ホンダ・グレイスHYBRID EX(FF/7AT)
海外育ちのまじめなセダン 2014.12.15 試乗記 ホンダから久しぶりに5ナンバーサイズのセダンが登場した。「グレイス」の売りは、手ごろなサイズのボディーでありながら、アッパーミドルクラス並みの居住性が備わること。また、ハイブリッドパワーユニットを搭載し、34.4km/リッターという低燃費を実現したのも自慢だ。最上級の「HYBRID EX」グレードに試乗し、その「セダン力」を探った。「フィット」とプラットフォームを共有
国内向け「シビック ハイブリッド」の生産を2010年12月に打ち切って以来、国内市場で200万円クラスの普及価格帯のセダンが不在だったホンダが、約4年ぶりに投入する新型セダンが「グレイス」だ。縮小が続いているとはいえ、4ドアセダン市場は国内市場480万台の約10分の1を占める。セダンとしては2013年6月に新型「アコード ハイブリッド」を発売し、また2015年1月には最上級セダン「レジェンド」を発売する予定とはいえ、アコード ハイブリッドは400万円クラス、レジェンドは700万円クラスの商品で、量販車種とは言いがたい。かつての「トルネオ」「インテグラ」「ドマーニ」といったセダンに乗っていたユーザーが乗り換えようと思っても、選択肢がない状態に、ようやく終止符が打たれたことになる。
グレイスは、1年前に発売したコンパクトSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)の「ヴェゼル」と同様に、小型車「フィット」とプラットフォームを共有する兄弟車種である。本来なら、2014年の春ごろに発売する予定だったが、「フィット ハイブリッド」の度重なるリコールをきっかけとして、ホンダが発売前の新型車の品質再確認に踏み切ったため、2014年12月発売のヴェゼル以来、1年近くにわたって新型車の発売がないという状態が続いた。グレイスは、久しぶりの量販セダンというだけでなく、同社としては待ちに待った新型車でもある。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
海外仕様と異なるガソリンタンクの位置
グレイスは、ホンダのグローバルコンパクトセダンとして開発されたもので、海外では「シティ」として中国、インド、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナムなどアジアを中心に55カ国で販売しており、1995年に初代が発売されて以来、累計生産台数は220万台に達している。日本では初代シティが「フィット アリア」として発売されたが、2代目は日本では販売されていなかった。グレイスのベースとなる3代目シティは、海外ではすでに販売が始まっている。
ただし、日本市場向けのグレイスは海外向けのシティをそのまま持ってきたわけではない。最も大きく異なる点は、シティがガソリンエンジンを搭載するモデルのみなのに対し、グレイスはハイブリッド仕様のみが用意されるということだ。このためガソリンタンクの位置が、グレイスではフィット ハイブリッドなどと同様に、運転席、助手席の下にガソリンタンクを配置する「センタータンクレイアウト」を採用するのに対して、海外向けのシティでは、後席の下にガソリンタンクを配置するという大きなレイアウト上の違いがある。
また国内向けのグレイスは最新の生産拠点である寄居工場で生産される。寄居工場では車体骨格の製造で、まず内側の部品を組み上げ、その後で外側の部品を組み付けるという「インナーフレーム構造」と呼ぶ最新の工法を採用している。これに対して海外の生産拠点では、まだこの工法に対応していないため、車体の構成部品の形状も若干異なるという。
環状構造で車体を強化
グレイスのパワートレインは排気量1.5リッターのアトキンソンサイクルエンジンに、モーターを内蔵した7段のDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を組み合わせるホンダの新世代ハイブリッドシステム「SPORT HYBRID i-DCD」で、フィット ハイブリッドと共通である。プラットフォームも、先に触れたようにフィットと共通だが、ホイールベースを70mm延長することで、後席の足元スペースは1クラス上の「シビック」を上回り、2クラス上のアコード ハイブリッドに迫るという。同社の表現を借りれば「歴代5ナンバーセダン最大」のスペースを確保した。
プラットフォームはフィットと共有するものの、トランクルームが独立しているというセダンの特徴を生かし、後席の後ろの車体骨格を「環状構造」とした。トランクスルーを可能としながらも、フィットより車体剛性を向上させているという。また、フロントウィンドウへの遮音ガラスの採用、フロントドアのサイドウィンドウの板厚アップ、遮音材の効果的な配置などによって、静粛性も高めている。
サスペンションは前輪がストラット式、後輪がトーションビーム式で、構成部品はフィットと共通だが、異なるのは、リアサスペンションのボディーへの結合部分に、通常のゴムブッシュよりも振動減衰特性を高めた液体封入タイプのブッシュを採用したこと。部品の内部を液体が移動するときの抵抗を利用して振動を減衰させ、乗り心地も向上させているという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
上級セダンの価値をコンパクトクラスで
こうした技術を盛り込んだグレイスの開発の狙いを一言でいえば「上級セダン並みの価値をコンパクトサイズで実現しながら、優れた燃費と取り回し性能も達成すること」。後席スペースが2クラス上のアッパーミドルクラスセダン、アコード ハイブリッドに匹敵するのは先に触れたが、室内の質感、乗り心地、走行性能などでも上級セダン並みを目指したという。
それでは、ホンダのそうした狙いは実現しているだろうか。実際にクルマに乗り込んでみよう。まず運転席まわりだが、機械式のメーターはセンターに速度計があるだけで、その左右には液晶のマルチディスプレイが配置されている。タコメーターはなく、速度計の右側にあるマルチディスプレイの表示切り替えで回転数を表示するようになっている。全体としてはブルーを基調色とした落ち着いた雰囲気だ。センターパネルの黒色の光沢仕上げや、ステッチ調の加飾を施した助手席前のソフトパッドは、Bセグメント車とは思えない質感を演出しているが、センターパネルの縁取りから助手席ソフトパッドの上部などに配した大面積のつや消しアルミ調のパネルは、やや演出過剰に感じられた。
次に、後席に座ってみる。確かに足元スペースは十分な広さがあるが、センタータンクレイアウトのためにフロアパネルが運転席と助手席の下で盛り上がっており、足入れスペースは上下方向の寸法の余裕があまりない。また、ヘッドルームは身長171cmの筆者でも髪が天井に触れる。この点を開発担当者に尋ねると、先代モデルでもヘッドルームに関するクレームはほとんどなかったため、従来と同程度の寸法を確保するにとどめたという。リアウィンドウを寝かせたスタイリッシュなデザインを実現するため、この部分は必要最低限の寸法に割り切ったようだ。
高速走行ではフラットな乗り心地
では走りだしてみよう。低速域での乗り心地はやや硬めで、ロードノイズもこのクラスとして格段小さいわけではない。リアサスペンションの液封ブッシュへの期待が大きすぎたのか、段差を乗り越えたときのショックも、予想ほど丸められている感じはしなかった。さらに、これはフィット ハイブリッドにも共通するのだが、アクセルペダルから足を離して減速する際に、モーターによる回生が入ったり切れたりする感触があって、減速が一定にならない点もやや違和感が残る。
ただし高速道路に入ると、印象はだいぶ好転する。エンジン音は総じて静かで、100km/h程度の走行ではほとんど聞こえてこない。乗り心地もフラットな印象に転じ、ジョイント部分の段差を乗り越える際の衝撃も小さい。ただし、ロードノイズに関しては、路面の状況にもよるが、それほど小さいという印象はなかった。これは、エンジン音が小さいことで、逆にロードノイズが目立ったという面があるかもしれない。
後席にも試乗してみた。コンパクトクラスの車種では、前席に比べてロードノイズや路面からの突き上げなどが極端に大きくなる場合もあるが、グレイスの場合、それほど大きな差はなく、総じて快適に過ごすことができた。
まとめると、低速域での乗り心地にもう少し滑らかさが欲しいものの、Bセグメントのセダンと考えれば、「カローラ」や日産自動車の「ラティオ」などの競合車と比べて、室内の質感、ボディー剛性、居住性は高い水準にあるといえる。気になる燃費は、カタログ値で34.6km/リッター(JC08モード)と、競合するトヨタ自動車の「カローラ アクシオ」のハイブリッド仕様(33.0km/リッター)を上回って、国内のセダンで最高の値を達成している。1時間程度の試乗だったが、燃費計での計測では高速道路主体の走行で、平均燃費が25km/リッター、高速走行と一般道の走行が半々で20km/リッターといったところだった。
また、今回は試乗しなかったが、グレイスはこのクラスのハイブリッド車では唯一の、四輪駆動仕様を用意するのも魅力だ。独立したトランクを重視するユーザーには、有力な選択肢が登場したといえそうだ。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
ホンダ・グレイスHYBRID EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4440×1695×1475mm
ホイールベース:2600mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:13.7kgm(134Nm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ダンロップSP SPORT 2030)
燃費:31.4km/リッター(JC08モード)
価格:221万円/テスト車=228万200円
オプション装備:車体色 プレミアムディープロッソパール(3万2400円)/ナビ装着用スペシャルパッケージ(3万7800円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1056km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】 2026.5.27 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
NEW
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
NEW
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。 -
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える
2026.6.1デイリーコラム具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】
2026.6.1試乗記「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。 -
日産リーフB7 G(前編)
2026.5.31思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産リーフ」に試乗。初代のデビューから15年余りを経て生まれた3代目はスタイリングも中身も刷新。苦境にある日産を立て直す重責を担っている。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。





























