはどんなトピックがあったのか? 過去、そして未来を見据えた際に、クルマ好きならずとも記憶にとどめておきたい3つのことがらについて、世良耕太が解説する。 -
NEW
第324回:カーマニアの愛されキャラ
2025.12.1カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。マイナーチェンジした「スズキ・クロスビー」が気になる。ちっちゃくて視点が高めで、ひねりもハズシ感もある個性的なキャラは、われわれ中高年カーマニアにぴったりではないか。夜の首都高に連れ出し、その走りを確かめた。 -
NEW
フェンダーミラーがなつかしい 日本の名車特集
2025.12.1日刊!名車列伝一年を振り返る月にふさわしく(?)、12月はクルマの後方視界を得るためのミラーをフィーチャー。フェンダーミラーが似合っていた、懐かしい日本車を日替わりで紹介します。 -
アウディRS 3スポーツバック(前編)
2025.11.30ミスター・スバル 辰己英治の目利き最高出力400PS、最大トルク500N・mのアウトプットをフルタイム4WDで御す! アウディの豪速コンパクト「RS 3」を、ミスター・スバルこと辰己英治が試す。あまたのハイパフォーマンス四駆を手がけてきた彼の目に、このマシンはどう映るのか? -
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.11.29試乗記「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。

























































