ポルシェ・ケイマンGTS(MR/6MT)/ケイマン(MR/6MT)
こんなもんじゃない 2015.02.14 試乗記 ベースグレードとトップグレード、2台の「ポルシェ・ケイマン」に試乗。両モデルを乗り比べ、その実力を確かめた。スポーツカーの理想形
宿願を果たしたというべきか。
昨年、富士スピードウェイで千載一遇のチャンスを得た「ケイマンGTS」の試乗。しかしそれは、こともあろうか豪雨に見舞われ、筆者はその動力性能を満足に推し量れずにいた。そして今回、オープンロードではあったが、そのGTSのステアリングを再び握る機会を与えられた。しかも“素ケイマン”との比較試乗という最高に恵まれた形で。
筆者にとってケイマンは、スポーツカーにおけるひとつの理想形だ。いや、究極の形と言ってもいい。語り尽くされた話だが、その理由は水平対向6気筒エンジンをミドシップしているからだ。自動車の構成パーツの中で一番重いエンジンを車体中央に置くことで、カーブでは前後のタイヤへ均等に遠心力が掛かり、曲がりやすくなる。コーナーの脱出ではリアタイヤにエンジンの重みが掛かりやすくなり、トラクション性能が上がる。
4WDにもパワーにも頼らない、ナチュラルな走り。
これがミドシップ最大の利点であり、だからこそ本物のレーシングカーはこの形式を採用する。そしてケイマンは、既存のエンジン形式の中で最も低重心な水平対向6気筒をミドマウントしているのである。こんな芸当ができるのは、水平対向エンジンを作り続けているポルシェ(とスバル)だけ。実はこれ、911が長年やりたくてもできなかったことである。
そんなケイマンの頂点に立つのが、このGTSだ。
身の丈の速度で味わえる“ポルシェ”
エンジンは「ケイマンS」の3.4リッターをベースに、吸排気バルブのタイミングおよびリフト量を変更することで、最高出力340psにまで高められた。ようするにバリオカムプラスの“ハイカム領域”が高められたことになるのだろう。
その吹け上がりは……、唖然(あぜん)のひとことだった。ボア×ストロークは97×77.5mmとオーバースクエアだから「シューンと高回転まで華麗に吹け上がる……」なんて夢見心地ででも語ろうかと思っていたら、とんでもない。そもそもその排気量は3.4リッターもあり、370Nm(37.3kgm)の最大トルクが4500~5800rpmという“走りの常用域”で発生され続けるから、アクセルを踏んでいる限りずーっと咆(ほ)え続けている。これを「SPORT」モードに入れるとさらにアクセルレスポンスが鋭くなるのだから、正直ガマン比べは筆者の完敗。走行のほとんどをスポーツエキゾーストモードだけで楽しんだ次第である。
ただその力感やサウンドに気おされないようにしてエンジンの声を聞くと、溶けたチョコレートのように、まろやかに、各部が滑らかに回っているのを感じ取れる。フェラーリともまた違う、野太くもクリーミーな精密機械の味わい。もはやケイマンでさえ一般公道では踏み倒せなくなったことに切なさを感じながらも、身の丈の速度でもポルシェ・エンジニアリングを楽しめるのには少しホッとした。
そして、シャシーはさらにすごかった。
ブレーキを終了してステアリングを切っていくと、フロントノーズは筆者の予想を超えて、これでもか! というほどシャープに切れ込む。対してリアタイヤは、ガッチリと路面をつかんで安定しきっている。コーナーをクリアしたら、あとはアクセルを踏み込むだけ。まるでロケットみたいに加速する。のだが……
切った瞬間に曲がる
筆者にはその味つけが鋭すぎた。試乗車にはスポーツシャシーが装備され、車高もノーマルより20mmほど下げられていたようなのだが、フロントダンパーは乗り心地を考慮してか縮み側の減衰力がソフトで、結果としてフロントのロールスピードが速くなり過ぎてしまう。もう少しフロントダンパーがゆっくりと縮んで、タイヤに荷重を掛けていく感覚がつかみやすかったならば、安心してコーナーに入っていけるのだが……。どうにも相性が悪く、最後までうまくリズムをつかむことができなかった。
こんな鬱々(うつうつ)とした気持ちを晴らしてくれたのは、“素”ケイマンだった。
GTSの35偏平タイヤに対して、45偏平タイヤがもたらすほどよいたわみ感。ストローク量が多いサスペンションによるロールの素直さ。ステアリングから伝わるインフォメーションはGTSよりも饒舌(じょうぜつ)で、人に例えれば非常にゆっくりとした言葉で、丁寧に話してくれている感じがした。
ただしフロントサスペンションの特性は同じだ。やはりステアリングを切り込むとスッと縮んで、ハンドルを切った方向に素早く曲がろうとする。リアのミッションケースあたりを中心にして、ノーズがクイッ! と入っていく。
エンジンパワーはGTSに対して65psも低いから、アプローチからターンまでのコーナリングスピードはGTSより控えめだ。とはいっても足元は18インチだからリアのグリップは相変わらず高いし、ミドシップならではのトラクション性能もあるから、普通に走ればオーバーステアの心配はない。
GTとしては正しくても
しかし、やっぱり筆者には違和感がある。先代ケイマンが持っていたミドシップらしさ、クルマ全体がエンジン搭載位置を中心に曲がっていこうとする感じが消えてしまった気がするのだ。それはサーキットであればリアタイヤのスリップアングルを絶妙に使う芸術的な走りとなり、公道ではナチュラルなハンドリングになった。絶対速度こそ「911」より低くても、そこには「いつの日か、これを乗りこなしてやりたい!」と思えるハンドリングがあった。
もちろんこうした“体幹バランス”を楽しむ走りが、全てのドライバーに必要とされるわけではない。これを安全に走らせるには、足まわりも自(おの)ずと硬くなってしまう。
だからポルシェはケイマンとボクスターの乗り心地をソフトにして、さらにホイールベースを延ばした。そしてフロントの動きのクイックさで、ミドシップ感を演出した。その結果、多くのジャーナリストからも高い評価を得ている。アウトバーンでも、安心してぶっ飛ばせるクルマになった。だからポルシェが選んだ方向性は、成功といえるのだろう。GTカーとしては正しい進化なのかもしれない。
だけど……。やっぱり筆者は、ケイマンはGTカーではないと思う。
だからケイマンは、GTSに至ってもまだ「その本領を発揮していない」というのが結論である。
それだけに、3月のジュネーヴショーで発表される「ケイマンGT4」の仕上がりが気になって仕方がない。ポルシェがケイマンにはせたピュアスポーツへの思いが、そこに隠されているのではないかと思うのだ。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
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テスト車のデータ
ポルシェ・ケイマンGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4405×1800×1275mm
ホイールベース:2475mm
車重:1370kg
駆動方式:MR
エンジン:3.4リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:340ps(243kW)/7400rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/4750-5800rpm
タイヤ:(前)235/35ZR20 88Y/(後)265/35ZR20 95Y(ピレリPゼロ)
燃費:9.0リッター/100km(約11.1km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:915万円/テスト車=1059万5000円
オプション装備:電動ミラー(5万5000円)/スポーツエグゾーストテールパイプ(9万8000円)/20インチ カレラクラシックデザインホイール(19万5000円)/カラークレストホイールセンターキャップ(3万円)/GTSコミュニケーションパッケージ(48万円)/シートヒーター(7万6000円)/アダプティブスポーツシート・プラス(51万1000円)/スポーツシャシー(0円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:6100km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--km/リッター
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ポルシェ・ケイマン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1800×1295mm
ホイールベース:2475mm
車重:1360kg
駆動方式:MR
エンジン:2.7リッター水平対向6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:275ps(202kW)/7400rpm
最大トルク:29.6kgm(290Nm)/4500-6500rpm
タイヤ:(前)235/40ZR19 92Y/(後)265/40ZR19 98Y(ピレリPゼロ)
燃費:8.4リッター/100km(約11.9km/リッター、NEDC複合サイクル)
価格:629万円/テスト車=852万2000円
オプション装備:電動ミラー(5万5000円)/ポルシェ・トルク・ベクタリング(PTV)(23万8000円)/ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネージメント(PASM)(26万円)/スポーツクロノパッケージ(36万8000円)/19インチ ボクスターSホイール(26万円)/カラークレストホイールセンターキャップ(3万円)/シートヒーター(7万6000円)/オートエアコン(13万9000円)/フロアマット(2万円)/スポーツシートプラス(2段階、電動)(34万5000円)/カーボンインテリアパッケージ(22万8000円)/有償ボディーカラー(マホガニーメタリック)(15万円)/有償インテリアカラー(ヨッティングブルー、レザーシート)(6万3000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4170km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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