マツダ・デミオXDツーリング(FF/6AT)/デミオ13S Lパッケージ(FF/5MT)
コンパクトカーの日本代表 2015.02.09 試乗記 販売好調が伝えられる「マツダ・デミオ」の実力やいかに? 鹿児島での2日間の試乗を通じて、ディーゼル車とガソリン車それぞれの魅力と課題を探った。クリーンディーゼル普及の立役者
燃費だけは良いけれど、騒音と振動はトラック並みで排出ガスもダーティー――そんな“古いディーゼル乗用車”のネガティブなイメージを今へと引きずる人の数は、恐らくここ数年で急速に減少を遂げているはず。そしてそれは、いわゆるクリーンディーゼルと呼ばれる最新モデルの実力を知る人の数と、“反比例”の関係にもあるに違いない。
2006年にメルセデス・ベンツが「復活」のカタチで日本仕様の「Eクラス」にディーゼルモデルを設定して以来、日本のディーゼル乗用車マーケットは着実に成長。昨2014年にはその台数が、7万9000台強という規模にまで達したという。
もちろんそこには、後のBMW参入の影響なども小さくはないはず。が、何といっても台数に大きく寄与しているのは、「スカイアクティブ」で波に乗るマツダ発のモデルであることは疑いない。
特筆すべきはこのブランドの場合、比較的安価でコンパクトなカテゴリーでも、上のクラスと同様にディーゼルモデルが高い人気を博していること。自らが開発と生産を担う“末っ子モデル”であるデミオの場合ですら、「その約6割がディーゼルで選ばれている」というのだからこれはちょっとした驚きだ。
そんなディーゼルモデルも含めて、昨年9月の発売以来「3カ月で計画7カ月分の台数を受注」という好調ぶりが伝えられるデミオを、九州は鹿児島を起点に薩摩半島南端の指宿まで、1泊2日で走らせるという催しが開かれた。
webCG組は、初日往路の指宿までがディーゼル「XDツーリング」のAT仕様。2日目鹿児島までの復路が、ガソリン最上級のグレード「13S Lパッケージ」のMT仕様という割り当てだ。
スタイリングはライバル知らず
「webCGさんはこちらです」と、出発地点の駐車場で案内されたディーゼルモデルは、ジェットブラック・マイカなる速そう(?)なネーミングを与えられた、要は“黒いデミオ”だった。
昨今、プロモーションでは赤ばかりが訴求されるマツダ車だけに、これはちょっと意外な展開。塊(かたまり)感が強く、コンパクトなボディーがさらに引き締まって見えるこんなデミオも、実はなかなか悪くない。
もっとも、周囲のあらゆる物体や“自分自身”を、サイドやリアパネルに遠慮なく映りこませてしまう黒色は、撮影を伴うイベントでは不人気車と相場が決まっているもの。そんな取材裏話は別としても、どうしても汚れや傷が目立つのは事実だから、特に日常の足としてガンガン使い倒す機会が多いこうしたコンパクトモデルでは、それなりに“冒険色”であることは否定ができない。
もはや、日本の同クラスでは“ライバル知らず”だな、と、心底そう思えるスタイリッシュなエクステリアや、こちらも「これでは、軽自動車にも負けちゃうでしょ」と、思わずそんなことを言いたくなる同クラス車が目立つなかで、デザインや質感も頑張ったインテリアに気をよくしつつ、まずはドライビングポジションを決める。
で、シートサイドのリフターレバーへと手を伸ばした瞬間、「あ、そうだったナ……」とこちらはあまり芳しくはないデミオでの第一印象を思い出してしまった。
実はこのレバーの剛性が低くてグラつくために、それを上下させるたびに何ともいえないわびしさを感じてしまうのだ。誰もが最初に触れる可能性のある部分だけに、これは惜しい。加えて、パシャン! と響くリアドアの開閉音が質感に欠ける点も、リファインの余地アリだ。
強力無比なディーゼル+6ATの走り
と、思わずそんなネガな意見を先に呟(つぶや)いてしまったものの、いざ走り始めれば「もはや国内にも国外にもライバルは不在!」とそう断言したくなる、圧倒的に強力で、これこそが大人気の文字通りの原動力でもあろうと納得の強力無比な動力性能に、あらためて感心する。
率直なところ、エンジンから発せられるノイズは、ガソリンモデルよりも多少にぎやかだ。が、それも走行速度が高まり、ロードノイズなどの“暗騒音”に紛れると、もう気にならない。
組み合わされたATが6段なのは、この期に及んではスペック的に「あまり威張れない」のは確か。それでも、現実には変速時のステップ比にも大きな不満は感じないし、エンジン回転数と速度が期待以上にタイトにリンクする感覚が心地いい。
実はこのエンジン、1500rpmを下回ると急激にトルクが痩せてしまう。よりコストの掛かったシーケンシャル・ツインターボを用いる「アクセラ/アテンザ/CX-5」用ユニットとは、このあたりの極低回転ゾーンの印象がかなり異なっているのだ。
だから、アクセラやアテンザでは「お望みならどうぞ」と推奨ができるディーゼルエンジン+MTという組み合わせは、ことデミオの場合にはオススメに値しない。ダウンシフトをさぼり、1500rpm以下に回転数が落ちた途端、もはやそのままのギアでは再加速がほとんどきかなくなってしまうからだ。
一方、いかなるシーンでも「ダウンシフトをさぼる」などという可能性のないAT仕様では、その動力性能は終始ゴキゲンそのもの。編集&カメラ氏との3人乗車でも、標高差が500mに迫ろうという指宿スカイラインを、何の苦もなく一気に駆け上がり、そして駆け下りた。「小粒なのに逞(たくま)しい」と、そんな表現がピッタリだ。
頻繁に触れる場所なのだから……
明けて2日目は、ガソリンのMT仕様へと乗り換える。スパスパと軽く、そして小気味よいシフトフィールは期待を超える秀逸さだが、いかんせん昨日に逞しい加速感が染み付いた体には、力感に欠ける印象は否めない。
そうはいっても冷静に考えれば、「1.3リッターの自然吸気エンジン車としては十分以上によく走ってくれる」のがこのモデルでもある。実際、ディーゼルエンジンが発する最大トルク値は、こちらガソリンエンジンの2倍以上。250Nm(25.5kgm)というその数値は自然吸気2.5リッターのガソリンエンジン級だから、「ディーゼルが強力に過ぎる」と表現すべきだろう。
今回は3人乗車で時間にも余裕のあったことから、リアシートでのドライブのチャンスもあった。「周辺同クラス車に比べるとキャビンが小さい」と評されるデミオだが、フロントシート下への足入れ性に優れ、ヘッドスペースもそれなりに確保されるので、「大人4人が長時間を過ごしても、決して窮屈には感じないはず」というのはすでにチェック済みでもあった事柄。
加えて今回は、“実際に走った”からこそ気がついたというポイントも。ひとつは、サイドウィンドウの上部にアシストグリップの用意がなく、シートもフロントほどのサポート性は有しないので、コーナリング時に体を保持するのが難しいということ。
それゆえに膝をドアトリムへと当てて体を安定させようとすると、決して無理に力を加えたわけではないのに、スピーカーグリルの張り出し部分もろとも、トリム全体がへこむという経験もした。
もちろん、その後は元通りに復帰するものの、これにはちょっとびっくりした。前出のシートリフターのレバーなども含め、質感の面からも、少なくとも“頻繁に触れる可能性のある部分”の剛性は、わずかなコストアップを招いてでももう少し高める必要があるのではないだろうか。
弱点のないクルマなんて存在しない
初日にディーゼル、2日目にガソリンと、それぞれ3人乗車と相応のカメラ機材などを搭載という状態で過ごしたものの、大きなバンプやアンジュレーションに遭遇しても、決して“底づき”をしないサスペンションのタフネスぶりには感心させられた。
過敏に過ぎず、かといってもちろん“ダル”ではない自然なハンドリング感覚も好ましいし、横Gが高まっても決して“破綻”の兆しなどを意識させない、安心・安定感の高さも評価に値する。
一方で、フロント2.6バール/リア2.3バールと、恐らくは燃費意識とみられる高めのタイヤ指定圧を採用しながら、同時にしなやかな乗り味を演じようとしたためか、サスペンションはよく動く一方で、総じてボディーの上下量が大きめでフラット感に欠けがちな点は、今後の課題であるように思う。
実はこれは、別の機会に他ブランドの同クラス車と乗り比べて、顕著に感じさせられた点でもある。具体的には、同じ路面を同条件で走行しても、「フォルクスワーゲン・ポロ」や「ルノー・ルーテシア」よりは上下動が明確に大きいのだ。
さらに、情報量に乏しいナビゲーションシステムの表示や走行中は折り畳めずに何とも目障り(!)なヘッドアップ・ディスプレイなど、個人的に気になる部分も実は少なくない。今回の、ちょっと長めのテストドライブで、これまでうすうす感じていたネガティブな印象が、決定的になってしまったという項目もある。
けれども、そもそもウイークポイントを持たないクルマなど存在をしないのだし、そうした点があったとしても、デミオが(最近日本発の新型車が放棄をしつつある!?)ヨーロッパ市場を含めた世界のあらゆる市場で戦える、高い競争力を備えた日本が誇るコンパクトカーの最右翼であろうという事実は揺るがない。加えて勢いに乗る今のマツダには、小さなウイークポイントなどたちまち解決に動くはずという、強い期待も持てる。
よりスポーティーなモデルの追加なども含め、今後の進化にも期待大のデミオなのである。
(文=河村康彦/写真=田村 弥)
拡大 |
テスト車のデータ
マツダ・デミオXDツーリング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1695×1500mm
ホイールベース:2570mm
車重:1130kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:105ps(77kW)/4000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-2500rpm
タイヤ:(前)185/60R16 86H/(後)185/60R16 86H(トーヨー・プロクセスR39)
燃費:26.6km/リッター(JC08モード)
価格:194万4000円/テスト車=212万7600円
オプション装備:セーフティーパッケージ(ブラインド・スポット・モニタリング+ハイ・ビーム・コントロールシステム+車線逸脱警報システム)(8万6400円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万2400円)/i-ELOOP(6万4800円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:6783km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(4)/山岳路(4)
テスト距離:101.9km
使用燃料:--
参考燃費:15.5km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |
マツダ・デミオ13S Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4060×1695×1500mm
ホイールベース:2570mm
車重:1010kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:92ps(68kW)/6000rpm
最大トルク:12.3kgm(121Nm)/4000rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:21.8km/リッター(JC08モード)
価格:179万2800円/テスト車=182万5200円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万2400円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:5120km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(5)/山岳路(4)
テスト距離:76.6km
使用燃料:--リッター
参考燃費:16.5km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。







































