第226回:三菱が20年かけた4WD技術はダテじゃない!
「アウトランダーPHEV」女神湖氷上試乗会リポート
2014.02.08
エディターから一言
燃費だけのクルマじゃない
上信越自動車道を降りて佐久の街並みを抜け、上り坂の県道に入るとだんだん不安になってきた。路肩に雪が残るものの、晴れやかな日差しを受けて道路上はきれいに乾いている。氷上試乗を行うというのに、湖はちゃんと凍っているのだろうか。クルマごと水没という事態だけは避けたい。ヒートテックを買い込んで万全の防寒装備を整えてきたのだが、用意すべきは浮き輪だったのか――。そんな無駄な心配をするのが都市生活者の浅はかなところで、ホテルに到着すると、アプローチの道は押し固められた雪で真っ白になっていた。
氷上試乗の舞台となるのは、蓼科にある女神湖だ。夏はボート遊びでにぎわうが、湖面が氷結する冬季には氷上ドライブのコースが設けられる。愛車を持ち込んで走ることができるので、関東からも関西からも多くのクルマ好きがやってくるようだ。三菱は「アウトランダーPHEV」の4WD性能を体感させるため、この場所を選んだのである。
アウトランダーPHEVは2013年1月の発売以来販売が好調で、電池の生産が追いつかない状況にあるという。高評価の要因として大きいのは、やはり驚異的な燃費だろう。「プラグインハイブリッド燃料消費率(複合燃料消費率)」は67.0km/リッターという異次元の数字で、ハイブリッド燃費単体でも18.6km/リッターをマークする。満充電からのEV走行距離は60.2kmで、ガソリンを満タンにした場合の航続可能距離は897kmだ。
エコカー減税と補助金を合わせれば、実質的な価格は300万円を切っている。お買い得感が販売成績に結びついているのは喜ばしいことだが、三菱としてはこのクルマが環境面と経済面からだけ評価されるのでは寂しいわけだ。今回は燃費のことは頭から消去する。クルマとしての出来、中でも4WDの機能をアピールするための試乗会なのだ。
開発したのはランエボチーム
試乗前夜の懇親会で、商品開発を手がけた上平 真さんと話をすることができた。ちょっと昔の広告代理店マンのような風貌にもかかわらず、なんともアツい人だった。“ヨンクの三菱”の誇りを体現したかのように熱弁を振るう。それもそのはず、以前は「ランサー エボリューション」の開発に関わっていたのだ。上平さん以外にも、アウトランダーPHEVにはランエボチームが多く参加しているという。このクルマは、ある意味では「ランエボXI」なのだ。
「ウチは20年前からトルクベクタリングをやってますから」
上平さんの言葉からは、自信とプライドが自然にあふれ出る。20年前というのは、「ランエボIV」に採用されたAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)のことを言っている。左右の駆動輪に回転差をつけることによって旋回性能を高める機能がトルクベクタリングで、最近はやりのキーワードだ。自分たちはコツコツと技術を鍛え上げてきたのに、今になって新しい技術であるかのように取り上げられるのが上平さんは納得いかないらしい。まあ、そういう宣伝下手も三菱らしいところではある。
アウトランダーPHEVには、全車に「S-AWC(Super All Wheel Control)」が装備されている。これは4輪の駆動力と制動力を統合制御してドライバーの操作に忠実に応える車両の挙動を実現しようという技術で、「ランエボX」にも使われている。しかし、比べるとアウトランダーPHEVははるかにシンプルな構造だ。ランエボXは、アクティブ・センター・ディファレンシャルやヘリカルLSDなどを使った複雑な機構でパーフェクトな制御を試みている。しかし、アウトランダーPHEVはツインモーター4WDなので、そもそも前後の駆動力は機械的には完全に切り離されているのだ。
モーターで駆動するということは、レスポンスの面ではエンジンよりはっきりと有利である。路面状況とドライバーのステアリングやアクセルの操作から判断し、瞬時に最適な制御を行うことができる。氷の上でそれを試すのがだんだん楽しみになってきたが、上平さんは心配顔だ。
「今日乗ってみたら、氷の上に水が乗っていて、まったくミューがない状態だったんですよ。4WD機能というのは低ミュー路では真価を発揮しますが、ゼロミューではどうにもなりません」
この日の走行では、FRのクルマを持ち込んで立ち往生する人が続出していたという。ツインモーター4WDの性能を試せるかどうかは、氷のコンディション次第ということだ。
ブレーキで駆動力を制御
朝起きると、駐車場に停めておいたクルマは雪に埋もれていた。夜の間に結構降ったらしい。これならば、氷の上に雪が乗って、少しは駆動力をかけられる状態になっているはずだ。頭の上は青空。素晴らしいコンディションである。技術説明の後、さっそく試乗を開始する。氷上ドライブコースは、3つのステージに分けられる。定常円旋回と8の字、スラローム、そして外周路だ。コースは除雪車によってきれいに整備されていた。いい感じにヤレたボディーの除雪車は、使い込まれた「スズキ・キャリイ」と「ホンダ・アクティ」「スズキ・ジムニー」だった。中をのぞくと、トランスミッションはマニュアル。完全人力型の雪国生活グルマである。
試乗するのは、機械がフルにサービスしてくれるクルマだ。アウトランダーPHEVはモーターによる走行が基本で、エンジンが駆動力として働くのは高速走行時のみである。氷上では、EVだと考えていい。フロントとリアに配置された2基の60kWモーターが、前後輪を別々に駆動する。走行モードは、ボタンによって4種が選択可能だ。「ASC(アクティブ・スタビリティー・コントロール)」を解除すれば、トラクションコントロールとスタビリティーコントロール機能が働かなくなる。氷上でそんなことをするのは自殺行為で、一応試したけれどアクセルをちょっと踏むだけでズルっときたのですぐに戻した。
もう一つのボタンは、「4WD LOCK」スイッチである。これをオンにしておけば、タイヤの空転を抑えて車両の安定性が増す。定常円旋回コースは圧雪路で、ある程度はトラクションがかかりそうだ。慎重に旋回を始めると、クルマはきれいな円をトレースしていく。簡単じゃないかとアクセルを踏みこむと、やおら外にふくらみだした。焦ってステアリングを切り増すが、トラクションを失っているのだから意味がない。雪道でパニックになる典型的なケースだが、テストコースで体験できてよかった。公道だったら、深刻な状況になっていたかもしれないのだ。
4WD LOCKを外してみると、幾分曲がりやすくなったような気がした。曲がりきれないかなと思った時にアクセルを少し抜くと、うまく復帰するようなのだ。後でほかの人が乗っているところを外から見たら、旋回している間に何度もタイヤの回転が完全にストップしていた。アウトランダーPHEVは、駆動力の制御をするために自動的にちょんちょんとブレーキをかける。実に繊細な制御で、自分で何とかしているつもりでも本当は機械がいろいろとサポートしてくれていたらしい。
定常円旋回コースなのに、フロントを固定して後輪で円を描いている人もいた。氷上だからスキール音はなく、モーター音だけがウォンウォン響いているのは不思議な感じだ。機械があんな動きを許すはずはないから、制御を切って人力でコントロールしているのだろう。今回の趣旨には反するから、見なかったことにした。
氷上コースで真剣勝負
外周路に移ると、路面が明らかに違っていた。雪が乗っておらず、氷が露出している場所がたくさんある。ところどころに水が浮き、見るからにヤバそうだ。圧雪路ではクルマが勝手にトラクションをかけてくれるのだが、こういう危険地帯では技の使いようがない。昨晩、上平さんが懸念していた事態が現実になっている。
どうやってもうまく曲がれないコーナーがあって、思い切り減速して慎重に進むしかない。しかし、午後にはタイムトライアルがあるから、しっかり練習しておく必要がある。だんだん慣れてきて、最後に限界を試そうとしたのがいけなかった。雪の壁に突き刺さり、バックしようとしてもタイヤは空転するばかり。引っ張って助け出してくれたのは、「トヨタ・ランドクルーザー」の除雪車だった。
練習走行が終わり昼食をとっている間に、天気が急変した。空は一転かき曇り、横なぐりの雪が容赦なく吹きつける。視界はかすみ、コースの先は見通せない。こんな状況でタイムトライアルをするのは危険だ。ここは勇気を出して中止を提案しよう。そう、1976年10月24日のニキ・ラウダのように。まわりを見回すと、元レーシングドライバーやラリースト、腕自慢の自動車ライターが居並び、さあ走ろうと待ち構えている。どう考えても分が悪そうなので、提案は引っ込めた。というか、クラス分けしてほしい。
最初に三菱のスタッフが走り、基準タイムを作った。1分14秒という好タイムをたたき出し、KYな行動がブーイングを浴びる。メディアごとに編集者とライターが1回ずつ走って合計タイムで争うという方式だ。次々にコースに出ていくが悪天候に悩まされてタイムが伸びず、1分30秒台が続く。
むちゃな運転をする人間が現れるのを恐れてか、“監視役”として助手席に三菱スタッフが同乗する。順番がきて運転席に乗り込むと、隣にいるのはあのKYスタッフではないか。一気に不安な気持ちになり、焦ってアクセルを踏むが進まない。
「あれ、トラコンがオフになってますねえ」
意外にも隣から親切な助言だ。前に乗っていたのは元レーシングドライバーで、サイドブレーキを駆使して強引にクルマを曲げていたらしい。基準タイムに迫る走りだった。こちらはハナから機械に頼るつもりなので、もちろん元に戻す。4WD LOCKもオンにしておいたほうがいいというので、車両安定性がマックスの状態でトライすることにした。
機械を信じたら、速く走れた
「最初はフルスロットルで。機械を信じて!」
アドバイスに従い、思い切ってアクセルを踏んだ。確かに、クルマが勝手に駆動力を調整して、いい感じで加速していく。おっかなびっくりでアクセルをコントロールしようとするよりよっぽど速い。
「コーナーはインベタで行きましょう。大丈夫、曲がれます!」
助手席からの的確なアドバイスに従って操作すると、明らかにうまく走れるのだ。KYなんて言ってすみません。
そして、路面状況も午前中とは変わっていた。適度な積雪のおかげで露出していた氷が埋められ、コーナーでトラクションがかかるようになっていたのだ。こうなれば、S-AWCが実力を発揮する。気持ちよく走って、タイムは1分26秒。たいした記録ではないが、午前中よりも間違いなく速くなっている。
終盤に実力者がそろっていて、終わってみればトップタイムは1分10秒台。わがwebCGチームは編集部Hクンが1分19秒という好成績だったおかげで、11チーム中6位となった。なんとも中途半端な順位である。しかし、S-AWCと4WD LOCKをオフにして競技を行ったなら、腕自慢の面々と文科系ライターではタイムは何倍も違っていたはずだ。わずか16秒の差に収まったのは、電子制御の4WDシステムのおかげ。三菱が20年かけて育てた技術が、人間の能力の差を埋めてくれる。いい時代になったものだ。
(文=鈴木真人/写真=三菱自動車、webCG)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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