アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ プレミアム(FWD)
最適解に宿る歴史の厚み 2026.05.05 試乗記 アルファ・ロメオのコンパクトSUV「ジュニア」にラインナップする電気自動車(BEV)「ジュニア エレットリカ プレミアム」に試乗。1973年型の「GT1600ジュニア」を所有していたかつてのアルフィスタは、最新のフル電動アルファに触れ、何を感じたのか。かつてと同じ命名規則
アルファ・ロメオ・ジュニアに乗るのは久しぶりだ。たぶん、30年ぶりぐらいじゃないだろうか――いや、この言い方は不正確というかミスリードである。今回試乗したのは2025年6月に日本導入が発表されたアルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ プレミアムで、30年前に愛車にしていたのは、1973年型のGT1600ジュニアだった。「ジュリア」シリーズのクーペである。この名前には思い入れがあり、新しいジュニアにも何らかの共通点を求めたくなってしまう。
現在のジュニアは、アルファ・ロメオのSUVラインで最も小型のモデルだ。Bセグメントに属し、グローバルな量販が期待されている。日本車でいえば「トヨタ・ヤリス クロス」や「ホンダ・ヴェゼル」あたりと同じサイズ感というとわかりやすい。兄貴分の「ステルヴィオ」と「トナーレ」よりも売れ筋になってしかるべきなのだ。
もちろん、ジュニアの名はかつてのモデルから採られている。1962年にベルリーナ(4ドアセダン)でデビューしたジュリアは、翌年にクーペの「スプリントGT」が加わった。その廉価版として登場したのが「GT1300ジュニア」だ。スプリントGTは最終的に2リッターエンジンを搭載するようになり、ジュニアも排気量を拡大したGT1600ジュニアに発展する。いずれにしてもジュニアはエントリーモデルの位置づけだったわけだ。だから、現在のジュニアもアルファ・ロメオの命名規則に忠実に従っているといえる。
最新のジュニアは大別するとハイブリッドの「イブリダ(Ibrida)」とBEVのエレットリカ(Elettrica)の2種類。試乗したのはエレットリカだ。アルファ・ロメオ初のBEVである。吹け上がりのいいエンジンこそがアルファ・ロメオの魅力だと思っていた世代が複雑な気持ちになるのは仕方がない。これも時代の流れであり、電動化を推し進める重要なモデルなのは確かだ。
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静粛性と滑らかさは優秀
バッテリー容量は54kWhで最大航続距離は494km(WLTPモード)。モーターの最高出力は156PS (115kW)、最大トルクは270N・mだ。特に驚くことのない数字である。経済変動加算額15万円が2026年1月1日から適用されて571万円になったが、価格も常識的なところだろう。BEVは現状で手に入るバッテリーとモーターを組み合わせてパワーユニットを構成するしかないので、スペックで大きな差異を生み出すのは難しい。各メーカーがブランドの特徴をみせるのに苦慮しており、アルファ・ロメオとて条件は同じだ。
乗り味にアルファ・ロメオらしさはあるのか。期待半分不安半分で走り始めた。当然ながら、静かでスムーズな発進である。アクセルを踏み込むとデザインされた疑似エンジン音が響いてくるが、エキサイティングとは言いがたいタイプの不思議なサウンドである。GT1600ジュニアの純正エアクリーナーを外してキノコ型に交換し、豪快な吸気音を楽しんでいたことを思い出す。若気の至り、黒歴史である。
静かであることがクルマにとってポジティブな要素なのは間違いない。ジュニアは国内外のさまざまなBEVのなかでも静粛性はかなり優秀な部類だと感じた。滑らかなフィールも上々だ。加速もステアリング操作も実によくしつけられていて、上質感にあふれている。コンパクトなサイズもあって、街なかでの使い勝手には太鼓判を押せる。
ワインディングロードではドライブモードを「DYNAMIC」に設定した。ほかに「NATURAL」と「ADVANCED EFFICIENCY」があり、明確に走りのキャラが変わる。爽快な加速感が味わえるようになり、常に一定のトルクが提供されて安定した速さを楽しむことができた。
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完成度は高いがモヤモヤが
乗り心地も合格点といっていい。足まわりはしっかりと固められているのに、路面の悪いところでも不快な衝撃を感じるほどではなかった。印象的だったのは、軽快感である。BEVとしては軽量な1580kgに抑えられている車重の恩恵もあるのだろう。おかげでハンドリングも軽やかで、コーナーでは重いバッテリーを搭載したSUVらしからぬ安心感がある。
完成度は高い。文句のつけようがないのだが、これはアルファ・ロメオをほめていることになるのだろうか。BEVのカテゴリーのなかで出来がいいとしても、それが魅力的なのかは別の話である。アルファ・ロメオならではのBEVになっているのかと考えると、頭の中にはモヤモヤが残る。ないものねだりなのは理解しているのだ。ジュニアが採用している「e-CMP」プラットフォームはステランティスの電動化車両に共通のもので、プジョーやフィアットと同じ土台から違いを出していかなければならない。
かつて最大の武器だったエンジンがないのだから、アイデンティティーをアピールするのが困難なのはわかる。それにしても、ステアリングやブレーキの感触のソフトさには戸惑った。GT1600ジュニアの操作系が筋トレになるほどの重さだったのを継承する必要はないが、あまりにも手応えがなくて心配になるほどだ。ユーザーに好まれる設定にしているのだろうけれど、ちょっとやりすぎ感がある。
BEVでオリジナリティーを表現するのはどのメーカーにとっても悩みの種だ。先だって国内メーカーが合同で開催したBEV試乗会に参加し、クローズドコースで乗り比べる機会があった。どれも静かで乗り心地がよく、スムーズな走りだったのだが、大きな差を感じられなかったのが正直なところである。それぞれが他メーカーとの違いを示すために何をすればいいか模索しているはずだが、簡単ではない。
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ビジュアル面でアドバンテージ
幸いなことに、アルファ・ロメオにはアドバンテージがある。歴史の厚みだ。ジュニアという名が過去の名車から取られていることは先に述べたが、ジュリアや「ジュリエッタ」もそうだし、「1750」とか「4C」「8C」といった数字や記号も歴史的意味を持っている。もっと有用なのは、ビジュアル的な要素だ。一番わかりやすいアイコンとなっているのが「ビショーネ」である。ヴィスコンティ家の紋章に由来する意匠は、伝統と格式を感じさせる点では他の追随を許さない。人を飲み込むヘビとミラノの聖ゲオルギウス十字の組み合わせは、デザイン資源として圧倒的な価値がある。
インテリアの目につくところにこのアイコンがいくつも配置されている。シートやステアリングホイールはもちろんのこと、置くだけ充電のスマホ置き場にも紋章があった。エアコン吹き出し口にはヘビだけなのだが、アンビエントライトが仕込まれている。ドライブモードを変えると青紫からグリーン、レッドに色が変わるのが楽しい。半円形のメーターを2つ並べたカンノッキアーリと呼ばれるデザインもオーナー心を刺激する。
エクステリアでは、後端がスパッと切り落とされているのが「ジュリエッタ スプリント ザガート」の後期型から使うようになったコーダトロンカのオマージュである。フロントにはスクデット(盾)と称する伝統の逆三角形グリル。モデルによってさまざまな形状にアレンジされ、デザイナーの腕の見せどころになっている。ジュニア エレットリカはビショーネをグラフィカルでポップな透かし彫りにした最新型を採用した。「プログレッソ」と呼ばれるもので、イブリダにはメッシュグリルに「Alfa Romeo」の文字を乗せた「レジェンダ」が使われている。プログレッソは少々軽すぎるような気もするが、これが新しい感覚なのだろう。
GT1600ジュニアとの共通点をほとんど見いだせなかったのは残念な気がしたが、年寄りの懐古趣味は有害なだけである。変化を前向きにとらえるべきだろう。ステランティスの一員として、アルファ・ロメオも共通化と均質化を受け入れる必要がある。そして、BEVへと歩を進めるなかで、かつてのような刺激と艶っぽさをそのまま残すことは不可能になってきた。ジュニア エレットリカは、自動車の大転換期にあってアルファ・ロメオが最適解を探し求めた現時点での回答なのだ。
(文=鈴木真人/写真=神村 聖/編集=櫻井健一/車両協力=ステランティス ジャパン)
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テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ プレミアム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4195×1780×1585mm
ホイールベース:2560mm
車重:1580kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:156PS(115kW)/4070-7500rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/500-4060rpm
タイヤ:(前)215/55R18 99V/(後)215/55R18 99V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス2)
一充電走行距離:494km(WLTPモード)
交流電力量消費率:125Wh/km(WLTCモード)
価格:571万円/テスト車=597万0870円
オプション装備:ボディーカラー<ツートンメタリック>(13万円) ※以下、販売店オプション プレミアムフロアマットセット<エレットリカ用>(5万2800円)/ETC1.0車載器(1万6060円)/電源ハーネスキット(2060円)/ドライブレコーダー<V263A>(5万9950円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:3652km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:388.0km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:6.2km/kWh(車載電費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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