MINIジョンクーパーワークスE(FWD)/MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)
これぞゴーカートフィール 2025.05.28 試乗記 電気自動車(BEV)化に向けた道をひた走るMINIは高性能バージョン「ジョンクーパーワークス(JCW)」にもきちんとBEV版を用意している。「JCW E」(3ドア)と「JCWエースマンE」の仕上がりをリポートする。3カ国で生産される新型MINI
過日、現行MINIのJCW仕様を紹介したが(関連記事)、あちらはエンジン(ICE)搭載モデル。今回はBEV仕様のMINI JCW EとMINI JCWエースマンEの2モデルである。
参考までに現行MINIの開発コードは、「MINIクーパー」の3ドアがF66、5ドアがF65、「コンバーチブル」がF67、「カントリーマン」がU25、BEVの「MINIクーパーE」はJ05、「エースマン」はJ01で、これらはJCW仕様でも変わらない。ここで注目すべきは開発コードのアルファベットである。アルファベットは基本的に生産工場に由来していて、「F」の付くモデルはイギリス・オックスフォード工場、「U」は本国ドイツ、そして「J」は中国である。つまり、MINIクーパーの内燃機仕様はイギリス、カントリーマンはドイツ、BEVのMINIクーパーとBEVしかないエースマンは中国というわけだ。
カントリーマンだけがドイツ生産なのは、BMWの「X1/X2」とプラットフォームを共有しているからである。ちなみにX1とX2の開発コードはそれぞれカントリーマンと同じ「U」を冠するU11とU10である。「MINI」といっても、すべてのモデルが故郷のイギリスでつくられているのではなく、ドイツや中国など3カ国にまたがっているというのはお恥ずかしながら初めて知ったし、BEVだけは中国製というのも最初は「え?」と、ちょっと意外に思ったけれど、よくよく考えてみれば「まあそうだよな」と腑(ふ)に落ちた。
クルマの開発は確かに大変だけれど、工場が多岐にわたるケースでは、どこでつくっても数万台という数のプロダクトをまったく同じ品質にする必要があり、実際には開発よりも生産のほうがずっと大変な作業である。開発コードが生産工場に由来しているのも、そういう事情を考慮すればうなずける。
それにしても、イギリスのMINIの中身はドイツ車で、それがイギリスとドイツと中国で生産されているなんて、出自がこんがらがってちょっとよく分からない。でも昨今のご時世に鑑みれば、今後はこういうクルマがますます増えていくことになるだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
モーターもシャシーも専用にセットアップ
MINI JCW EとMINI JCWエースマンEの足まわりは、ICE仕様と基本的に同じで、ばねやダンパー、スタビライザーなどがJCW専用となっている。ただし、バッテリーを搭載するぶんだけ車両重量は増しているので、それに合わせたセッティングはもちろん行われている。
モーターはパワーアップされている。ノーマルのMINIクーパー&エースマンの「E」が最高出力184PS/最大トルク290N・m、「SE」が218PS/330N・mに対してJCW仕様は258PS/350N・mを発生する。実はノーマルのエースマンはSとSEで使用するモーターの型式が異なり、JCW仕様のBEVの2モデルはいずれもエースマンSEのHC0002NO(ノーマルのMINIクーパーのBEVとエースマンSはHC0001N0)をベースとしている。
車重はMINI JCW(ICE)の1350kgに対してMINI JCW Eが1660kg(MINI JCWエースマンEが1760kg)だから、300kg以上も重くなっていることになる。BEVはICEに必須な吸排気系はもちろん、そもそもブロックだのクランクシャフトだのピストンだのバルブなどを持っていないにもかかわらず、それでもこれだけ重量が増えるとは、バッテリーは本当に重量物なんだなとつくづく思った。なお、一充電走行距離(WLTCモード)はMINI JCW Eが421km、MINI JCWエースマンEが403kmと公表されている。
内外装のお化粧の仕方もICEと同じだ。でも、ご存じのように3ドアはICEとBEVで似ているようで異なるボディーが採用されている。その違いがひと目で分かるのはドアハンドルかもしれない。ICEはグリップタイプ、BEVは手前に引くタイプ。BEVは空力を考慮して、ドアハンドルが突起物(=抵抗物)にならないようわざわざ構造を変えているのである。BEVのAピラーをわずかに寝かせているのも空力対応だ。たとえコンパクトなモデルでも、やるべきことはボディーをつくり変えてまでもやっているのである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
他のMINIがおとなしく感じる
MINI JCW Eの走り始めの印象は、足まわりが引き締まったICEのMINI JCWに似ているけれど、バッテリーによる重量増に起因する乗り心地の改善もみられた。重くなるとばね上は動きにくくなるわけで、体まで伝わってくる振動も自動的に軽減される道理である。
そんなことよりも、しばらく走ったところで個人的にはこの仕様が最もMINIらしいのではなかろうかと思うようになってしまった。ステアリングを切るとただちにロールとピッチ方向の動きがほとんど同時にやってきて、曲がるというよりは横方向へ動くような挙動と操縦性はICEの3ドアと変わらない。いっぽうで、アクセルペダルを踏み込んだ途端にトルクが立ち上がって速度を上げていくBEVならではの加速感は、ICEより圧倒的にレスポンスがいい。この“レスポンス”が、やはりレスポンスのいい操縦性と見事にマッチするのである。
ICEのエンジンレスポンスも決して悪くはないけれど、BEVと比較するとどうしてもワンテンポ遅れてしまう。曲がりながら加速する局面では曲がるほうが先にいってしまうような感覚だ。いっぽうのBEVでは、ドライバーの手足の動きに対して「曲がる」と「加速する」が同時にやってきて、これがすこぶる痛快なのである。
MINIの乗り味を説明するときに、よく“ゴーカートフィール”なんて表現が使われる。まあ確かにそんな感じかもしれないが、MINI JCW Eを知ってしまうと、この仕様こそが“ゴーカートフィール”であり、他のMINIがおとなしく見えてしまうほどだった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ファミリーでも使えるJCWエースマンE
ステアリング操作に対する操舵応答のレスポンスと、アクセル操作に対するトルクの立ち上がりのレスポンスの理想的コンビネーションをMINI JCW Eで味わってしまったので、ノーマルでもBEV仕様しかないエースマンのJCWは一体どんなことになっているのか興味津々だった。しかし結果的には、いい意味で期待を裏切られるものであった。
今回試乗した4つの仕様のなかで、個人的にはMINI JCWエースマンEが最もマイルドで快適性の高い乗り味になっていると思った。乗り心地には最も優れているし、俊敏な操縦性も備えているものの、水平移動のような極端な向きの変え方はせず、わずかなロールを伴いながらクルマらしく曲がっていく。全高も重心も3ドアより高いので、物理的にもそうならざるを得ない部分もあるが、コーナリング時のピッチからロール、そしてヨーが発生するまでの過渡領域を間断なくスムーズにつなげているので、ステアリング操作が何より気持ちいいのである。重くなった車重は、モーターの強力なトルクでほぼ相殺されるから、鈍重な感じもまったくない。あとでエンジニアに聞いたところ、エースマンはJCWになってもフェミリーユースが想定されるので、あえてそういうセッティングにしたとのことだった。
もはやカントリーマンがとても“ミニ”とはいえないサイズになってしまったいま、実はエースマンのボディーサイズが特に日本なんかではちょうどいいサイズのSUVだとも思う。BEVしか用意されていないことが販売面では足を引っ張るかもしれないけれど、静粛性の高さや滑らかな加速感など、フェミリーユースのSUVにはもってこいの性能は、BEVだから実現できたことでもあるのだ。
(文=渡辺慎太郎/写真=BMW/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
MINIジョンクーパーワークスE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3860×1755×1460mm
ホイールベース:2525mm
車重:1660kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:258PS(190kW)/5000rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/50-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y XL/(後)225/40R18 92Y XL(ハンコックiON evo R)
交流電力量消費率:145Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:421km(WLTCモード)
価格:616万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh
MINIジョンクーパーワークス エースマンE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4080×1755×1515mm
ホイールベース:2605mm
車重:1760kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:258PS(190kW)/5000rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/50-5000rpm
タイヤ:225/40R19 93Y XL/(後)225/40R19 93Y XL(ハンコックiON evo R)
交流電力量消費率:146Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:403km(WLTCモード)
価格:641万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

渡辺 慎太郎
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】
2025.12.17試乗記「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。 -
NEW
人気なのになぜ? アルピーヌA110」が生産終了になる不思議
2025.12.17デイリーコラム現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。 -
NEW
第96回:レクサスとセンチュリー(後編) ―レクサスよどこへ行く!? 6輪ミニバンと走る通天閣が示した未来―
2025.12.17カーデザイン曼荼羅業界をあっと言わせた、トヨタの新たな5ブランド戦略。しかし、センチュリーがブランドに“格上げ”されたとなると、気になるのが既存のプレミアムブランドであるレクサスの今後だ。新時代のレクサスに課せられた使命を、カーデザインの識者と考えた。 -
車両開発者は日本カー・オブ・ザ・イヤーをどう意識している?
2025.12.16あの多田哲哉のクルマQ&Aその年の最優秀車を決める日本カー・オブ・ザ・イヤー。同賞を、メーカーの車両開発者はどのように意識しているのだろうか? トヨタでさまざまなクルマの開発をとりまとめてきた多田哲哉さんに、話を聞いた。 -
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】
2025.12.16試乗記これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。 -
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。






















































