トヨタ車はすべて“メーカーオプション後付け可能”に!? それでクルマの買い方はどう変わる?
2025.06.09 デイリーコラム常識が覆される
「すべてのトヨタ車でメーカーオプションが後付けできるようになる!」
そんなニュースを見せられて「驚くな」ってほうが無理。ビックリしたなあ。……といってもトヨタの正式発表ではなく、日本経済新聞社が自主取材した記事だけれど。2025年5月16日付のこの記事によれば、2025年秋に発売される新型車以降、全車種で対応可能になるのだとか。……ってホント!?
クルマに詳しい読者諸兄のことだから百も承知とは思うけれど、念のため説明しておくと、クルマ購入時のオプションには「ディーラーオプション」と「メーカーオプション」があり、新車購入後も(部品が販売されている限り)いつでも装着できる前者に対し、後者は車両製造工場で装着するので新車購入後は取り付けできない……というのがこれまでの常識だ。メーカーオプションが後付け可能となれば、その常識が覆されることになるじゃないか。なんとまあ。
このスクープ情報は、どうやら間違いではなさそうだ。たしかに今のトヨタならやりかねない。ただ、あらゆるメーカーオプションが装着可能になるかといえばそうではなさそう。例えばサンルーフなど車体構造に関わるものは、あらかじめ車両に組み込まないと無理なわけで、後付けは厳しい。となれば後付けできるのは電子機能系が中心となるだろう。
例えば、先進安全機能や運転支援機能の充実などだ。現行型「アルファード」の装備表を見ると「緊急時操舵支援(アクティブ操舵機能付き)+フロントクロストラフィックアラート[FCTA]+レーンチェンジアシスト[LCA]」とか「トヨタチームメイトアドバンスト パーク+パーキングサポートブレーキ(周囲静止物)&アドバンスト ドライブ(渋滞時支援)」などは上位グレードに標準で装備され、中間グレードにはメーカーオプションとして用意される。メーカーオプションの後付けとは、それらを新車購入後にも装着できるようになることだと考えればいいだろう。
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仕組みの下地はできている
何を隠そう、今でも一部車種ではそれができちゃったりする。
「クルマのサブスク」でおなじみKINTOでは「KINTO FACTORY」として、今乗っているクルマをバージョンアップするメニューが用意されている。例えば先代アルファード用だと「ステアリングヒーター」や「後付けアクセサリーコンセント(AC100V/1500W)」などの電気系アイテムに加え「後付けブラインドスポットモニター+リアクロストラフィックアラート」といった安全機能のアップグレードも設定。愛車をより便利で安全に仕様変更できるというわけだ。
面白いのは、先代アルファードの場合は「電動スライドドア」まで後付けできること。13万9700円を払って「後付け右側パワースライドドア(イージークローザー・挟み込み防止機能付き)」を装着すれば、後からスライドドアを電動化できるというのだから、これまでの常識では考えられない。日経新聞のスクープは「このメニューと対象車種がさらに拡大される」ということなのだろう。
また、その実現にあたっては、あらかじめ「オプションの後付け」を前提とした車両設計が行われることを意味する。具体的に言えば、後から部品を追加できるように配線をあらかじめ組んでおく、ハードを変更しなくてもプログラムの制御を変えるだけで機能が作動するようにあらかじめしておく……などだ(一部車種はすでにそう設計されている)。
そのサービスを提供するのはKINTOで、作業を実施するのがディーラーとなるのは今後も変わらないだろう。KINTOはトヨタの関連企業でクルマのサブスクを扱う会社なのだが、同時にトヨタの実験的なサービスを行う役割も担っている。もちろんメーカーオプションを追加できるのはKINTOでサブスク契約をした車両だけにとどまらず、すべての車両が対象だ。
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売る側も買う側もうれしいサービス
これまでメーカーオプションは購入時のみの選択肢だったから、ユーザーはクルマを使っているうちに「欲しい!」となってもどうにもならなかった。しかし、このサービスが本当に実現するのであれば(すでに一部は実施しているのだからやるのだろう)、メーカーオプションの選択肢が広がり、「新車購入時はいらないと思ったけどやっぱり欲しい!」とか「新車購入時は予算の都合で無理だったけど、後に経済的な余裕ができたので取り付けたい」なんていう選択ができることになる。ユーザーにとってありがたいのは言うまでもないだろう。
「新車購入時に選ぶよりも割高」とか「すべてのメーカーオプションが用意されるわけではない」といった部分には注意が必要ではあるものの、われわれにとって歓迎すべきことなのは間違いない。
こういった機能の後付けはある意味、テスラが用意している追加メニューの感覚に近い。テスラは追加料金を払うことで従来モデルのインフォテインメントシステムをバージョンアップできたり、疑似的な自動運転機能を追加できたりするようになっているのだ。それを商売のひとつにしているのである。
トヨタが全車種に展開するとされるメーカーオプションの後付けサービスも(もし実現するのであれば)、新車購入時だけでなく、このサービスを提供することで購入後のユーザーからも利益を得ようということで、国産メーカーにとっては新たなビジネススタイルのひとつとなるわけだ。
そういえばマツダの「マツダスピリットアップグレード」や日産の「GT-R」用「バージョンアップキット」など、一部車種では従来モデルの機能をより新しい仕様へとアップグレードするプログラムを用意している。今後のトヨタのサービスもその延長線上と考えればわかりやすいかも。
われわれも選択肢が増えてうれしいし、メーカーも新たな稼ぐ手段を見つけてハッピー。これって、両者にとってウィンウィンではないだろうか? 歓迎しない理由は何もない。……まだ、正式発表されたわけではないけれど。
(文=工藤貴宏/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)
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工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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