第124回:大矢アキオ、Googleストリートビューに露出成功!!
2010.01.09 マッキナ あらモーダ!第124回:大矢アキオ、Googleストリートビューに露出成功!!
ナゾの3輪車
昨年暮れのボクは、マイケル・ジャクソンをしのんで密かにムーンウォークの練習に励んでいた。ところがそれを知らなかった女房は、「足の関節がおかしいのか?」と心配する始末。さらにキムタクが紅白歌合戦でムーンウォークを披露したことを知り、もう勝ち目がないと思った。そうした失意のなかで、ふとある出来事を思い出した。
話は2009年7月中旬の、ある日まで遡る。
朝、原稿を書いていて、ふと窓の外を見ると、不思議なトライク(3輪自転車)が眼下をゆっくりと通過しようとしている。ペダルを漕ぐ若者と、トライクのあとを追う若者の、男子2人連れである。アイスクリーム売りか? と思ったが、トライクには一見スピーカーと見間違えるような装置が付いていた。さらによく見ると、そこに「Google」と書いてあるではないか。即座にピン! ときた。「Googleストリートビュー」の撮影だ!
多くの『webCG』読者はご存知だろうが、念のため書いておくと、「ストリートビュー」とは、検索エンジンのGoogleが提供する無料地図サービス「Googleマップ」に組み込まれているもので、道路沿いの風景360度をパノラマ写真で見ることができるものだ。ちなみにボクの会社員時代の先輩は、元カノの実家をググっては懐かしんでいるという。
ボクの住むシエナは、街ごとユネスコ世界遺産にもかかわらず、ストリートビューでは、なぜか後まわしにされていた。だから、思わず「キターッ!」と叫んでしまった。
東京では「トヨタ・プリウス」を使って撮影がおこなわれているらしいが、シエナの旧市街は、住民以外のクルマは原則として進入できないし、やたら一方通行が多い。そこで、トライクにしたに違いない。
拡大
|
Googleストリートビューに出たい!
Google到来を女房に報告すると、彼女は即座にタンスを開け、なかでもいちばん派手な緑のシャツを選んでボクに渡した。そしてボクに一言「ゴー!」と言った。ボクは即座に意図するところがわかった。
「ストリートビュー露出作戦!」である。
そのシャツは長袖。7月には少々暑いが、ガマン、ガマン。ボクはボタンを掛けるのもそこそこに、階段を下りて外に飛び出していった。しかしすでに撮影トライクは視界から消えていた。
ボクは彼らが向かったと思われる方向に駆けて行った。頭の中では「太陽にほえろ!」における劇中追跡シーンのテーマが響いていた。
ようやくトライクを発見したのは、400メートルほど離れた商店街だった。内部機器の冷却ファンだろうか、近づいてみるとトライクは「ブーン」という連続音を静かに発している。あまり露骨に写ろうとして彼らに嫌がられたり、避けられては、失敗である。遠巻きに追うことにした。
ちょうどそこに食料品店のおじさんが出てきた。以前、ビデオで紹介し大好評だった3輪トラック「アペ」オーナーのアルマンドさんである。ボクは、アルマンドさんとアペの横で用もないのに立ち話をすることにした。映る可能性が高いと考えたからだ。
しばらくするとトライクは、すでに来た道を戻り始めた。パノラマ映像とはいえ、常に一気に撮れるわけではないようだ。ボクは客でごった返してクソ忙しい時間にもかかわらず話につきあってくれたアルマンドさんに礼を言ってから、トライクを早足で追い越した。そして、その先にある広場に向かったのだ。
まずは脇にある池の横に座る。次に、はす向かいにあるモニュメントの下にも座ってみた。トライクの2人と目を合わせないようにしながら、そして先ほどの「ブーン」音を聞きながら、道祖神のごとくじっと座っていた。
その日からボクは何度となくGoogleマップを開いてみた。ところが何カ月たっても、シエナの地図にはストリートビューのサービス対象地域であることを示す人形型アイコン「ペグマン」が立たない。
ヨーロッパ中に知られた観光地の、ハイシーズンで人通りの多いシエナである。プライバシー保護のために施す、顔面の「ぼかし」処理に手間取っているのだろうと思い、じっくり待つことにした。
ようやくシエナ地図にペグマン現る
ここで話は冒頭に戻る。年始め「あまりにヘタだから、やめろ」と女房から事業仕分けを言い渡されたボクは、ムーンウォークの練習を断念した。そしてうなだれながら、ふとGoogleマップの画面を立ち上げてみた。するとどうだ。シエナ地図にペグマンがしっかりと立っているではないか。サービスが開始されたのだ! さっそく撮影中にうろついた路地を検索してみる。が、街路にも、広場にも自分の姿が写っていない。悲しくなってきた。ついでいうと、例の食料品店も店舗こそ写っているものの、アペもアルマンドさんも写っていなかった。
悲しさにうなだれながら、地図上を自宅に向かって辿ることにした。そのときである、広場のモニュメントの下に男がいるではないか。ノースリーブ&生脚ミニスカ女を連れた男が歩く横で、例の緑の長袖を着込んで佇んでいるヤツがいる。間違いなくボクである。思わず「おおーッ!」と、新年で静まりかえった近所に響く雄たけびを上げてしまった。
ストリートビューというのは、たとえ同じ場所でも、ある方向からマウスのクリックを進めてゆくと見えないが、別の方向から進めると見える画像があるようだ。
露出大成功!
画面の中の自分の姿を眺めていると、女房から「撮影隊の追跡が足りなかったのよ」と責められながら耐えた5カ月間の労苦が洗い流される気がした。幸先よい年始めである。
惜しいのは、他の通行人同様、顔にしっかりと“ぼかし”がかかっていることである。ぜひGoogleには「ぼかし除去申請」も受け付けてほしい、と密かに願っているところだ。
(文と写真/大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第941回:イタルデザインが米企業の傘下に! トリノ激動の一年を振り返る 2025.12.18 デザイン開発会社のイタルデザインが、米IT企業の傘下に! 歴史ある企業やブランドの売却・買収に、フィアットによるミラフィオーリの改修開始と、2025年も大いに揺れ動いたトリノ。“自動車の街”の今と未来を、イタリア在住の大矢アキオが語る。
-
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達― 2025.12.11 イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。
-
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった 2025.12.4 1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。
-
第938回:さよなら「フォード・フォーカス」 27年の光と影 2025.11.27 「フォード・フォーカス」がついに生産終了! ベーシックカーのお手本ともいえる存在で、欧米のみならず世界中で親しまれたグローバルカーは、なぜ歴史の幕を下ろすこととなったのか。欧州在住の大矢アキオが、自動車を取り巻く潮流の変化を語る。
-
第937回:フィレンツェでいきなり中国ショー? 堂々6ブランドの販売店出現 2025.11.20 イタリア・フィレンツェに中国系自動車ブランドの巨大総合ショールームが出現! かの地で勢いを増す中国車の実情と、今日の地位を築くのに至った経緯、そして日本メーカーの生き残りのヒントを、現地在住のコラムニスト、大矢アキオが語る。
-
NEW
レクサスRZ350e(FWD)/RZ550e(4WD)/RZ600e(4WD)【試乗記】
2025.12.24試乗記「レクサスRZ」のマイナーチェンジモデルが登場。その改良幅は生半可なレベルではなく、電池やモーターをはじめとした電気自動車としての主要コンポーネンツをごっそりと入れ替えての出直しだ。サーキットと一般道での印象をリポートする。 -
NEW
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025
2025.12.24デイリーコラム旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表! -
NEW
第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24カーデザイン曼荼羅2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかしイマイチ、私たちは以前のようには興奮できないのである。あまりに美しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】
2025.12.23試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
同じプラットフォームでも、車種ごとに乗り味が違うのはなぜか?
2025.12.23あの多田哲哉のクルマQ&A同じプラットフォームを使って開発したクルマ同士でも、車種ごとに乗り味や運転感覚が異なるのはなぜか? その違いを決定づける要素について、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題
2025.12.22デイリーコラム横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。
