第95回:レクサスとセンチュリー(前編) ―モノマネじゃない、日本独自の高級車の成否―
2025.12.10 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
「One of One」の標語を掲げ、いちブランドへと独立を果たしたセンチュリー。その存在は、世界のハイエンドブランドと伍(ご)して渡り合うものとなり得るのか? ジャパンモビリティショー(以下、JMS)のショーカーから、そのポテンシャルをカーデザインの識者と考えた。
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入念な仕込みとジャパンモビリティショーの衝撃
webCGほった(以下、ほった):今回のお題は「レクサスとセンチュリー」です。センチュリーが独立ブランドに“格上げ”されて、JMSでショーカーが出て、いろいろ動きがありましたからね。
渕野健太郎(以下、渕野):センチュリーのクーペ、風格ありましたね。今回のショーの目玉、主役感がありました。車形的には2ドアクーペですけど、これはこのまま出る(=市販化される)のかどうか。
ほった:出るんじゃないですか?
清水草一(以下、清水):いや~、ここまで見せたらね!
ほった:やってもらわんと(笑)。
渕野:今回、JMSが始まる前に、豊田章男会長が「ブランドの順番が違う!」って、SNSで怒ってましたよね。
ほった:センチュリーをブランド化して、5ブランド体制にするプロジェクトのティザーですね。黒塗りのサイトにセンチュリー、レクサス、トヨタ、GR、ダイハツって5つのロゴが並んでたんだけど、センチュリーのロゴの位置が不満で、中央に入れ替えさせたっていう。
清水:最初は、なんのことかサッパリわからなかったよ。
ほった:あれ、わざとですよね(笑)。
渕野:それはそうでしょう。豊田会長が知らないはずがない(笑)。でも、見え透いててもいいんです。あらかじめセンチュリーに注目を集めることが目的だったから。それでセンチュリーをブランドにします! って宣言して、JMSに行ったら独立したブースが用意されていて、あのクーペがいて、ブースの構成でも「レクサスよりも上級の存在」っていうのを強烈に印象づけたわけです。展示エリアは黒のじゅうたん敷きで、来場者には香りのついた黒いカードを配って……。
ほった:うーむ。ワタシは完全にやられましたよ。脚本家の筋書きと会場の雰囲気に、ものの見事に操られた(笑)。
狙うは世界の富裕層
清水:で、どうなんですか? センチュリーのこの……車名がないんで便宜的に“センチュリー クーペ”って呼びますけど、このクルマのデザインは。
渕野:いや、スゴいと思いました。前後とも逆スラントで、軸がすごく高いところにある。メッセージがシンプルに伝わってきて、明快でいいと思いました。清水さんはどう思いました?
清水:「まさかまさか」って感じでしたよ。センチュリーからもSUVが出て、やっぱり時代はこっちってことかと思ったら、クーペも出す。イメージ的には「ロールス・ロイス・レイス」みたいなところを狙っているんでしょうけど、ドアの開き方がスゴい。運転席側は1枚のヒンジドアだけど、助手席側は2分割のスライドドアでしょう。これ、実現できるんですかね?
渕野:うーん。自分が前に勤めていたメーカーもそうだし、どのメーカーもそうなんですけど、ショーでインテリアを見せたいときに「見せやすいドアの開き方」っていうのがあるんですよ。だから、市販じゃ絶対ガルウイングとかやんないのに、ショーカーではあえてガルウイングドアにしたり、こんな風にスライドドアにしたりする。センチュリーも、仮にこのクーペが出るにしても、あのドアがそのまま市販車に反映されるかはわかりません。けど……トヨタだからなぁ。
ほった:今の勢いなら、やりかねない。
清水:技術的には難しいでしょうけどね。
ほった:狙いは中国やアジア圏ですかね。
渕野:グローバルでやるんでしょう、たぶん。これまではドメスティックな日本専用のセンチュリーでしたけど、これは、世界のお金持ちに対してアプローチしようとしていると思います。それも、レクサスよりさらにランクが高いところに。
ほった:ベントレーみたいな?
清水:私はロールス・ロイスを目指してるのかなと思いましたけど。
渕野:ベントレーかロールスかはわかんないけど、そのクラスを狙ってる。
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ドアがスゴい、スゴすぎる
清水:いずれにせよ、ぜひこのドアの開き方は、市販車でも採用してほしいですね。破壊力がスゴい。
渕野:確かにスゴい。このドア、好きですよ(笑)。
清水:自分は一時期「ランボルギーニ・カウンタック」に乗ってたから、すごく実感があるんですけど(参照)、みんなドアの開き方にすごく興奮するんです(笑)。クルマに興味のない人でも。しかもこれ、日本の伝統でもある引き戸で、前後に分割してスライドするんだからスゴいじゃないですか。
渕野:ヒンジの構造とか、大変でしょうけどね。
清水:コストはいくらでもかけられるってことでしょう。「フェラーリ・プロサングエ」のリアドアも、ヒンジがアルミの鋳物でものすごくガッチリしてて感動しましたけど、これはもっとスゴい。特に前側にスライドする部分が。
渕野:ぜひ市販車でもやってもらいたいですね。
清水:でも運転席は普通のヒンジドアなんですよね。
渕野:「トヨタ・ポルテ」みたいな感じですね。ちょっと違うけど。
清水:世代によって違うけど、2代目ポルテは右側がヒンジの2枚ドアでしたよね。んで、助手席側は1枚のデカいスライドドア。センチュリークーペは、運転席側はヒンジ1枚で、助手席側が2枚のスライドドア。
にしても、ポルテのドアはぜんぜんダメだったと思うな! だってあのデカいスライドドア、助手席を前に倒さないと後席に乗り込めなかったんだから。ところがセンチュリークーペは、左側には助手席しかないのに、ドアが前後分割でスライドするんだから、これはめちゃめちゃ乗り降りしやすいでしょう。ポルテの学習がここに生きている(笑)。
ほった:こんなクルマ、ポルテと比較してもしょうがないでしょう。
清水:いずれにせよ、もしこのドアの開き方が普通になっちゃったら、ものすごくガッカリですよ。一般大衆の反応もぜんぜん変わってくる。
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小技に頼らず、徹底して造形で勝負
ほった:センチュリーは既存のラインナップも、あのクーペのデザインに寄せていくんですかね? 結構、今までのモデルとはデザインが違う印象だったんだけど。
渕野:確かに。センチュリーのラインナップには今、セダンとSUVがありますけど……。SUVのほうは、なんかちょっとちんちくりんな感じがするじゃないですか(笑)。たまに見かけると、背の高さや幅のバランスが。
清水:いわれてみれば、センチュリーSUVってちんちくりんですね。フロントマスクもイマイチだし。
ほった:いやぁ。あの手のは「ロールス・ロイス・カリナン」も「ベントレー・ベンテイガ」も、たいがいでしょ。
清水:カリナン、ほとんど見ないなぁ。不評なのかな?
渕野:いや、そこそこ見ますよ。
ほった:恵比寿かいわいではちょいちょい見ます。
清水:杉並区在住の俺にとっては幻のクルマだよ。乗ってみてぇ~。
渕野:こうやって写真で見比べても、SUVとセンチュリー クーペとは、ぜんぜん違うなと感じますね。
清水:うん。やっぱりクーペはいいわ。これ、ガチでロールス・ロイスと戦うとして、どうなんですかね?
渕野:クーペではありますが、クルマの厚みとかを見るとSUV的でもありますから、そのぶん価値がある、違いを示せていると思います。特に中東とかでは刺さるんじゃないかな。ロールス・ロイスなどとは違う需要を掘り起こしそうです。
ほった:ふむふむ。
渕野:タイヤのデカさやキャビンの小ささは、この手のクルマの王道ですね。ディテールを見ても、ヘッドランプとかグリルとか、細かいところもすごくつくり込まれてる。何気に、このフロントデザインは結構いいなと思いました。ただ、とにかく造形が明快なので、あまり細かく語るところはないんですよね。
ほった:小技に頼ってないってことですね。
渕野:そうそう。確かに普通にデザインしても、ここまでタイヤとかキャビンに制約がないと、どうやってもカッコよくできるものなんです。ただセンチュリー クーペの場合は、そうしたプロポーションの利を生かして、あとは極力シンプルにやろうとしてるところがいい。抑揚も十分についています。
強いて言うなら、リアまわりはウィンドウがないので、ここになにかしらデザインをつけたい気もするけれど……それをやると、ちょっと違ってしまうかな。かなりキャビンも絞ってますから。
ほった:家紋とか入れたらどうですかね。六文銭とか葵のご紋とか(笑)。
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既存のどんな高級車にも似ていない
清水:僕は3人乗りだってことに感動しましたね。運転席側には後席があるけど、助手席は後ろまでスライドさせて、ドーンと足を伸ばしてゆったりできる。
渕野:それもスゴい。
清水:これが新しいおもてなしのあり方なんだなぁと。確かに、前は見えたほうが快適だもんね。
渕野:でもこれ、自分で運転する人用のクルマなのでは?
ほった:皆いろいろ言っていますよ。ショーファーカーでもありドライバーズカーでもあるとか、助手席……というかVIP席に座るひとりのためだけのショーファーカーだとか。
渕野:なるほど。……それにしても、車内のこの斜めの線はなんでしょうね?
ほった:もてなす人ともてなされる人を仕切るパーティション的なものでしょう。あえて御簾(みす)とお呼びしたい。
渕野:精神的な目隠しみたいなものですか。これも……うまいこと考えてるなぁ。
ほった:ワタシは内装までじっくり見られませんでしたけどね。クルマを間近で見る機会はなかったから。ただ、ジャパンオリジナルのクルマだってのは人垣の後ろからでも伝わってきましたよ。
清水:後追いじゃなく、クーペにまったく新しい魅力を込めてるよね。トヨタはホントすごいわ。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=トヨタ自動車、BMW、webCG/編集=堀田剛資)

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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