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第99回:イマドキ大学生にも通じる? 〜「ロードスター」感性重視のクルマづくり

2009.06.29 エディターから一言 本諏訪 裕幸

第99回:イマドキ大学生にも通じる? 〜「ロードスター」感性重視のクルマづくり

「感性」でつくるクルマ

2009年6月18日、早稲田大学で「マツダ・ロードスター」の主査、貴島孝雄さんの講演会が行われた。
講演者が技術者だけに、理系が対象……と思われるだろうが、さにあらず。文化構想学部という、文系学部での一コマなのである。

この講演会は「感性重視のモノ創り‘マツダロードスターの開発’」と題されたもの。主催した早稲田大学文化構想学部の山本恵子先生は、「モノづくりの感性」を考えるという目的でコーディネートしたという。

ご存じのとおり、ロードスターと言えば、1989年のデビュー以来の大ヒットで、オープン2シーターのライトウェイトスポーツカー市場が存在することを示し、「BMW Z3」「フィアット・バルケッタ」「メルセデス・ベンツSLK」など、多くのフォロワーを生むことになった、伝説的モデル。「世界で最も多く生産された2人乗り小型オープンスポーツカー」として、ギネスブックにも名を連ねている。

この名車が生まれた背景を説明するのには、「感性」という言葉が不可欠なのだ。

ところで、「感性」とはなにか? 辞書を引くと、「物事に感じる能力。感受性。感覚。」(「大辞林」三省堂より)と記される。これをクルマづくりで言うと、「スペックには表れない運転の楽しさや、デザインの美しさなどを感じること」になるだろう。

この数値化できない評価軸「感性」をキーワードに開発が進められたクルマ、それがロードスターなのだ。初代から現行モデルである3代目まで、一貫して“走る楽しさ”を徹底的に追及してつくられている。当然、その開発の様子は、他のクルマと大きく異なったものだった。

今回の講演会では、この「ロードスター」(初代〜3代目)の開発ストーリーが題材となった。


第99回:イマドキ大学生にも通じる? 〜「ロードスター」感性重視のクルマづくりの画像 拡大
講演会は学生だけでなく、一般の人の聴講も可能だった。
講演会は学生だけでなく、一般の人の聴講も可能だった。 拡大
初代の「ユーノス・ロードスター」。
初代の「ユーノス・ロードスター」。 拡大
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「隣は何をする人」

webCGでも何度かお伝えしているように、3代目ロードスターのコンセプトは「人馬一体」。流鏑馬(やぶさめ)の人と馬との関係のように、以心伝心、自分の意のままに操れるクルマをつくるのが目標となった。表現こそ変わっているが、これは初代から変わらぬコンセプトである。

2代目に続き、3代目の主査も任ぜられた貴島さん。ニューモデルの開発にあたり、初代の主査である平井敏彦さんに、ロードスター誕生の経緯を教わりに行ったという。そのとき、「じゃあ、これを説明する論文を書くか!」ということになったそうで、ともに書き上げた論文が「Kansei Engineering」というもの。この論文はSAE(Society of Automotive Engineers)に提出され、全世界に公開されている。
http://www.sae.org/technical/papers/2003-01-0125

具体的には何をしてきたのか?
感性によってもたらされる価値観による、モノづくりが語られた。

感性に基づいてクルマをつくるためには、当然関わる人全員が、その“感性”を共有している必要がある。
そこで、数値化できない感性をどのように共有するか? ここが、チームで作業を行う上で、一番難しい点であったそうだ。企画や設計、実験やデザイン、そして販売まで、ありとあらゆる部署にまたがった「陣立て会議」を行い、コミュニケーションを重視した仕事が進められた。社内フォーラムを頻繁に開いたり、エンジニアやディーラーマンを集めてライバル車との乗り比べをしたりと、さまざまな方法で感性の共有を図る手法が採り入れられたという。

この密なコミュニケーションを、端的に示す言葉が「隣は何をする人」。「隣は何をする人ぞ?」ではない。
チームにおける役割意識や、仲間への気配りなどのために、ちゃんと自分のまわりの人間が何をしているか、理解することが重要だということだ。
全体で共有された一つの「感性」がロードスターに反映されたのは、このチームワークがあってこそ。バラバラのパーツで構成される自動車というプロダクトが、一つの意志を持つ、血のかよった馬を育むようにつくり上げられたのである。

そして、そのつくり込みにより、つくり手の感性は、このクルマを通してドライバーに伝わっていくことにもなる。エンジン音やトルク感など、メカニカルな部分だけでなく、ステアリングホイールの握り心地(柔らかさ)や、シフトレバーの位置、形状など、手に触れる部分にも徹底的にこだわることで、人と馬との対話が実現された。

「いかにしてつくられたかも、商品力だと思う」とは、貴島さんの弁。それはユニークな開発ストーリーがネタになる、という意味ではない。開発への情熱はプロダクトに表れ、それは必ずユーザーに届き、理解されるということなのだろう。

貴島さんの、クルマづくりに対する情熱を感じ、心からクルマづくりを楽しんでいる様子を見て、学生たちも感銘を受けた様子だった。
講演は、聴講生の長い拍手で終了した。


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「マツダ・ロードスター」開発主査の貴島孝雄さん。
「マツダ・ロードスター」開発主査の貴島孝雄さん。 拡大
2003年に発表した論文「Kansei Engineering」。
なお、英語に訳すことができない「感性」をそのまま「Kansei」として使い、「Kansei Engineering」という言葉を初めて使ったのは、マツダの山本社長(1986年当時)だそうだ。
2003年に発表した論文「Kansei Engineering」。
なお、英語に訳すことができない「感性」をそのまま「Kansei」として使い、「Kansei Engineering」という言葉を初めて使ったのは、マツダの山本社長(1986年当時)だそうだ。 拡大

クルマの本質的な楽しさは不変だ!

興奮冷めやらぬ学生にインタビューした。「今日の講演を聞いて、どうでしたか?」

「クルマはもともとあまり好きではありませんが、講演を聞いて、クルマづくりにそこまでの考えがあったことに驚きました」(3年生、男)
「クルマづくりは技術の挑戦というものだと思っていました。しかし感性でつくり、感性を伝えるという、芸術作品的な一面が見て取れました」(1年生、女)
「就職先として、自動車メーカーを受けてみたくなりました」(3年生、男)

  ※

講演会終了後、貴島さんに聞いてみたかったことをぶつけた。昔ながらのクルマの楽しみは、もうなくなってしまうのか?

「クルマにおける感性は、時代とともに変化していくと思いますか?」
「クルマに関していえば、感性は変わらないでしょう。自分の手足のように操れる。そういう本質的な楽しさは、いつの時代にも共通してあるはずです。今、お釜で炊いたようにできあがる高級炊飯器が売れているんですよ。僕も買いましたけど(笑)。美味しいお米の炊き方だって、昔から変わってないんですよ」

近頃話題のハイブリッドやEVなどについても聞いた。「当然内燃機関だけに縛られるわけにはいきません。EVの時代が来たら、EVでクルマの楽しさを伝えていかなければならないと思っています」と、将来的な動力機関の交代についても考えを伝えてくれた。

私たち、旧来のクルマ好きにも、先はまだあるようで。

そういえば、貴島さんは講演の最後に「今日の話を聞いて、ロードスターを欲しくなった人はいますか?」と聞いていた。30人ほどの挙手をする学生を見て、「よしよし」と笑みを浮かべた表情は忘れない。

私も同時に嬉しくなった。
同じ感性を持つ人が増えた! と。

(webCG 本諏訪)

3代目「ロードスター」。
3代目「ロードスター」。 拡大
講演会終了後、貴島さんの周りには多くの学生が集まって、質問を投げかけていた
講演会終了後、貴島さんの周りには多くの学生が集まって、質問を投げかけていた 拡大
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