メルセデス・ベンツV220d(FR/7AT)
ケタ外れなミニバン 2016.02.15 試乗記 走行性能や快適性、安全性など全ての領域でリファインが図られた、新型「メルセデス・ベンツVクラス」。試乗してみると、そこには、日本の高級ミニバンには見られない独自の世界が広がっていた。日本人好みになっている!?
日本人のミニバンLOVEぶりは、世界的に突出している。その原因を推測し始めるとキリがないのでやめておくが、「子供ができたらミニバンでしょ!」はアタリマエで、「結婚したら即ミニバンだよね!」というから恐れ入る。若夫婦は当然のように「だっていずれ子供ができたら、広いクルマが要るじゃないですか~」とおっしゃるらしいが、そんな広いクルマが必要だと思ったこと、私は一度もありません……(一応二児の父)。いえ、それはまあいいです。
そして本邦のミニバンワールドでは、国産勢が圧倒的に強い。これに関しては完璧に理解できる。輸入ミニバンがどんなに力こぶを作って殴り込んでも、常にほんのちょっとしか食い込めない。そりゃ乗ってみりゃわかるよ、「違う違う、これじゃないんだよ!」としか言いようがないから。日本人が望むミニバンは“動くお茶の間”。でも輸入ミニバン――特にドイツ製は“兵員輸送車”なんだもん。
その兵員輸送系ミニバンの頂点がVクラスだった。ケタ外れの直進安定性を誇り、移動中は全員がヘビーデューティーなシートにビシッと背筋を伸ばして着座。移動が終了したら即降車して展開・布陣! 車内で家族がまったり過ごしたりすることは、あまり考慮されていないと感じてきた。まあベースが商用車ですし、本国ではいわゆる日本のミニバン的な使われ方をするケースは少ないと思いますし。
が、今度の新型Vクラスは、より乗用車的なテイストになっているという。そして、国産高級ミニバンに挑戦状をたたきつけているのだという。え、兵員輸送車を返上したの? ヨーロッパでもクルマ離れが進んで、結婚したら即ミニバンみたいなまったりムーブメントが進行中なの!?
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思想の違いが伝わる作り
対面した新型Vクラス。その運転席は、確かに以前より乗用車的になっていた。ステアリングホイールやメーターまわり、ダッシュボードにかけては「Eクラス」などにかなり近くなり、メルセデスらしいゴージャスなホスピタリティーを感じさせる。フロントシートに座っていれば、メルセデスの乗用車そのものだ。
が、2列目・3列目に移ると、そこはやっぱり兵員輸送車であった。後席用のリアエンターテインメントシステムがオプションで装着できるなど、装備だけ見れば「アルファード」的だが、空間の作り、なによりシートが兵員輸送車。このケタ外れのガッチリ感は爆風に備えてのものですか!?
もちろん欧州製ミニバンの文法にのっとって、シートは1座ずつのセパレートタイプである。3名用の3列目もセパレートにつき、停車中に3座を占有してゴロリと横になると、背中がデコボコしてどうしようもない。「バッカモーン、1名はあくまで1座に着席すべし!」それはドイツ製ミニバンにおいてはアタリマエ過ぎる作法なのである。タテのものをヨコにしてゴロリと寝転ぶなど想定されていない。
そして例によって、この完全セパレートタイプのシートたちは、1座ずつ取り外すことができる。2列目は後ろ向きにして対座にすることもできる。しかしその作業には、工兵の出動を要請したくなるほどの筋力がいる。国産ミニバンのかる~く操作できるシートアレンジに慣れた人間にとっては、「これってやっぱり爆風に耐えるため!?」としか思えない。シートそのものも重い。重量は1座あたり20キロ以上。こんなものを外して運び出したところで、いったいどこに保管すればいいのか。やっぱり弾薬庫だろうか。
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スペック以上にパワフル
結局のところ、新型Vクラスの乗用車化というのは、あくまで1列目に限ったことで、2列目・3列目に座る者は、相変わらず「背筋を伸ばして着座し速やかに移動を完了すべし」。クルマは安定感抜群で乗り心地もしなやかにつき非常に快適だが、姿勢を崩すと硬めのシートで体が痛いので、自然背筋を伸ばさざるを得ない。あ、途中ホームシアターで映画を見ることもできるであります。私としては『バルジ大作戦』を熱烈推奨です!
ということで、2列目以降に関しては、以前よりホスピタリティーを充実させつつも、あくまで高速安全移動優先の将校用兵員輸送車といった風情であるが、操縦兵としてはいかがなものか。
エンジンは直列4気筒2142ccのターボディーゼルのみ。「Cクラス」やEクラスなどに搭載されているのと同じ、例のブルーテックである。
Vクラスは、試乗したスタンダードボディーでも車重がおよそ2.4トンあり、この排気量で大丈夫なのかと心配になるが、まったく大丈夫どころか余裕でありました! 最大トルクは38.7kgm。しかしその数字以上のすさまじい力持ちぶりで、試していないが7名のフル乗車でもまったく問題はないと思われます。このエンジンってこんなに力持ちだったっけ!?
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すばらしくよくできたバス
駆動方式はFR。高速道路での走りっぷりにはある種の感動を覚えた。それを一言で表現すると、「こんないいバス乗ったことない!」。
国産ミニバンの頂点に君臨する「アルファード/ヴェルファイア」でも、運転感覚はあくまでミニバンだが、Vクラスは違う。バスだ。それもケタはずれに強固なボディーを持ち、ありえないほどの走行安定性を備えたスーパーなバスである。
加速感はまさにバスそのもの。1400rpmから最大トルクを発生する2.1リッターディーゼルが、分厚い低速トルクで重い車体を軽々と発進させる。シフトアップは2000rpm前後。タコメーターは路線バスそっくりの動きを見せつつ、ぐわーと加速する。バスでなければディーゼル機関車か。とにかく国産高級ミニバンと比べると、重厚感がまるで違う。はるかに大きなものを動かしている感覚なのである。ハンドリングの安定感もケタ外れ。まるでレールの上を走っているかのようだ。
全幅1930mm、全長はスタンダードボディーでも4905mm。取り回しは厳しいかと思いきや、さすがメルセデスの後輪駆動車、最小回転半径はたったの5.6mにすぎない。車両周囲の状況をモニターできる360度カメラシステム、自動操舵(そうだ)・ブレーキ機能により縦列駐車と車庫入れをアシストするアクティブパーキングアシスト、前後バンパーに備わる超音波センサーで障害物との距離を検知し、警告するパークトロニックが全車に標準化されていて、取り回しはさらに安心&ラクチン。つい「『エルグランド』みたいじゃん!」とつぶやいてしまった。
なんだかんだ言ってこの新型Vクラス、国産ミニバン的な親切設計にかなり近づいているのも確かなのである。それでいてこのディーゼル機関車のような別次元の走り。これはパワーエリート系のパパにとって、見逃せない兵員輸送車かもしれない。
(文=清水草一/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツV220d
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4905×1930×1880mm
ホイールベース:3200mm
車重:2370kg
駆動方式:FR
エンジン:2.1リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:163ps(120kW)/3800rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/1400-2400rpm
タイヤ:(前)225/55R17 101V/(後)225/55R17 101V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ)
燃費:15.3km/リッター(JC08モード)
価格:620万円/テスト車=653万9000円
オプション装備:レーダーセーフティパッケージ<ブラインドスポットアシスト+ディストロニックプラス+レーンキーピングアシスト+CPA[衝突警告システム]+PRE-SAFE>(19万9000円)/ボディーカラー<ブリリアントシルバー>(14万円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2487km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:202.6km
使用燃料:19.7リッター(軽油)
参考燃費:10.3km/リッター(満タン法)/12.5km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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