プジョー308シエロ(FF/6AT)/308SWシエロ(FF/6AT)
フランス車の美点を今に伝える 2014.12.12 試乗記 いよいよ日本に上陸した新型「プジョー308」。1.2リッター直3ターボエンジンを搭載し、ボディーも軽量化が図られた最新モデルのハッチバックとワゴンを試乗した。「309」ではなく「308」
プジョーの車名といえば、中央にゼロを挟んだ3ケタ数字がおなじみだ。百の位で車格、一の位で世代を示すこの方式を最初に採用した「201」が登場したのは1929年というから、今から85年も前のことになる。
プジョーはこの車名を商標登録していて、ポルシェが「356」に代わるスポーツカーを901の名前で発表しようとしたとき、異議を唱えて「911」に変えさせたエピソードは有名だ。
でもこの命名方法には限りがある。最初にその問題に直面したのが、1932年発表の「301」に端を発する300番台だった。2007年、他の車格に先駆けて「308」がデビューしたのだが、次の309はすでに使用済みだったからだ。
プジョーは1970年代、同じフランスのシトロエンと合併し、続いてクライスラーの英仏拠点を譲り受け、PSAグループに成長した。このうち後者にはタルボという名を与え、コンパクトカー「205」をベースとした車種を投入するつもりでいた。
ところがグループ結成後の経営状況が思わしくないことから、まもなくタルボを消滅させることを決定。開発中の新型車はプジョーで売ることにした。すでに305は存在していたし、306を名乗るのは時期尚早なので、「309」と名付けて発売した。
つまり308を使った時点で、車名が底をついてしまったのだ。そこでプジョーは方針を転換。2012年に誕生した新興国向けのニューモデルは「301」と原点に戻す一方で、先進国向けは末尾を8に固定することとしたのだ。
201以前のプジョーの車名は、「タイプ1」、「タイプ2」と、1から順に番号を割り振っていたから、新型308はプジョーとしては珍しく、モデルチェンジで車名を変えないクルマになった。でもそれは名前だけ。中身は旧型とはかなり違っていた。
端正な雰囲気を取り戻した
新型308の最大のトピックは、PSAがEMP2と呼ぶ新開発プラットフォームを採用したことだろう。このプラットフォームは、前後して上陸した「シトロエンC4ピカソ」にも用いられる。特筆すべきは軽量化で、「307」、旧308が使った先代プラットフォームに比べて70㎏ものダイエットを達成している。
ボディーはハッチバックと、SWと呼ばれるワゴンの2タイプ。こちらもハッチバックで30kgの軽量化を果たした。ホイールベースを10mm長くしながら、全長は55mm、全幅は15mm、全高は45mm、それぞれ縮小しているという、ダウンサイジング効果が大きそうだ。
うれしいのはセダンよりSWのほうがホイールベースが長いという、プジョーの美点を継承していること。しかも全幅や全高はハッチバック同様ダウンサイズしているのに対し、全長は70mm延びている。ノーズはハッチバックと共通だから、リアオーバーハングが延長されたことになる。
箱根の試乗会場で対面した2つのボディーは、どちらも旧型より落ち着いた面持ち。「どこまで大きくなるんだろう」という不安さえ抱いたヘッドランプやグリルが常識的な大きさにとどめられ、落ち着いた面構成のサイドやリアともども、306以前のプジョーが持っていた端正な雰囲気を取り戻した感じがする。
とりわけ好感を抱いたのはSW。このクラスでは珍しく、リアが長いワゴンっぽいプロポーションを持っていたからだ。最初に乗り込んだのはそのSWの上級グレード、「シエロ」だった。
日本的なきめ細かさも
ステアリングを小径にして、遠くに置かれたメーターをリムの上から見るスタイルは「208」や「2008」と同じだが、308ではさらに、タコメーターの針がアストン・マーティンのよう反時計回りになった。センターのタッチパネルでエアコンやオーディオの操作もこなし、スターターはボタン、パーキングブレーキは電動になるなど、フラッシュサーフェス化が行き届いていることにも気付く。頭上はSWではおなじみのガラスルーフ。寒い時期にはとりわけここからの日差しが心地良い。
前席は固すぎず柔らかすぎず、サイドサポートはしっかりしていて、平面ではなく体にフィットした曲面でホールドしてくれる、プジョーらしい作り。後席は307や旧308が3分割のセパレートだったのに対し、ハッチバックと共通のベンチシートになったので、2人掛けがしやすくなった。座面も背もたれも平板だが傾きは理想的で、高めに座るのできちんとした姿勢が取れる。ヘッドクリアランスは余裕があるし、ホイールベースが長いおかげでヒザの前はハッチバックより広い。
荷室は旧308に存在した独立開閉式ガラスハッチがなくなったのは残念だけれど、同じく先代にあったサードシートはエマージェンシー用だったので、ワゴンとして使うなら新型の作りのほうがありがたい。奥行きだけでなく高さもたっぷりしていて、後席を立てた状態でも660リッターという広さはCセグメントとは思えないほど。巻き取り式トノカバーは使用しないときは床下に格納できるなど、日本的きめ細かさも身につけていた。
しなやかに動く足まわり
新型308はエンジンもダウンサイジングした。旧型の1.6リッター直列4気筒ターボから、1.2リッター直列3気筒ターボに積み替えたのだ。208や2008に積まれるエンジンの過給版で、以前海外試乗記をお伝えした「シトロエンC4カクタス」にも載っていた。
軽くなった車体に対し、23.5kgmの最大トルクは旧型の1.6リッターターボと1.0kgmしか違わないので、箱根の山でも6段ATによる加速はまったく不満なかった。しかも静かだ。5000~6000rpmあたりまで回してもエンジンの存在が耳につかない。208以上に3気筒っぽさを意識しなかった。
加えて3気筒は、コーナーでの身のこなしの軽快さを生み出している。フロントフードとフェンダーをアルミとしたことも大きいのだろうが、ステアリングを切った瞬間にはリアの重さを感じるほどだ。その後は剛性感あふれるプラットフォームとプジョーならではのしなやかに動く足まわりが、粘り腰を披露してくれる。ここでもフロントの軽さは明確で、4輪が均等に仕事を分担しているようなコーナーさばきに好感を抱く。
今までのプジョーではあまり見かけなかった仕掛けもある。スポーツモードだ。センターコンソールのスイッチを押すと、メーターの目盛りが赤くなり、音がクォーンと勇ましくなって、ステアリングは重くなり、スロットルやトランスミッションのレスポンスが鋭くなる。ここまでメリハリのあるモード切り替えも珍しい。
その後ハッチバックのシエロに乗り換えたら、40kg軽いボディーがもたらす加速や乗り心地の差はあまり看取できなかったものの、ステアリングを切るとカチッとした感触でコーナーに入っていくなど、ハンドリングではリアの短さ軽さがはっきり伝わってきた。
スポーティーさを重視する人はハッチバックがお薦めだけれど、個人的には小さなエンジンで大きなキャビンを走らせるという、かつてのフランス車の美点を今に伝えるSWの走りっぷりに惹(ひ)かれた。
(文=森口将之/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
プジョー308SWシエロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4585×1805×1475mm
ホイールベース:2730mm
車重:1360kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:130ps(96kW)/5500rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:16.1km/リッター(JC08モード)
価格:339万円/テスト車=343万3200円
オプション装備:ボディーカラー<ダーク・ブルー>(4万3200円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2751km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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プジョー308シエロ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4260×1805×1470mm
ホイールベース:2620mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:130ps(96kW)/5500rpm
最大トルク:23.5kgm(230Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91V/(後)225/45R17 91V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
燃費:16.1km/リッター(JC08モード)
価格:339万円/テスト車=345万4800円
オプション装備:ボディーカラー<パール・ホワイト>(6万4800円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:1845km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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