クルマの未来を築くティア1サプライヤー 日立アステモの最新技術を見た
2024.11.06 デイリーコラムOEM向けの営業イベントに潜入
2021年1月、日立製作所系列の日立オートモーティブシステムズと、ホンダ系サプライヤーのケーヒン、ショーワ、ニッシンの計4社が経営統合するかたちで設立されたのが日立Astemo(アステモ)。売上高約2兆円規模のティア1サプライヤーです。取引先は国内のみならず、ゼネラルモーターズやフォード、フォルクスワーゲングループなど多岐にわたっています。
ちなみにAstemoは「Advanced Sustainable Technologies for Mobility」の略語ですが、クルマ好きやバイク好きにとってはSUPER GTのトップカテゴリーに代表される、モータースポーツのスポンサーシップでその名が知られているかもしれません。
と、そんな日立アステモが、クルマの電動化や知能化にまつわる新しい技術のデモを体験させてくれるということで、北海道は帯広にある同社のテストコースに足を運んでみました。ちなみに日立アステモはこの十勝テストコースのほかに、栃木にも塩谷テストコースを有しています。
このデモは取材用に企画されたものではなく、サプライヤーがOEM、つまり自動車メーカーに向けてのプレゼンテーション用として開催されたものに、メディアが相乗りさせてもらうかたちでした。ゆえに建て付けとしてはガチの営業案件。ちなみに日立アステモでは年に1回、日米欧の3エリアでOEMを招いたこのようなお披露目会を行っているそうですが、おそらく他のティア1も同様のルーティンなのではないかと思います。
そもそも日立製作所は祖業の鉱業のためのモーター開発を軸に、インバーターやポンプといった関連技術を拡大させ、インフラから民生へと業務を広げていったという社史があります。現在もこの領域において日立ブランドはトップランナーゆえ、そんなバックボーンを持つ日立アステモとクルマの電動化という業界的課題との相性が悪くないことは想像できます。そのうえで、前述の統合によって操舵や懸架、制動といった乗り物の動的面を支えるノウハウも集まったわけですから、彼らのできることは大きく広がりました。
4輪インホイールモーターの技術的到達度
今回のデモでは中期的、すなわち彼らのタクトでいうところの3~4年後の実装を見据えた先行開発を中心に、さらに長期的なタクトの研究段階技術を見せていただくことができました。
その最も長期的なところというのは、4輪インホイールモーターによる各輪個別の駆動制御を用いた姿勢制御や、操縦デバイスのバイワイヤ化による車内空間拡大やレイアウト自由度の向上の体験で、実働のデモ車はすでに2年近くにわたって情報収集と改良を重ねていると聞きます。
Cセグメントのホットハッチなどが履く235/35R19タイヤの内径にブレーキディスクとともにピタリと収まるインホイールモーターは、加減速時の姿勢や大入力に対するジャークを駆動系の制御によって整えるだけでなく、凹凸乗り越え時の各輪のG変化などから駆動や差動の制御を個別に行い、それを低遅延で実現することで走行中の制振までをモーターの側で御するという凝った仕組みを搭載していました。
フィードフォワードではなく走行時の凹凸のインパクトを読み取るや、くだんの低遅延化により即座に駆動モーターのトルクに反映することでピッチやバウンドなど乗り心地要素の改善が体験できる。すでに電動パワートレイン技術がそういう域に達していることに感心させられました。が、これは形状面でトライ&エラーを繰り返しているというダイヤル形状の操舵ロジックを含め、レベル3以上のAD=自動運転技術が実現した暁に花開くホットモックという印象です。
というわけで、現場ではここにつながっていく前身的な技術として、ADAS用カメラを活用したサーフェススキャンの情報をフィードフォワードでダンパーに反映することで路面追従性を高めるセミアクティブサスや、ステアリングのバイワイヤ化による操舵応答性向上に対応する高応答型固定レートダンパーの開発など、まさに3~4年先、すなわち現時点で開発に入ったかその初期……という新型車への実装を狙ったようなアイテムが多数示されていました。
お蔵入りしていた技術が日の目を見た理由
B to Bのサプライヤー的には、現時点でOEMに食い込めるかが明日からのご飯の種につながるわけで、ここが一番本気の先行開発であることは間違いありません。今や普通のクルマにもたんまり搭載されている車載カメラを全方位ステレオ化してLiDARを使わずとも広範に測距する技術や、この3DセンシングとADAS用センシングのフュージョン化によるドライバー向けの高次元な運転サポートなど、各領域の持てるコマを横断的・多面的に組み合わせてより新しい可能性へとつなげていく、彼らいわくの「クロスドメイン化」というのが、この変革の時代をサバイブする術になっているといいます。
個人的には内燃機と電動の混成期に適応したアイテムとして普及しつつあるブレーキブースターの電動油圧化、その制御の緻密化によるABSをはじめとしたボディーコントロールデバイスの作動状態の高精細化、という技術に感心させられました。もっとも、これ自体はすでに一部のハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に採用されているもので、まったく新しいわけではありません。個人的にうならされたのはさらにその裏メニューというか副産物として加えられていた、万一の機能失陥時に電動パーキングブレーキ(EPB)をフットブレーキと同様の感覚で操作させるというものです。
EPBは現在でも機能失陥やデッドマン状態時にはトグルレバーを指で引くだけで最大0.6G程度の減速を可能としていますが、ワイヤ式のハンドブレーキのように力加減で調整ができず後輪ロックの可能性も高いなど、速度や後続車等の状況によってはそれを引くこと自体がはばかられます。これを緻密な動作が可能な電動アクチュエーターによってフットブレーキで調整できれば、ドライバーの操作意思に沿って周辺状況に配慮しながら減速でき、避難帯などにスムーズに停止できるわけです。
これ、EPBの普及に乗じてアイデア自体は昔からあったそうですが、いかんせんFF車が主流の内燃機車では後ろの荷重が軽すぎて十分な制動力が出ない……ということでお蔵入りになっていたそうです。それがさまざまなハイブリッド車や電気自動車の普及により重量配分が変わって、後ろにも荷重がしっかり乗るようになったことで再発掘され、日の目を見ようとしている技術だといいます。しかもハードウエアはそのまま、ソフトウエアのアドオンのみで付加できる安全機能です。それをきちんと金銭的評価に置き換えられるか否かは、OEM側の課題だと思います。
映画が見られるとかゲームができるとかにどこまでのニーズがあるかは分からないけど、そもそもソフトウエアディファインドビークル=SDVってこういうことだよね……と思いつつ、サプライヤーの専門的知見の積層が、良品廉価な日本のクルマづくりを支えているのだなあということをあらためて考えさせられた一日でした。
(文=渡辺敏史/写真=日立アステモ/編集=藤沢 勝)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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