BMW 740i Mスポーツ(FR/8AT)
成熟のフラッグシップ 2016.01.25 試乗記 クルマを外から操作できる自動パーキングシステムや、手の動きだけで各種機能を操作できるインターフェイスなどの先進装備が話題となっている新型「BMW 7シリーズ」。しかし実際に試乗してみると、そうしたハイテクよりも注目に値するポイントが見えてきた。期待に胸を高鳴らせていたものの
2015年の東京モーターショーで初めてBMWの新型7シリーズに接した時、こりゃすごいとコーフンした。スマートフォンみたいなキーを操作すれば自動で駐車場から出てくるって、まるでアニメ『マッハGoGoGo』のマッハ号か、大作少年が腕時計で指令を飛ばすジャイアントロボではないか。
というわけで、BMW 740i Mスポーツの試乗前夜は、未来のクルマにふれられるとあってわくわくだった。
「リモート・コントロール・パーキング」や「BMWディスプレイ・キー」のほかにも、リアシートのタブレットで空調やオーディオなどをコントロールできる「BMWタッチ・コマンド」、手の動きでオーディオの音量などを調整できる「BMWジェスチャー・コントロール」など、新機軸がてんこ盛りされている。
しかし試乗当日、webCG編集部のHさんは、浮かない表情で集合場所に現れた。また編集長にしかられたのかと思ったら、そうではなかった。日本仕様の7シリーズは、まだリモート・コントロール・パーキングが機能しないとのことだった。
しかもそれだけではない。Hさんのリサーチで、リモート・コントロール・パーキングは、前進入庫、後退出庫の駐車スペースにしか対応していないことが判明したのだ。つまり真っすぐ頭から入って、真っすぐお尻から出るような駐車場のための装備。日本で一般的な、バックで駐車する使い方では役に立たない。
新型「トヨタ・プリウス」の駐車アシスト機構が想像以上の出来だったので、BMWはどうなのかと楽しみにしていたけれど、不戦敗だった。しかも、プリウスがバックで見事な駐車をキメたうえに、駐車位置の微調整までこなしたことから想像するに、実際に勝負したら完敗だったろう。
少し残念な気持ちになったので、ステアリングホイールをH氏に委ね、後席に座る。そうだ、リモート・コントロール・パーキングがダメでも、リアシートにはBMWタッチ・コマンドがあるじゃないか。
発展途上の後席用インターフェイス
BMWタッチ・コマンドとは、後席アームレスト部分に備わる取り外し可能なタブレット端末で、エアコンからナビゲーションシステム、オーディオやブラインドまで操作できる。「Apps」にタッチして、ウェブサイトに接続することもできる。
このタブレットは、正直言って微妙だった。最初の5分、10分は新しいインターフェイスに感心する。けれども空調もオーディオも、そんなに頻繁に操作するものではない。ウェブサイトに接続できるといっても、iPadでもなんでもいいけれど、普段使っている端末を使ったほうがメールを送るにしてもはるかに便利だ。
BMWタッチ・コマンドは、ただのギミックとは言わないまでも、まだまだ発展途上にあるというのが率直な感想だ。いまのビジネスマンが“高速移動型ビジネスセンター”として活用するには、さっきまでオフィスでやっていた仕事をそのまま続けられるとか、あと一歩の踏み込みが必要だと感じた。
楽しみにしていたリモート・コントロール・パーキングとBMWタッチ・コマンドが不発に終わって意気消沈。高速道路のパーキングエリアで、仕方なく(?)運転席に座る。
しかし……。本線に合流すべくアクセルペダルを踏み込むと、頭の斜め後ろに、大昔のマンガみたいに豆電球がパッとともった!
まさに内燃機関の完成型
アクセルペダルを踏み込むと、エンジンはスムーズに、しかし重量物が回っているという感覚は伝えながら回転を上げる。そのフィーリングは精緻で、一糸乱れぬ、という表現はこういう時に使うべき言葉だろう。
回転を上げるとともに、まさに望んでいたのとドンピシャの加速感が背中を押す。遠くからは、控え目ながらゾクッとするような心地よい排気音が聞こえてくる。
この3リッター直列6気筒ターボユニットは内燃機関の完成型、最高峰ではないか。クルマ世界遺産に指定したい。世界広しといえども、直6エンジンの新規開発を続けるのはBMWだけだ。なぜBMWが直列6気筒エンジンにこだわるのかが、一発で理解できた。
アクセルペダルを踏み込むと、タコメーターの針はあっという間にレッドゾーンが始まる7000rpmまで駆け上がる。けれども、その短い時間に、ドラマがある。パワー感とトルクが盛り上がるのと同時に快音が高まり、加速と音を受け止める五感がしびれる。
100km/h巡航時、タコメーターの針は1400rpmと1500rpmの間あたりを指す。けれども、こういった低い回転域でも、決して退屈だとは感じない。シルキーな手触りが伝わってくるし、アクセルペダルの微妙な操作にもリニアに反応するからだ。
エンジンのスペックを見れば、45.9kgmの最大トルクは1380rpmという低い回転域から発生している。100km/h巡航でも楽しいのは、道理なのだ。
クルマの基本が成熟している
エンジンの興奮が落ち着いてくると、今度は乗り心地がすさまじくいいことに気付く。といっても、ふわんふわんと柔らかいわけではない。姿勢はビシッと安定して上下動が少ないのに、路面の凹凸を乗り越えた時の衝撃がまろやかで小さい。
もしかしたら路面から0.0002ミリぐらい浮遊しているのではないかと感じさせる、よそではあまり味わったことのない不思議な乗り心地だ。試乗車は「Mスポーツ」であるけれど、これはエアロパーツやホイールなどスポーティーに装う仕様で、サスペンションや車高は標準モデルと変わらない。
すでに報道されているように、新型7シリーズはボディーにカーボンファイバー強化樹脂(CFRP)を用いることで、最大で60kgの軽量化を果たしていると同時に、低重心化がはかられている。
また、フロントに設置したカメラが路面の凸凹を捉えてサスペンションを調節する「エグゼクティブ・ドライブ・プロ」が標準で装備されている。
こうした新しい技術が、これまでにない乗り心地と操縦性の両立を実現したのだろう。
試乗も終盤戦。都内へ向かいながら、「BMWジェスチャー・コントロール」を試してみる。これは便利だった。事前に、指をくるくる回すなどの動きを覚えておく必要があるけれど、それはスワイプやフリックを知っていたほうがスマホが便利に使えるのと一緒。慣れれば、直感で操作できるようになって快適だ。
オプションの「Bowers & Wilkinsサウンド・システム」はさすがに59万8000円もするだけあってイイ音で、ジェスチャーで音量をコントロールするのも気分がいい。
帰京してから燃費を計測すると、あれだけパフォーマンスを堪能したにもかかわらず、9km/リッターを超えた。運転していた身として、あのサイズ、あの速さでこの値は立派だと感じる。
わかりやすいハイテクに目を奪われていたけれど、軽量ボディー、エンジン制御、足まわりのチューニングなど、新型7シリーズはクルマの基本となる部分に使われるテクノロジーが成熟している。乗っている間、移動する喜びを全身で感じることができた。
しかも、最近の高級車が軒並み値上がりしているなか、この価格はお値打ちではないだろうか。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
BMW 740i Mスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5110×1900×1480mm
ホイールベース:3070mm
車重:1930kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8AT
最高出力:326ps(240kW)/5500rpm
最大トルク:45.9kgm(450Nm)/1380-5000rpm
タイヤ:(前)245/40R20 99Y/(後)275/35R20 102Y(ブリヂストン・ポテンザS001 RFT<ランフラットタイヤ>)
燃費:12.2km/リッター(JC08モード)
価格:1288万円/テスト車=1491万9000円
オプション装備:リヤ・コンフォート・パッケージ(76万6000円)/20インチ・ダブルスポーク648M(17万5000円)/アンビエント・エア・パッケージ(4万3000円)/BMWレーザー・ライト(16万1000円)/Bowers & Wilkinsサウンド・システム(59万8000円)/BMWナイト・ビジョン(29万6000円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:6775km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:255.0km
使用燃料:28.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.0 km/リッター(満タン法)/9.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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