スズキ・アルト エコS(FF/CVT)
お値段以上の価値がある 2013.08.21 試乗記 ハイブリッド車に匹敵する33.0km/リッターの燃費を実現した「スズキ・アルト エコ」。「ダイハツ・ミラ イース」と双璧をなすその実力を試した。軽における燃費競争の火付け役
「24.5」→「30.2」→「33.0」
一体何の数字が変化しているのか、と不思議に思う向きもあるかもしれないが、これは2009年に登場した現行型「スズキ・アルト」と「アルト エコ」のカタログ燃費の変化である。最初の24.5km/リッターは、フルモデルチェンジ当時の10・15モード燃費の数値だ。そこから約2年、2011年11月に追加されたアルト エコは10・15モードで32.0km/リッター、JC08モードで30.2km/リッターと、その年の9月に「ダイハツ・ミラ イース」が実現した30.0km/リッターを意識して、わずか0.2km/リッターとはいえライバル超えを達成。この頃から軽自動車の燃費競争は新たなステージに入ったと言っても過言ではない。
そして、現在のアルト エコの燃費が33.0km/リッター。この数字は軽自動車のカテゴリーだけでなく、エコカーの代名詞でもある「トヨタ・プリウス」(それも実質燃費スペシャルの「L」)の32.6km/リッターをも超えている。ハイブリッド機構を使わずにこの数値を達成した点は評価に値する。
この、従来モデルから実に2.8km/リッター(約9%)の燃費向上を達成したバックボーンにあるのが、新型「ワゴンR」より採用された「スズキグリーン テクノロジー」である。独自のエネルギー回生機構である「エネチャージ」や、減速時にエンジンが停止する車速を引き上げて13km/h以下までとした「新アイドリングストップ機構」、またこれに連動し、エンジン停止中もエアコンからの冷風を一定時間維持する「エコクール」などがメインとなっているが、これらと同時に、車両各部の性能見直しなど細かい技術の積み重ねでこの低燃費を達成している。
発売から少し間があいてしまったが、今回は夏場というエアコンがほぼフル稼働する環境でどれだけの燃費を稼げるのか、また燃費スペシャル車にありがちなドライバビリティーの低下をどの程度抑えているのかなども含め、都内から高速道路を使い、その実力をチェックしてみた。
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ダイエットの効果は抜群
まず市街地を走ってみると、自分がイメージしていたよりその走りは軽快。交通の流れに遅れることなく走れるあたりなど、ドライバビリティーを犠牲にすることなくうまく仕上げていると感じた。もともと現行型アルトは、先代より軽くなるよう軽量化に腐心したクルマだった。これが燃費と走りの双方に効くことは誰もがわかる理屈であり、2011年に登場したアルト エコは標準モデルよりマイナス20kg、そして2013年2月の改良で、さらに20kgの軽量化に成功している。
正直言えば1g軽くすることさえ大変な自動車の世界、さらに軽自動車というカテゴリーはもともと減らせる部分が少ないわけだから、新機構を搭載しつつの軽量化はもはや限界なのではないだろうか。そんなせっかくダイエットを頑張ったクルマなのに、試乗するのが90kg近いメタボリックボディーを持つ筆者というのがちと申し訳ない。
また、こちらは体感することは難しいが、ブレーキパッドのスプリング部分にコーティング処理を施すことで引きずり抵抗も軽減しているという。
インテリアを見回してみると、フルモデルチェンジではないのでインパネまわりの変更は最小限。標準モデルとの大きな違いはメーターにある。特に燃費効率が良い運転状態ではスピードメーターの20の倍数(20km/h、40km/h、60km/h……)に組み込まれたLEDがブルーからグリーンに変わることでメーター全体の色調が変化。「チラ見」するだけで自分がエコドライブをしていることがわかる。一方、自慢のエネチャージの動作状態は小さなインジケーターひとつと控え目だ。アイドリングストップ機構もそうだが、既存のメーターユニットを生かしつつ、新たな機能を加えるスペースはほとんどないのだろう。
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夏にありがたいエコクール
気になる燃費に関しては、前述した新技術がかなり効いていることが体感できた。中でも市街地走行で効果を強く感じたのは、改良されたアイドリングストップとエコクールである。減速時のエンジン停止は前モデルが9km/h以下だったのに対し、13km/hに作動領域が拡大されたことで当然燃料消費は抑制できる。この手の機構の場合、エンジンが停止してからブレーキを踏むわずかな時間にペダルに違和感が生じるものだが、この部分もうまく……完璧ではないが、チューニングされている。
試乗当日はあえて渋滞が発生しやすいエリアに入り、アイドリングストップを積極的に使ってみたのだが、エンジンが停止してもエコクールによりエアコン吹き出し口からの冷風はキープされていた。このシステム、要はエバポレーターに蓄冷剤(パラフィン系)を組み込んだだけと、構造は非常にシンプル。通常は冷房によって固化されている蓄冷剤が、エンジンが止まった時に液体状態へと戻ることで周囲の熱を吸収。しばらく冷風を出すことができるのだ。実際、吹き出し口からの冷たさは徐々に落ちていくものの、ほぼ1分間は冷風を体感できた。エアコン全開の夏場には本当に効果を体感できるスグレモノであり、大変ありがたい。またエンジン再始動時のショックも従来モデルから改善された。ライバル車と比べても、マイルドな始動フィーリングといえる。
特筆もののコストパフォーマンス
ステージを高速道路に移し、あえてアップダウンの多い中央道を走行してみると、その非凡な実力に驚かされた。もちろん流れに乗るためや登坂路を登るためにアクセルを多く踏み込めば、エンジン音は高まり、燃費も当然悪化する。しかし定常走行時における予想を超える直進安定性や副変速機付きCVTにより低く抑えされたエンジン回転数により、想像以上に快適なのである。
乗り心地も同様。実はこのクルマには、ダンロップの低燃費タイヤ「エナセーブEC300」が装着されており、他社のエコカー同様、燃費向上のために空気圧は300kPaとかなり高めにとられている。さすがに高速の大きなギャップを乗り越えた際には「ボコン」という突き上げはあるものの、全体的な乗り心地はエネチャージ導入前の従来モデルから随分向上している。静粛性に関しても、もともとの空気抵抗の少ないボディーに加えて、専用の空力パーツの採用などもあり、単なるエコカー=我慢クルマのレベルは脱していると言っていい。
さて、気になる燃費だが、市街地45%、高速55%でトータルの走行距離は393.5km、使用した燃料は16.24リッターで24.23km/リッターという結果だった。前述したように、街中、高速ともほとんどエコ運転を意識せずの結果なので、これはかなり優秀な部類と言えるだろう。
最後に、これだけの性能を手頃な価格で実現した点も伝えておきたい。今や、同じ軽乗用車でもトールタイプのものは1.3リッタークラスのコンパクトカーとそれほど価格は変わらない。しかしアルト エコの場合、今回試乗した上位グレードの「エコS」のFF車で100万円ピッタリである。これより10万円安い「エコL」もあるが、このグレードにはリアヘッドレストの設定がないので実質オススメできない。横滑り防止装置の設定がないことについては今後の改良に期待だが、快適装備も十分なうえ、実はロングホイールベースのおかげで室内も見た目以上に広い。某家具店のキャッチコピーではないが「お値段以上」のクルマなのである。
(文=高山正寛/写真=河野敦樹)
テスト車のデータ
スズキ・アルト エコS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1520mm
ホイールベース:2400mm
車重:710kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6000rpm
最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)155/80R13 75S/(後)155/80R13 75S(ダンロップ・エナセーブ EC300)
燃費:33.0km/リッター(JC08モード)
価格:100万円/テスト車=103万1500円
オプション装備:LEDサイドターンランプ付きドアミラー+キーレスプッシュスタートシステム+イモビライザー(3万1500円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2176km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:393.5km
使用燃料:16.2リッター
参考燃費:24.2km/リッター(満タン法)

高山 正寛
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