フェラーリ612スカリエッティ(2ペダル6MT)【海外試乗記(後編)】
大上段のフェラーリ(後編) 2004.04.08 試乗記 フェラーリ612スカリエッティ(2ペダル6MT) 全長5m近いトップ・オブ・フェラーリを、『webCG』コンテンツエディターのアオキがドライブ、ドライブ! 雪の残るエミリアの山道を、「612スカリエッティ」が行く。
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25psアップ!
フェラーリ「612スカリエッティ」のプレス試乗会は、跳ね馬の本拠地マラネロを基点に行われた。同地の最新工場には、新しいフラッグシップのために、生産ラインが追加された。ほど近い場所にあるフェラーリのスカリエッティ工場内で、アルミのスペシャリスト、アルコア社の協力を得て、ベースとなるスペースフレームが組まれ、ボディ外板が取り付けられ、塗装され、マラネロに運び込まれる。
エンジンは、基本的に「575Mマラネロ」と同じもの。バンク角65度の5748ccV型12気筒で、DOHC4バルブのヘッドメカニズムをもつ。もちろん、クランクケース、シリンダーヘッドとも軽合金製。専用のオイルラジエターを備えたドライサンプユニットである。
ただし、吸排気系のリファインと圧縮比を上げたことで、575Mを25ps上まわる540ps/7250rpmの最高出力を発生する。最大トルクは変わらず、60.0kgm/5250rpm。
手縫いのレザーが惜しげなく使われたラクシャリーな室内。対照的に、サイドシルに貼られたスカッフプレート、ダッシュパネルの一部、シフトパドル、空調ボタン、ペダル類、そして助手席の足もとにはアルミ素材が用いられ、スカリエッティのハイテックなボディ構造を暗示する。ステアリングホイールの向こうのメーターナセル内には、中央に回転計が鎮座する。向かって右は340km/hまで印字された速度計、左は車載コンピューターのディスプレイ。
スライド、座角、リクライニングはもとより、ランバーサポート、ヘッドレストの上下まで電動化された、ホールド性に優れ、かつ座り心地のいいシートに座ると、スカリエッティ、デカいな。助手席のドア内張が遠い。高いショルダーライン、インストゥルメントパネルの上面も高めで、車内はルーミーというよりガランとした印象。フェンダー左右の盛り上がりで左右幅は容易に把握できるが、それでも大きい。混雑した市街地をすっ飛ばし、早いとこアウトストラーダに乗りたい気分で12気筒に火を入れた。
乗り心地のよさ
3000万円級のエクスクルーシブカーらしく、静々と走り始める。乗り心地はいい。4輪ダブルウィッシュボーンの足まわりは意外なほどソフトで、マラネロ近郊の、荒れがちの舗装を意に介さない。
スカリエッティのトランスミッションは、コンベンショナルな6段MTと2ペダル式6段MT「F1 A」から選べる。トルクコンバーター式ATは用意されない。テスト車にはフェラーリが誇るF1システム、つまり後者が搭載される。
「360ベルリネッタ」に搭載された当初は、スムーズさの不足に批判を受けたこともあるトランスミッションだが、フェラーリとマニエッティマレリの協業のもと、順当な進化を遂げた。路上の主を気取って優雅に走るかぎり、シフトタイミングよく、クラッチのミートもおだやかだ。ギアチェンジの際の、乗員の頭部が前後に振られる量がグッとすくなくなった。
高速道路で料金を払い、試しにスロットルペダルを床まで踏みつけると、ロウ−セカンド−サードと、ギアが変わるたびタコメーターの針は5800rpm付近を指して、0−100km/h=4.2秒の加速力を見せつける。ギアは俊敏に繋がれるが、さすがにシフトの合間に上体が揺すられる。
612にとって、日本の法定速度はあまりに低い速度域らしい。100km/hのクルージングでは、速度感応式パワーステアリングはちょっと不安になるほど軽い。安楽、ではある。スカリエッティは、まったく贅沢なグランドツーリングカーとしてアウトストラーダを行く。フロントに積まれた12本のシリンダーは、足並みを揃えて、静かにまわる。
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正攻法で
雪の残る麦畑を見ながらのハイスピードクルージングでは、フェラーリを運転しながら「退屈」という単語が頭に浮かびそうになってわれながら驚いたが、山岳路に入ったとたん、そんな自分が恥ずかしくなった。トランスミッションを「AUTO」モードからパドルを引いて「MANUAL」モード、さらにステアリングホイールに備わるボタンを押してノーマルから「SPORT」モードにすると、どこかダブついていたトップ・オブ・フェラーリは、にわかに体を引き締め、身構えた、ように感じた。
エミリアの山道は、両側に雪がのけられ、幸いにも路面は乾いている。612スカリエッティの、456からの全長延長分以上に長くなったホイールベースは、12気筒を前輪車軸の後ろに搭載することを可能にした。トランスミッションはリアデファレンシャルと一体化され、車体後部に置かれる。
フロントミドシップとトランスアクスルの恩恵で、5m近い跳ね馬は、前:後=46:54という理想の重量配分を得、全体のマスの85%が車軸間に収まる。前「245/45ZR18」後「285/40ZR19」のピレリP-ZEROロッソは路面を捉え続け、612は危なげなくタイトな曲がりをこなす。8気筒ベルリネッタの弾けるような活発さは見せないが、自然で、落ち着いた身のこなしで、ドライバーを楽しませる。
5.8リッターユニットは、スロットルペダルの操作に12本のシリンダーと48枚の吸排気弁がキレイに呼応し、7400rpmのレブリミットに向かって一気に駆け上がる。V12を積んでいたころのフェラーリF1マシンを思い出すと、高音域での伸びがいまひとつで、存外、地味なサウンドに感じられるが、それは較べる相手が悪い。
スカリエッティのパワーユニットは、ショートストロークをフルにまわして、というより、やはり大排気量の圧倒的な迫力が醍醐味である。スロットルペダルを軽く踏むだけで怒濤の加速を見せ、そのうえで「まだまわるのか」と、ドライバーをおびやかす。
612スカリエッティは、フェラーリとして初めて、各輪のブレーキを個別に制御するアンチスピンデバイス「CST」を備えた。前述の「ノーマル」「スポーツ」モードを切り替えることで手助けするプログラムも変更され、しかもボタンによってカットすることも可能だ。が、曲がった先にときどきあらわれるウェット路面と、神聖ローマ皇帝ハインリッヒ4世が足を凍えさせた「カノッサ」の標識が目に入ったことが、リポーターに、CSTのカットボタンに触れることを躊躇させた。
1990年代における自動車メーカーの合従連衡を経て、スーパースポーツは、いまや一部のスポーツカーメーカーの独占物ではなくなった。ポルシェ、ランボルギーニほか、少数のエグゾティックなメイクが棲み分けていた市場は、従来の量産車メーカーが、各グループのイメージリーダーを押し出すため、惜しげなく投資するカテゴリーのひとつとなった。純然たるサルーンの、高性能化も見逃せない。
フェラーリは、数が出る4ドアサルーンは、傘下のマゼラーティにモノコックボディで比較的安価に製造させ、一方、新しい2ドアのトップエンドを“4シーター”とはっきり性格づけて、もうひとつのFRモデル「575Mマラネロ」と迷う余地をなくした。モデルラインナップを整備するにあたり、「フェラーリの4シーターはどうあるべきか?」を真っ正面から検討し、開発した。マラネロのトップブランドは、いま、襲いかかる挑戦者をバッサリ返り討ちにあわせんと、大上段に構えたところだ。
(文=webCGアオキ/写真=野間智(IMC)/2004年4月)
・フェラーリ612スカリエッティ(2ペダル6MT)【短評(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000015055.html

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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