ホンダ・グレイスHYBRID EX(FF/7AT)
「フィット」を名乗らぬ理由 2015.01.30 試乗記 ホンダ久々の5ナンバーセダンにして、ハイブリッド専用車の「グレイス」。ホンダが主張するとおり、「フィット」よりいでて「アコード」の価値を提供するコンパクトセダンに仕上がっているのだろうか。FFの最上級グレードに試乗した。ひとクラス上を狙う
ご近所の住宅街を歩いたり走ったりしていると、車庫にあった古い「マークII」や「ローレル」がいつのまにか「プリウス」や「アクア」に代わっていることがある。ボディーカラーはたいてい銀色か白である。もう特段クルマに興味はないのだが、かといって、なきゃ困る。一念発起して、古い4ドアセダンを買い替えようと思ったとき、そりゃあ、今はハイブリッドでしょ、なんていうストーリーが目に浮かぶ。
とりあえずそんなニーズにジャストフィットしそうなのがグレイスである。簡単にいうと、フィットをベースにしたノッチバック4ドアセダン。というと、かつてあった「フィット アリア」を思い出すが、グレイスはハイブリッド専用車である。「フィット ハイブリッド セダン」としてシリーズに組み込めば、アクアとの販売レースで優位に立てたかもしれないが、そうしなかったのはセダン化とともにひとクラス上を狙ったからだろう。
4440mmの全長はフィットより40cm長い。全幅は変わらず、5ナンバーを守るが、リアにトランクを追加しただけでなく、ホイールベースもフィットより7cm延長している。
価格帯は「フィット ハイブリッド」の168.2万~225.3万円に対して、グレイスは195万~241万円。今回試乗したのはFFの最上級モデル「EX」(221万円)。そういえば、ハイブリッドセダン初の4WDを取りそろえるのもグレイスの売りである。
「アコード」に迫る広さ
セダンに敬意を表して、まずはリアシートに座ろう。
こりゃ広い。それもそのはず、後席の前後長は歴代ホンダ5ナンバーセダン最大。膝まわりの空間は、ボディー全長が50cm近く長い「アコード ハイブリッド」と同等だという。試乗にはたまたま「BMW 218iアクティブツアラー」が同道していた。2シリーズのアクティブツアラーも後席の広さが自慢だが、たっぷりしたクッション長を持つシートの座り心地そのものはグレイスのほうが上だった。
このハイブリッドセダンはまた、トランクも大きい。容量は430リッター。といってもピンとこないが、燃料タンクが40リッターだから、満タン10回以上かと思うとスゴイ。深いトランクの床下にリチウムイオンバッテリーを収めるために、フィット ハイブリッド用よりもユニットをコンパクトにしたという。
トランクの奥行きも85cmとたっぷりとられているが、さらにリアシートの背もたれを前に倒せばキャビンと貫通する。ただ、せっかくここまでやって残念なのは、背もたれの厚みがそのまま残って、床がフラットにならないこと。しかも、貫通部の上部両側にはプレート状の筋交いが溶接されていて、開口部は富士山のようなカタチに狭められている。ボディー剛性のためには必要な手だてだったのだろうが、これがなければ、嵩(かさ)モノも運べるハイブリッドセダンになれたのに、惜しい。ラゲッジルーム名人ホンダらしからぬしつらえだ。
動力性能に不満なし
グレイスのハイブリッドユニットは、スペックで見る限り、現行フィット初出の“スポーツハイブリッドi-DCD”と同じものである。1モーター式ながら、モーターより上流に置いたクラッチの断接で、1.5リッター4気筒エンジンと7段DCT内蔵のモーターを完全に切り離すことができる。そのため、モーターのみのEV走行も可能になった。
グレイスEXの車重は1200kg。フィット ハイブリッドの上級モデルとの差は大人ひとり分ほどだが、動力性能の印象は変わらない。穏やかな発進だと、モーターだけでスタートする。踏み込めばすぐにエンジン始動し、フルパワーだとそれなりにエンジンはウナるが、加速はなかなか力強い。フィットでは度重なるリコール問題でミソをつけたが、正常に動いていれば、いまさらワーキャーいうこともない、違和感のないパワーユニットである。
駆動用バッテリーに余裕があるときにEVボタンを押すと、モーターだけで走行できる。平たん路でやってみると、40km/hでソロソロと2kmほど走れた。
JC08モード燃費は、このEXで31.4km/リッター。フィット ハイブリッドからは1割ほどダウンしている。以前、フィットで350km走ったら、25.3km/リッターという個人史上最良燃費を記録したが、今回のグレイスは290km走って17km/リッター台だった。
広いギャップを埋めるセダン
足まわりでは、ダンパーの取り付け部や、リアサスペンションのブッシュに新たな工夫を施して、フィットよりひとクラス上の快適性を追求している。ホイールベースも7cm延びているから、身のこなしもコンフォート側に振れているはずだ。と言われればたしかにそんな気もしたが、それほど大きな違いは感じなかった。運転感覚はやはり「フィット ハイブリッドのセダン」である。
現行プリウスより3カ月早く出て、リーマンショック後の低迷期に国内販売を支えた「インサイト」はもういない。先代フィットに追加されたハイブリッドモデルに事実上、食われてしまったのだ。
「シビック ハイブリッド」はとっくにない。となると、フィットの上のハイブリッドは、SUVの「ヴェゼル」を除くと、いきなり全長4.9m超の「アコード」だ。
グレイスはその広いギャップを埋めるハイブリッドセダンである。ガチンコライバルが「カローラ アクシオ」のハイブリッドだとすると、あれほど営業車っぽくない内外装と広い後席が魅力だと思う。
(文=下野康史<かばた やすし>/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ホンダ・グレイスHYBRID EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4440×1695×1475mm
ホイールベース:2600mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:13.7kgm(134Nm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ダンロップSP SPORT 2030)
燃費:31.4km/リッター(JC08モード)
価格:221万円/テスト車=246万9200円
オプション装備:車体色 ゴールドブラウンメタリック(3万2400円)/Hondaインターナビ+リンクアップフリー(22万6800円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2187km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:290.7km
使用燃料:16.5リッター
参考燃費:17.6km/リッター(満タン法)/18.3km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。 -
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。





























