第16回:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス(その4)
2016.11.08 カーマニア人間国宝への道アモーレ! ランチア・デルタ
(その3)からのつづき
コミコミ279万円で購入したスーパーエリート号こと「BMW 335iカブリオレ」は、わずか1年で下取り査定が半額に! スーパーエリートなのにこれじゃ乗り換えられねぇ! と絶望した私だが、ネット上で偶然発見した208万円の最終「ランチア・デルタ1.6マルチジェット」は、「鳴かぬなら鳴くまで待とう」な中古車選びの典型的勝ちパターン。善は急げと、発見2時間後には世田谷の「コレツィオーネ」に駆け付けていた。
今手放せば、このBMWはフェラーリよりはるかに高くついてしまう。しかしそんなことより目の前の欲望が大事! 私はデルタが欲しい! たまらなく欲しい! どうしようもなく欲しいのだ! もはや全体の調和は見えなくなっていた。
ところで、最終ランチア・デルタとはどんなクルマか?
よくわかりません。
なにしろ乗ったことがない。老舗のガレーヂ伊太利屋が並行輸入で日本に導入していたのは知っているが、それ以上は何も知らない。たまに街で見かけるたびに、あの前衛的すぎる超絶デザインにクラクラしていただけである。
もうひとつ脳裏に浮かぶのは、映画『天使と悪魔』のワンシーンだ。バチカン警察のパトカー(?)が最終デルタで、サンピエトロ寺院のあたり(たぶん)をアレが何台も激走していた。その姿もあまりにもアモーレだった。
仕事柄、大抵のクルマに試乗することができるので、その上で「あれがいい」とか「これが欲しい」と思考する大変シアワセな環境にいる私だが、それだけに「見たことしかありませんが大好きです!」というクルマはめったになく、恋が燃え上がるのは速かった。
恋は盲目
店に到着すると、すでにデルタは私を待っていた。正確には事前に電話を入れておいたので、出撃態勢は整っていた。
ボディーカラーは上品な紺だ。
実を言えば最終デルタには、メタリックの水色やベージュのツートンカラー(Bカラー)があり、そちらのほうがより陶酔度は高い。紺だとボディーカラーが濃い分、フロントグリルのクロームメッキが目立ちすぎて微妙にデザインバランスが崩れて見えるが、それでも十分にステキなので善しとする。とにかく208万円でデルタのディーゼルが買える! そのことがなにより重要だ。
内装をまじまじと見るのは初めてだった。このアルカンターラと革を組み合わせたシート、さすがのセンスじゃないか! ダッシュボード中央部のシルバーの樹脂は国産大衆車的に安っぽく、そこはちょっと気になるが、買ってからでもなんとかなるだろう。
すでに心は決まっていたが、一応試乗せねばなるまい。なにしろデルタに乗るのはこれが初めて! いったいどんな感触なのかワクワクする。
「清水さんすみません、今登録の関係でステアリングを握っていただくことはできないので、私の運転でもかまわないでしょうか?」
デルタのように上品な、コレツィオーネ成瀬社長がこうおっしゃった。残念だが仕方ない。助手席でもだいたいのところはわかる。というより恋は盲目で、すでにドライブフィールすら枝葉末節になっているありさまだった。
“牛丼車”に決定!
私を助手席に乗せ、デルタは目黒通りを走りだした。
まず驚いたのは、乗り心地が固いことだった。「えっ!?」と思うほど固い。ガツンガツンと突き上げがくる。イメージとまるで違う。こんなに固いのか……。
しかしこのクルマ、6年半落ち走行5.2万kmにつき、タイヤが終わっている気配が濃厚。それに日本にはレグノがある。レグノを履かせればゴツゴツのBMWもマシュマロになった。問題なかろう。
トランスミッションはセレスピード系のセミATで、変速のたびにガックンとなるが、それは承知の上だ。
そして問題のディーゼルエンジン。
私はタコメーターを凝視した。何回転あたりからトルクが出るか? それはディーゼル車にとって命ともいえるポイントだ。
「フィアット・クーボ」の1.3マルチジェットは、2000rpm回さないとトルクが出ず、それで手放すことになった。デルタは同じフィアット系の1.6マルチジェット。たった300ccにすべてがかかっている。ここは猛烈にシビアである。
デルタは1500rpmあたりからでも、スムーズに加速する様子だった。それほどトルクフルではないようだが、7年前、欧州を走り回った「フォード・フォーカス 1.6ディーゼル」程度はありそうだ。つまり、欧州の吉野家牛丼として合格。いやドンピシャだ!
(文=清水草一/写真=清水草一、池之平昌信/編集=大沢 遼)
第13回:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス(その1)
第14回:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス(その2)
第15回:鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス(その3)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第339回:駆けぬけるヨロコビは安くない 2026.7.6 清水草一の話題の連載。いつもの首都高で試乗した「BMW 120d Mスポーツ」の価格が540万円ってマジか! と思っていたら、本国ではなんと4万1750ユーロ(邦貨約770万円)⁉ 安かったころ、もっと小さかったころのBMWに思いをはせた。
-
第338回:古臭いほどイイに決まってる 2026.6.22 清水草一の話題の連載。マイナーチェンジを受けた最新の「シボレー・コルベットZ06」を夜の首都高に連れ出した。アメリカを代表するミドシップスーパーカーのステアリングを握ったフェラーリオーナーの印象やいかに。
-
第337回:「ルーチェ」に比べればタダ同然 2026.6.8 清水草一の話題の連載。フルモデルチェンジで3代目に進化した「日産リーフ」を夜の首都高に連れ出した。「非常に良くなった」「静かで快適」といった評判を耳にする量販・量産BEVのパイオニアに、カーマニアは何を感じた?
-
第336回:やっぱり絶交! 2026.5.25 清水草一の話題の連載。夜の首都高に200台の台数限定で販売される「マツダ スピリット レーシング・ロードスター12R」で出撃した。手作業で組まれた2リッター直4エンジンを搭載するマツダ入魂のスポーツモデルに、カーマニアは何を感じた?
-
第335回:水平尾翼が効いてるのかな 2026.5.11 清水草一の話題の連載。フルモデルチェンジで2代目となった「シトロエンC5エアクロス」で、夜の首都高に出撃した。最新のデザイン言語を用いて進化した内外装とマイルドハイブリッドの走りに、元シトロエンオーナーは何を感じた?
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。