クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

ホンダN-BOX/N-BOXカスタム 開発者インタビュー

勝利のカギは“総合力” 2023.10.09 試乗記 鈴木 真人 本田技研工業
四輪事業本部
四輪開発センター LPL室
LPL チーフエンジニア
諫山博之(いさやま ひろゆき)さん

本田技研工業
パワーユニット開発統括部
パワーユニット開発一部 パワーユニット開発管理課
チーフエンジニア
秋山佳寛(あきやま よしひろ)さん

本田技研工業
統合地域本部 日本統括部
商品ブランド部 商品企画課
チーフ
廣瀬紀仁(ひろせ のりひと)さん

今やホンダの根幹を担う「N-BOX」。日本で人気No.1の軽スーパーハイトワゴンというジャンルで絶対王者の座にあり、フルモデルチェンジは失敗が許されない。大きなプレッシャーのなかで3代目モデルを開発したエンジニアに、新型の狙いと意義について聞いた。
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

見据えたのは2030年

――今回は、従来型と新型の比較試乗をさせてもらったのですが、最初に従来車に乗って、「変えなくてもいいんじゃないの?」って思いました。でも、新型に乗ったら、やっぱり違うんですね。

諫山博之さん(以下、諫山):わかっていただけましたか(笑)。

――2代目はプラットフォームとエンジンを一新しましたよね。今回はどちらも据え置き。過酷な条件を押し付けられて、「上から嫌われている!」と思いませんでしたか?

諫山:いえいえ、そんなことは(笑)。従来車はトランスミッションも新しくなっていて、フルで刷新されたクルマでした。N-BOXを国民車に育てるんだ、という思いのもとで決断したんですね。パワートレインも足まわりも、基本的にはやり切ったクルマだと思っていますが、新型ではなおここから5年後、さらには2030年ぐらいまでを狙ったうえで、われわれがどこまでできるのか? そういうことをゼロベースで議論するところから開発をスタートしました。

――ホンダの電動化戦略のなかで、次のN-BOXはガソリンエンジン車ではなくなる可能性が高そうに思えます。だから今回はこのままで……ということになったんでしょうか?

秋山佳寛さん(以下、秋山):いや、それはちょっと違います。電動化を見据えてこうしたということではないです。(従来型で)いいプラットフォーム、パワートレインをつくれたので、「今回は変えるタイミングではないよね」というシンプルな理由ですね。

群雄割拠の軽スーパーハイトワゴン市場で、不動の人気を誇る「ホンダN-BOX」。販売ランキングを見ると、2015年度から8年連続で軽自動車No.1を達成。登録車を含むすべてのモデルで見ても、2021年度、2022年度と2年連続でNo.1に輝いている。写真は「N-BOXカスタム」。
群雄割拠の軽スーパーハイトワゴン市場で、不動の人気を誇る「ホンダN-BOX」。販売ランキングを見ると、2015年度から8年連続で軽自動車No.1を達成。登録車を含むすべてのモデルで見ても、2021年度、2022年度と2年連続でNo.1に輝いている。写真は「N-BOXカスタム」。拡大
今回のインタビューは、ホンダの栃木プルービンググラウンドで行われた新型「N-BOX」の試乗会で実施。同イベントでは、従来型と新型を比較試乗する機会が設けられていた。
今回のインタビューは、ホンダの栃木プルービンググラウンドで行われた新型「N-BOX」の試乗会で実施。同イベントでは、従来型と新型を比較試乗する機会が設けられていた。拡大
<諫山博之さんプロフィール> 
1989年本田技研工業入社。1992年に本田技術研究所に転籍し、初代「オデッセイ」「ライフ」「インテグラ」等のインテリア設計に従事。2008年にアジア専用モデルの初代「ブリオ」のインテリア設計プロジェクトリーダー(PL)を務め、2017年にアジア市場をターゲットとする2代目「BR-V」の開発責任者代行(設計領域)に就任。現在は新型「N-BOX」の開発責任者(LPL)を務めている。
<諫山博之さんプロフィール> 
	1989年本田技研工業入社。1992年に本田技術研究所に転籍し、初代「オデッセイ」「ライフ」「インテグラ」等のインテリア設計に従事。2008年にアジア専用モデルの初代「ブリオ」のインテリア設計プロジェクトリーダー(PL)を務め、2017年にアジア市場をターゲットとする2代目「BR-V」の開発責任者代行(設計領域)に就任。現在は新型「N-BOX」の開発責任者(LPL)を務めている。拡大
ホンダ の中古車webCG中古車検索

飛び道具には頼らない

――ボディーの形状もほとんど同じですね。

秋山:そうですね。初代からずっとN-BOXの形は変えてないんですよ、そんなに。変えちゃいけないという認識です。

――ホンダは初代がよくて2代目もよくて、3代目で思い切って変えたらエラいことになったという嫌な思い出が……。

秋山:(笑)。飛び道具に走って失敗したというケースもありますね。ただ、「N-BOXはそういうクルマじゃないよね」と思っていますから。いろいろなお客さまが、このクルマのよさを理解しているので、そこは守らなきゃいけない。

――技術説明会の話を聞いていても、「ああ、ここがよくなったんだ、まあそうだよね」という感じで。驚くようなアピール点がなくて、正直に言うと、ちょっと眠くなりました……。

諫山:飛び道具がないので(笑)。現行車がすでに王者になっているので、大事なのはその地位を守り切ることと考えました。われわれは総合力と言っているんですが、パッケージのよさとか静粛性とかは現行でも上回っているので、「それをさらに引き上げる方向にしようぜ」ということで開発しました。なにかをやめてなにかをよくするという考え方ではなかったわけです。

――むやみに変えないことが、高い総合力につながるいうことですか?

諫山:例えばですよ、センターピラーレスとか、やろうと思えばできるんですが、失うものもあるんです。それで困る人もかなりいる。一つひとつをチェックして、「これは守らなきゃいけない、ここはもっとやろうぜ」と仕分けていきました。

従来型(写真向かって左)と新型(同右)の2台の「N-BOX」。3代目となる新型では、車両のプラットフォームやパワートレインを、従来型からキャリーオーバーしている。
従来型(写真向かって左)と新型(同右)の2台の「N-BOX」。3代目となる新型では、車両のプラットフォームやパワートレインを、従来型からキャリーオーバーしている。拡大
パワートレインの開発に携わった秋山佳寛さん。新型「N-BOX」ではエンジンの制御を見直すことで、より洗練された加減速を追求。若干ながら燃費も改善している。
パワートレインの開発に携わった秋山佳寛さん。新型「N-BOX」ではエンジンの制御を見直すことで、より洗練された加減速を追求。若干ながら燃費も改善している。拡大
秋山氏は「飛び道具はない」というが、実際には「N-BOX」には、センタータンクレイアウトというライバルにはまねできない飛び道具がある。そのレイアウトがかなえるパッケージのよさこそが、「N-BOX」の強みなのだろう。
秋山氏は「飛び道具はない」というが、実際には「N-BOX」には、センタータンクレイアウトというライバルにはまねできない飛び道具がある。そのレイアウトがかなえるパッケージのよさこそが、「N-BOX」の強みなのだろう。拡大
現行型でもユーザーから高い支持を得ている「N-BOX」ゆえ、ホンダはそこから劇的になにかを変えるのではなく、その長所をさらに伸ばしていく方向で新型の開発を進めたという。
現行型でもユーザーから高い支持を得ている「N-BOX」ゆえ、ホンダはそこから劇的になにかを変えるのではなく、その長所をさらに伸ばしていく方向で新型の開発を進めたという。拡大

気を緩めればすぐに抜かれる

――3年ほど前に「N-BOXが売れているのはなぜか」という記事を書いたんですが、いくら調べてもよくわかりませんでした。

秋山:「iPhone」なんかは市場占有率が50%を超えているようなレベルですが、なぜ売れているのかというと、もともとのプラットフォームがちゃんとしっかりしているからですよね。手になじむ。これを使っておけば困らない。やっぱり基本となる骨格がしっかりしていることが大事というのは、われわれも認識しています。

――取りあえず“N”を買っておけばいい、という安心感というかブランド力があることは確かですよね。

秋山:トップを走るというのはあまり楽ではないんです。どこまで行けばいいのかわからないし、ちょっと気を緩めればいつでも抜かれる立場にいて、立ち位置的にはいつも不安を抱えている。ただそのうえで、お客さまに選んでいただける商品にできるかは、基本の骨格、使い勝手がお客さまに寄り添えているかが大切だと思っているんです。コア価値が受け入れられているから、そこをボトムアップすることがいいことなんじゃないかな、ということを議論しながらやりました。

――N-BOXが売れているのは素晴らしいけれど、ちょっと突出していますよね。会社としてはNファミリーの各車が平均的に売れるほうがうれしいような気がします。

秋山:それはホンダだけではないんですよ。他社さんも一緒で、「N-WGN」の競合も実は販売が下がっているんです。それだけスーパーハイトワゴンが伸びているんですね。

――スーパーハイトワゴンが売れるので、他社ではSUV風味をまぶしたモデルを出しています。そういうものが必要という考えはありますか?

諫山:それはそれで市場の声としてありますので、どうしようかという話は当然しています。まあ、検討させていただいていますということで(笑)。

「N-BOX」の強みを“総合力”と語る開発メンバー。その根底には、しっかりとしたプラットフォームや合理的なパッケージなど、基本となるクルマのつくりがしっかりしていることがあるようだ。
「N-BOX」の強みを“総合力”と語る開発メンバー。その根底には、しっかりとしたプラットフォームや合理的なパッケージなど、基本となるクルマのつくりがしっかりしていることがあるようだ。拡大
かつて軽のサブブランド「Nスタイル+」旗揚げの際に語られた話によると、一度“N”シリーズの軽乗用車を購入すると、モデルは違えど次もNの軽を買う顧客が多いのだという。ホンダのNシリーズは、すでにロイヤルティーの高い顧客を多く抱えているのだ。
かつて軽のサブブランド「Nスタイル+」旗揚げの際に語られた話によると、一度“N”シリーズの軽乗用車を購入すると、モデルは違えど次もNの軽を買う顧客が多いのだという。ホンダのNシリーズは、すでにロイヤルティーの高い顧客を多く抱えているのだ。拡大
劇的な変化はないとされる新型「N-BOX」だが、乗り心地や操縦性の改善に加え、先進運転支援システムの性能向上、収納スペースの拡充等々、進化のポイントは挙げればきりがないほど多い。通信モジュールの搭載により、コネクテッドサービスに対応した点も大きなトピックだ。
劇的な変化はないとされる新型「N-BOX」だが、乗り心地や操縦性の改善に加え、先進運転支援システムの性能向上、収納スペースの拡充等々、進化のポイントは挙げればきりがないほど多い。通信モジュールの搭載により、コネクテッドサービスに対応した点も大きなトピックだ。拡大
ライバルの間では、SUVテイストをまぶした派生モデルの設定がトレンドとなっているが、現状、新型「N-BOX」の設定は、これまでと同じく標準モデルと「カスタム」のみとなっている。
ライバルの間では、SUVテイストをまぶした派生モデルの設定がトレンドとなっているが、現状、新型「N-BOX」の設定は、これまでと同じく標準モデルと「カスタム」のみとなっている。拡大

このクルマは“国民車”なので……

――エクステリアがほぼ同じといっても、テイストは変わっていますね。「フィット」や「ステップワゴン」と同様に、フラットでシンプルな印象です。ただ、市場では必ずしも受け入れられていないように見えますが、N-BOXは大丈夫でしょうか。

諫山:大丈夫です! これからわれわれが売るクルマ、2030年まで売るクルマとしてデザイナーと話しながら、今後のデザインはどうあるべきかを軸に選んでいます。

廣瀬紀仁さん(以下、廣瀬):デザイン領域は、トレンドをつかむか、今の足もとの調査結果をつかむかでも違ってきます。向こう数年間は売り続けるので、デザインも「気づいたら時代遅れになっていた」ではいけないでしょう。加えてN-BOXは、以前のN-BOXから乗り継がれるお客さまが非常に多いので、そういう人たちから「N-BOXじゃないじゃん」と言われるのも、「変わってないじゃん」と言われるのも困るのが難しいところです。

――デザイン関連だと、標準モデルに「ファッションスタイル」という新グレードができましたね。なかなか人気が出そうに思うのですが、本革巻きステアリングホイールやターボエンジンの設定はないのですか?

廣瀬:それをすると価格帯がカスタムに近づいてしまうので……。われわれとしてもさまざまな選択肢を用意したいのですが、生産の効率やラインの問題を考えると、バリエーションを増やすだけでコストが上がってしまう。売価が上がることは果たしていいことなのか。やはり、このクルマは“国民車”ですから。

――ありがとうございます(笑)。乗った感じ、一番感心したのは乗り心地でした。今日の試乗コースにはわざとデコボコにした場所もありましたが、走ってみると現行車と比べて明らかに衝撃が緩和されていました。プラットフォームが同じなのに、どうやって改良したんですか?

秋山:いろいろやりました! 後部座席のシートの硬さを変えたことで、かなり改善したと思います。もちろん、サスペンションも、NV(騒音・振動)も。いろいろやったとしか言いようがない(笑)。飛び道具はなくても、総合力を上げることができたと思います。

(文=鈴木真人/写真=本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)

◇◆こちらの記事も読まれています◆◇

ホンダN-BOX プロトタイプ/ホンダN-BOXカスタム プロトタイプ【試乗記】
ホンダが新型「N-BOX」を発表 軽スーパーハイトワゴンのベストセラーが3代目に進化
新型「ホンダN-BOX/N-BOXカスタム」のより詳しい写真はこちら
新型はこんなデザインに! ホンダが3代目「N-BOX」の情報を先行公開

新型「N-BOX」のデザインや装備設定について、顧客の要望や価格といった観点から説明してくれた廣瀬紀仁さん。
新型「N-BOX」のデザインや装備設定について、顧客の要望や価格といった観点から説明してくれた廣瀬紀仁さん。拡大
新型「N-BOX」で新たに設定された、標準モデルの「ファッションスタイル」。専用のボディーカラーやアイボリーのドアミラーおよびホイールの差し色などが目を引く。
新型「N-BOX」で新たに設定された、標準モデルの「ファッションスタイル」。専用のボディーカラーやアイボリーのドアミラーおよびホイールの差し色などが目を引く。拡大
「N-BOXファッションスタイル」のインストゥルメントパネルまわり。コーディネートのよさは申し分ないが、ステアリングホイールがウレタン製なのが気になった。オプションでいいので、革巻きの設定はないのかと思ったのだが……。
「N-BOXファッションスタイル」のインストゥルメントパネルまわり。コーディネートのよさは申し分ないが、ステアリングホイールがウレタン製なのが気になった。オプションでいいので、革巻きの設定はないのかと思ったのだが……。拡大
会場には福祉車両のスロープ仕様の姿も。こちらも後部スペースの広さを40リッター拡大したり、より簡単にスロープを展開できるようにしたりと、改善がなされていた。
会場には福祉車両のスロープ仕様の姿も。こちらも後部スペースの広さを40リッター拡大したり、より簡単にスロープを展開できるようにしたりと、改善がなされていた。拡大
全方位的な改良により、従来モデルから明確な進化を遂げていた新型「N-BOX」。次はぜひ、公道でその実力を試してみたい。
全方位的な改良により、従来モデルから明確な進化を遂げていた新型「N-BOX」。次はぜひ、公道でその実力を試してみたい。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

試乗記の新着記事
  • スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
  • ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
  • スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
  • トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
  • BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
試乗記の記事をもっとみる
クルマに関わる仕事がしたい
ホンダ の中古車webCG中古車検索
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。