フォーミュラEが再び日本にやって来る ダブルヘッダーとなる東京大会の見どころは?
2025.03.27 デイリーコラム今シーズンの東京大会はダブルヘッダー
「世界最速のEVレース」という触れ込みのフォーミュラEが今年も日本で開催される。「2025 TOKYO E-PRIX」の大会名称が示すとおり、開催地は東京だ。それも有明・湾岸エリア。東京ビッグサイトの東展示棟を囲むように設定される全長2.582kmの特設ストリートコースが舞台である。高速コーナーとタイトコーナーを3本のストレートでつなぎ合わせたテクニカルなレイアウトだ。
初開催だった2024年の成功を受け、シーズン11が進行中の今年は5月17日(土)と18日(日)に2日連続でレースが開催される。盛り上がりも2倍というわけだ。サンパウロ(ブラジル)、メキシコシティ(メキシコ)、ジェッダ(サウジアラビア、ダブルヘッダー)、マイアミ(アメリカ)、モナコ(モナコ、ダブルヘッダー)に続く、全16戦中の第8戦、第9戦として開催される。
フォーミュラEは予選と決勝を同じ日に行うワンデーイベントとして開催するのが特徴。東京大会は8時に練習走行、10時20分に予選、15時に決勝レースを行い、16時に表彰式というスケジュールだ。予選と決勝の間に4時間以上のインターバルがあるが、暇をもてあます心配はない。会場内のファンビレッジにはフォーミュラEに参戦したりスポンサードしたりする企業や団体のイベントブースが用意され、目移りがするほど。ライブステージもある。
マシンは一見すると昨シーズンと同じに見えるかもしれないが、実は進化版。それに、日本のメーカーが新規参入しているのもニュースだ。レースをさらにエキサイティングにする新ルールも導入されている。順に紹介していこう。
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完全4WDになった進化型マシン
昨シーズンの東京大会を走ったのは「Gen3(ジェンスリー)」と呼ぶ第3世代の車両だった。今シーズンは「Gen3 EVO(ジェンスリー・エボ)」に進化した。フロントウイングの形状が変わったり、ノーズからサイドポンツーンにかけてのつながりがシャープになったりしているが、大きな変化点は駆動方式にある。
Gen3 EVOは“完全4WD”になった。Gen3もフロントとリアにモーターを搭載していたが、フロントは回生専用で力行(駆動)はリアモーターしか使うことができなかった。シーズン11からはリアモーターの300kWにフロントモーターの50kWを足し、4WDとして加速することが可能になった。
ただし、4WDで走行できる条件は3つに限定されている。3つのシーン以外は300kWのリアモーターのみで走行する決まり。4WDにできる1つ目のシーンは、予選でグループステージを突破したドライバーが1対1で対決するデュエル。2つ目はスタンディングスタートで行うレースのスタート時。スタート直後の5秒間は4WDでの走行が可能だ。
3つ目は、レーシングラインを外れた場所に設定されるアクティベーションゾーンを通過することで使用可能となるアタックモード時だ。アタックモードはレース中に8分間を2回に分けて使うことが義務づけられている。今シーズンこれまでの戦いぶりを見ていると、アタックモードの4WD化は威力が大きく、数々のパッシングシーンを生んでいる。東京大会でも注目しておきたいポイントだ。
ピットブーストが導入されたのも、シーズン11の大きな変化点である。ピットブーストは、レース中に34秒間静止するピットストップを義務づけ、この間に600kWの専用急速充電器で30秒間の急速充電を行い、レースで使えるエネルギー量の約1割に相当する3.85kWhの電気エネルギーを補充するというもの。ダブルヘッダーで開催されるイベントのうち、どちらかのレースに適用される(東京大会では17日か18日のいずれかでピットブーストが見られる)。
ピットブーストはバッテリー残量が60%から40%の間に行わなければならない。各車のエネルギー消費はわずかな差しか生じないので、ピットブーストを行うタイミングは集中し、混乱は必至。これも注目ポイントのひとつだ。
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好調の日産を追うマクラーレン
参戦チームは日産、ポルシェ、マセラティ、ジャガー、マクラーレン、DS、マヒンドラなど11チーム。新顔はローラ・ヤマハ・アプトだ。フォーミュラEは共通ボディーを使用するので見た目は全車共通だが、リアモーターとインバーター、ギアボックスで構成されるパワートレインは参戦マニュファクチュアラーが独自に開発することが可能(フロントモーターは共通部品)。その良しあしと予選〜レースのエネルギーマネジメントが優劣を決める。
ヤマハはローラとパワートレイン開発および供給に関するテクニカルパートナーシップを締結。ローラと協力しながら、「世界最高レベルの出力密度・効率を含めた究極のエネルギーマネジメント技術の獲得を目指し、技術開発を進める」としている。初参戦につきものの厳しい洗礼を浴びつつも、学びを重ねながら経験を積み上げているところだ。ローラ・ヤマハ・アプトの第4戦までの最高位は開幕戦の12位である。
その点、一日の長があるのはシーズン5から参戦している日産だ。Gen3 EVOの「NISSAN e-4ORCE 05」に搭載する電動パワートレインの開発を統括したのは、日産の西川直志エンジニアである。Gen3の知見を生かして「ベストな解」とすべく開発した電動パワートレインは効率が大幅に向上しており、パフォーマンスに直結。第2戦、第4戦でオリバー・ローランド(32歳)が優勝し、第4戦終了時点でドライバーズとチームズ、マニュファクチュアラーズランキングの3部門でトップに立つ。
日産製の電動パワートレインを積むマクラーレンも好調で、チームランキングで2位につける。東京大会でもいい走りを見せてくれそうだ。日産、マクラーレンの日産陣営をポルシェ、DS、マセラティが追う格好。マクラーレンのテイラー・バーナードは開幕戦で3位に入賞し、フォーミュラEの最年少表彰台記録(20歳189日)を更新した若手注目株だ。最年長はローラ・ヤマハ・アプトで走る、アウディ時代にル・マン24時間を制した経歴を持つルーカス・ディ・グラッシ(40歳)。若手とベテランの対決にも注目だ。
(文=世良耕太/写真=フォーミュラE、日産自動車/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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