フィアット500(FF/6MT)【海外試乗記(後編)】
後から前へ(後編) 2007.10.09 試乗記 フィアット500フィアットの本拠地であるトリノ・ムラッツィ地区。小回りの良さとコンパクトなサイズをフルに生かせる本国でCG大谷秀雄が試乗した。
意外とスポーツ志向
試乗車として選んだのはガソリン1.4リッターの6MTモデルで、最もパワフルなだけあって前ベンチレーテッド、後ソリッドのディスクと、ブレーキが強化されていることが特徴だ(他の2モデルでは後ドラムブレーキとなる)。
500は嵌め込み式か電動式のガラスサンルーフが選べるが、どちらも身長178cmのドライバーの頭上にはコブシが縦1個+手の平1枚、また後席では手の平が1枚入るスペースが残されていた。これ実は、サンルーフ付きのパンダとほとんど変わらない。全高が低い500に同等の空間が確保されているということは、つまり着座位置が低い。とくに後席は、直立して座らされたパンダと比べて、シートバックが適度に後傾しているため、足下のスペースは狭いと言いながらも、上半身は遥かに楽な姿勢を取れる。
隣のクルマとミラーが触れ合いそうになりながら、トリノ市内の4車線道路を運転していると、これ以上のサイズのクルマはとても運転する気にはなれない。1車線の幅員がとにかく狭い。けれども運転していて安心感を覚えるのは、強固なタマゴの殻に包まれているような気分に浸れるからで、ボディ剛性感ではパンダを凌いでいると言えるだろう。
じつはパセンジャー・シェルの強化もフィアットが謳っているところで、サイドとカーテンなどエアバッグを合計7個も配備してユーロNCAPで五つ星を獲得する、と彼らは意気込んでいるようだ(原稿を書いている7月中旬の時点では、まだユーロNCAPのホームページ上で報告されてはいないが)。
回してなんぼ
また、路面電車の線路や大きくうねった箇所を通過する時に感じるのは、引き締まった傾向にあるサスペンションだということ。標準タイヤの185/55R15に対して、テスト車はオプションの195/45R16 84H(コンチネンタル・プレミアムコンタクト2)を装着していたから、凹凸を通過するとハーシュネスがきつめとなることは否めない。
パンダの軽快なフットワークを想像していると肩透かしをくらうことになるが、いっぽうで小気味よいステアリング・レスポンスはパンダには望めなかったものだ。はっきりとスポーツ志向であることが窺える。
それにはエグゾーストノートが勇ましいファイア・エンジンもひと役買っている。リミッターが作動する7000rpmまで頭打ち感なく吹け上がるファイア・エンジンの美点は健在で、ミドルレンジから上を使っている分には痛痒感を覚えない。
カッ飛ばせばそれなりに気分は高まるのだが、正直なところ、回さないとさほど速くはない、とも言える。信号からのスタートで交通の流れに埋もれないようにするには、3500rpm以上を保つことが必要で、パワーウェイト・レシオは9.3kg/ps(車重930kgに対して100ps)と言えば、おおよそ想像してもらえるだろう。
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500に込められた想い
2004年6月のCEO就任以来、それまで業績不振や政治汚職事件で大きく揺れていたフィアットS.p.A.を救ったマルキオンネは、プレス・カンファレンスでこう力説していた。新生500は、フィアットの現在と、今後どこへ行こうとしているかを示していると。
彼がまず着手したのはグループの財政再建で、約100億ユーロあった負債を今年の第1四半期の終わりの時点で、10億ユーロ強にまで減ずることに成功したという。次に目指したのが技術的なフォアランナーとしての姿勢を示すことで、500が排ガス規制でユーロ5に準拠し、衝突安全性能でユーロNCAPの五つ星獲得を目指すのも、その表われだと説明する。
外観にレトロなモチーフを採用したのは、いわば人々への親和力が目的であり、その内実は変わろうとしているフィアットのマニフェスト的な意味合いを強く帯びているのだ。
日本市場には2008年2月に1.2リッターデュアロジック、5月に1.4リッターデュアロジック、夏にMTモデルの導入が予定されており、1.2リッターが1万500〜1万2500ユーロ、1.4リッターが1万2500〜1万4500ユーロというイタリアでの価格帯から考えると、パンダとグランデプントの間を埋める役目を担うことになりそうだ。新生500の姿にトリノの人々は驚喜していたが、さて、日本人はどう反応するのか楽しみである。
(文=CG大谷秀雄/写真=Fiat Auto Japan/『CAR GRAPHIC』2007年9月号)

大谷 秀雄
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