スバル・エクシーガ2.0GT tuned by STI(4WD/5AT)【試乗記】
プロの仕事 2009.11.24 試乗記 スバル・エクシーガ2.0GT tuned by STI(4WD/5AT)……389万250円
スバルの7シーター「エクシーガ」に、スポーティな“STIバージョン”が追加された。専用パーツがもたらす、その走りやいかに?
ミニバンでモータースポーツ!?
STIとは、「スバルテクニカインターナショナル」の略。スバル車のチューニングを手掛ける会社である。世界ラリー選手権(WRC)をはじめとする活躍で、モータースポーツ界では有名な呼称であるが、それなら、どうして7人乗りのワゴン車でSTIなのか? と、いぶかしがる向きもあろう。
しかし、モータースポーツというものは、必ずしも競走だけの世界ではないし、速く走ることだけがクルマを楽しむ術ではない。
スポーツは、道具を使って行うものであれば、その良し悪しは大切な要素だ。多くの場合、道具はレギュレーションによって管理され、その範囲内で個々人にとって使いやすいよう微調整されるが、必ずしも先鋭化されたものとは限らない。実用品を使ったスポーツでも、ルールさえあれば、競技としては成立する。
そんな風に考えてみると、7人乗りワゴン車のレースなども実際にやったら面白いかもしれないし、これだけ市場に出回っている重心が高いクルマの更なる進化発展に役立つはずだ。
さて、道具の扱いやすさは、スポーツの気持ちよさや記録に直接結びつくのだが、製品としての道具の質は一般的にバラツキも多い。量産品ならば避けられない部分でもある。
クルマの場合は、各部の入力に対する出力をグラフにしたとき、行きと帰りで同じ線上をたどらない“差”が生ずる(ヒステリシス)。この幅がチューニングカーでは小さいのだ。具体的な一例としては、サスペンションブッシュなどゴム部品の変形が挙げられる。これを変形しないように詰めるのは比較的容易だが、単純に詰めたり、固めて剛体にすればいいというのは愚の骨頂。文字では簡単に表せない、繊細なチューニングを施したのが、このSTIバージョンというわけだ。
秘密は“カタログの外”に
カタログに並ぶSTIの専用パーツそのものは、“素人向け”でしかない。実際の効用などわけもわからず、仲間同志でウンチクを述べる際の手助けにしかならない。モノを交換しさえすればクルマはよくなると信じている初心者には、それでも十分かもしれない。
が、このtuned by STIとノーマルとの価格差は約60万円。パーツ交換だけならこんなに費用は掛からないわけで、300台限定の意味は、そんなに単純ではない。そこには、造り手がカタログに書かない“秘密のノウハウ”が含まれているのだ。
スーパーチャージャーやターボチャージャーを付加してパワーを稼ぐのは、チューニングカーメーカーの常套手段であるが、それだけで事足れりとする雑なチューニングでは、すぐにお里が知れてしまう。物を交換するだけではダメなのであり、そのあとのチューニングこそがキモなのだ。
大抵のメーカーには、ブランド化された固有のスペシャリストを名乗る会社が付帯している。STIももちろんその種の会社ではあるが、チューニングは走り込むほどに真価を発見できる内容になっている。
その最たるものは、リアサスペンションのラテラルリンク内側の取り付け部に付加された、アシスト部品のピロボール化だ。詳しくいうと、サスペンションをマウントしているメンバーのボディへの取り付けに際して、天地に固定されているピンの下方を動かないようにする棒にひと工夫加えている。通常ならば、ムクの鉄材で固定するが、tuned by STIでは寸法を変えることなく角度変化だけ許すピロボールを使う。この部分の角度変化など微々たるものに過ぎないが、実際にこのパーツに交換してみると、確実に限界付近のコントロール性が良くなるというのだ。
誰でも選べる
高速を主体としたこの日の試乗コースでは、十分にその差を確認できたとは言い難いが、その昔同じような課題でいろいろ実験してきた自分の経験から、開発者の気持ちは十分に理解できる。そんな微細領域にまでこだわって造っているのかと思うと、このエクシーガtuned by STIの価値は一層高いものに思われる。
ノーマルのエクシーガを買おうと思っている人で、その量産車的な造りに飽き足らないユーザーは素直に選択候補に入れてもよし。単にSTIというネームに憧れて買うならば、結果的にそれもよしだ。
このクルマは、敢えてノーマルとの差を考えたりせずとも、単純に気持ち良く乗れるクルマとして満足できるだろう。
操舵に対して余計に切れるわけではないが、スッと動きだす切りはじめのレスポンスが気持ちよく、戻した時にボディの無駄な動きが残らない。スポーツカーなどに要求されるレベルといえる。その身のこなしは、平坦路ではスムーズな水平移動に終始し、段差などタイヤから入力があればそれなりの動きは発生するが、また元のゼロラインへと向かう戻り方がスッキリしている。
エンジンそのものは手付かずだから、加速も絶対的なタイムはそう違わないのだろうが、スロットルの踏み込み加減に即応してサッと吹けて、はなせばスッと落ちる、この回転の上げ下げもブカブカした不感帯が少ない。あたかも一度バラして丁寧に組み直したような感触がある。
仕事としてマニュアルに従って忠実にこなす、というよりは、マニア的な好き者が自分で乗るならこうして乗りやすくする、という改良上手な人のクルマのような。そこにプロの仕事ぶりが感じられる。エクシーガのtuned by STIとはそんなクルマだ。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
NEW
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.10.12試乗記ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。 -
NEW
電動化された新型「A110」の登場はいつ? 来日したアルピーヌのクリエフCEOに未来戦略を聞く
2026.10.12デイリーコラムアルピーヌのフィリップ・クリエフCEOが来日し、現在推進している戦略を報道関係者に説明した。なかでも気になったのは電動化された新型「A110」と、「A110Rウルティム」に相当する特別な超高性能モデルの存在だ。その内容とは? -
NEW
第346回:EVかいわいで辰巳かいわいへ
2026.10.12カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の「サクラ」と「アリア」、そしてホンダの「スーパーONE」と、国内メーカーがリリースする3台のEVに立て続けに試乗した。三者三様の走りを味わい、リアルに感じたことをカーマニア目線で報告する。 -
スズキ・ジムニー ノマドFC(後編)
2026.10.11ミスター・スバル 辰己英治の目利きスズキが誇る本格オフローダー「ジムニー ノマド」に、“ミスター・スバル”こと辰己英治さんが試乗。クラシックなクロスカントリーモデルの舗装路での振る舞いは、かつてスバルでクルマの走りを鍛えてきた彼の目にどう映るのだろうか? -
あの多田哲哉の自動車放談――ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション
2026.10.9webCG Moviesホンダを代表するSUV「CR-V」に、トヨタでさまざまなクルマを開発してきたエンジニア、多田哲哉さんが試乗。その仕上がりにどんなことを思ったのか、動画でリポートします。 -
パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く
2026.10.9デイリーコラムパナソニックが、市販市場向けカーナビゲーション、ドライブレコーダー、リアビューカメラの終売を発表! カーエレクトロニクス界の巨人は、なぜ市場からの撤退を選んだのか? 変化し続けるマーケットの在りようを振り返り、車載機器の未来を考察した。





























