トヨタ・クラウン 2.5ロイヤルサルーンG(FR/6AT)/ハイブリッド ロイヤル(FR/CVT)【試乗記】
チャレンジしてる 2013.03.05 試乗記 トヨタ・クラウン 2.5ロイヤルサルーンG(FR/6AT)/ハイブリッド ロイヤル(FR/CVT)……542万3750円/410万円
日本を代表する高級セダン「トヨタ・クラウン」。1955年生まれの初代以来“長い付き合い”の巨匠 徳大寺有恒が、最新モデルを吟味した。
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ビッグネームに歴史あり
松本英雄(以下「松」):今日の試乗車は久々の大物となる新型「クラウン」です。
徳大寺有恒(以下「徳」):そいつは楽しみだ。なんたって1955年に誕生した国産最長寿ブランドであり、日本車を代表する高級車だからな。
松:新型は14代目になるんですが、巨匠は13代目までの歴代モデルすべてに、新車当時にリアルタイムで乗っているんですよね。
徳:そういうことになるな。
松:貴重な歴史の証人ですね。
徳:まあ、初代を新車で体験しているのは、俺と同世代以上のジジイしかいないわけだから、そういう意味じゃ希少だろうな(笑)。
松:初代が登場したとき、巨匠は?
徳:高校1年。クラウンは55年の1月にデビューしたんだが、実家のあった水戸ではなかなか見る機会がなくて、その年の5月に日比谷公園で開かれた第2回全日本自動車ショウ(東京モーターショーの前身)で初めて実車を見たんだ。そのときのことは、はっきりと覚えているよ。
松:運転したのは?
徳:それから2年後。実家はタクシー会社をやっていて、営業車は古いシボレーだったんだが、クラウンの評判がなかなかよかったし、発売から2年たって品質も安定しただろうということで、オヤジが1台入れたんだ。ライトブルーの「スタンダード」だったな。
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松:乗ってみていかがでしたか? 以前に伺ったところでは、当時は16歳で取得可能な小型免許で5ナンバーまでのクルマを運転できたので、巨匠は高校時代からクルマに乗っていたんですよね。
徳:ああ。大事な営業車を壊されたらかなわないということで、オヤジからサイドバルブの860ccエンジンを積んだポンコツのダットサンをあてがわれていた。それに比べたら、クラウンはすばらしかったな。ダットサンに限らず当時の国産車は、乗用車とはいえ前後リジッドアクスルのトラックシャシーを流用していたから、性能も乗り心地もひどいもんだった。その点クラウンは、前輪独立懸架を備えた乗用車専用設計だったから。
松:クラウンの登場はトヨタのみならず、日本の自動車産業全体にとっても画期的な出来事だったそうですね。
徳:うん。今の感覚では信じられないだろうが、国産車育成か輸入車依存か、なんて議論が政財界で大真面目に行われていたくらいだから。ところが外国メーカーと技術提携を結ばず、純国産にこだわったトヨタが独力でクラウンを作り上げたことで、国産車無用論はフェードアウトしたんだ。
松:逆を言えば、もしクラウンが出なかったら、日本の自動車産業は今とは違う形になっていたかもしれないわけですね。
徳:そういうこと。日本が世界一の自動車生産国、トヨタが世界一の自動車メーカーになるなんて夢にも思わなかったが、俺に言わせればそこに至る道のりの第一歩、近代日本車史の始まりは初代クラウンにあるんだな。
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日本の風土で独自に進化
松:巨匠にとって思い出深いクラウンというと、やはり初代「RS」ですか?徳:そうだな。初めてメーター読みで100km/hを体験したのも、実家にあった初代クラウンだったし。
松:なるほど。1962年に出た2代目「RS40」系は、トヨタワークス在籍時代に散々乗ったんじゃないですか?
徳:ああ。実家の手伝いでタクシーも運転したし、トヨタを辞めた後に中古を買って乗っていたこともあるぜ。後から加えられた直6SOHCエンジンを積んだグレーの「オーナースペシャル」だった。
松:へえ。じゃあ3代目「MS50」系は?
徳:「白いクラウン」だな。新型ではピンクのクラウンがどうこう言ってるが、3代目は日本で初めてボディーカラーをセールスキャンペーンのポイントとして大々的に打ち出した。そして黒塗りの法人車やタクシー向けというイメージを弱め、オーナードライバー層の拡大に成功したんだ。
松:あれは俳優の山村聰をイメージキャラクターに起用したのもよかったですね。
徳:彼はいかにも都会的で、知的で、上品で、ゆとりのある壮年紳士という雰囲気で、これ以上の人選はないというくらいハマっていたな。一度だけ横浜の元町でご本人を見かけたことがあるが、実際とてもダンディーな方だったよ。
松:運転した印象はいかがでしたか。
徳:「トヨグライド」(自社製AT)が3段になったのは大きな進歩だった。それまでの2段ではかったるかったから。でも、トヨタは初代クラウンの途中から自社開発のATを用意したのだから、先見の明(めい)があったな。
松:それがよかったかどうかはともかく、今や日本は世界一のAT大国ですものね。
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徳:はじめのうちは需要が少なくてもうからなかったと思うが、トヨタはひたすらイージードライブ化を推進したんだよ。トヨタのそういうところは、本当にすごいと思う。3代目クラウンに話を戻すと、あの代からその後長らく使われることになるペリメーターフレームを採用したんだよな。
松:ペリメーターフレームは、当時GMがインターミディエイト以上のモデルに使ってましたよね。
徳:トヨタもそれに倣ったんじゃないかな。モノコックに比べて静粛性の点で有利と考えたんだろう。その後、代を重ねるにしたがって、高級車にとってもっとも大切な静粛性について、クラウンは磨きをかけていくわけだが。
松:そのいっぽうで、巨匠の趣味とはどんどん離れていってしまった節もありますが。
徳:たしかにそれはあったが、あるとき地方の素封家に止められているクラウンを見て、この風景にこれ以上似合うクルマはないと感じた。日本の風土で独自の進化を遂げた高級車としてのクラウンの価値を、趣味嗜好(しこう)はともかくとして、認めないわけにはいかないと思ったね。
松:そういえば一時期、終(つい)のクルマはクラウンにしたい、と書いてましたね。
徳:うん。ところが実際にジジイになってみると、年寄りが乗るには今のクラウンは大きすぎるんだな(笑)。
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2.5リッターで十分
松:じゃあ、そろそろ乗りますか。まずは2.5リッターV6の「ロイヤルサルーンG」から。
徳:最初に写真を見たときは、顔つきにものすごく違和感を覚えたのだが、実車を見ると想像していたほど悪くはないな。
松:同感です。トヨタの話では販売店からもそういう反応が多かったそうですよ。資料を配布した時点では否定的な意見が少なくなかったが、内覧会でいざ実車を見せたら、ポジティブな感想に変わってきたと。
徳:見慣れちゃうんだろうな。決してカッコイイとは思わないが、かといって拒否するほどイヤじゃない。
松:内装はいかがでしょう?
徳:悪くないが、シートがもうちょっと薄い色目のタンだったらよかったな。
松:シートはオプションの革張りですが、僕は標準のファブリックのほうがいいですね。さっきちょっと座ってみたんですが、風合いも感触も良かったですよ。
徳:そうかい。ウインドシールドの上部が青く着色されているところにクラウンらしさを感じるな。初代クラウンに後から追加された「デラックス」のウインドシールドは、全面が淡い青に着色されていて、それがとてもシャレて見えたんだ。
松:へえ。しかし、静かですねえ。
徳:これぞクラウンの真骨頂だろう。乗り心地も文句ないし、らくちんという意味では、これ以上のクルマはないだろうよ。
松:とはいえこのエンジン、回すとけっこう元気がいいんですよ。
徳:たしかに。パワーはこれで十分だな。
松:ええ。3.5リッターの「アスリート」にも乗りましたが、2.5リッターで不満はありませんね。
徳:アスリートか。商売上は必要なんだろうが、個人的には足を固めたクラウンなんて興味ないね。
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松:まあそうおっしゃらずに(笑)。ところで、まだ生産型ではないそうですが、ハイブリッドの試乗車もあるんですよ。
徳:おお、そうかい。ハイブリッドといえば、初期受注の6割以上を占めるんだって?
松:なんたってカタログデータでは、2.5リッターV6の2倍以上も燃費がいいですからね。高級車とはいえ、トヨタとしても新型はハイブリッド中心に考えているんでしょう。
徳:ふ〜ん。考えてみれば、クラウンの上級グレードに直4のガソリンエンジンが載るのは、2代目RS40系以来なんだな。
松:2.5リッター直4となると、さすがに車外で聞こえるアイドリング時のエンジン音は大きめですね。
徳:そりゃ、しょうがないだろう。
松:もっとも生産型はさらにブラッシュアップされるそうですから、それが出たらじっくり乗ってみましょう。
徳:しかし、さっき話に出たATしかり、このハイブリッドしかり、トヨタはこれと見込んだ技術には惜しみなく投資してモノにするんだよな。これは本当にすごいと思う。
松:そうですね。あまりに流れが自然だったので見落としがちですが、日本一の長寿ブランドであり、日本を代表する高級車であるクラウンまでハイブリッドが主流になりつつあるという事実に、われわれはもっと驚くべきなのかもしれません。
徳:発表会で「クラウンは常に革新へと挑戦してきたクルマ」と言ってただろ? そもそも初代の誕生からして純国産乗用車製造への挑戦だったように、クラウンは伝統を誇るものの、決してその姿勢は保守一辺倒じゃないんだな。
松:「伝統とは革新の連続」という言い回しがありますが、クラウンはまさにそんなクルマなんですね。
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=峰昌宏)

徳大寺 有恒
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