ダイハツ・コペン ローブ(FF/CVT)/コペン ローブ(FF/5MT)
等身大のスモールスポーツ 2014.07.21 試乗記 着せ替え可能なボディーパネルや、高剛性が自慢の骨格構造「D-Frame」など、話題にあふれた新型「コペン」。その走りを箱根のワインディングロードで試した。「MGミジェット」や「カニ目」の精神的後継車
この小さなスポーツカーは、単にスポーティーな運転を楽しむためだけでなく、個人のアシとしてパーソナルカー的な使い方もできるし、愛玩物的な持ち物として鑑賞にも堪える。特別に軽自動車であることを意識することなく、昔でいえば「MGミジェット」や「オースティン・ヒーレー スプライト」(通称:カニ目)など、1000ccクラスのライトウェイトスポーツカーに匹敵する性能やサイズを備えている。セカンドカーなど複数台所有のうちの一台となる可能性も高く、そうした意味で考えるならば、軽自動車として経費的に安価で維持できることも歓迎されるべき要素だろう。
Aピラー上部のロックを外し、スイッチ操作ひとつで簡単にオープンカーに変身できるのがコペンの特徴。オープンカー=スポーツカーとは必ずしもいえないが、大気をいっぱいに浴びながら運転することはそれ自体がスポーツに結びつく。急変しがちな天候を考えると、簡素でスパルタンな幌(ほろ)型よりもハードトップ型の方が日本では好まれ、しかも電動で開閉するタイプはそれだけで高級スポーツカーの要件を満たす。電動ルーフは単に“お手軽な軽スポーツ”というだけでなく、一台のクルマとして価値を高める意図も感じさせる。
かつてスポーツカー市場が数種のライバルでひしめき合う活況を呈した時代もあったが、もともと狭い市場であり、絶対的な需要は限られている。しかし、自動車メーカーにとっては技術的な意味でも看板的な側面でも、クルマ造りの意識高揚をアピールする効果は大きい。採算も考慮しつつスポーツカー事業を継続させることは難しいけれども、高度なドライビングを要求するスポーツカーに直行せず、まず走ることの気持ちよさから入る戦略を採ったダイハツはエライ。
やはりMTで乗りたい
スポーツカーはMTで乗る方が面白いことは言うまでもない。ケーブル作動の剛性感に不満を唱える意見もあるが、これはよくできているほうであって、本質的にはさほど大きな問題ではない。ギアレバーの作動感よりも大事なのは、パワーをドライバーの意思通りに引き出したり断ち切ったりできるかどうかであり、それこそがMTの主題である。特に1速から3速あたりの下位ギアにおいて、きちんとリミット付近まで回せて、回転数を自分の管理下におけることがいい。
エンジン回転数とギアポジションと車速を頭に入れて瞬時に計算して、リミット内上限ぎりぎりまでエンジンブレーキを使えることも安心感につながる。ギアシフトを間違えばエンジンを壊すことにもなるが、そんなリスクもまたスポーツカーに乗ることの勉強になる。スポーツカーは繊細な感覚を味わう乗り物でもあり、負荷に応じてエンジントルクのおいしいところを選び出し、微妙にスロットルを加減したりギアを選んで不足を補ったりするのが面白い。
またギアを固定してスロットルのオン/オフをダイレクトに感じることにより、タイヤと路面のグリップ感覚を養うこともできる。その辺のフィーリングを楽しむ上でもMTは大いに有効だ。それはある意味、マシンと対決する面白みであり、持てるエンジンパワーをきっちり使い切ってタイヤをいじめることでも征服感は満たされる。それに対してATは、その面白い部分を機械や電気にゆだねるわけだから、スポーツカーの持つ面白みの多くを捨てているようなものだし、勝手にやられては乗せられているというか受動的で、自分の意思とは別の世界にいることになる。
MTはスロットルの繊細な動きがそのままタイヤグリップに直結することから、下手に扱えばギクシャクしたりスムーズに走らなかったり、運転の技量がそのまま出る。そこを克服してこそスポーツカーの持つ醍醐味(だいごみ)が得られる。クロスレシオうんぬんのギア比に関する要求は次の段階でいい。
門戸を広げるCVT仕様
一方、CVT仕様は、AT車で育った世代の人なら、まったく痛痒(つうよう)なく受け入れられるはずだ。ATは確かにルーズで間接的であり、ブカブカした感触はスロットルとタイヤがつながっている感触に欠ける。しかし利用できる回転帯の範囲がせまかろうが、このCVT(7段スーパーアクティブシフト付き)は固定して使える段数の多さでカバーできるから不満はない。
エンジン回転数と車速だけの関係でいえば、変速範囲はむしろ広い。雑でいい加減に扱っても何とか走ってしまうような、そんな運転精度に鈍感なクルマに乗っていると、運転技術は向上しないような気もする。でも簡単で、上手下手による差も少ないから、初心者にとっては福音か?
ギアシフトはスポーツカーを楽しむ要素の上位にはあるが、単に風を受けて走る感覚とか、ハンドル操作に集中してライン取りを研究するとか、ハードブレーキングで減速距離を短縮するとか、別の楽しみ方もあるから、ヒトそれぞれの楽しみ方をすればいい。タコメーターを小さく横に追いやった、普通の実用車と変わりないメーター類をみてもわかるが、造り手であるメーカーの趣旨からいえば、スポーツカーとして特殊化するよりも、より多くのユーザー層を採り込むべく一般化したい気持ちもあるのだろう。
そのままでも、手を入れても
コペンはガンダム世代以降の中年層や現代の若者には受け入れやすいカタチをしている。光りモノの装飾が多く、やや化粧が濃いものの、存在感を誇張するクルマが多いこの時代では、これくらいの主張はフツウなのかもしれない。これまでの丸くかわいらしい容姿が懐かしくもあるが、新型に切り替わるための衣装替えとしては成功している。
ウルサ型でわからず屋のように思われているわれわれシニア層からしてみれば、いろいろ雑多な経験をしてきた過去に照らせばまだまだ要求したい項目もある。不足分は自分で補うのがスポーツカーを楽しむ秘訣(ひけつ)でもある。
例えばボディー剛性に関しては、これで一応の基準には達しているものの、ルーフを開けて走ってみると、オープンとクローズドの差は厳然とあって、まだまだ部分的に手当てする余地もある。今では塗るタイプや貼り付けるタイプなど、比較的簡単に個人レベルで剛性アップする手だてもあるから自分でやればいい。
各種レスポンス向上策にしても同様だ。もちろん与えられたそのままで乗ってもいいけれども、自分の好みを反映すべく時間をかけて自分なりに仕上げていくのも楽しい。スポーツカーはチューンナップして乗ることが昔も今も常道といえる。コペンはそんな素材としても魅力的なクルマである。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
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テスト車のデータ
ダイハツ・コペン ローブ(CVT仕様)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1280mm
ホイールベース:2230mm
車重:870kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/50R16 75V/(後)165/50R16 75V(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:25.2km/リッター(JC08モード)
価格:179万8200円/テスト車=183万3473円
オプション装備:販売店装着オプション ETCユニット(1万7280円)/カーペットマット(高機能タイプ)(1万7993円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ダイハツ・コペン ローブ(5MT仕様)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1280mm
ホイールベース:2230mm
車重:850kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:64ps(47kW)/6400rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/3200rpm
タイヤ:(前)165/50R16 75V/(後)165/50R16 75V(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:22.2km/リッター(JC08モード)
価格:181万9800円/テスト車=191万9873円
オプション装備:フロントスーパーLSD(3万2400円)/ブラックインテリアパック(3万2400円)/※以下、販売店装着オプション ETCユニット(1万7280円)/カーペットマット(高機能タイプ)(1万7993円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

笹目 二朗
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