マツダ・アクセラスポーツ 20C-SKYACTIV(FF/6AT)/20S-SKYACTIV(FF/6AT)【試乗記】
ベストアクセラを探せ 2011.11.08 試乗記 マツダ・アクセラスポーツ 20C-SKYACTIV(FF/6AT)/20S-SKYACTIV(FF/6AT)……208万9000円/229万円
「スカイアクティブ」技術を投入した新型「マツダ・アクセラ」に試乗。タイヤサイズの違う3車種で、乗り心地、ハンドリングの違いを試した。
燃費は22%増し
「アクセラ」のSKYACTIV仕様の試乗会が、マツダの美祢自動車試験場に続いて一般公道で開かれた。舞台は「デミオ」のSKYACTIV仕様の時と同じ箱根である。ドライブトレインは「SKYACTIV-G 2.0」と呼ばれる2リッター直4自然吸気ガソリンエンジンにトルクコンバーター付き6段AT「SKYACTIV-DRIVE」を組み合わせたもの。後者は今回が初登場で、大きな見どころのひとつとなっている。
マツダが提唱するSKYACTIVとは、燃費やCO2排出量に代表される環境性能の改善だけを目標にした技術ではない。燃費と同時に走りも磨いて、クルマ全体の完成度を向上させる包括的なプロジェクトのことだ。またSKYACTIVテクノロジーによってクルマの基本性能を磨いた上で、i-stop(アイドリングストップ機構)や減速エネルギー回生ブレーキ技術に加え、モーター駆動技術を2020年までに段階的に投入していく計画も明らかにされている。2015年までに世界で販売するマツダ車の平均燃費を、2008年比で30%向上させる計画だ。
アクセラのエンジンは、圧縮比12のレギュラーガソリン仕様である。燃費に特化したデミオに対し、こちらは言うなれば走りの良さと燃費のバランスを求めている。プラットフォームは従来のものを流用するため、空間的な制約から「4-1集合」の排気管が使用される(「フルSKYACTIV」仕様となるSUVの「CX-5」では、よりバランスに優れる4-2-1排気が採用される予定)。またデミオのようにクールドEGRも採用してない。それでも燃費は従来の2リッターエンジンと比べて22%も改善しているそうだ。
それではいざエンジンをかけて、箱根の山に繰り出してみよう。
あれもこれも気持ちいい
新しいSKYACTIV-G 2.0エンジンは、従来の2リッターユニットと比べて全域でトルクが向上しているという。実際、箱根の山岳路で走らせても十分な力感が確認でき、どの領域でもトルクの“ツキ”が良く、気持ちよく加速することができる。一方、室内に透過してくるエンジン音は4000rpmを超えるあたりから音量が増してくるものの、耳障りな音質ではないので気にならない。車格にふさわしい静けさは演出できている。
そして注目の新型6段AT「SKYACTIV-DRIVE」の出来だが、これがなかなかのものだ。従来型から進歩した部分という点では、こちらの方がエンジンよりずっとわかりやすい。まず、トルクコンバーターが付いているので、ちょっと前のデュアルクラッチトランスミッション(DCT)のように、ワンテンポおいてつながるようなギクシャク感がない。きわめてスムーズに発進する。
さらに“フルレンジロックアップ”をうたい、発進直後にロックアップする構造になっているので、トルコン式ATに付きもののレスポンスの遅れ(トルコンスリップ)が気にならない。ロックアップ領域は従来型が49%にとどまっていたのに対し、SKYACTIV-DRIVEでは実に82%まで広げられているそうだ。スロットル操作に対して、クックッと面白いほど素直にスピードがのってくる。
変速スピードの速さも想像以上だ。特にシフトダウンが気持ちいい。ブリッピング制御が的確にピッと入り、MTベースのDCTに匹敵する速さでタタッと落ちていく。この素早い応答性は、ECU、油圧制御装置、ソレノイドバルブを一体構造にした機電一体型のトランスミッション制御モジュールを採用したおかげで実現できたそうだ。
異なる味の3サイズ
エンジンは2リッターのみで、トランスミッションは1種類。そう聞くと、アクセラSKYACTIV仕様の味わいはひとつ、と思うかもしれないが、話はそれほど単純ではない。15インチ、16インチ、17インチと都合3種類のタイヤが用意され、乗り心地やハンドリングに無視できない違いをもたらしているのである。
195/65R15サイズ(ブリヂストンB250)を標準装着する「20C-SKYACTIV」グレードは、20.0km/リッター(10・15モード)というシリーズ最良の燃費がうたわれている。この仕様は乗り心地がソフトで“当たり”が柔らかい。低転がり抵抗のエコタイヤにありがちなトレッド面の硬さもそれほど感じさせないが、他に比べるとロードノイズがやや大きめに感じられた。スチールホイールを装着しているせいだろうか?
16インチおよび17インチ装着車に使われるアルミホイールは、ロードノイズの低減を目的として剛性が従来比で30%高められているといい、確かにノイズが控えめに感じられた。
15インチ装着車はハンドリングも鷹揚(おうよう)さが感じられ、操舵(そうだ)に対してタイヤがよじれる感じが伴う。限界もそれなりに低いので、コーナリングで踏ん張りが効かず、ハンドリングを積極的に楽しもうという仕様ではない。ただしこれはあくまで17インチ車と比較したときの話。エコタイヤ装着車としてはかなり自然で好ましい感触を持っており、ごく普通に日常の足にするなら15インチでも何ら不満はないはずだ。
それに対して205/50R17サイズ(トーヨー・プレクサスR32。「20S-SKYACTIV」にオプションで選択可能)は旋回時に格段にしっかりしており、ステアリング操作に対する正確さも高い。もちろんグリップも強力だ。操舵によって適度なロールが生じ、そこからノーズが気持ちよく向きを変えていくという、新しいアクセラの一連のつながりを重視したオトナっぽいハンドリングを存分に体感することができる。しかし乗り心地にやや“芯”が残る。路面のザラツキを正直に伝えてくるところが気になるという人もいるだろう。
となれば、答えはもう出たようなもの。ベストバランスは205/55R16サイズ装着車だったというのが今回の結論だ。走りが楽しめて、乗り心地も文化的。17インチ装着車に比べて何だか足元が軽く、ヨーロッパのCセグメント車に通じる、さり気なく、しかし貪欲に前に進みたがる感じすら備えていた。
(文=竹下元太郎/写真=高橋信宏)
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竹下 元太郎
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