スバル・エクシーガ2.0GT(4WD/5AT)【ブリーフテスト】
スバル・エクシーガ2.0GT(4WD/5AT)【ブリーフテスト】 2008.08.26 試乗記 ……347万250円総合評価……★★★★★
7人乗りだがミニバンにあらず。スバルの2ボックス7シーター「エクシーガ」のトップグレードとなる「2.0GT」で、ミニバンとは違う、その走りと居住性を確認する。
快適なピープルムーバーはミニバンだけじゃない
東京モーターショーには、「エクシーガ」の名を冠するコンセプトカーが実に3回も出展されている。初出はというと1995年の「α-エクシーガ」までさかのぼる。2ボックス3列シート車という同様のコンセプトで生まれた「日産プレーリー」「三菱シャリオ」が、名前を変えつつミニバン化していくなか、「エクシーガ」は10年以上前のコンセプトそのままで世に放たれたわけである。それは時代遅れのクルマなのか? 今回の試乗では、ミニバン全盛の現代におけるエクシーガの存在価値を考えさせられた。
まず、2ボックスボディはモノフォルムミニバンよりも、安全運転におけるメリットが多く享受できると感じた。自動車教習所の多くがスタンダードなセダンを教習車として使っている現況で、このドライビングポジションと視界は、万人が運転しやすいと感じるものだろう。昨今話題にのぼることの多い燃費に関しても、トールミニバンよりは、全面投影面積が小さいクルマのほうが有利なはずである。
そしてエクシーガに関して特筆すべきなのは、走りにおける満足度が非常に高いこと。山道を走っても、ボディがしっかりついてくる感覚があり、運転が存分に楽しめる。さらに、2列目3列目の居住性も良好で、同乗する仲間に同情する必要もない。「室内はとにかく広くないと」という人にはあまり向かないが、適度な囲まれ感を心地よく感じる人も少なくないはずだ。
スバルは「エクシーガ」のカタログやウェブサイトで、同車を「ミニバン」と呼んでいない。このクルマの存在で、ついに「快適なピープルムーバーはミニバン」だけじゃなくなったのだ。
コンセプト、パッケージング、シャシーとエンジンのバランス、いずれをとっても好印象。価格も含めて、個人的にはここ数年で最も感動したクルマである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2008年6月にデビューした、スバル唯一となる7人乗りの2ボックスツーリングカー。ディメンションは、全長×全幅×全高=4740×1775×1660mm。「レガシィ・アウトバック」を少々伸ばしたようなサイズである。シャシーには「インプレッサ」のコンポーネンツが用いられ、サスペンション形式は、前マクファーソンストラット/後ダブルウィッシュボーンを採用。エンジンは2リッターNAと同ターボをそろえ、前者はFFと4WD、ターボは4WDのみの駆動レイアウトとなる。
(グレード概要)
「2.0GT」はラインナップ中唯一のターボモデル。エンジンは「インプレッサ」に搭載される2リッターターボのデチューン版だが、より重量の重いエクシーガのために、トルクの立ち上がりが早くされている。不等&可変トルク配分電子制御AWDが採用され、トランスミッションはダウンシフトブリッピングコントロール付きの5段ATが組み合わされる。
「SI-DRIVE」は「2.0GT」のみの装備。「S#」「S」「I」のモードに手動でスイッチすることで、アクセルの開度にあわせエンジン特性を変化させることができる。そのほか、フロントブレーキのディスクは16インチに拡大、パワステは油圧アシストにされるなどが装備の違いとなる。アンチスピンデバイスのVDCはオプション。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
インパネは「インプレッサ」「フォレスター」などと共通のデザインのため、特別感はない。ダッシュボードがソフトパッドではないなど、特に上質さを感じるものではないが、すっきりとしていて見やすさ、使いやすさに問題はない。
しかし、気になったのはカーナビのボタン。造形もそうだが、頻繁に使う「現在地」の配置が中央ボリュームコントローラーの上にあり、非常に押しづらかった。
(前席)……★★★★★
チルト&テレスコピックができるステアリングホイールで、ドライビングポジションは決めやすい。このグレードだけの標準装備にするのは惜しい。
ミニバンとの大きな違いは、視線の高さと視界。特に2ボックスならではの前方視界の良さは、ワンモーションフォルムのミニバンにはないもの。ミニバンでは視界のじゃまになるAピラーが手前にあるため安全確認がしやすいのは、どのドライバーにもメリットがあるはずだ。
シート形状も多くのミニバンとは違いしっかり包み込むタイプで、座面長も十分ある。スバル車のフロントシートは概して、長時間の運転でも疲れづらいと感じる。
(2列目シート)……★★★★
前席より70mm座面が高いおかげで、前方視界がよく、閉塞感もない。このあたりは乗用車と違う気の利かせかたである。
中央席は、ヘッドレストがなく、シートベルトも2点式。ドライバーの後方視界、3列目からの前方視界も遮ることになるわけで、この席はなるべくなら使わずに、6人での使用をオススメする。
2列目が恩恵を受けるはずのUVカット機能付き濃色ガラスのパノラミックガラスルーフは、大量の光を室内に届けるが、夏は非常に暑い。ブラインドがあると、使用頻度が増えるかもしれない。
(3列目シート)……★★★★★
2列目よりさらに70mm座面は高められるが、176cmのリポーターが座っても、首を傾げることはない。もちろんミニバンにはかなわないが、頭上空間は確保されている。足先は2列目シート下に入れられるので、足下にも特に不満はなし。左右のホイールハウスのでっぱりはアームレストとされるが、肘より上には空間があるため、窮屈な感じも受けない。
座面のクッションも印象は2列目とかわらず、決してエマージェンシーシートではないと言い切れる。飛び出したシートベルトバックルが、積極的に使ってくれと訴えているようだ。
(荷室)……★★★★
3列目シートを後ろにリクラインさせると、それなりに荷室は制約される。とはいえ、フル乗車時でも乗員の荷物を楽々積載できる荷室は、ミニバンにも多くはないわけで、取り立てて不満ではない。
荷室からシートバックを倒すだけで座面が沈み込み、フラットなスペースができる。床下にサスペンションを寝かせて配置されるレイアウトのおかげで、妙な出っ張りもなく、使い勝手は良い。
ハッチゲートは開閉が少々重いので、パワーゲートもしくはアシスト機構があるとさらによい。また些細なことだが、開口部下のバンパーがでっぱっていると荷物をあてやすく、傷が付くのが気になる人も多いのではないか。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
今回は行程の7割ほどを、SI-DRIVEのスイッチを「I」にして走行した。スイッチが遠く配置されていて、積極的に変える気にならなかったのもあるが、加速時や登坂時も下のギアを使うことで、十分に対応できたのがその理由。こうなると、パドルシフトが欲しくなる。多人数の乗車では発進時に物足りなさを感じたため、低回転域ではトルクセーブがないほうがいいと感じた。「S」と「S#」の違いは体感できるものの、シーン別に使い分けをとっさにはできないため、使用上の差違はあまりないかもしれない。
なお、エンジン本体の特性となるターボラグなどは全く気にならない。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
タウンスピードでは若干の突き上げを感じるが、高速道路ではそれほど気にならない。残念なのは、タイヤ/ロードノイズが大きく、ボディがその侵入を簡単に許してしまっていること。フロントが16インチとされた4輪ディスクブレーキは、利きはいいのだが、リニア感は今ひとつ。
ワインディングロードでは、ハンドル操作に素直にボディがついてくる感覚で、剛性の高さを感じ取ることができる。ターボモデルのみパワステが油圧アシスト(NAは電動)になるせいもあり、ステアリングフィールも上々。クルマとの一体感、路面との対話という部分では、一般のミニバンと比較にならないレベルにある。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:本諏訪裕幸
テスト日:2008年7月19日〜22日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:4416km
タイヤ:(前)215/50R17(後)同じ(いずれも、ヨコハマ ADVAN A10)
オプション装備:パノラミックガラスルーフ+HDDナビゲーションシステム+クルーズパック+VDC+SRSサイドエアバッグ&SRSカーテンエアバッグ+キーレスアクセス&プッシュスタート+UV&IR(赤外線)カットフロントガラス=65万6250円/カメリアレッドパール(ボディカラー)=3万1500円
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:841.5km
使用燃料:99.0リッター
参考燃費:8.5km/リッター

本諏訪 裕幸
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