BMW 220iカブリオレ スポーツ(FR/8AT)
楽しめるのも今のうち!? 2015.04.28 試乗記 「BMW 2シリーズ」にソフトトップの「カブリオレ」が登場。手頃なサイズの4座オープン、しかも後輪駆動という、今や希少なモデルの実力を試した。あれも、これも、2シリーズ
BMWの車名は、理路整然としているように見えて、そうでもない。基本は3ケタ数字の百の位で車格、下2ケタでエンジンの排気量を示すことになっているようだが、モデルバリエーションが増え、ダウンサイジングターボが一般的になった昨今では、例外も数多くある。
例えば、ここで紹介する「220iカブリオレ」には2リッター直列4気筒ターボエンジンが積まれるけれど、それは「328i」や「528i」も同じだ。過給圧などを変えることで、同じ排気量でも異なる最高出力、最大トルクを生み出し、その違いで製品のヒエラルキーを構築している。
さらに2シリーズについては、横置きエンジン前輪駆動と縦置きエンジン後輪駆動という2つのプラットフォームを持ち、それぞれに全く異なるパワートレインが積まれる。「AE86」がいまなお人気の、かつての80系「トヨタ・カローラ/スプリンター」を思い出させるラインナップだ。
BMWは最近、最初の数字が奇数の場合はセダンやハッチバックなどの実用系、偶数はクーペやカブリオレのようなスペシャリティー系という区分けをしつつある。「Z4」や「i8」のようなスポーツカー、「X3」や「X6」などのSUVにもこのルールは適用されている。
だからこそ、2シリーズにハイトワゴンの「アクティブツアラー」が設定されたことや、本国では「グランツアラー」なる3列シート版も登場したというニュースにはいささか戸惑う。しかし、次期「1シリーズ」がアクティブツアラーと同じ前輪駆動になることがうわさされている現状から見れば、駆動方式については、2シリーズ以下はやがて前輪駆動に一本化されるのかもしれない。
もしそうなるなら、目の前にある後輪駆動の2シリーズ カブリオレは数年後には貴重な存在になるかもしれない。そんなことを考えながらドライブすることになった。
実用性にもきちんと配慮
2シリーズのクーペとカブリオレは、「1シリーズ クーペ/カブリオレ」がモデルチェンジに伴い名前を変えたものだ。同様の改名は「4シリーズ」でも行われている。
ひと足先に導入されたクーペでは、3リッター直列6気筒ターボの「M235i」が、日本では希少なMT仕様を含めて発売されたので、1シリーズ時代よりスタイリッシュになったボディーと相まって、クルマ好きから拍手とともに迎えられた。
それに比べるとカブリオレは2リッターターボの220iだけでトランスミッションは8段ATのみと、おとなしい。ボディーが重く車体剛性が落ちるオープンモデルでは、クーペほど走りを突き詰める必要はないというのが筆者の持論なので、この設定には納得するけれど、3リッター6気筒ターボの「435i」のみとした「4シリーズ カブリオレ」とは対照的だ。
スタイリングもクーペとは対照的で、ソフトトップの造形は1シリーズ時代を思わせる。こんもり盛り上がったようなホロ屋根が、昔ながらのジャーマンオープンカーという趣だ。
おかげで、クーペでは身長170cmの僕が後席に座ると頭がルーフに触れてしまったのに、カブリオレではホロを閉めていてもなんとか座れた。背もたれがクーペより垂直に近いので、長距離を快適に過ごせるかというと疑問が残るけれど、4シーターと表現して間違いない広さを持つ。オプションで用意されるトランクスルー機構も含め、かなり実用性に配慮したオープンカーだという印象を受けた。
小柄な後輪駆動車ならではの魅力
クーペと基本的に同じ運転席に着き、センターコンソールにあるスイッチを操作して屋根を開ける。さすがプレミアムブランド、開閉はフルオートだ。作動にやや時間がかかるのは、ホロをハードタイプのトノカバーの下に格納するという構造上仕方ないだろう。ただしウインドスクリーンは立ち気味なので、前席でもかなりの開放感が得られる。
1620kgという車両重量は、1シリーズ時代より60kg重くなった。でも旧型では自然吸気だった2リッターエンジンがターボ付きになったうえに、ATは6段から8段になったので、加速は十分。ほとんどのシーンを低回転でこなすので静かでもある。
サイドウィンドウを上げておけば、一般道での風の巻き込みはあまりない。後方から空気が流れてくるのに気付く程度だ。後席上にウインドディフレクターを立てれば、高速道路でも頭上を空気が流れていくだけで、キャビンにはほとんど風は入ってこない。
試乗した日は春とは思えないほど寒かったが、手袋や帽子をぬいでもつらくはなかった。さすがドイツ車、ヒーターは強力だ。一方ソフトトップを閉めると、クーペ並みの気密性を確認できた。
ボディーの剛性感は強靱(きょうじん)といえるほどではないものの、乗り心地は街中でも快適で、ハンドリングは前後重量配分が780kg:840kgという数字が示すとおり、コーナー入り口での軽快なノーズの動きと後輪駆動らしい立ち上がりの蹴り出しが満喫できた。
全長4.5m未満、全幅1.8m未満という大きすぎないボディーのおかげで、それを狭い山道でも味わえるのが2シリーズ カブリオレの美点だ。新車で買える最小の後輪駆動4座オープンとしての魅力は健在。でも最近のBMWの動きを考えると、この魅力が未来永劫(えいごう)味わえるとは限らない。先代以上に特別な存在に思えるようになった。
(文=森口将之/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
BMW 220iカブリオレ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4440×1775×1415mm
ホイールベース:2690mm
車重:1620kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:184ps(135kW)/5000rpm
最大トルク:27.5kgm(270Nm)/1250-4500rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91W/(後)225/45R17 91W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:15.8km/リッター(JC08モード)
価格:525万円/テスト車=603万2100円
オプション装備:バリアブルスポーツステアリング(2万9000円)/スルーローディングシステム(3万8000円)/ブラッシュドアルミトリム/ハイグロスブラックハイライト(2万8000円)/パーキングアシスト(5万円)/パーキングサポートパッケージ(14万6000円)/BMWコネクテッドドライブプレミアム(6万1000円)/メタリックペイント<グレーシャーシルバー>(7万7000円)/ダコタレザーシート+フロントシートヒーティング(24万7000円) ※以下、販売店装着オプション ウインドディフレクター(9万2500円)/ウインドディフレクター専用ケース(1万3600円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2541km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:279.5km
使用燃料:29.0リッター
参考燃費:9.6km/リッター(満タン法)/9.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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