プジョー208GTi(FF/6MT)
「ホットハッチ」のあるべき姿 2013.05.15 試乗記 合言葉は「GTi is Back」。小柄なボディーに200psのターボエンジンを積んだ「プジョー208GTi」に、南仏はニースで試乗した。「GTi」の文字に込められた思い
プジョーにおけるホットハッチとは、それすなわち「GTi」である。
……と、そのイメージは80年代の半ばに登場した「205」シリーズによって醸成された。WRCのグループBカテゴリー参戦を機にホモロゲーションモデルとして製作された「ターボ16」の印象は飛び抜けて強烈だが、そのイメージを上手に引き継いだ「205GTi」は相前後するラリーフィールドでの活躍とイメージをシンクロさせ、プジョー屈指のスポーツグレードとして一世を風靡(ふうび)、日本でも多くの台数が販売された。
新しい「208GTi」を説明するにあたって、プジョーが用意したキャッチフレーズは「GTi is Back」だ。言うまでもなく、それは205GTiの再来を意味している。「206」「207」の世代ではヨーロッパ市場の好況も手伝ってのことだろう、GTiの前後にはよりラグジュアリーな「GT」や、よりスポーティーな「RC」というグレードが用意され、シリーズ全体の付加価値向上が図られていた。日本でもRCがGTiの実質後継としてフィーチャーされたりで、ユーザー側の混乱を招いていたのは事実だ。
ご存じの通り、208シリーズは大胆な軽量化と共にボディーサイズもやや小さくなり……と、Bセグメントらしい成り立ちに立ち戻ったクルマに仕上がっている。この体躯(たいく)を利して、体育会系モデルの方も原点回帰を図ろうというのがプジョー側の意向なのだろう。とがったニーズに特化するのではなく、万人が毎日幅広く楽しめる軽快なスポーツ。それこそ、ホットハッチの本分を忠実に全うするという、その決意がGTiのバッジには込められている。
大事なのは公道を楽しく走れること
208GTiに搭載されるエンジンは、PSAのモデルレンジの大半を担うほどになった1.6リッター直噴4気筒ターボ。そのチューニングは同門の「RCZ」の6段MT仕様にほぼ準拠しており、28.0kgm(275Nm)の最大トルクを1700rpmから発生するという扱いやすいものになっている。200psのパワーはくしくも同時期に発表された新しい「ルノー・クリオRS」と同じ。BセグメントのFFホットハッチとしては大台ともいえる堂々たる数字だ。が、クリオRSがDCTミッションに5ドアボディーの組み合わせと間口(まぐち)を大きく広げたのに対して、208GTiは3ドアボディーに6段MTのみの組み合わせとなる。
これについてもプジョーのエンジニアは、絶対的な速さよりあえて公道で楽しく走れることを前提に全てを最適化することがGTiのコンセプトであることを強調する。できるだけシンプルなメソッドでクルマとの対話性を楽しめるものに仕立てたい。208GTiにはそういう意図が込められているというわけだ。230km/hの最高速も6.8秒という0-100km/h加速も結果論であって、そこに至る課程がいかに充実したものであるかにプジョーはこのクルマの価値を問うているともいえるだろう。
その、使いで十分な走りを支える大きな要素が、207世代ではかなえられなかったボディーサイズや車重によってもたらされていることは十分に理解できる。全長が4mを切り、全幅が1.7mをちょっとはみ出す程度という車格は基準車のそれと同一、そして車重は「207RC」と比べると実に90kgのマイナスを実現しているという。見るからに予想できるその敏しょう性をことさらに誇示することなく、差し色の赤を利かせて仕立てた内外装には、やはり彼らいわくの「ラジカルでなくシックなマルチパーパスこそがGTiのエスプリ」という狙いが見え隠れしている。
思い出すのはやはり「あのクルマ」
重くはなくも適度な摺動(しゅうどう)感を伝えるクラッチをスッとつないで走り始めると、まず気づくのがホットハッチとは思えぬアシの動きの滑らかさだ。205/45R17という装着タイヤはさほど乗り心地に有利なわけではないが、全方位的性格の「ミシュラン・パイロットエグザルト」を履くこともあってか、低速域での凹凸や鋭利なギャップ等の乗り越えでも粗雑な反応は極力抑え込まれている印象。連続するアンジュレーション(起伏)には若干車体も左右に揺すられるが、基本的にはフラット感もよく保たれている。吸排気のサウンドチューニングも適切なレベルなら、ロードノイズもスポーツモデルとしては十分以上に封じてあり、日本でいうロングツーリングのレベルなら全くといっていいほど不快要素がないといっていいだろう。
ニース郊外のワインディングロードといえば道幅も狭く舗装も荒れている上、アップダウンも激しい……と、クルマにとっては素性がすぐさま露呈するほど過酷な環境だが、あえて狙ったかのようにタフなルートを試乗コースに選定した理由は、ペースを上げるほどに実感できた。200psのパワーを前輪でしかと受け止めつつ、リアサスは路面をどっしり捕まえてと、208GTiの走りは徹頭徹尾安定している。が、そのフィードバックは例えばドイツ車の、具体的に言えば「ポロGTI」のようにカチッと硬質なものとはひと味違う。量は少なめながらもゆったりと柔らかにロールをさせながら、タイヤを地面に粘りつかせているサマは、実際にクルマの動きやステアリングのタッチからも十分伝わってくる。そして粘り強いぶん、動きが鈍重に感じるかといえばそんなことはまったくない。この辺りはやや立ち上がりの強い操舵(そうだ)ゲイン以上に、マスの小ささや軽さが大きく作用している。
上屋(うわや)は軽やかに振る舞いながらも足元はネットリとへばりつき、ドライバーは体を心地よく揺すられながらも平穏に次のコーナーへと構えがとれる。山道での208GTiの一連の動きを味わっていると、確かにそこから思い出すのは205GTiのフィーリングだ。その後に登場した「306」と「106」の「S16」は、車格なりのレスポンスに違いこそあれ、根底にあるのは柔軟な振る舞いの中に秘めたシャープな身のこなしだった。
ホットハッチとて、見ても走ってもゴリッとした主張が必要という時代をしばらく経験してきた身には、208GTiの走りにはある種の懐かしさと共にたまらない居心地の良さを覚える。そうそうこういう感じだったよねという普段着感覚をこの機にあえて提唱してきたプジョーの見識を僕は支持したい。
(文=渡辺敏史/写真=プジョー・シトロエン・ジャポン)
テスト車のデータ
プジョー208GTi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3960×1740×1470mm
ホイールベース:2540mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:200ps(147kW)/6000rpm
最大トルク:28.0kgm(275Nm)/1700rpm
タイヤ:(前)205/45R17/(後)205/45R17
燃費:13.8km/リッター(JC08モード)
価格:299万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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