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ロイヤルエンフィールド・ベア650(6MT)

年季の違いを教えてやる 2024.11.30 試乗記 河野 正士 バイク界の老舗、ロイヤルエンフィールドが発表したワイルドなスクランブラー「ベア650」。ユニークなその名と走りの実力は、オフロードレース史における彼らの歴史に裏打ちされたものだった。米カリフォルニアで催された国際試乗会から、その魅力を報告する。
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その名は伝説のデザートレースに由来する

現存するバイクメーカーでは世界最古の歴史を誇り、中排気量セグメントを軸に、世界的に勢力を伸ばしている名門、ロイヤルエンフィールド(以下、RE)。彼らは2024年11月の「EICMA(ミラノモーターサイクルショー)」で新型車のベア650を発表(参照)したが、それに先立ち、アメリカ・カリフォルニアでメディア向けの試乗会も開催していた。

これまでREは、自社の歴史的なモデルの名前を復活させては、そのコンセプトや歴史的背景を現代的に解釈したモデルに付与してきた。いっぽう、「ヒマラヤ」や「スクラム」といった過去にない車名を冠するモデル群では、名前そのものがモデルのキャラクターを表現していたり、あるいは背後にあるストーリーや誕生の経緯を示していたりする。今回発表されたベア650は、REにとっては新しい車名を冠するモデルであり、そしてその“BEAR”という名前にもストーリーがある。

ベア650は、アメリカにおけるREのモータースポーツ史に深く根ざした一台だ。その名の由来は、1921年に始まった伝説的なレース「Big Bear Motorcycle Run」である。このレースは、ロサンゼルスからサンバーナディーノ山脈のビッグベア湖までの約100マイルを走る、いわゆるキャノンボールレースとしてスタート。後にビッグベア湖周辺の砂漠で行われるデザートレースへと変化し、アメリカ西海岸のライダーの間で人気を博すこととなった。そして1960年に開催された最後の大会で、当時16歳だったエディ・モルダーが、ロイヤルエンフィールドの500cc単気筒をベースにしたスクランブラーで優勝を果たしたのだ。

2024年の「EICMA」で発表された「ロイヤルエンフィールド・ベア650」。「INT650」をベースとした、排気量650ccクラスのスクランブラーモデルだ。
2024年の「EICMA」で発表された「ロイヤルエンフィールド・ベア650」。「INT650」をベースとした、排気量650ccクラスのスクランブラーモデルだ。拡大
競技車両のゼッケンプレートを模したボード。車名の“BEAR”は、アメリカ西海岸で人気を博した往年のデザートレース「Big Bear Motorcycle Run」に由来する。
競技車両のゼッケンプレートを模したボード。車名の“BEAR”は、アメリカ西海岸で人気を博した往年のデザートレース「Big Bear Motorcycle Run」に由来する。拡大
カラーリングは全5種類。写真左手前から順に「ペトロール・グリーン」「ボードウォーク・ホワイト」「ゴールデン・シャドー」「トゥー・フォー・ナイン」「ワイルド・ハニー」と名づけられている。
カラーリングは全5種類。写真左手前から順に「ペトロール・グリーン」「ボードウォーク・ホワイト」「ゴールデン・シャドー」「トゥー・フォー・ナイン」「ワイルド・ハニー」と名づけられている。拡大

プラットフォームの約3分の2を刷新

ベア650の来歴を知ってもらうべく、もう少し歴史の話をさせてもらうと、エディの勝利を機にREは北米市場でのモータースポーツ活動に注力。並列2気筒エンジンを搭載した「Constellation(コンステレーション)700」をベースに、デザートレースやフラットトラックレースへの参戦を強く意識した「Interceptor(インターセプター)700」を投入する。このモデルがREにおけるインターセプターシリーズの始まりとなり、その後のアメリカンモータースポーツにおける、REの成功の礎となった。

時は飛んで2018年、このインターセプターの名は新型車「インターセプター650(日本市場名:INT650)」で復活を遂げる。同車には、REがインドのトラックメーカー大手、アイシャー・モーターズのもとで初めて開発した648cc並列2気筒エンジンとダブルクレードルフレームが採用されており、クラシカルな英国風ロードスターとして注目を集めた。

今回発表されたベア650は、このINT650をベースにしたスクランブラーである。オンロードモデルをベースとしたオフロードモデルという来歴を思えば、むしろベアのほうこそ、1960年にデビューしたインターセプター700の現代的解釈といってもいいのかもしれない。

もちろん、ベア650はロードモデルにオフロードタイヤを履かせただけのイージーなスクランブラーではない。INT650のプラットフォームを継承しながら、構成部品の約3分の2を新設計としているのだ。エンジンに関しても、最高出力はINT650と同じ47.4PSながら、最大トルクは52.3N・mから56.5N・mに増強。低・中回転域では全域にわたり8%ほどトルクを上乗せしており、それによってエンジンのビート感が増し、力強いライドフィールを実現している。

足まわりを見ても、フロント:19インチ、リア:17インチというオフロード指向のホイールサイズを選択。あわせて前後サスペンションも変更しており、ストローク量をフロントで20mm、リアで27mm拡大した。これらの変更により、グラウンドクリアランスの指標となる最低地上高は184mmにアップ。1460mmに延びたホイールベースとも相まって、オフロードでの走破性と走行安定性を高めている。

試乗会の会場に展示された、「ロイヤルエンフィールド・インターセプター700」。
試乗会の会場に展示された、「ロイヤルエンフィールド・インターセプター700」。拡大
白のタンクにグリーンのフレームの組み合わせが目を引くスペシャルカラー「トゥー・フォー・ナイン」。“249”とは1960年の「Big Bear Motorcycle Run」で優勝した、エディ・マルダー選手のゼッケンナンバーだ。
白のタンクにグリーンのフレームの組み合わせが目を引くスペシャルカラー「トゥー・フォー・ナイン」。“249”とは1960年の「Big Bear Motorcycle Run」で優勝した、エディ・マルダー選手のゼッケンナンバーだ。拡大
エンジンはロイヤルエンフィールドの「650」シリーズでおなじみの、648cc並列2気筒SOHC。他のモデルとは異なり、エキゾーストは2in1の右側1本出しとなる。
エンジンはロイヤルエンフィールドの「650」シリーズでおなじみの、648cc並列2気筒SOHC。他のモデルとは異なり、エキゾーストは2in1の右側1本出しとなる。拡大
タイヤサイズは前が100/90-19、後ろが140/80R17。インドのタイヤメーカー、MRFのデュアルパーパスタイヤが純正装着される。
タイヤサイズは前が100/90-19、後ろが140/80R17。インドのタイヤメーカー、MRFのデュアルパーパスタイヤが純正装着される。拡大
試乗会での配布資料にシート高は記載されていなかったが、調べたところUK仕様で830mmとのことだった。身長175cmの筆者としてはやや高めの印象で、両足を接地させてバイクを支えることはできたものの、その際も若干つま先立ちとなった。
試乗会での配布資料にシート高は記載されていなかったが、調べたところUK仕様で830mmとのことだった。身長175cmの筆者としてはやや高めの印象で、両足を接地させてバイクを支えることはできたものの、その際も若干つま先立ちとなった。拡大

よりモダンに進化した機能とデザイン

車体設計にもモダンな要素が多く取り入れられている。例えばフレームのフロントまわりでは、ショーワの倒立フォークの採用に合わせてステアリングヘッドまわりにガセットを追加。剛性の強化を図っている。いっぽうリアフレームでは、サスペンションの取り付け部に左右のフレームパイプを連結するブリッジを追加するとともに、その取り付け部以降を新造。純正アクセサリーとして用意されるリアケース類のフィッティングを容易にするとともに、積載状態でのオフロード走行も考慮して、全方位で走行安定性を高めている。さらにINT650からの改良としては、ステップ位置をより前方かつ低い位置に変更。ライディングポジションの快適性も向上させているのだ。

デザイン面でも、ベア650はINT650のクラシカルな英国スタイルとは一線を画しており、アメリカのデザートレースで活躍したスクランブラーのイメージを反映しながら、モダンなキャラクターに仕上げられている。装備類も進化しており、灯火類のフルLED化に加え、「ヒマラヤ450」と同じ地図画面を表示可能なTFTモニターや、その多機能モニターの操作を容易にするジョイスティックを採用。走りの自由度を高めるべく、リアのみABSをオフにできる走行モードも追加されている。

もうひとつ、INT650と大きく異なるのがサイレンサーで、2in1タイプとすることでエンジンまわりの軽量化に大きく寄与。フレームの強化や前後サスペンションの変更にもかかわらず、車両重量はINT650から1kgの軽量化を実現している。

フロントサスペンションには、φ43mmのショーワUSDビッグピストンフォークを採用。ホイールトラベルは130mmとなっている。
フロントサスペンションには、φ43mmのショーワUSDビッグピストンフォークを採用。ホイールトラベルは130mmとなっている。拡大
リアサスペンションには、ショーワ製のツインチューブRSUを採用。こちらのホイールトラベルは115mmである。
リアサスペンションには、ショーワ製のツインチューブRSUを採用。こちらのホイールトラベルは115mmである。拡大
メーターの役割を担う丸型のTFTモニター。アプリをダウンロードしたスマートフォンを接続すれば、ナビゲーションの画面を表示したり、オーディオのコントローラーとして利用したりできる。
メーターの役割を担う丸型のTFTモニター。アプリをダウンロードしたスマートフォンを接続すれば、ナビゲーションの画面を表示したり、オーディオのコントローラーとして利用したりできる。拡大

伝統に裏打ちされた強固なキャラクター

これらの変更により、ベア650の走りのパフォーマンスは、INT650から大きく変化した。フロント19インチホイールの採用によりハンドリングはよりおおらかになり、フレームや足まわりの強化によって高い剛性感と安定性が上乗せされている。また広いハンドルバーと改良されたステップ位置により、ライダーはゆったりとしたライディングポジションでライディングできるようになった。

さらには、エンジンのトルク増加とややロード寄りのサスペンションセッティングによって、アクセル操作やライダーのアクションに対する車体の応答性も向上。軽快かつダイナミックな走行が可能となっている。今回の試乗コースはパームスプリング郊外のワインディングが中心で、ロードスポーツ的なハイペースでの走行が主となったが、そこでもしっかりとスポーツ走行を楽しむことができた。

いっぽう、オフロードを走る機会はごくわずかだったが、個人的にはもう少しサスペンションのストロークを生かしたフィーリングのほうが好みだった。もっとも、より体格が大きな外国人ジャーナリストの意見を聞くと、彼らにとってはサスペンションの動きはよく、ファンライド的なオフロード走行なら十分楽しめると話していたのだが。

ベア650は、その名前が示すようにBig Bear Motorcycle Runへのオマージュとして誕生した。その背後には、1960年代のアメリカンモータースポーツでの成功体験や、REのスクランブラーとしての伝統が息づいている。クラシカルな魅力とモダンな装備を融合させたこのモデルは、なによりもキャラクターが明確で、最新のアウトドアジャケットやトレッキングシューズを街なかで楽しむような気軽さも持ち合わせている。複数のプラットフォームを共有しながらモデルラインナップの充実を図るREにおいても、すでにその立ち位置を確立しているといえるだろう。

(文=河野正士/写真=ロイヤルエンフィールド/編集=堀田剛資)

ジャンル的にはスクランブラーに属する「ベア650」だが、舗装路でもなかなかにスポーティーな走りが楽しめる。
ジャンル的にはスクランブラーに属する「ベア650」だが、舗装路でもなかなかにスポーティーな走りが楽しめる。拡大
燃費はUK仕様で4.66リッター/100km(約21.5km/リッター)。燃料タンクの容量は13.7リッターなので、航続距離は300km弱といったところだろう。
燃費はUK仕様で4.66リッター/100km(約21.5km/リッター)。燃料タンクの容量は13.7リッターなので、航続距離は300km弱といったところだろう。拡大
専用に調律された足まわりと184mmの最低地上高により、多少のダート程度なら難なく走行が可能。ただし、サスペンションはもうちょっと柔らかくてもいいかもしれない。
専用に調律された足まわりと184mmの最低地上高により、多少のダート程度なら難なく走行が可能。ただし、サスペンションはもうちょっと柔らかくてもいいかもしれない。拡大
ロイヤルエンフィールドのゴビンダラジャンCEOいわく、「都会のストリートでも埃(ほこり)っぽいトレイルでも、ライダーの自信とコントロール性を発揮できるようにつくられている」という「ベア650」。ぜひ日本にも導入してほしい一台だ。
ロイヤルエンフィールドのゴビンダラジャンCEOいわく、「都会のストリートでも埃(ほこり)っぽいトレイルでも、ライダーの自信とコントロール性を発揮できるようにつくられている」という「ベア650」。ぜひ日本にも導入してほしい一台だ。拡大
ロイヤルエンフィールド・ベア650
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テスト車のデータ

ロイヤルエンフィールド・ベア650

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2216×855×1160mm
ホイールベース:1460mm
シート高:--mm
重量:214kg
エンジン:648cc 空油冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:47.4PS(34.9kW)/7150rpm
最大トルク:56.5N・m(5.8kgf・m)/5150rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:未定

 
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河野 正士

河野 正士

フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。

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