ホンダN-BOXジョイ 開発者インタビュー
ちょっとのんびりしませんか? 2024.09.19 試乗記 ホンダが誇る軽ハイトワゴンのベストセラー「N-BOX」シリーズに、第3のモデル「N-BOXジョイ」が登場! 最近はやりのアクティブ系かと思いきや、“気軽さ”と“くつろぎ”を大事にした、独自路線の一台に仕上がっていた。開発の経緯を、関係者に聞いてみよう。本田技研工業
四輪事業本部
四輪開発センター LPL室
LPL チーフエンジニア
諫山博之(いさやま ひろゆき)さん
本田技術研究所 デザインセンター
e-モビリティデザイン開発室
テクニカルデザインスタジオ
デザイナー,CMF
松村美月(まつむら みづき)さん
本田技術研究所 デザインセンター
e-モビリティデザイン開発室
e-UXデザインスタジオ
パッケージデザイナー
飯泉麻衣(いいずみ まい)さん
本田技術研究所 デザインセンター
オートモービルデザイン開発室
プロダクトデザインスタジオ
スタッフエンジニア デザイナー
小向貴大(こむかい たかひろ)さん
一杯食わされた!
――スーパーハイトワゴンが売れるので、他社ではSUV風味をまぶしたモデルを出しています。そういうものが必要という考えはありますか?
諫山博之さん(以下、諫山):それはそれで市場の声としてありますので、どうしようかという話は当然しています。まあ、検討させていただいていますということで(笑)。
……これは、2023年のN-BOXフルモデルチェンジの際に、LPL(ラージプロジェクトリーダー)の諫山博之さんにインタビューした際のやり取りだ(参照)。「スズキ・スペーシア ギア」「ダイハツ・タント ファンクロス」「三菱デリカミニ」と、他社がSUVテイストの軽スーパーハイトワゴンを発売して好成績を上げていた時期である。ホンダも後追いで同様のモデルを投入するのではないかと取り沙汰されていた。直球の質問はサラリと受け流されてしまったが、この時にはすでに「N-BOXジョイ」のコンセプトは決まっていたのだ。
まんまと一杯食わされた身としては、諫山さんにまた話を聞かねばならない。N-BOXジョイの事前説明会で疑問をぶつけてみた。
――他社とは違うものを出してきましたね。確かにSUVテイストではありませんが……。
諫山:1年前は話せなかったんですよ。実は、3代目N-BOX開発の最初から3台セットで考えていました。標準車とカスタムを出したとき、報道資料などに“N”の文字で構成された日本地図を載せていて、そこで黒・水色・ベージュの3色を使っていたんです。まあ、わかりませんよね(笑)。
――すでにヒントは示されていたんですね。3つ目のモデルが必要という認識は、当初からあったわけですか?
諫山:N-BOXの保有台数は256万台で、世にあふれています。「乗り換えるときに違うのが欲しいよね」という声は聞こえていました。
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チェック柄のシャツとピアス
――他社のようなSUVっぽい外観を持つモデルも検討したんですか?
諫山:そうですね。ただ、調べてみると皆さんあまりキャンプに出かけたりはしていないんです。アウトドアブームは下火になってきていて、それより「河原や公園でリラックスしたい」という気分が広がっています。
――価格的には「WR-V」とかぶってきそうですが……。
諫山:……(笑)。値段は競合しても、役割はまったく違います。ジョイは通常のN-BOXと同じ使い方ができるのが強みです。自転車を積めますからね。趣味性とファミリー用途を両立させていて、アウトドアとインドアの中間という感じです。
試乗会ではなく事前説明会だったのは、パワートレインや足まわりなどのメカニズムに関してはまったく変更がないから。悪路向けに最低地上高を変えることもしていない。撮影に先立つ技術説明会では、デザインや内装についてのプレゼンテーションが行われた。7人の登壇者のうち、3人が女性だったのは異例なこと。いつもは“おじさんの詰め合わせ”なので、新鮮な驚きがあった。
インテリアとCMFデザインを担当したのは松村美月さん。CMFとはCOLOR(色)・MATERIAL(素材)・FINISH(仕上げ)のことで、五感を通じて製品の魅力を伝える重要な役割を持つ。N-BOXジョイにとっては優先順位の高いポイントである。
――シャツの襟がジョイに使われているものと同じチェック柄なんですね。あ、ピアスも?
松村美月さん(以下、松村):社内のデザインチームでつくった非売品です。男性スタッフがつけていたちょうネクタイも、同じ素材ですよ。
――内装がチェックなのがジョイのわかりやすい特徴ですよね。初めからチェックに決めていたんですか。
松村:N-BOXには広い空間があるので、もっと有効活用できないかと考えました。後部座席を倒して乗り込んでみようということになったんですが、黒い空間だとドナドナされている感覚に(笑)。それで市販のチェック柄の布を買ってきて敷いてみたらワクワク楽しい気持ちになって。毎回敷くのは煩わしいので、そのまま内装に使ってしまおうということになったんです。
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アウトドアより“お外遊び”
松村:明るすぎるとカジュアルになってしまうので、抑える方法を模索しました。実はこれ、よく見るとただのベージュじゃないんですよ。ルーペを使ってください。
――ブルーとオレンジのラインが入っています!
松村:この2つは補色関係なので、混ぜるとグレートーンになります。レイヤーっぽくして、ワンちゃんの毛がついても気にならないようにしました。そして、Nシリーズとしては初めてのはっ水表皮なんです。ほら、こうして……(ボトルに入った水をこぼす)。ハジくんですよ、ピャーッと。水滴がコロコロしても拭き取れば大丈夫。
――アウトドアガチ勢だとモスグリーンかカーキのイメージですが、チェック柄だと優しい印象になりますね。
松村:“お外遊び”ぐらいの感じです。アウトドア用のギアを持っていくというより、ちょっとしたテーブルとかを積んで。いい感じの公園を見つけてランチにすれば、コンビニで買ったサンドイッチでもおいしくなるような空間なんです。
――チェック柄の範囲をどこまで広げるかについては試行錯誤があったんですか?
松村:まずは後部座席を倒した空間から始まりました。その次はシート。中身は他のN-BOXのものと同じですが、フロントがカスタム用でリアがノーマル用なんですよ。フロントに関してはパリッとしたものにしたかったので、“仕立てられている”感じのするカスタムのものが合うと思いました。ただ、リアもカスタム用にすると、中央の小さな四角い部分にしかチェックを入れられないので、もったいないじゃないですか。横にズドーンとメイン材が通っていて、ソファみたいな感じになるノーマルのシートがこのコに合うと思いました。チェックの表皮は質の高いものなので、手で触れられる部分に張り込んだんです。
パッケージデザインを担当したのは飯泉麻衣さん。もちろんチェック襟のシャツを着用し、ベージュのパンツを合わせてトータルコーディネートしている。
――ノーマルやカスタムと構造は同じですから、パッケージを変えるといっても制約がありますよね。
飯泉麻衣さん(以下、飯泉):N-BOXジョイはDINKS(共働きで子どもを持たない夫婦)と子離れ層がターゲットなんです。ノーマルやカスタムは子育て層が中心ですから、広い空間をのんびり過ごせる場所にできるようにしました。後席を倒すとゆったり座れる「ふらっとテラス」が現れます。
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中はゆるさ、外は安心感
――寝っ転がったりはしないんですね。
飯泉:車中泊するとかは考えていません。シートの裏にプレートを入れていて、フロア後端を80mm上げています。それで座り心地がいいんですよ。フロアアンダーボックスが広くなっているので、折りたたみのテーブルや椅子を入れられるようにもなっています。
――「ジョイ」という名前はこのクルマにぴったりですが、よく残っていましたね。登録されて使えなくなっていてもおかしくない気がしますが……。
飯泉:1980年代にホンダから「ジョイ」という名前のスクーターが発売されていたんですよ。正式名称になる前から、スタッフの間では“Nジョイ”って呼んでいました。エンジョイ、って感じで(笑)。
エクステリアも内装と調和したデザインになっている。SUV感が薄く、やはりアウトドア志向ではない。小向貴大さんにデザインの意図を聞いた。
小向貴大さん(以下、小向):SUVのようなものが欲しいという声もありました。でも、N-BOXの信念は、日常に寄り添う、というもの。ジョイも日常の延長として、ゆるい気軽なアウトドアを楽しんでほしいんです。
――樹脂素材を抑えめにしたのは、タフさを強調したくなかったからですか?
小向:いろいろ試してみたんですが、樹脂を多くすると商用車っぽく見えてしまいます。汚れても気にならないようにロアまわりには樹脂を使っていて、機能的には十分です。
――フロントまわりも極端には変えていませんね。
小向:アッパーグリルは完全に新規なんですよ。ただ、寸法的にはベース車の段階ですでに軽自動車の枠を使い切っているので、外側に足すことはできない。真ん中をへこませることで立体感と強さ感を出しました。ヘッドライトも専用で、カメラのような精緻さを表現するためにアルミ蒸着をかけています。内装はゆるさを演出していて、外装では安心感を見せるようにしました。
トレンドに乗ってSUV風に仕立てておけば誰も文句を言わないし、そこそこ売れたはずである。それなのに、安全策をとらずスーパーハイトワゴンの新たな可能性を追求しているわけだ。他社のマネをよしとせず、独自路線でさらにアドバンテージを築こうとしている。N-BOXが“絶対王者”であり続けている理由の一端を見せつけられたような気がした。
(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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