ポルシェ911カレラ(RR/7AT)/カレラ4S(4WD/7AT)/カレラ4Sカブリオレ(4WD/7AT)【試乗記】
マニュアル派も宗旨変えする!? 2008.11.28 試乗記 ポルシェ911カレラ(RR/7AT)/カレラ4S(4WD/7AT)/カレラ4Sカブリオレ(4WD/7AT)……1846万円
直噴化した新エンジンと7段セミオートマチックの採用で性能が向上した新しい「911シリーズ」。最新カレラに試乗し、新機構PDK&エンジンの仕上がりを試す。
“ゼロキュウ”の911
2009年は、ポルシェ大変革の年である。ご存じのとおり、「911」は主要モデルのパワートレインが一新され、「ボクスター」と「ケイマン」にもその技術が注ぎ込まれる。一方、2007年モデルでフェイスリフトが行われた「カイエン」には、なんとディーゼルエンジン搭載モデルが追加される予定。さらにニューモデル「パナメーラ」のデビューが控えているわけだから、われわれとしてもポルシェから目が離せない。
そんなニューモデルづくしのポルシェから、日本上陸の先陣を切ったのが2009年モデルの911である。タイプ997の911がデビューから4年の時を経てマイナーチェンジし、第2世代のタイプ997として生まれ変わったのがこの“ゼロキュウ”の911(ターボ系を除く)なのだ。
変更のポイントをざっと確認しよう。エクステリアは、一見フェイスリフト前と変わらぬ印象だが、細かい部分がいろいろと違う。
たとえばフロントマスクでは、左右のエアインテークがシャープで大きな形状になるとともに、従来、エアインテーク上部にあったフォグランプが廃止され、ウインカー、LEDポジションランプ、ウェルカムホームライトがスリムに収まっている。全車、ヘッドライトはバイキセノンタイプになり、オプションのダイナミックコーナリングライトを選ぶと、円形のヘッドライト内にふたつの“眼”が配置されるのも新しい。
一方のリアエンドは、テールライトがよりダイナミックなデザインに変更されるとともに、LEDの輝きが美しい“ジュエリーライト”を採用する。4WDモデルではふたつのテールライトがレッドのストリップで結ばれて、ワイドなリアフェンダーとともに、その存在をアピールする。
もちろん注目はDFIとPDK
エクステリア以上に大きく変わったのがパワートレインだ。ひとつはエンジン。3.6リッターと「S」用の3.8リッターのフラット6がいずれも、DFI(ダイレクト・フューエル・インジェクション)と呼ばれる直噴システムを採用。驚くべきは、新しいエンジンがシリンダーヘッドまわりの変更にとどまらず、エンジン全体の設計を一新したことだ。
排気量だけみてもその違いは明らかで、3.6リッターは従来の3596ccからわずかに拡大した3613ccとなり、3.8リッターは3824ccから3799ccへと縮小。しかし、パワーは着実にアップし、3.6リッターではプラス20psの345ps/6500rpm、3.8リッターではプラス30psの385ps/4400rpmをマークする。最大トルクもそれぞれ39.8kgm/4400rpm、42.9kgm/4400rpmとさらに力強さを増しているのだ。にもかかわらず、燃費は10%強の改善。また、部品点数の削減や構造の見直しなどで4kgの軽量化が図られているのも見逃せない。
エンジンとともに注目が集まるのが従来のティプトロニックに代わる新世代のトランスミッションだ。
ポルシェが開発したPDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)は、VWの“DSG”やBMWのスポーツATと同じ、いわゆるダブルクラッチ式のトランスミッション。PDKの場合、2組の湿式多板クラッチに1段-3段-5段-7段-リバースと2段-4段-6段のギアがそれぞれ組み合わされる7段式だ。ティプロトニック同様のイージードライブを実現しながら、マニュアルを凌ぐスポーツ性と高い効率を手に入れるのが、導入の狙いである。
そうそう、4WDが、ビスカスカップリング式からターボ系と同じ電子制御方式のポルシェ・トラクション・マネージメントシステム(PTM)に変更されたことも話題のひとつだ。
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洗練のマナーに脱帽!
このようにさまざまな部分に変更の手が加えられた新しい911。そのなかから「911カレラ」「カレラ4S」「カレラ4Sカブリオレ」の3台を試すことができた。今回は一般道を中心としたドライブになったが、PDKの仕上がりを見るには格好の条件である。
はじめに乗り込んだのが911カレラ4S、すなわち、3.8リッターを積んだ4WDモデルである。さっそくエンジンをスタートさせ、シフトレバーでDレンジをセレクト。ブレーキペダルから足を離すと、ゆっくりとクルマが進み出した。その動きは実にスムーズだ。しかし、これくらいで驚いてはいられない。アクセルペダルを踏んで加速を始めると、あっというまにギアは5〜6速に達している。いつシフトアップしたのか気づかないくらい、シフトショックは微小。試乗車にはオプションの“スポーツクロノパッケージ”が装着されていて、より素早いシフトを実現するレーシング・シフトプログラムも試してみたのだが、その場合でさえもシフトショックが気になることはない。
もちろん、トルクコンバーターがないぶん、ダイレクトなレスポンスがスポーティで、またマニュアルシフトの早さも感心。その仕上がりの高さには脱帽である。
軽快さが印象的
一方のエンジンもポルシェ伝統のフラット6らしい、気持ちのいいものだった。60km/h前後で流れる一般道では、回転計の針を1200〜1400rpmあたりにとどめながらスルスルと動く柔軟性を持ち、空いたところでアクセルを踏み込むと、3000rpmを超えたあたりから力強さを見せ始める。さらに回転が上がると、シュワーンといういつものサウンドを響かせながら一気にレブリミットの7500rpmに辿りつく。自然吸気エンジンの魅力に浸ることのできる瞬間だ。
このあと試乗した911カレラの3.6リッターも、カレラ4Sに匹敵するほど軽やかでパワフルだが、高回転域の軽さは3.8リッターに一歩及ばない印象。ただし、オドメーターの数字がさほど伸びていない状況を考えると、今回の2台だけで比較、判断するのは早計かもしれない。
残念ながら、ハンドリングについて触れられるほど走り込むことはできなかったが、4WDのカレラ4S、カレラ4Sカブリオレが、RRのカレラに負けず劣らず軽快だったのが印象的である。どのモデルも、スポーツカーとしてはまずまずの乗り心地を誇っており、街なかからワインディングロードまでこれ一台で楽しめるのは確か。しかも、PDKのおかげでマニュアルに劣らぬスポーツドライブができて、エコドライブも得意ということになれば、マニュアル派の私も、そろそろ宗旨変えしなければ……と感じるニュー911である。
(文=生方聡/写真=生方聡(U)、ポルシェ・ジャパン)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。