フォルクスワーゲン・ポロGTI(FF/7AT)【試乗記】
すべて満たせるコンパクト 2010.10.26 試乗記 フォルクスワーゲン・ポロGTI(FF/7AT)……334万9500円
フォルクスワーゲンの小さなホットモデル「ポロGTI」がモデルチェンジ。3代目となる新型は、巨匠 徳大寺有恒の目にどう映ったのか?
期待される名前
松本英雄(以下「松」):6月に開かれた国際試乗会での評判を聞いて、乗るのを楽しみにしていた「ポロGTI」が日本に導入されました。
徳大寺有恒(以下「徳」):現行「ポロ」の出来はすこぶるいいから、これも期待できるな。
松:ええ。GTIという響きには、いまだに人を引きつける魅力がありますからね。
徳:そうだな。考えてみれば、最初の「ゴルフGTI」に衝撃を受けてからもう30年以上たつわけだが。
松:ゴルフ1のGTIって、いわゆるホットハッチの元祖だったんでしょうか?
徳:厳密に言えばそうじゃない。ゴルフより少し小さいけれど、「アウトビアンキA112アバルト」とか、日本車だと「シビック1200RS」などがすでに存在していたからな。だがゴルフGTIは、大げさにいえばそれらとは次元が異なっていたんだ。
松:具体的には?
徳:シビックRSには俺も乗っていたんだが、1.2リッターにしては速かったものの足まわりがガチガチで、乗り心地はひどかったし、ボディの建て付けが悪くてそこかしこからガタピシと音が出ていた。ところがゴルフGTIは圧倒的なパフォーマンスを誇りながら、ゴルフ本来の実用性や快適性がほとんど犠牲になっていなかったんだ。
松:そんなに速かったんですか。
徳:速かったねえ。1.6リッターSOHCエンジンの最高出力こそ110psと、当時としてもさほど高くはなかったが、最高速は180km/h以上で、ゼロヨンは16秒台だったと思う。排ガス規制で軒並み性能が低下し、それこそ「名ばかり」になっていた日本車の2リッター級のGTなんか目じゃなかった。ノーマルのゴルフでもすばらしかったハンドリングはさらに向上し、ブレーキもよく利いた。しかし……。
松:なんでしょう?
徳:高かったんだよ! 正規輸入されず並行だけだったんだが、その値段がおよそ350万円。そう聞くとたいしたことないと思うかもしれないが、なにしろ日本車なら「クラウン」の最高級グレードが300万円以下で買えた時代の話だから。ちょっと手が出なかった。
松:GTIが正規で入ったのはゴルフ2からですが、巨匠は“2のGTI”は買ったんでしょう?
徳:うん。ゴルフ2が出たときにGLiを買って、GTIのエンジンがDOHC16バルブになったときに入れ替えたんだ。
松:そうか、2のGTIも最初はSOHCエンジンだったんでしたね。で、そのゴルフ2のGTIとこれから乗るポロGTIは、ボディサイズがほとんど同じなんですよ。
徳:なるほど。全長4m弱、全幅1.7m弱ってとこか。ポロもずいぶん立派になったもんだ。
数字だけでもうならせる
徳:ポロ自体は現行で5代目だが、GTIとしては何代目になるんだっけ?
松:3代目です。ちなみに初代は、スロットルにちょっとクセがありました。
徳:ああ、あれか。アクセルペダルを戻したときにブン!と吹け上がるようなヤツだろ?
松:そうです。電子スロットルの制御がまだうまくできていなかったんですね。2代目すなわち先代はそうした弱点がすっかり改善され、乗って楽しく、速いクルマでした。
徳:そしてこの3代目となるわけだが、エンジンはツインチャージャーの1.4リッターTSI、トランスミッションは乾式の7段DSGと、フォルクスワーゲン流のアップデートを果たした。
松:最高出力は先代の1.8リッター・ターボより29psアップの179psで、最大トルクは25.5kgmを2000から4500rpmで発生。ポロ初のパドルシフトを採用した乾式クラッチの7段DSGが許容できる最大限までチューンを高めたそうです。
徳:逆を言えばそれ以上トルクが強大になると、ゴルフGTIに使われている湿式クラッチのDSGが必要になるのか。
松:そういうことです。意外だったのは、本国をはじめとする欧州仕様でもMTの設定がないこと。
徳:日本だけならわかるが、ヨーロッパでもゴルフより先になくなるとは。下のクラスほどMTが残ると思われていたのに。
松:DSGも量産効果でコストが下がったということなんでしょうね。これ一本に絞れば合理化も図れるし。
徳:そう考えると、いずれMTはぜいたく品として高級車のみに用意されるようになっていくのかもしれないな。
松:ですねえ。で、新型ポロGTIのパフォーマンスはというと、0-100km加速はわずか6.9秒、最高速は225km/hに達するとのこと。それでいながら燃費は10・15モードでリッターあたり16.6kmと、先代より26%も向上しているとか。
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徳:そいつはすごい。
松:そのほか、現行ゴルフGTIと同様の電子制御式デファレンシャルロック「XDS」も採用されました。15mmローダウンされた専用シャシーに履くホイール/タイヤも17インチに格上げされているし、これまたゴルフGTI譲りの赤いブレーキキャリパーなど、演出面にも抜かりはありません。
徳:ますます走りが楽しみだな。
松:では、そろそろ乗ってみましょうか。
大人向けの辛さ
徳:GTIに限らず、ポロは内外装の質感が高いな。このクラスではトップだろう。
松:ええ。たとえばシフトセレクターの剛性感のある動きなんて、ちょっとほかではまねできません。
徳:サイズの割に排気音はなかなかドスが利いているな。
松:あえてゴルフより低音域に振ってチューニングしたそうですよ。
徳:そうした意図もわかるよ。一度このエンジンの力強さを知れば、野太いサウンドもふさわしいと思えてくるからな。
松:たしかに。エンジンはどこから踏んでもトルクがモリモリで、すばらしく速いですね。
徳:ここ(箱根ターンパイク)の登りでもまったくストレスを感じないものな。
松:それだけに、このエンジンをMTで味わってみたいと思ってしまいました。
徳:その気持ちはわかる。
松:DSGをパドルで操作する場合、慣れないとシフトポイントがわかりづらいんですよね。
徳:そうだな。でも、いっぽうではシフトアップ/ダウンがスムーズかつタイミングも適切で、ここみたいなワインディングでもDレンジのまま速く走れちゃうんだから、たいしたもんだよ。
松:「XDS」も予想以上に利いてますね。下りのコーナーでアンダーステアが出るかなと思っても、クルマのほうで曲げてくれます。
徳:予想以上といえば、乗り心地もそうだな。高性能と引き換えに快適性を犠牲にすることがないのは初代ゴルフGTI以来のよき伝統だが、このポロGTIもコンパクトなサイズと力強い走りっぷりに似合わないほど、乗り心地は落ち着いているよ。
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松:サスペンションのストロークが十分で、ダンピングも利いているから、ポンポン跳ねるようなことはありません。こうしたセッティングは本当にうまいですね。
徳:総じて兄貴分のゴルフGTIよりは軽快だけれども、同じホットハッチとはいえ、ラテン系のモデルにありがちな危なっかしい部分は希薄、というかほとんど感じられない。
松:そのあたりは好みの問題で、どちらがいいとか悪いではないですが、走っていてつい調子に乗ったら最後、危険な目に遭うかも、といった不安はポロGTIにはないですね。
徳:月並みな表現だが、安心して飛ばせる「大人のホットハッチ」というところかな。
松:取り回しやすいサイズで、4ドアだから使い勝手もいいし、居住性に不満はなし。性能はもちろん折り紙付きで、DSGだから誰にでも扱える。しかも低燃費。ファミリーユースからスポーティドライブまで1台でまかなえる、ある種理想のモデルかもしれません。
徳:おっと、それ以上ほめないでくれ。欲しくなっちゃうから。(笑)
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=荒川正幸)

徳大寺 有恒

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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