ルノー・メガーヌ エステートGTライン(FF/6AT)
合理主義を貫く 2014.12.16 試乗記 「ルノー・メガーヌ」のワゴンモデルに、高効率をうたう1.2リッターターボエンジン搭載車が登場。小さなパワーユニットがもたらす走り、燃費、そして乗り心地などを報告する。マイナーチェンジでダウンサイジング
ルノーというメーカーは、今の日本でどんなイメージを持たれているのだろうか。相変わらず「カングー」の売れ行きが好調なようだから、フランスっぽいオシャレなクルマと思っている人が多いはずだ。「ルノースポール」に思い入れがあれば、モータースポーツでの活躍もあいまってスポーツイメージが強いかもしれない。あるいは、「R4」や「R5」などを懐かしく思い出す世代もあるだろう。
今回の試乗車は、「メガーヌ エステートGTライン」である。メガーヌにはハッチバックとエステートがあり、3ドアのルノースポールも用意されている。そして、エステートのグレードは「GT220」とGTラインに分かれる。試乗車はワゴンのベーシックなグレードということになり、ルノーのラインナップの中ではどちらかというと目立たない存在だ。しかし、戦後のルノーは小型大衆車で出発していたわけで、このモデルは伝統を受け継ぐ存在とも言える。実際、実用車としてよくできたクルマだったのだ。
ハッチバックとエステートのGTラインが10月にマイナーチェンジを受け、フロントマスクを一新するとともにパワートレインも変更された。以前は2リッターの自然吸気エンジンが搭載されていたが、新しく採用されたのは1.2リッター直噴ターボである。トレンドであるダウンサイジングの流れに沿ったモデルチェンジだ。基本的には「ルーテシア」や「キャプチャー」のものと同じだが、最高出力は12ps高められて132psとなっている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
新意匠のグリルで新しい顔つきに
トランスミッションも変わった。これまでのCVTに代えて、6段デュアルクラッチ式が採用されている。マイナーチェンジとはいえ、エンジンとトランスミッションという根幹の部分を変更しているのだから、結構大がかりな改良である。顔つきも黒いグリルに大きなエンブレムを配した新意匠を取り入れ、ようやく他のモデルに追いついた。
ダッシュボードには鮮烈な赤のラインが横に流れていて、GTラインの名に合わせたのかと思ったが、GT220も同じデザインだ。GT220には「RENAULT SPORT」、GTラインには「GT line」のロゴが入るところが相違点である。ステアリングホイール内側のステッチも赤で、メーターの針と目盛りも赤く彩られている。黒に赤のアクセントを配するという、オーソドックスな組み合わせでスポーティーさを表現しているわけだ。
ダッシュボードの真ん中には小さなモノクロの液晶モニターがあり、車両情報を表示する。ナビ機能はないので、必要ならばこの場所に取り付ける2DINサイズのシステムか、エアコン吹き出し口に装着するPNDのオプションを選ぶ必要がある。
わずか1.2リッターのエンジンだが、決して力不足ではない。キャプチャーでは少々物足りなく思ったのだが、メガーヌ エステートのほうが90kgほど重いにもかかわらず不満を感じないのだ。パワーだけでなくトルクも高められていて、重量増を埋めるよう調整したのだろう。同じ1.2リッターターボの「フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント」は105psだから、メガーヌは少しばかり余裕がある。当然ながら、驚くほど速いというわけではない。高速道路でも山道でも、必要十分というだけだ。
速くなくても、運転していてとても気持ちがいい。それは、さまざまな操作に対するクルマの反応が、どれも“同じフィール”だからだと気づいた。アクセルを踏んだ時にスピードが増していく感じや、ステアリングを切った時に方向を変える様子が、すべてシンクロしているのだ。官能面のていねいなチューニングが、功を奏している。特段スポーティーとは思わないけれど、スピードとは別種の快楽がある。
フランス流の割り切り
日本では、1990年代にステーションワゴンが大流行した。ワゴンの市場が縮小していて、有力な国産車は「スバル・レヴォーグ」や「トヨタ・カローラ フィールダー」くらいしか思いつかない。かつてはレジャー用途に人気を博したワゴンだが、すっかりミニバンとSUVに取って代わられてしまった。ただ、輸入車ではワゴンも健在で、このクラスにはフォルクスワーゲン、アウディ、ボルボなどが魅力的なモデルをラインナップしている。その中で、メガーヌのワゴンを選ぶ理由は何だろうか。
285万9000円という価格には、競争力があるだろう。輸入車の中では、お買い得感がある。そして、人と違うクルマであることもうれしいポイントだ。メーカーにとってはありがたくない話だろうが、ドイツ車と比べれば販売台数が少ない。街なかであまり見かけないモデルに乗っているという優越感にひたれるのだ。
国産車と比べれば、使い勝手には多少残念な点もある。後席が6:4分割式のフォールディングタイプで、倒すとかなり広いスペースが出現するのはいいのだが、フロアとシートバックに角度がついてしまって見栄えがよくない。座るときには、後席の座面長がちょっと足りないようだ。真ん中の背もたれ部を倒すと大きな穴1つと小さな穴2つで構成されたドリンクホルダーがあり、センターコンソールの後ろ側に四角い形状の物入れがある。何でも放り込むには便利かもしれないが、国産車のきめ細かな気遣いを知っていると、いかにも雑に思えてしまう。
これがフランス流なのだろう。ワゴンはたくさん荷物を積めることが肝要であり、使い倒すクルマなのだ。大ざっぱなくらいがちょうどいい。余計な気遣いなしに使えることを優先する。合理的な割り切りで、必要な機能にはカネも技術も重点配分する。ドライバーズシートに座っている者にとっての快適さのために、クルマが作られている。
このクルマの最大の美点は、やはり乗り心地だ。これもアクセルやステアリングの操作感と通底していて、同じフィールだと思えてしまう。クルマが地面に見えないひもで結び付けられているような動きなのだ。十分なストロークがあり、ソフトで上質なダンピングが、ただ快適というのではない心地よさを生み出している。ルノーならではのこの乗り心地が核となり、操作系の統一感を演出している。
乗り心地の良さはロードフォールディングの良さにつながっており、コーナリングでの安心感をもたらしている。ねばり強く路面をとらえている感覚が伝わってきて、滑らかで安定した走りが約束される。無理に飛ばそうとは思わないが、気分よく走りを楽しめる実用的なワゴンなのだ。フランスの合理主義を貫くとこうなるという、いいお手本である。それは、ルノーらしさの根源でもある。
(文=鈴木真人/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ルノー・メガーヌ エステートGTライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4565×1810×1490mm
ホイールベース:2700mm
車重:1360kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6AT
最高出力:132ps(97kW)/5500rpm
最大トルク:20.9kgm(205Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)205/50R17 89V/(後)205/50R17 89V(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:--km/リッター
価格:285万9000円/テスト車=290万3240円
オプション装備:メーカーオプションなし ※以下、販売店オプション ETC車載器(1万4000円)/フロアマット(3万240円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2720km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:344.3km
使用燃料:29.8リッター
参考燃費:11.6km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。


























