第41回:「エピローグ」(前編)
2007.07.28 「ユーラシア電送日記」再録第41回:「エピローグ」(前編)
『10年10万キロストーリー4』刊行記念!
トヨタ「カルディナ」で、ユーラシア横断を終えたジャーナリストの金子浩久。ようやく東京に戻り、長かった旅行を振り返る。前編では、参加メンバーのその後の様子を報告。
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ルーカスに倣う
ジョージ・ルーカスが自身の青春時代を題材にして、29歳の時に作った映画「アメリカングラフィティ」は1973年の作品だが、ベトナム戦争以前の60年代前半の“幸せなアメリカ”という近過去を振り返る、昨今のアメリカ映画の手法はこれから始まった。
この映画にはもうひとつ画期的な点があって、ストーリーがエンディングを迎えると、登場人物の“その後”がタイトルクレジットの前に伝えられるのだ。
舞台となったカリフォルニア州モデストから別の場所に移って保険の外交員をしていたり、ベトナム戦争で死亡したり、作家になっていたりする。こういった物語の終わり方はとても今日的だと思う。ストーリーはストーリーの枠で収まりきらないうちに、現実は速く移り変わっていく。その顰みに倣い、僕も、今回のユーラシア大陸横断旅行で関わり合った人々についてここで記すことで、最終報告の代わりとしたい。
まずは、相棒の田丸瑞穂カメラマン。日本を発つ前に9月末に予約していた飛行機を変更できず、かといって9月末まで無為にヨーロッパに滞在することはできない。仕方なしに9月11日のパリ発便で一足先に帰ることになった。写真家でありアルピニストである田丸さんが、当初から旅の主旨に賛同してくれ、同行してくれたことに大いに感謝している。未知の土地を手探りで旅するのに、彼ほどピッタリのパートナーはいなかった。最後まで音を上げることもなく、どんなに深酒をしても翌朝ケロッとしている強さは最後まで衰えることがなかった。
しかし、そんな田丸さんにもひとつだけ弱点があって、航空券の書き換えが成功した時に、「これでようやく家に帰れる。カネコさん、この気持ちわかりますか」と実にうれしそうだった。妻子想いの父親だ。帰国して、日常の仕事を再開するとともに、山にも登り始めている。
ロシア人の協力者
ボランティア通訳のイーゴリ・チルコフさんは8月末に東京に戻って、大学院進学の受験勉強の大詰めを迎えている。合格すれば、クラスノヤルスクから奥さんと生まれたばかりのビクトリアちゃんを東京に呼び寄せると言っていた。うまくいくといい。
二人目のボランティア通訳、アレクセイ・ネチャーエフさんはサンクトペテルブルクで僕らと別れたあと、ベラルーシの従兄弟のところに行った。18年ぶりに会って、しばらくそこに滞在してからウラジオストクに戻った。
彼に対して、“地図が読めない”とか“キチンと最後まで日本語に通訳せよ”といったずいぶんと辛口の評価を書いたが、それでも多少割り引いたつもりだ。
彼は自分でも中古のマークIIディーゼルを所有している。クルマに乗っているのだから、もうすこし効率的かつ合理的に行動してみたらどうだろうと僕はずっと訝しんでいた。しかし、サンクトペテルブルクで理由がわかった。「ロシアでは、国内旅行もあまり盛んではありません。特に移動距離が長いウラジオストクからサンクトペテルブルクなんて、お金持ちにしかできません。僕も西へ来たのは初めてです」
彼に限らず、一般的なロシア人の間では、クルマを持っていてもそれで遠くへ旅行するというのははまず考えられない、という。欧米や日本では当たり前のことが、ロシアではまだ特別なことなのだ。だから、アレクセイが戸惑っていたのも無理はない。地図が読めないのも当然なのだ。厳しいことを言って悪かった。
そんな彼も、行動力は抜群だった。出発前、電子メールで東京から衛星携帯電話のロシアへの持ち込みについて質問した時には、すぐに税関に電話をかけて調べてくれた。トランスフィンランディア号についても、すぐに調べて電子メールで伝えてくれた。あの迅速な行動力は、近い将来の彼の仕事に大いに役立つことだろうと期待している。
(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年10月初出)

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最終回:「エピローグ」(後編) 2007.7.29 トヨタ「カルディナ」でユーラシア横断を終えたジャーナリストの金子浩久。東京で旅行を振り返る。 海外での日本人職員の対応や、ロシアの現状について考える。
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