スズキ・アルトX(FF/CVT)/アルトF(FF/5AT)/アルトバンVP(FF/5MT)
久々の意欲作 2015.01.24 試乗記 従来モデルとは一線を画すスタイリングや、最高で37.0km/リッターという燃費性能などで注目を集めている新型「スズキ・アルト」。その実力を、3つのグレードでチェックした。第一印象は「軽っぽくない」
軽っぽくないゾ。新型アルトを見て、そう感じた人も多いかと思う。安定していて、カルく見えない。直線基調なのに、ペキペキしていない。丸っこいファンシー系の旧型とは、そもそもテイストというか、方針が変わった。
そのニューデザインに元アウディの和田 智氏がコミットしているという一部報道がある。そういえば、ゼネラルモーターズとの資本提携を解消してから、スズキは一時、フォルクスワーゲングループと接近したのだ。そんな目でみると、新型のシンプルなフォルムはどことなく「フォルクスワーゲンup!」に似ていなくもない。
なんて想像は、あくまで想像である。検討段階で外部の協力を得ることはあっても、新型はあくまで「スズキデザイン」というのがメーカーの公式見解。チーフデザイナーの内山一史氏に誘導尋問をしても、取りつく島がなかった。
スズキの人たちは常にアンダーステートメントだが、8代目アルトで目指したのは、キラッと光る石ころのようなデザインだとチーフデザイナーは言った。石ころとは、またずいぶんへりくだるもんだと思ったが、新型アルトがカタチだけでなくスペックでもキラッと光るのはたしかである。
プラットフォームやリアサスペンションを新調し、「アルト エコ」用のR06A型エンジンに磨きをかけ、なおかつクルマ全体で大幅な軽量化を図った。その結果、ガソリン車最良の燃費(37.0km/リッター)を実現している。
「ワゴンR」のようなトールボーイ系に対して、こういう背の低い軽自動車は、たとえハッチバックでも“セダン”と呼ばれる。新型アルトは軽セダン久々の意欲作である。
軽量化によるネガは感じられず
まず乗ったのは最上級モデルの「X」(113万4000円)。走りの第一印象も見た目のそれと同じである。軽っぽくないゾ。
Xの車重は650kg。高張力鋼板や超高張力鋼板の使用比率を増やし、フロントのフェンダーとクロスメンバーを樹脂に替え、658cc 3気筒エンジンをさらに軽量小型化するなどの結果、旧型シリーズの燃費モデルであるアルト エコより60kgも軽い。
ここまでくると、果たしてそんなに軽くしていいのか、というのが興味のマトだったが、軽さがわるさをしているようなネガは感じられない。むしろ今まで乗ったどんな軽セダンよりも走りがしっかりしていることに驚く。
安価な軽セダンにありがちな、ボディーが薄っぺらな感じは、ない。軽量化の寄与率でいうと、35%と最も大きいのがボディーだが、その一方、ねじり剛性も曲げ剛性も旧型よりそれぞれ30%向上させたというスペックにうそはなさそうだ。
リアをトーションビームに替え、前後ともストロークを増大させたサスペンションも、旧型アルトとは段違いによくなった。荒れた舗装路でも脚がよく動いて、バネ下だけでデコボコやうねりを吸収してくれる。乗り心地が“フラット”なのだ。
スピードを上げると適度な重さになる電動パワーステアリングは、操舵(そうだ)品質が大きく向上した。CVTも洗練され、エンジン回転が“いつもより多めに回っています”的なCVTくささはない。お金がとれる、ということはつまりお金がかけられるトールボーイ系と違って、まずは安さが求められる軽セダンなのに、ましてやスズキのアルトなのに、ミミっちいところがない。走りが爽やかなのだ。
廉価モデルの「F」を除いて、新型乗用アルトにはすべて「エネチャージ」が付いた。アイドリングストップから再始動する時の音をもう少し小さくできないものか。それが試乗中に感じた唯一の不満だった。
出色のデキのシングルクラッチ式AT
次に乗ったのは、Fの「5AGS(オートギアシフト)」付き(84万7800円)である。5AGSとは、5段MTを自動化した内製の2ペダル変速機で、アルトシリーズではこれまでの4段ATに代わるものだ。CVTほどエネルギー回生が取れないため、エネチャージとの組み合わせはなく、JC08モード燃費も30km/リッターを切るが、ジヤトコ製CVTより安い。新型アルトでは廉価グレードに用意される。
しかし、変速品質が重視されるこのAT王国で、自動MTとは珍しい。そのマナーやいかにと走りだすと、スムーズである。シフトショックは小さく、変速もモタつかない。というか、CVTとそんなに印象が変わらなかった。シングルクラッチの自動MTといえば、欧州コンパクトのオハコだが、フォルクスワーゲンup!や「フィアット500」や「スマート・フォーツー」のそれと比べたら、格段に滑らかである。
CVTと同じくセレクターはインパネ中央の垂直面にあり、レバーを左にスライドすると、前後の動きで+-のマニュアルシフトができる。その際のヌルっとしたシフトフィールもなかなか上等だ。これだけ変速が上手なら、パドルシフト付きがあってもよさそうだ。
ただし、旧型4段ATのリプレイスということから判断すると、乗用アルトのなかでの販売シェアは1割に届かない程度だという。この変速機のメインマーケットはアジアである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
CMのうたい文句に偽りなし
最後に「VP」の5段MTにも乗った。シリーズ最廉価(69万6600円)の商用バンである。
さすがにこれはいろんなものを省いた感じで、走りだした途端、エンジン音やロードノイズの侵入が大きい。そのかわり、新型アルト最軽量の610kg。車検証を見ると、前後車軸重は前380kg/後230kg。リアの片輪だと115kgだ。横綱白鵬に足を踏まれたほうがよっぽど痛いかもしれない。
上位モデルの52psに対して、パワーは49ps。その差は実感できなかったが、トップエンドまで引っ張ってシフトアップすると、気を使ってクラッチミートしたつもりでもけっこう変速ショックが大きい。そのへんは軽量化とのトレードオフかもしれない。
でも、最初に乗った2台の乗用アルトはよかった。特にCVTのXは、好きになるのに1秒もいらなかった。といっても、今回は70分で3台を試すというタイトな試乗会で、乗ったのもフラットな一般道だけである。あくまで第一印象程度のインプレッションだったことをおことわりしておく。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎)
拡大 |
テスト車のデータ
スズキ・アルトX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1500mm
ホイールベース:2460mm
車重:650kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6500rpm
最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:37.0km/リッター(JC08モード)
価格:113万4000円/テスト車=118万8918円
オプション装備:ボディーカラー<ピュアレッド ミディアムグレー2トーンバックドア>(1万6200円)/ ※以下、販売店オプション フロアマット(1万6902円)/ETC車載器(2万1816円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
拡大 |
スズキ・アルトF
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1475mm
ホイールベース:2460mm
車重:620kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5AT
最高出力:52ps(38kW)/6500rpm
最大トルク:6.4kgm(63Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)145/80R13 75S/(後)145/80R13 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:29.6km/リッター(JC08モード)
価格:84万7800円/テスト車=90万8118円
オプション装備:レーダーブレーキサポート(2万1600円)/ ※以下、販売店オプション フロアマット(1万6902円)/ETC車載器(2万1816円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
拡大 |
スズキ・アルトバンVP
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1475mm
ホイールベース:2460mm
車重:620kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5MT
最高出力:49ps(36kW)/6500rpm
最大トルク:5.9kgm(58Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)145/80R13 75S/(後)145/80R13 75S(ダンロップSP10)
燃費:25.8km/リッター(JC08モード)
価格:69万6600円/テスト車=73万5318円
オプション装備:※以下、販売店オプション フロアマット(1万6902円)/ETC車載器(2万1816円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
シトロエンC5エアクロス マックス ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】 2026.5.2 シトロエンのコンセプトカー「OLI(オリ)」の思想を継承する新デザイン言語を用いた2代目「C5エアクロス」が上陸。ステランティスの最新プラットフォーム「STLAミディアム」や48Vマイルドハイブリッド機構によってどう進化したのか。その走りを報告する。
-
アストンマーティン・ヴァンテージS(FR/8AT)【試乗記】 2026.5.1 英国の名門アストンマーティンのスポーツモデル「ヴァンテージ」が、「ヴァンテージS」に進化。より高出力なエンジンと進化した足まわりを得たことで、その走りはどのように変わったのか? パフォーマンスを存分に解放できる、クローズドコースで確かめた。
-
ディフェンダー110オクタP635(4WD/8AT)【試乗記】 2026.4.29 「ディフェンダー」シリーズの旗艦「オクタ」が2026年モデルへとアップデート。メカニズム面での変更はごくわずかのようだが、その速さと快適さは相変わらず圧倒的で、それはオンロードでもオフロードでも変わらない。300km余りをドライブした印象をリポートする。
-
ケータハム・スーパーセブン2000(FR/5MT)【試乗記】 2026.4.28 往年のスポーツカーの姿を今日に受け継ぐケータハム。そのラインナップのなかでも、スパルタンな走りとクラシックな趣を同時に楽しめるのが「スーパーセブン2000」だ。ほかでは味わえない、このクルマならではの体験と走りの楽しさを報告する。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.4.27 「ランボルギーニ・テメラリオ」がいよいよ日本の道を走り始めた。その電動パワートレインはまさに融通無碍(むげ)。普段は極めて紳士的な振る舞いを見せる一方で、ひとたび踏み込めばその先には最高出力920PSという途方もない世界が広がっている。公道での印象をリポートする。
-
NEW
アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ プレミアム(FWD)【試乗記】
2026.5.5試乗記アルファ・ロメオのコンパクトSUV「ジュニア」にラインナップする電気自動車「ジュニア エレットリカ プレミアム」に試乗。1973年型の「GT1600ジュニア」を所有していたかつてのアルフィスタは、最新のフル電動アルファに触れ、何を感じたのか。 -
NEW
“ウインカーのカチカチ音”は、どんな理由で決められているのか?
2026.5.5あの多田哲哉のクルマQ&Aウインカー(方向指示器)を使う際の作動音は、どんなクルマでも耳にする一方、よく聞くとブランドや車種によって差異がある。一体どんな根拠で選定されているのか、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタGRヤリス/GRカローラ/GRヤリスMORIZO RR プロトタイプ【試乗記】
2026.5.4試乗記進化を続ける「トヨタGRヤリス」と「GRカローラ」の、最新バージョンに試乗。硬派な4WDスポーツならではの、サスペンションチューニングの難しさを知るとともに、100台の限定モデル「GRヤリスMORIZO RR」に、そのひとつの回答を見いだすことができた。 -
業績不振は想定内!? 名門ポルシェはこの先どうなってしまうのか?
2026.5.4デイリーコラム2025年から思わしくない業績が続くポルシェ。BEVの不振やMRモデルの販売終了などがその一因といわれるが……。果たして、名門に未来はあるのか? 事情をよく知る西川 淳が、現状と今後の見通しについて解説する。 -
ランボルギーニ・テメラリオ(前編)
2026.5.3思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。「ウラカン」の後継にあたる“小さいほう”ではあるものの、プラグインハイブリッド車化によって最高出力920PSを手にしたミドシップスーパースポーツだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
シトロエンC5エアクロス マックス ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.5.2試乗記シトロエンのコンセプトカー「OLI(オリ)」の思想を継承する新デザイン言語を用いた2代目「C5エアクロス」が上陸。ステランティスの最新プラットフォーム「STLAミディアム」や48Vマイルドハイブリッド機構によってどう進化したのか。その走りを報告する。
































