第135回:アウディデザイン水掛け論(後編) ―モアイ像か、怪物か アウディの未来を決める極限の選択―
2026.11.04 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
「Q9」に「A2 e-tron」に「ヌヴォラーリ」と、方向性の異なるデザインを同時多発的に提案してきたアウディ。かつて先駆的な造形美で世界を瞠目させた彼らは今、どこへ向かおうとしているのか? カーデザインの識者と、フォーシルバーリングスの未来を考えた。
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SUVのデザインがオラオラ合戦になる理由
清水草一(以下、清水):アウディは、デザイン面で20年ぐらい快進撃を続けてきたけど、さすがにいき詰まって、シングルフレームグリルをひたすらデカくし始めましたよね。それももうムリとなって、Q9みたいな化け物グリルも出した。そこに突然ヌヴォラーリみたいなモアイ像が出てきたけど、果たして次はどっちに向かうのか? 現時点では分からないってことですね。
渕野健太郎(以下、渕野):分かりません(笑)。ただ個人的に期待しているのは「A2 e-tron」です。
webCGほった(以下、ほった):「Q2 e-tron」を名乗ると思われてた、電動の小型クロスオーバーですね。
渕野:スクープ画像を見ると、たぶんミニマルなデザインなんじゃないかという感じがして、すごく楽しみにしていたんですよ。結局はヌヴォラーリみたいなスタティックな形で出てきましたが、そのほうがアウディらしいのかもしれない、という思いもあります。
ほった:顔はヌヴォラーリとは全然違いますがね。というか、今のアウディは本当に、よくも悪くもデザインの方向性がまちまちですね。特にSUVのコテコテ感が異質。
渕野:クルマの開発をしていると、どうしてもライバルメーカーの動向を見るわけですよ。マーケットのベンチマークや、競合他社の同セグメント車と並べて検討すると、SUVってやっぱり“強さ争い”になりがちなんです。どうしても「これじゃ強さが足りない」という判断が出やすい。なので、モデルチェンジしていくうちにどんどん顔が強くなるというのが、今の流れではあると思います。
ほった:底なしのオラオラ合戦ですな。
本当にスッキリ系へと舵を切れるのか?
渕野:でも、各社そこから脱却したいから、BMWはノイエクラッセみたいなのを出した。アウディも多分、次の世代では違う方向にいくんじゃないでしょうか。じゃないと、ヌヴォラーリみたいなクルマを発表した意味がないですから。
清水:あれが原点回帰を予告しているのかもしれないと。
渕野:だと思いますよ。そう考えると次に期待が持てます。
清水:一回、Q9みたいな化け物を見た後だけに、スッキリしたアウディが出てきたら「俺たちのアウディが戻ってきた!」みたいに喜ぶカーマニアは多いでしょう。
ほった:ただ、全体のバランスや完成度の高さよりも、顔一発のインパクトを優先するのが今の風潮ですから、アウディも簡単には元に戻せないんじゃないかな。結局売れなかったら意味ないし。
渕野:そういうジレンマはありますね。アメリカのブランドや、メルセデス・ベンツ、BMWのSUVと比べて、アウディのSUVをどうするかとなったときに、販売を考えると「やっぱり、お客さんは強さを求めているし……」という判断に至るのはあり得るでしょう。だからSUVに関しては、新型車でもまだ“強い顔”の方向にいかざるを得なかったんじゃないかと。
清水:確かに、今アウディのSUVがヌヴォラーリ顔になったら、ひとり負けになっちゃう。
ほった:だからってQ9はないでしょう(笑)。私が愛するアメリカのフルサイズSUVは、顔もデカいけどキャビンもちゃんとバカでかいんです。ピックアップトラックだと、さらにそこに巨大な荷台がつくもんだから、前後でバランスが取れているんですよ。でもQ9のリアからは、あのフロントマスクが想像できないでしょ? 顔だけ怖くてガタイは貧弱って、どこかのお笑い芸人さんみたいですよ。
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日本の“カスタム軽”を見習うべし
渕野:そこで自分の提案なんですが、顔を完全に2パターン用意するのはどうでしょうか。日本の軽のノーマルとカスタムみたいに。あれをすることで、ダイハツやスズキは幅広いお客さんを取れているわけですよね。
清水:確かに、ああいうのがあるのは日本の軽だけだな。
渕野:グローバル市場でも、顔を2つにして2つの価値を提案したほうが、一粒で二度おいしいはずです。シンプル顔のQ9を見てみたい(笑)。
ほった:ドイツ勢がカスタム顔方式を取り入れたら、そりゃ革命ですね。
渕野:欧州のメーカーは、ブランドで顔まわりを統一する傾向が強いですからね。ブランドの価値そのものを買うみたいな感覚なので。それは分かるけど、ここまで顔を強くするんだったら、それとは違うもうひとつの価値観で顔をつくってもいいんじゃないかと。だってQ9って、ボディーとリアまわりに対して、明らかにフロントだけイメージが違いますから。やりたいことが本当にこれなのか? って思います。
ほった:顔の使い分けシステムを導入するとしたら、片方はQ9的なオラオラ系、もう片方は、やっぱヌヴォラーリのモアイ顔ですかね? 正直、「コンセプトC」とかヌヴォラーリのデザインモチーフって、ほかのクルマにも展開できるもんなのか、怪しいと思うんですよ。マツダの例(参照:その1、その2)もありますけど、背の低いクルマ向けのデザインをSUVに落とし込むのは、ムリがあるんじゃないかと。
渕野:あのプロポーションではなく、面質や表現手法だけだったらできるでしょう。それがお客さんに響くかどうかは別として。
ほった:でも、Q9のフロントマスクにあの縦長グリルをくっつけたら、めちゃめちゃおかしくないですか?
渕野:それ、試しにスケッチ描いてみようかな(笑)。
清水:いや、意外と悪くないかも……なにしろモアイ像だし。
渕野:今、縦長のグリルを選択するということ自体がチャレンジングですよね。なぜ? とは感じます(笑)。コンセプトCもヌヴォラーリもグリル幅が狭すぎる気がする。
ほった:縦長のグリルのせいで、ノーズを上げなきゃいけなくなってるし。
清水:だからこそ個性になると思うんだけどな。
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モアイか、化け物か
ほった:ヌヴォラーリとQ9の話にほぼ終始してますけど、日本の読者諸氏にとって身近なアウディも取り上げておきましょうよ。
渕野:直近だと「A6」や「A5」ですね。どっちもプロポーションはすごくよくできてます。さっきのQ9もそうですけど、スタンスがいいんですよね。ただ顔のグラフィックだけは、やっぱり付け足している感じがします。
ほった:デザイナーさんが仕上げたやつに、偉い人が「もっと顔を強くしろ!」ってケチつけたパターン?
渕野:うーん……。フロントをここまでデカくすると、あんまり立体感が出ないわけですよ。最近のアウディのフロント部分は、グラフィックばかりが目について、面の形や質感がどうなっているのか、見えづらいですよね。ほかの部分のボリューム感を、フロントでも出してくれればいいんだけど。
あと、最近のアウディというと、日本では「Q3」ですか。
清水:口のまわりがヒゲもじゃのヤツ。このパターンの顔、好きじゃなかったけど見慣れてきました。
ほった:このデザインの次を模索して、ヌヴォラーリになったのか。
清水:でもさ、これがヌヴォラーリ顔になるとしたら、それって何年後? って話よ。もう忘れちゃってるかもよ。
ほった:で、結局ヌヴォちゃんは本流にならなくて、もう1回ぐらい別の大きなアクションがある、みたいな。
清水:とにかくアウディの焦りを感じるよ。
渕野:世の中の進化が急すぎるんでしょう。「えっ、急にこっちの方向いくの?」みたいな感じですからね。個人的には、とりあえずヌヴォラーリの流れで一般的なタイプのクルマのデザインを見てみたい。アウディの個性としては、こっちのほうがいいんじゃないかと思うので。
清水:私も、化け物顔よりモアイ像のほうがいいと思います。
ほった:どっちにも未来はないような気がしますけど……。
清水:やってみなきゃ分かんないよ!
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=アウディ、ステランティス、ダイハツ工業/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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